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web拍手お礼小話つめつめ(8)

「七夕って、もう終わったわよ」

「旧暦がある! そもそもだな、七夕を祝うのは旧暦がいいんだ。晴れの確率がぐんと上がる」

 ロイズの熱弁に、へぇっと乾いた笑いを返す。

どうでもいいことに熱中するね、熊隊長。

「まぁいいわ、短冊に願いを書けばいいのね」

「そう」

 あたしはペンと短冊とを受け取り、じっと考えた。


まあ、考えるまでもなく願いは決まっている。

――元の体に早く戻れますように!


よし、牽牛と織姫よ、願いをきき届けるが良いっ。

あたしは自分のペンを置き、隣のロイズの手元を覗き込んだ。

「……あんたは本当にいいやつよね」


――ブランマージュが早く大人の体に戻れますように。


あたしがほろりと泣きたい気持ちになっているというのに、ロイズときたら視線をそらし、

「色々あるんだよ、色々と」

とわけのわからないことをいい、そそくさと短冊を笹につるしていた。


いろいろって?


***


「面倒くさい」

むっ、人がせっかく仲間にいれてやろうというのに、エイルは相変わらずだった。

「たまには童心にかえって、純粋な心でもってこういうイベントに参加してみなさいよ」

「こんなところに書いて願いがかなうのであれば世話はなかろう」

……いや、うん。

そりゃそうなんだけどね。

 むーっと耳を伏せると、エイルは諦めた様子で息をついてペンを取り上げた。


――ブランマージュが早く元のからだを取り戻せるように。


「うわっ、ダーリンにしては意外なっ」

「意外か?」

「もっとこう、なんていうかドロドロしいことを書くと思っておりました!」


 それに、あんたチビのほうが好きじゃありませんかー。

というあたしに、エイルは冷たい眼差しを向けながら言った。

「そろそろ色々我慢の限界だ」

「――は?」

「いや?」

……いま、なんか背筋が寒くなった感じなんだが……


***



――さりげなく、さりげなーく。

 ごほんっと咳払いを一つ、これはそう、つまりアレだ。

いやらしい気持ちとかじゃなくて、猫好きとして猫耳とか猫尻尾とかに触れたいという、まぁよくある欲求のひとつだ。


 なんといっても、ブランマージュじたいが言っていたじゃないか。

尻尾を触ってもいい、と。

逆撫では駄目だと言っていたが、いやがるようなことをする訳じゃない。

 普通にちょっと撫で回したい――撫で回したいっていう表現はなんだがいやらしくないか? いや、だから自分は純粋にちょっと触りたいだけだ。

毛のある生き物は癒しなんだ。そう、癒し。


「えっと、ブラン?」

 枕代わりのクッションを抱いて寝台に寄りかかっているブランマージュはどこかうつろに見上げてくる。

「なによ」

「尻尾、さわっていいか?」

 もともとの約束なのだから後ろめたく思う必要などナイ。

なんだかおかしい気持ちもするが――


「絶対にイヤ!」


……猫化が進んでいる為に猫扱いされるのがものすごくイヤだなんて、まぁロイズは知らないのだった。

 ロイズ・ロック――果てしなく間の悪い男。


***


*下ネタ注意。


「絶対にあんたを相手にするのはイヤ」

アンニーナは凶悪な顔で白髪の男をにらみつけた。

魔女の能力をそぐ為の白い綱をかけられるという屈辱の現状、更に凶悪な結界を張られた一室に閉じ込められたアンニーナたったが、その矜持を総動員して相手を睨んでいた。


「我だとてイヤだ」

ケッと返される。

腕を組んで壁に背を預けた白髪の男は、冷ややかに転がる魔女を眺めた。

「何故におまえなど抱かねばならぬ」

「って、まてこら。どういう意味よ」

「そのままの意味だ」

「このアンニーナ様をなんだと思ってるのよ」

「色情狂」

「――」

「おかしな病気をうつされてはたまらぬからな」

 ふふんっと鼻で笑われた美貌の魔女は憤怒に相手を更に強く睨みつけた。レイリッシュの結界の中でなければ殺しているところだ。

「病気なんてもってないわよ、失礼ね!」

「使い古しに用などない。我は穢れない乙女を愛する一角獣だ」

「こっの、バカ馬! ちょっとこっち来いっ。殴らせなさいっ」

なんと失礼な。熟しきったオンナを舐めるなっ。

体もテクニックも一級品だ!

「ミノムシに何ができる。この阿呆魔女」

 きぃっと顔を真っ赤にしたアンニーナだが、やがてにやりと笑みを浮かべてみせた。

「そうね、自信がないのよね。あんたきっとヘタクソなのよ。それとも早X? あら、もしかして短X?」

 

「貴様っ、我を何だと思っておるのだ! 我は馬Xだっ!」

「馬Xと早Xじゃないってことに因果関係はないわよね!」

むしろ馬Xだからこそ早Xなんじゃないのーっ。


 この二人の口げんか、最低……


***


「平和だねぇ」

ギャンツ・テイラーは第二隊のクエイドにやんわりと微笑んだ。

「平和ですね」

「なんていうか、たまにはこう事件のひとつもあっていいと思わないかい?」

 などとギャンツらしからぬことを言う始末だ。

あまりのことにクエイドは瞳をぱちくりと瞬いてしまった。

クエイドの手には黒猫が一匹。所長の愛猫の手を掴んで好き勝手に動かしている最中だった。

「ブランがあんまりおとなしすぎて……なんというか寂しいものだね」

ただたんにブランマージュがいないことを愚痴っているらしい。クエイドは眉をひそめて、

「魔女の森でも巡回してみては?

ひょっこり出てくるかも」

「そうかな。そうかもしれないね」

途端にギャンツは元気を取り戻して手を振って出て行き、クエイドは猫の手を無理やりふりながら「いってらっしゃーい」と見送った。


――いい人なんだけどなぁ。

いい人なのだが決して幸せになれないタイプ。

「ああ、うちの隊長も一緒だ」

だがその隊長は現在旅行に行っている。

しかも……どうやら魔女殿と一緒に。もしかして幸せ絶好調かもしれない。

「でもどうしてだか幸せにしている想像がつかないんだよな」


無駄に勘だけはいいクエイドだった――


***


 ブランマージュの森を訪れたギャンツ・テイラーはいつもとは違う大胆な行動にでることにした。

道端でばったりとブランに出会う確立がかなり低い現状。

ならば思い切って自宅におしかけてみてはどうだろうか。

 きっとブランマージュは相当怒るだろう。怒ってギャンツを激しく罵ってくれるかもしれないし、蹴飛ばしてくれるかもしれない。あの手で頬を張られたら天国にいってしまうかもしれない。

 なんだかうっとりとしてきてしまった。

ギャンツはどきどきしながらブランの自宅の玄関をたたいた。


 出てきたのはつりあがった細い眼鏡をかけた一人の女性で、その女性を見た時ギャンツ・テイラーは思わず叫んでしまった。

「ブラン!? どうして突然年寄りにっ!?」


 ギャンツはげしりと踏みつけられ、挙句乗馬用鞭でびしりと叩かれるハメに陥った。

ある意味願いはかなったかもしれないが……

「誰が年寄りだい!」

 エリィフィアの激しい怒りを買ってしまった。

「あ、あなたはどなたですか? ここはブランマージュの家じゃ」

「ブランなら留守だよ。私はあの子の師匠――母親だ」

ふんっと鼻を鳴らしたエリィフィアの言葉に、ギャンツはぱっと顔を綻ばした。

「ブランのお母さん! 私はギャンツ・テイラー、この町の警備隊第一隊所属、現在は隊長として任務についています。年齢は28独身。両親はすでに他界している為いません。同居もできます」

「……何の話だい」

「娘さんをぼくに下さい!」

 エリィフィアはじろじろと無遠慮にギャンツを眺めていたが、やがてぽつりと言った。

「肩がはって困るんだけどねぇ」

「もませてもらいます、お義母さま!」

――もしかしてブラン、ピンチじゃありませんか?




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