使い魔の独白
ねむい、ねむいなぁ。
ああ、どうも。
ぼくは愛すべき魔女ブランマージュの使い魔、あまり名前は呼んでもらえないけれどシュオン、と申します。
ぼくの本体は蝙蝠です。
暗いとこは大好きだし、どちらかといえば夕方に起き出したいんだけど、今は朝。
愛すべきマスターの朝食の用意をするのもぼくの大事な仕事です。
いぜんぼくがちらっと「朝は弱いんですよねぇ」とぼやいたら、心優しいマスターが、
「じゃあ鳥タイプの下僕でも捕まえるかなぁ。あいつら朝は早いでしょ」
とこともなげにいってましたが。
断然・全力で・却下です!
マスターの使い魔はぼくだけで十分!
そんな訳のわからないヤツを迎え入れるくらいなら、ぼくはどんな現状にだって耐えれます。
マスターはぼくだけのマスターであって決して他の誰かのマスターであっては駄目です。
ぼくは朝食の準備をすませ、マスターが寝ている寝室を覗き込みました。
すぐに起こしたりしません!
まずは観察です。
寝てます―――うぅぅ、可愛いなぁマスター。
ぼくが昨夜ベッドメイキングした寝台は、何があればこんなになるのだろうという程に乱れまくり、シーツははがれ、布団は団子のようになってマスターの手足がからみついてる。
抱き枕を作ってあげようかな、なんて思うけれどそれはしません。
だって!
布団を抱いてるのだから良いのですよぉぉぉ。
ネグリジェからはだけてる健康的で艶やかな足だとか、時々腹まで見えちゃってるトコとか!
抱き枕があったら全部布団の中に隠されてしまうじゃないですかぁ。
そんな残念なことはぼくには到底できません。
ああ、ヨダレなんてたらしちゃって、可愛いったらありゃしない。
ぼくはにまにま緩んでしまう口もとをひきしめ、ハンカチでちゃんとヨダレを拭ってあげます。
そうしてやっと、マスターに声を掛けます。
「マスター、おきてくださいよぉ。
朝ですよ?
スープが冷めちゃいますよ」
「ん、んん………あとちょっと」
もそもそとうごいて、温かいところを求めるマスター。
艶やかな赤味の強い金髪が寝台の上で散ってます。
少し癖があるけれど、ふわふわとして可愛い。
「マスター」
「んんん」
むにゅむにゅと口が動く。
何か呟いたと思えば、マスターの手には杖。
それをおもむろにこちらに振りかざし、ぼくは避けようと思えばよけられるけれど、おとなしくソレを頭で受けた。
痛い、痛い、痛いけど………幸せ。
「マスター、おきて下さいよぉ」
ゆるゆるとマスターの瞼が開いて、金色の眼差しがこちらを捕らえました。
金色。
それはきっと角度によってで、光の反射がそう見せるんです。
よくみれば柔らかな琥珀のような美しい瞳。
朝の潤んだ瞳でみあげてくるマスターは―――
犯罪的に可愛い。
こんな可愛いマスターをもったぼくは世界一幸せな使い魔に違いない。
しばらくぼぅっとぼくを見ていたマスターでしたが、ふいににっこりと微笑んだ。
「シュオン」
名前を呼ばれると鼓動が跳ねる。
甘えたような声。
「昨日ね」
「はい」
「いいこと考えたの」
ふふふっと、魅惑的な笑みを浮かべてマスターはぼくの頬に触れました。
どきどきどきどき。
マスターはどんな素敵なことを考えたのでしょう。
ぼくは口元がだらしなく緩むのを感じます。
「こないだあたしのことを、能無しだの下らぬだのと吐き捨てたあのエイル・ベイザッハの顔を蒼白にしてやる作戦よ」
マスターは同じ魔力を操るものとして、エイル・ベイザッハ魔導師と顔をつき合わせてはくだらない―――いえいえ、高尚な言い合いをしているのです。
エイル・ベイザッハは努力の人。
勤勉で、魔道に関しては貪欲。
そしてマスターは努力しなくてもできると信じつつヘマをする、ちょっとおっちょこちょいなところがあるから、どうしても仲良くなれないんじゃないかな。
まぁ、ぼくのマスターがぼくいがいと仲良くしないのはとってもいいことです。
マスターはすぃっと杖を閃かせる。
「あんたがエイルの顔で男をたぶらかせばさすがにあのスカした顔も色を変えるわよ!」
………それ、ぼくがやらないと駄目ですか?
いや、はい、マスターがやるなんてとんでもないです。
はい………ぼくの愛は不滅ですから。
何があっても。