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web拍手お礼小話つめつめ(4)

「隊長?  眉間の皺、取れなくなりますよ」

揶揄するようなクエイドの言葉。

ロイズは仕事用のファイルを棚へと戻しながら相手を睨みつけた。

「問題か?」

「目つき悪いんだからあんた、そういう顔してると雰囲気悪くなるでしょ」

「……すまん」

「まぁ、なんか悩みでも?

吐き出せばちょっとは軽くなるかもしれませんよ」

はははと笑う部下をじっと見詰め、ロイズは嘆息した。

「――何をしてもうまくいかない」

「そうですか?  オレに言わせれば隊長は手際よくイロイロできてますよ」

 事務仕事も完璧にこなしている。

身体能力も悪くない。何故こんな僻地に左遷――いやいや栄転されてきたのか判らない。

「ヘタレ認定ってなんだ」

「は?」

「何故オレがヘタレであいつがむっつり? いやいや、むっつりは褒め言葉じゃない。

そんな称号は欲しくない。だからといってなんでオレがヘタレ?」

「……」

「オレはヘタレか?」

「イエイエ? 隊長は立派ですよー?」

――ほっときゃよかった。

クエイドは両手のひらを自身の前で振りながら激しく引きつった。

……真面目な人程なぁぁぁ。


*****


「……魔女殿」

クエイドは木の上で寝そべっている魔女の姿にうんざりとした。

昼寝はいいが、できれば不用意なところに居て欲しくない。

 声をかければブランマージュがあふりと欠伸を漏らす。

「落ちますよ」

うんざりと言えば。

「落ちないわよ」

とかえる。そうっスね――でも猿だって木から落ちますからさ。

それに、そんな中央広場の木の上に居られたら迷惑だ。第一隊に見つかったらどうするあんた。

 やれやれと忠告すれば、ブランマージュはにんまりと笑った。

……絶対に駄目な感じの笑いだった。

「副隊長は真面目よねぇ」

言っておくが真面目なつもりは無い。

どちらかといえば適当に生きている。サボる技術は一級品だ。

「うちの御婿さんにならない?」

――今何言った?

「あたし結婚はしたいのよ」

「どんな罠だよ!」

あんたはオレを殺す気か?

ギャンツに殺されるかロイズに殺されるか判らん罠をはるな! 

それに魔女と結婚なんて絶対にムリ。絶対にイヤ。絶対に有り得ない!

「ちぇー、だってあたしの周りって変態ばっかなんだもの」


言っとくがなぁ、その変態を作ってまわっているのはおまえだ!!!


*****


「風邪ですねぇ」

寝台で臥せっている魔女の姿に使い魔が苦笑する。

「もぉぉ、ヤ……しんどいっ」

ブランマージュが枕を抱きしめて赤い顔をしているのを眺めて、使い魔はかいがいしくその額の汗をタオルで拭った。

「あとで林檎をすってあげますねぇ」

「んー」

「あったかくして寝なくちゃ駄目ですよぉ」

「怪我なら治せるのにぃ」

病気に関しては魔女といえども時間がかかる。

赤い顔でと息を落とすブランマージュの世話をかいがいしく勤め上げながら、使い魔は実に幸せそうにブランマージュの頬を撫でて立ち上がる。

「冷たいものを用意しますね」

「シュオン」

「はい」

「一緒にいてね?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと――ずっと一緒にいますよ」

子供のように不安定になる主の様子に使い魔は蕩けるような笑みを浮かべた。


元気な主でいて欲しいけれど、たまには病気も悪くない。

使い魔は緩む口元を少しも隠さなかった。


*****


「どうした?」

月夜の晩だ。

木の上に腰をかけて座っている魔女の姿にロイズは夜警の途中で気づいた。

ぼんやりとしている魔女は、やけにゆっくりとした動きでロイズを見下ろした。

「あら、くま」

「……誰が熊だ」

「なんかねぇ、ちょっと体がだるいんだわ」

言いながらふわりと浮かび上がる。

だがその体がへろりと落ちそうになるから、ロイズは慌てて自らの手を伸ばして魔女を抱きとめた。

「おまえ、熱があるんじゃないか?」

「んー?」

「魔女も病気になるのか」

呆れたように言いながら、抱えなおす。

腰の辺りから持ち上げ、自分の首に腕を回すようにと言えばくったりとした魔女は言われたとおりにロイズの首に腕を回して熱い吐息を落とした。

「平気か?」

「すこーし、しんどい」

ゆっくりとした足取りで魔女の森へと進路を取りながらロイズはブランマージュの腕の熱を、吐息を感じていた。

「人に移せば……治るって言うぞ」

「んじゃ隊長殿にあげるぅ」

ぎゅっとロイズの頭を抱えて抱きしめてくる魔女に嘆息する。

「おまえ、酔っ払いみたいだ」

実際に酒酔い状態になった魔女を想像すると頭が痛い。やれやれと歩を進めるロイズの頬に平常より高い体温の魔女の手が触れ、ぐきっと音がするほどに顔を無理矢理横に向けさせられた。

――何するっ。

と言おうとした唇に、ブランマージュの唇が触れた。

 熱い……

「うつった?」

「……」

「駄目かぁー?」

へにゃりと魔女が体重を預けてくる。

呆然と足を止め、ロイズはやがて息をついた。

「――なぁ、ブラン……オレだけにしておけよ?」

聞こえてないだろうなぁ。

ロイズは腕の中のブランマージュを抱きなおし、その腕に力を込めた。


*****


「だるーい、しんどーい」

寝椅子に転がりぶつぶつ煩い魔女がいる。

うつぶせでクッションを抱き、時々「へくちん」と謎のくしゃみをする生き物だ。


エイルは冷たい眼差しでそれを眺めていたが、やがて棚に向かった。

「ダーリン、お薬ちょーだい」

「……」

エイルは幾つかの重なった白い陶器を引き出し、着々と準備をすすめていく。

クスリを調合してくれるのだろうとブランマージュは瞳を細めたが、やがて振り返ったエイル・ベイザッハは実に嬉しそうに口元に笑みを刻んでいた。


「鼻水と唾液」

「……」

「研究材料にする」

ぐっと肩口を押さえ込まれ、綿状のものをずいずいと鼻へと差し込まれそうになる。

ブランマージュは声にならない悲鳴をあげながらじたばたと暴れたが……




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