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水遊び

「何て格好してるんだ!」

警備隊の隊舎の横にある馬房。そこには馬の為に水が引かれていて、丁度プールのように水が溜まっている。

 あくまでも馬の為に、だ。


「あづーいんだもん」

子供達と水の中に入っているブランマージュの姿に、ロイズは身を戦慄かせた。

「ねー?」

「いいじゃんねー?」

「ケチくせー」

子供達まで追従しているが、パンツ一枚の子供達。そして、申し訳程度の布で胸元と腰の辺りを覆っているだけのブランマージュ。

「水着。 アンニーナがくれたの。可愛い?」

誰だそれ。

このときのロイズはまだ他の魔女との面識などもちあわせていなかった。

「ばっ、オマエはっ」

にんまりと笑みを浮かべ、ブランマージュが水桶の縁に手を掛けてふわりと浮き上がる。

裸身に近い格好で中空に浮き、つつっと近寄られてロイズは身を引いた。


「中年男には刺激が強すぎたかしら?」

「だれが中年だ――おまえな、オレの年齢を」

幾つだと思っているんだという言葉は遮られた。

「ブランマージュ!」

突然の大声に。

ざっと視線が声の方へと向く、それは第一警備隊隊長であるギャンツのもので、ブランマージュは一気に青ざめた。

 パニックを起こして浮かんでいた体が沈む。慌ててロイズがその体を抱くように支えると、ブランマージュをぬらしていた水気が、ロイズの隊服に浸み込む。

 ブランマージュの体が小刻みに震えているのを感じた。

遠くで聞こえたギャンツの声が近づいてくる、咄嗟にロイズはブランマージュを自分の背と木の間に隠していた。

「ロック。第二隊隊長――先ほどブランの声がしたようなんだけれど、知らないかな」

ずかずかと近づく足音に背中のブランマージュがいっそうしがみついて震える。

「いや、知らないが」

「そうか、すまなかった。もし見かけたら知らせてくれ。いいね?」

 温厚そうな第一隊隊長はそれでも多少の苛立ちを押さえ込むようにして微笑み、ついで子供達が馬用の水置き場に入っていることに苦笑する。

 

「おかしな遊びばかりしてはいけないよ。おまえ達もブランマージュを見かけたら教えておくれ。そしてブランマージュをあまり困らせてはいけないよ」

 やんわりとつげて軽く手を払って行くギャンツ――それを見送り、ロイズはほっと息をついた。

「……もういいぞ?」

まだ背中で小さなふるえをみせるブランマージュに声をかける。

「こ……」

「ん?」

「腰、抜けた」

は?

ぎゅっと背中のシャツを握り締め、ブランマージュが必死にしがみつく。ぐるりと首をめぐらせれば、半泣きのブランマージュの姿にロイズは天を仰いだ。

「――ブラン、へいきー?」

 子供達が水桶のヘリで首をかしげている。

苦笑を零し、ロイズは体制を変えて振り返り、ブランマージュの腕をひきあげて自分の腕の中に抱き上げた。

「ここには第一隊の人間もいるんだから、ヘタな遊びをするな」

「――だって、ギャンは外巡りの筈だったのだもの」

 だから逆に隊舎敷地内で遊んでいたのか。

腰が抜けたというブランマージュは、動けないのかおとなしくロイズの腕の中におさまり、胸に寄りかかる。ロイズは子供達を一瞥すると、

「休ませてくる。オマエ達も程ほどにしろよ」

「んー」

「ブラン、今度は川で遊ぼうね?」

「ギャンツはぼくがいつかやっつけてやるからさっ」

 子供達の言葉にブランマージュが薄く笑う。

「ギャンは悪くないわ」

そういう言葉に、ロイズはぎしりと胸が痛んだ。

「――ギャンをああしたのはあたしだもの」

「――」

「……普通にしてくれれば、いいのにね。普通に好きだって言われれば」

 吐息交じりに言うブランマージュの言葉に、ロイズは瞳をすがめた。


――何故か胸のどこかが痛む気がした。

調子が狂うのは殊勝な態度など見せない魔女が珍しくしおれているからだ。

生意気でイタズラばかりの悪い魔女ブランマージュ――


それから魔女は数ヶ月もの間ロイズの前から姿を消した。

魔女がその姿を見せなくなってはじめて……ロイズ・ロックはその時の胸の痛みの理由にほんの少し近づくのだ。


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