ティラハール
皆様、いかがお過ごしでいらっしゃいましょうか。
悪い魔女のブランマージュ。華麗なる第二のデビュー……といいたいとこですが!
「ブランちゃん、ブランちゃん?」
「なーうゥ」
あたしは押しつぶされたカエルのような声で応えた。
何故ならあたしは本当に押しつぶされているから。そして何より、
「あらあら、ダスティ、ブランちゃんが苦しそうよ?」
くすくすと実に楽しそうに手を伸ばして侍女のエリサはあたしを犬の前足の下から救出し、その腕の中に抱き上げた。
そう、あたしはブランマージュ。
相変わらず白い猫ですが、なにか?
――そもそもさ、分離って簡単にレイリッシュは言ったけれど、オレンジジュースと牛乳を混ぜることは簡単でも、その二つを分けるっていうのは実際たいへんなコトだとなぁぜはじめに気付かない。
挙句の果てにあの大悪魔は笑いながらおっしゃった。
「簡単にできたら今頃はティラハも分離してると思う」
わかってるじゃないですか!
わかっててやってる訳じゃないよね!?
喧嘩なら買うよっ。って……いや、うん、冗談ですヨ。レイリッシュコワイ。
そんなこんなで分離の利かないあたしときたら、ココロネが優しいものだから未だにロイズの家で猫ボランティアに励んでいる。
けっ。
昼間はエイルの邸宅で文献を漁り、夜はこうしてロイズの家で猫をしている。え? 蝙蝠はどうしているって? 蝙蝠って言うのは逆さづりになってるモンよ、そうでしょ?
それでもってもういっこご報告することがあるとすれば、ロイズの家に家族が増えました。良かったね、花嫁さん? ではなくて、娘さんです。
それはそれは愛らしいお人形さんのようなティラハールが、あたしの大事な寝場所であったソファに座ってる訳ですよ、奥さん!
無表情で。
「ティラちゃん今日のご飯はお肉がいいかしら? お魚?」
エリサは困ったようにティラハールに話しかけるが、勿論ティラハールは無言。まるきり置物状態だ。
話しかけても返答は無い為、エリサも扱いに困っている。
ほうっておけばいいのに、と思いつつ、あたしはエリサの腕から抜け出してティラハールの膝に飛び乗った。
――せめて動きなさいよ。顔振るとか。
なんであたしが気を配らんといかんかね?
あたしはさー、悪い魔女なんだよ。今は色々恩義のあるヤツの家でボランティアしているだけで、それ以上のことを求められも困るのよ。
『人間は好まぬ』
よく言うわよ。あんたってばロイズ大好きじゃないの。なついてるって、本当に。
あたしがケッという気持ちを込めて「にゃーにゃにゃにゃっ」と言えば、ティラハールは物静かにいつものだみ声で応えた。
『なついてなどおらぬ』
「にゃ?」
『あれは最後の晩餐にすることにした』
――……保存食ですか?
なんというか、好物は最後に食べたいタイプってことでスか?
ロイズ、ある意味やっぱり気に入られてるみたいだから、えっと、良かったね?