禁忌の味
魔女は力の源という。
それがどういうことであるのか、魔導師は基本的に書物の上でしか知らない。
何故なら、魔女は絶対数が少なく、また調べようにも当人の協力なくして調べることができない。
過去に数名の魔導師が魔女を捕獲したというが、魔力値でいえば魔導師と魔女の値は歴然と違う。
―――残る書物によれば、魔女とはまったく未知であり人とはまったく違うものである。
人とは異なる、魔女という種。
そう残すものもある。
ためしに幾度かエイル・ベイザッハは魔女に向けて魔道呪文を向けてみた。
魔導師はあらかじめ宝石に魔方陣を記録したり媒体を使用したり、増幅器を使わねばならないことを、魔女は容易くこなす。
このじてんで力量が知れるというものだ。
―――魔導師には魔女を害することなどできようはずがない。
―――その魔女が雷撃によって打ち落とされる。
それはエイルにとっても衝撃の場面であった。
じっさい、あの年若い魔女は未熟だ。
魔女は何でもできると過信して、学ぶということを知らない。
魔道書や禁忌の書の類でさえ見ていないのではないかと思う。
その魔女だからこそ、そんな攻撃に撃墜されたのだろう。
エイル・ベイザッハは口元に笑みを刻んだ。
―――魔女を手にいれる。
それは甘い、甘美な誘惑だ。
決してやってはいけないと魔導師であれば皆叩き込まれる。
それは魔導師の禁忌。
―――魔女を、手に入れる。
その昔、ある魔導師がやったとされる危険な行為。
魔女を手に入れ、その血を飲み、肉すらそぎ落とし食らい―――喉を潰し声を奪い、幾重もの魔道呪文の鎖で繋いだ。
純粋なる魔力。
魔道具として―――
腹の底が冷えるような感覚。
魔女を捕らえる。
なんと魅力的な誘いであろうか。
はじめのうちこそ、殺す気など毛頭無かった。だが、途中から呪文を切り替え殺す気で打ち放った。
絶命まではしない。
動けなくなれば良いのだ。
口が利けなければなおいい。
深い深い地に閉じ込め、幾重にも結界を重ね。
あの魔導師の失態は、魔女の力を使おうとしたからばれたのだ。
ならば私は使わなくとも良い。
おのれの探求に全てを尽くすだけでよい。
―――魔女を、この手で。
堕ちた魔女の全てをこの手で暴く―――
それは………儚い、夢想。
腹の奥深い、とろとろと流れる―――浮かんでは、消え、そして浮かぶ。
うたかたの、
「あぁら、あたしにごようかしら、ダーリン?」
好奇心の強い金の瞳。
琥珀の眼差しが光を受けて金色に瞬く。
気の強い口元が笑みを刻みつけ、こちらの反応をうかがうのは怒らせようという算段だ。
愚かな魔女、ブランマージュ。
魔女の血に、肉に、力があるのだろうか。
それは何かを変えうる力であるのだろうか。
禁忌は、どのような味をしているのだろうか。
「いいや―――」
口もとに笑みが浮かぶ。
―――おまえの味を知りたいのだと、言えばおまえはどのような顔をするのだろう。
地雷踏んだ気がするのはどうしてでしょうか……