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酔夢

*これは本編執筆中にかかれたものの為、まだ魔女っ子ブランです。

しかもあまりにも阿呆すぎてお蔵いりしてました。笑って流して下さいませ。


お酒がらみの二本です。

「旦那様っ」

珍しく慌しい足音と共に応えすら待たずに重厚な扉が開かれる。

旦那様と呼ばれたエイル・ベイザッハは灰黒の眼差しに憤りを滲ませて睨みつけたが、相手の慌てぶりのほうが大きかった。

「魔女様が」

「……ブラン?」

「本当に申し訳ありませんっ」

蒼白な家人はがばりと深く頭を下げた。



「酒か……」

「ダーリンも飲むぅ? 美味しいよー」

居間に飾られている酒に手を出したブランマージュがヘラヘラと笑っている。

「黙れ酔っ払い」

「よってないよー?」

小首をかしげて酒瓶を抱きしめている様はあまりにも情けない。

「だってあたしお酒つよーいもん」

「――」

「瓶の半分はへーきだもーん」

それは強いのだろうか? 酒を滅多に口にしないエイルには理解の範疇外だ。

「そもそも今のおまえは子供とかわらぬだろうに。酒の浸透率も違う――立派な酩酊状態だな」

「ダーリンものもー」

 エイルは冷ややかに呼気を落とし、手を伸ばして酒臭い生き物の手から酒瓶を引き抜き背後の家人へと手渡すと、そのままブランマージュの体を抱き上げた。

「お部屋の準備は整っております」

「そんなことより、これにもう飲ますな。体に悪い」

基本的には猫なのだ。

猫の体をベースとして作られた仮初の体。

抱き上げれば温かく、柔らかく、傷つけられれば血すら流す。けれどこれは偽りのイキモノ。

「酒臭い……」

半眼を伏せて呟き、自室へと向けて歩む。

ふと自分を見上げてくる眼差しとかちあった。


きらきらと瞳を煌かせ、口元は嬉しそうにぐにぐにと歪んでる。

この顔は良く知っている。

何か企んでいる時の顔だ。

「ダーァリン」

「なんだ」

「いっただっきまーす」

抱えなおして私室の扉を開く。


イタズラをする気満々のブランマージュにうんざりとしながら扉をあければ、突然がぶりと鼻がかじられた。

「にょ?」

「……」

「おいしくないよー?」

「――」

「おいしそーだとおもったのになー?」


鼻をかじられた。

鼻を――ひくりと口元が引きつる。

しかも思い切り歯をたてて。

「このっ、愚か者!」

「ちーでたー」

にゃはははははっ、と笑い出す莫迦猫を寝台に放り出す。


血が出たと言って喜ぶブランマージュを睨みつけ、エイルは冷ややかにブランマージュの横に手を掛けると口元に笑みを刻んだ。

「治せ」

「んん……」

ブランマージュの眉間に皺が寄り、顔をあげて自らが傷つけた鼻頭をぺろりと舐める。

二・三度同じ所作を繰り返されれば痛みがひく。痛みはひくが、自分の体の中のどこか別の場所がざわりと騒ぎ、血の流れが速度をかえていく。

 きしりと寝台が音をさせ、酒の香りが鼻腔をくすぐる。

そのまま、ブランマージュの薄く開いた唇に自分の唇を触れ合わせた。

強く押し当てるわけでなく、ただ唇の表面が触れるか触れぬのかのぎりぎの距離で。

「噛むな――舐めるんだ」

差し入れた舌先におずおずとブランマージュの舌がふれる。

それをからめとるようにくらい付けば、


「苦い!」


にゃーっと奇妙な声をあげてブランマージュはぽてりと寝台に倒れこんだ。。

「おいしくなーい」

 自分の中の熱が急激に引いていく。

エイルは自嘲するように口元に笑みを浮かべ、前髪をかきあげた。

ブランマージュにはきっと先ほど飲んでいた珈琲の味がしたのだろう。

「私には甘すぎだ」


――自分の舌先には甘い吐息と魔女の息吹、そして蜜の味。


***


――失敗したわ。

あたしはエイルを前に反省した。

猛省と言ってもいい。

ほんのちょっとしたイタズラだ。


ヤツの口にするもの全てに酒精を混ぜただけ。

直接体内に送り込んでもいいけれど、まぁ、一応ね――絶対量っていうのがあると思うのよ。ばったり逝かれでもしたら目覚めが悪い。


にっこり微笑を浮かべるエイル・ベイザッハ――気持ち悪い。

「ブラン、おいで」

いやいやいや。君のデフォならここは、来いでしょ?

なに、おいでって。

「いや、えっと……あの、スミマセン」

手をつかまないで。

瞳を細めて口元に笑みを刻みつけ、あたしを抱き上げる。

ああああ、チビ魔女は簡単に持ち運べるコンパクトサイズ。やめて、なぜに膝に乗せる?


「ブランマージュ」

甘い吐息。

その吐息には酒気が混じる。

酔っ払いだ。まさに酔っ払い。ひぃっ。

片手で抱きこまれ、もう片方の手があたしの唇をなぞる。

冷たい手がゆっくりと優しく。

「悪い、悪かったです」

開放を要求する!

「ブラン……」

指先が唇を割り、歯をなぞる。

うひぃっとあたしの背筋に悪寒が走り、あたしの尻尾はいつもの倍に膨れ上がる。

「……見せてごらん」

「え、なに?」

囁かれた言葉が理解できなくて問い返す。エイルが口の端を歪めて笑い、すっと顔があたしの耳元に近づき、もう一度囁いた。

「おまえの全てを知りたい」

うわぁ、食われる!

じたばたと暴れるあたしの耳をぱくりと咥える。それ猫耳、皮膜薄いからっ、やーめーてぇ。

 

なんというか、駄目だ。これはエイルじゃない。

ちょっ、本当に勘弁。

ごめんなさい!

あたしが悪かったってば!

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