チビ魔女物語
二又に別れた枝だった。
そう、それは無造作に置かれた一本の素晴らしい樫の木だった。
キバタンの瞳がきらきらと輝き、恍惚に身を震わせる。
「すげぇ、すげぇぜ。これはなんて素晴らしい止まり木!」
にぎっと足で握り締める。こう、なんとも足にぴたりと吸い付くようなフィット感。滑らかな木肌。もう片方の足も乗せてみる。
うむ!
これほど素晴らしい止まり木はついぞない。
キバタンのルゥは感動にむせび泣きそうになってしまった。この木に身を預け、とっておきの虫を食おう。きっと至高の極みを得られるに違いない。
鼻歌を歌いながら飛び立ち、森に虫を探しに行くことにした。ああ、人生は素晴らしい。
丁度そこに帰宅したのはブランマージュ――10歳。
エリィフィアの娘として魔女見習いをしている。琥珀色の瞳と赤みの強い金髪の少女だった。赤いフードをばさりとおろし、外からの寒さでかじかむ手にふーっと息を吹きかける。
「エリューシュ、火をつけて」
外から一緒に戻った巨大な灰色狼に頼む。火の魔法は制御が利かない為に禁止されているのだ。
体についた雪虫をばばばっと体を震わせて落としたエリューシュは「ふんっ」と横を向いた。
「しらん」
「もぉっ、いいじゃない。ケチ」
「自らできることは自らでこなせ。おまえには二つの手がある」
灰色狼はその澄み渡るような瞳で暖炉を示した。
「判ったわよ」
ブランマージュは唇を尖らせ、暖炉の置き火を探る為にふと――テーブルの上に置かれている棒に手を伸ばした。
火かき棒の代わりにそれでもって炭と灰とをかき回し、灰の中に隠れている置き火を引き寄せてフイゴでよいせと酸素をおくる。
まだまだへたくそなものだから、周りの灰を飛ばしてしまい酷い有様になってしまったが、それでもせっせと火を熾そうと試みる。やがてそれをじっと見つめていた狼は、あからさまに欠伸をひとつ吐き出すと、ブランマージュの持つ棒の先端に自らの魔力で火をともした。
「そんなでは体が凍える」
冷たい口調だが、ブランマージュは肩をすくめて木の棒を炭の中に放り込むと自分よりもずっと大きな狼の首に抱きついた。
「エリューシュはあったかいなぁ」
暖炉の火が赤々と点るまでエリューシュで暖を取ることに決めたブランマージュだが、その時になって窓から飛来した鳥に顔をしかめた。
「窓閉めて」
「って、おまえらナニ? え、おまえら……おまっ、その燃えてる木は何だよ! なーにーしてくれてんだよぉぉぉぉ」
「いやぁー、何虫飛ばしてるのっ。このバカ鳥っっ」
キバタンのルゥの悲哀を理解してくれるものは誰一人としていなかった。