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魔女と使い魔の邂逅・魔女編

魔女と使い魔の出会いの話。


―――月の綺麗な晩だった。


青白い月の光は柔らかく大地を照らし出す。

こんな夜は空を飛ぶのも、大地を歩むのも楽しい。

 背をくんっと伸ばして、手の中で光球をひょいひょいと垂直に投げては手の中に納める。


ランタン代わりに月の光を凝縮してみたけれど、あまり必要ないかもしれない。


月のきれいな晩。

ただし、それは十五夜ではなくて―――月齢で十三。ほんの少しだけ月は欠けていた。

何かが起こる時は、月がまん丸に肥え太っているのが好ましい気がするけれど、その日は生憎と月は欠けていた。


「っと」

あたしは手の中の球を取り落とした。


大地に落ちた光球は、ころころと地面を転がり木にぶつかってぴたりと止まった。

あたしは肩をすくめて球をとろうと手を閃かせ、光球に照らし出された木の陰にそれを見つけたのだ。


「蝙蝠?」


蝙蝠が落ちている。

死んでいるのだろう。

あたしは瞳をまたたいて、それから蝙蝠の羽をつまむようにして掴んだ。


薄い皮膜に傷がある。

怪我をして落ちたようだ。

「怪我ならいっか」

ふむ。


あたしはにんまりとした。


明日の天気はきっと晴れ。

ならば天日干しにして干物にしよう。確か、あたしの数少ない蔵書の中に蝙蝠の干物を使ってつくる丸薬があった。

 病気の蝙蝠はちょっと薬にしたくないけど、怪我で死んだなら薬にしたっていいだろう。


あたしが手の中の蝙蝠をびろりとひろげて確かめていると、それはそろりと身を震わせて瞳を開けた。

 丸くてつぶらな感じの瞳。


うっ。


「生きてる………」


チッ、生きてるのかぁ。

死なないかしら?

さすがに自分で殺すのはヤなのよ。


「キ………」

蝙蝠がか細い声で鳴く。


弱々しく身を震わせる。


あたしは嘆息した。

「まぁ、いいわ」

瀕死の生き物って、そのまま放置するのも後味悪いしね。


あたしは先ほどから足元に転がっている月の光球を思念で動かし、蝙蝠に近づけると月の魔力と同時、自分の指先に歯をたてて血を出し、蝙蝠の口元に数滴、垂らした。

―――弱き生き物に月と魔女の加護を。

 蝙蝠の小さな傷がふさがる。

大きな怪我ならこの程度では治らない。薬だって使わないといけないし、魔力だけでどうにかするには、長大な時間が必要だ。

まぁこの程度なら簡単に治癒できる。


ふふふ、魔女ってやっぱりすごいと思うわ。


「ああ、魔女さま………ありがとうございます」


突然その蝙蝠が喋るものだから、あたしはギョッとした。

いかんせん「干物」としか見ていないものだから、いちいちそれが普通の蝙蝠か魔物かなんて考えてもなかったのだ。


だからその時のあたしは「うわっ、干物がしゃべった」くらいの感覚で随分とぎょっとした。

「魔物だったの?」

あたしは手の中の「干物」もとい、蝙蝠を見下ろしていった。


「ぼくのようなちっぽけな生き物を使い魔してくれるなんて、ぼく………」

使い魔?

は?


何の話だ。

と、ふいに思い出す。


確かに、魔女、魔導師などの不思議な力を操るものと魔物は、月の加護と血のもとで「契約」を取り交わすのだ。

「ぼく、魔女さまに、いえ、マスターに一生ついていきます!」

「………」



月の加護と魔女の血を取り入れた蝙蝠がはたはたとはためいている。

―――今のナシ。

あたしはにっこりと微笑んだ。


「そんなことはどうでもいいのよ。

あんたにはあんたの人生があるの。だからあたしのことは忘れていいわ。

元気でね。じゃああたし帰るから」


あたしはくるりと身を翻し、さっさと歩き出す。

今のナシ。

今のナーシ。

もしくはチェンジ。

あたしはまったく関係ありませーん。


せっかく使い魔にするなら、蝙蝠なんて脆弱な生き物じゃなくて、魔女シェルティが使ってる火蜥蜴とかのほうが便利そう。蜥蜴の癖に火をあやつるのよあいつ。

 蝙蝠に何ができると?


逆さまにぶら下がるくらいしか能がなさそうな蝙蝠など欲しくない。

どうせなら干物のほうがずっと良かった。


あたしはきっぱりと意識を切り替え、やれやれと自分の家に帰宅した。


翌朝、自分の部屋に蝙蝠がぶら下がっているのを見た時の脱力感は今も忘れていない。

幾度「お使い」と称して僻地に送ってもそのつど帰って来る蝙蝠に、あたしはそのうち色々と諦めた。


まぁ、いいか………


―――こうして使い魔の「本当は不憫なんだけど不憫と気づかない幸せな生活」がはじまるわけです。

えっと………うん、使い魔は幸せですよ?

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