web拍手お礼小話つめつめ(1)
もうすでに読んでいる方もいると思いますが、web拍手の小話詰め込みです。
*期間限定だったエイプリルフールはまたそのうちに。
「きゃ~ テンションあがるわっ」
「ブランうるさい」
「だってエイル! 拍手してもらったのよ、あんたもお礼言っときなさい」
「……」
「やぁね、うちのダーリンってば照れ屋さんでごめんねぇ」
「……」
「でもちゃんと嬉しいのよ、コレでも」
「ブラン」
「なに?」
「おまえの年齢を言って欲しいか?」
「あんたよりは年下よ!!!」
―――――――――――――――――
「あたしね、あんたに言いたいことがあったのよ!」
常々ずっとね。
あたしはロイズ・ロックと視線を合わせ、真面目な口調で切り出した。
ロイズが少し驚いたように身を引きながら、それでもちゃんとあたしを見る。
こちらの真剣さがきっと伝わったに違いない。
「なんだ?」
少し上ずったような口調。
あたしは少しだけ、そう、ほんの少しだけ悩んで、けれど思い切って告げた。
「あんた絶対にハゲると思うの」
「……」
「家族はどうなの? 父親やおじいちゃんは? ねぇ」
どうなのよ?
「言いたいことはそれだけか?」
あれ?なんで怒るのよ?
あたし本気で心配してるのよ!?
―――――――――――――――――――
「ふふ、可愛い」
白い猫が身を丸めてソファで眠る。
もう見慣れたその光景。
見ているだけで心がなごんで自然と笑みが浮かんでしまう。
「ブランちゃん」
頭を撫でてやると、ごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らす。
最近は昼間のうちにどこか気に入りの場所を見つけたのか姿を見せない。
けれど夕方を過ぎる頃にはいつの間にかソファの上で眠っているのだ。
「――若様がこんなに猫好きになるとは思わなかったけれど」
思わず苦笑がもれる。
猫に構うよりも自身の結婚のことについてもっと身を入れてもらいたいと切実に思うのだが……
「……なんか無理そうよねぇ」
猫にブランマージュなんてつけてる時点で駄目だわ。
「みゃう?」
「重ね合わせてるのみえみえなんだもの。困っちゃうわね?」
「にゃ?」
「ふふ、おまえは悪くないわよー?」
――――――――――――――――――――――
「マスター」
「なに?」
「拍手してもらえましたー」
「うんうん、お礼言っておきなさい」
「嬉しいです、ありがとうございます!」
「どれくらい嬉しいかって言うと、マスターの入ったあとの御風呂に入った時くらい嬉しいです!」
「……」
「あ、それともマスターの使ったXXをこっそりXXした時かも」
「いやいや、もしかしたら――」
「あ、ロイズ? 悪いんだけどあんたの銃貸してくんない?」
――――――――――――――――――――――――――
「呼びつけてごめんなさいね?」
漆黒の魔女は唇を歪めて微笑んだ。
「その後どうかしら?」
楽しそうな眼差しに晒され、呼び出されたものは萎縮したように視線を下げた。
「ええ、それは知ってるわよ?
可愛い子猫は毛を逆立てて御仕事に励んでる」
くすりと笑みがこぼれた。
「でも、大事なのはそれではないでしょう?
それはあくまでもおまけ。
このままではあの子猫は本当に猫になってしまうわよ?」
ふふふ。
「怒っているのね?
でもこれもまた罰なのよ。仕方ないわね?」
漆黒の魔女は艶やかな髪に指をからめ、そっと自らの唇に寄せた。
「早く体が見つかるといいわね?
ふふふ、駄目よ。ヒントはあげない。
でも時間はそんなにないのよ? このまま猫の体に留めおくことも、難しい。だって、あの魂は魔力があるのですもの。
そんなものにずっと猫の体が堪えられるなんて、それは無理」
「あたくし達魔女は力あるもの。
だからこそ、根底にある秩序を守らねばならない。
これは特別な処置なのよ?
あの子は特別―――何が特別か? それくらいは教えてさしあげてもよくてよ?」
漆黒の魔女は実に楽しそうに笑い、
「魔女ブランマージュが年若く、そして愚かだということよ」
と続けた。
――――――――――――――――――――――
ブランマージュがソファで寝るのはいつものことだ。
だが、いつもと違うのはそれが猫の姿であるから。
「……」
エイル・ベイザッハは灰黒の瞳を半眼に伏せ、白い猫を見下ろした。
蝙蝠はまだいない。あれは時折姿を消しては夕方に戻り、猫に変化したブランをロイズ・ロックの邸宅へと運ぶのだ。
エイルの手がすっと白い猫の体毛に触れる。
手入れの行き届いた毛並みは柔らかく艶やかに指先に伝わる。
「――」
寝ぼけた猫がほんの少し顔をあげ、するりと指先に顔を押し付ける。
それに少しだけ動揺を見せたエイルだが、次の瞬間、
猫に指先を噛まれた。
「っ――」
「この肉まずいーっ」
むにゃむちゃという猫をおもむろに摘み上げ、エイルはくず入れの中に放り込んだ。
「なんでマスターゴミ箱で寝てるんですかぁ」
「知らないわよっ」
―――――――――――――――――――――――――
「ここだけの話しなんですが、うちのマスターは実は結構怖がりです」
「はい。何かの拍子でアンデットとか見てしまうと、寝れなくなっちゃうんです」
「魔物とかは結構平気ですけど、幽霊とか溶けてる系とかの類が駄目なんです」
「夜寝る前に、ちょろっと幽霊の話しなんかすると、決まって夜は寝れないんですよ」
「だからそういう時は、しばらくこっそりと眺めるんです」
「寝台で枕を抱きしめて寝返りを何度もうって、眉を寄せて布団の中に潜り込んだりして」
「堪えられなくなってぼくを呼んでくれるのを待つんです」
「朝までマスターの頭をずっと撫でてあげるんですよー、ぼく夜行性だからそういうの平気なんです」
これは滅ぼしてしまったほうがいいんじゃないだろうか?
ロイズ・ロックは腰の短銃をそっと撫でた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「たいへんよロイズ!」
「……」
「なによ、ノリが悪いわね?」
「おまえのタイヘンだとかは信用ならない」
「――」
「ロクなことがない」
「いやいや、こんかいはタイヘンなのよ!」
あたしはぐぐっと拳を強く握り締めた。
「web拍手を設置して判った大事件よ!」
「なんだ?」
「あんた人気ない!」
「……」
「エイル大人気! しかもあたしなんて可愛いとか言われてるわっ。
いやん、あたしってば可愛い!」
あら?
ロイズさん?
大きな体で隅っちょにいったって見えてますよ? あんたでかいんだから。
ろーいーずさーん?
「あ、ちゃんと一人いたよ? ロイズ派って人が」
あああ、なんか更に落ち込んだ?
あまりにも実質的な人数だったか。
「んー?
ロイズは猫フェチで熊男で将来ハゲ確定だけどいいヤツよ?
あたしが保障するから」
「おまえがそーいうことを言うからだろうが!
それにオレの身内にハゲはいない! 今だってハゲてないっ」
って、それはそれでハゲの人に失礼よ。世の中にはダンディなハゲがいるのよ。
「おまえがろくでもないことを垂れ流しているのが悪い!」
えええええ? あたしのせい?
あたしのせいなの?
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「うっ」
隊舎の倉庫をあけてロイズ・ロックは呟いた。
黒い猫が「なー」と鳴く。
「ああ、所長のトコのコでしょ」
副隊長が呑気に言いながら猫の頭を撫でる。
「まだネズミ捕りさせられてんのかー?」
「……」
ひょいっと抱き上げ、ずいっとロイズへと向けた。
「隊長猫好きでしょ」
「――」
「ああ、こいつオスなんだ」
ひょいっとのぞきこみ雌雄を判別すると、副隊長は嬉しそうに言う。
「隊長のトコの猫の御婿さんにどすか?」
「絶対に駄目だ!」
「……娘を嫁にやる父親スか、あんた」