愚か者
いろいろと思い出したくない。
あたしは不機嫌だった。
それは当然だ。
理由は簡単、ロイズのあんぽんたんが意味ありげに持ち込んだ【またたび】、あたしはね、あれはきっと超強力な媚薬とか精力剤だと思ったのよ。
だからぁ、不機嫌なエイルの恥ずかしい痴態――なんかいやらしい――を笑ってやろうと思ったのよ。それと同時にロイズがこんなものを持っていた事実を後々の切り札にしようという、なんとも御得なセットを楽しもうと思ったのに。
現実は【またたび】――
恥ずかしいことをしでかしたのはあたしってどういうことよ。
あのエイルにすりすりしちゃったじゃない。
噛み付いたり舐めたりしちゃったわよ!
覚えてるこの記憶を取り出したい!!
エイルはあたしの襟首を掴み上げ、そのまま浴室のバスタブに放り込んだ。
「愚か者!」
って、こうして思い出してるしね、あたし!
ふんっとロイズの邸宅、居間のソファで不機嫌になっているあたしの前でロイズ当人は首をかしげている。
「エリサ、ここにあった小瓶知らないか?」
ケッ、無いわよ。
捨ててやったわよ。
そもそも、あんなものあんたどうするつもりだったのよ。
「まぁ、いいか」
大雑把な性格の熊男は呟き、ソファにいるあたしをひょいっと持ち上げていつも通り膝に置いた。
「ほら」
ふいにポケットから妙な棒を出す。
つんつんっと鼻先で動かされ、あたしは眇めた視線でそれを見た。
じゃれろって……
「何ですか、それ?」
「またたびの木。うちの所長が猫もストレス発散させないと駄目だって言うからな。
粉ももらったんだが――無くしたようだ」
二人の会話がどこか遠い。
あたしはとろりと酒を呑んだ時のように酩酊感を覚え、自然と口元が緩んでしまう。
「ふにゃぅぅ」
あああ、スキー。
この匂いスキー。
我慢できないぃぃぃ。
細い枝に一生懸命体をこすり付ける。
腰砕けるぅぅ。
ハムハムしたい。
はぅぅぅ。
立ってられないよぉぉ。
「……」
「凄い酔っ払ってますね」
「……」
膝の上ででろでろになって枝に身をもだえている猫を見て、ロイズはおもむろにその枝を取り上げ、ゴミ入れに放り込む。
「若様?」
「――いや、うん……オレはもう駄目かもしれん」
「はい? え?」
ロイズは鎮痛な様子で子猫を抱き上げると、まだ酔っ払ったようになってはうはうと自分の指を噛むソレを風呂場に運んだ。
【またたび】ロイズバージョン
愚か者は私かぁぁぁぁ。
何書いてるんだっ。ロイズがどんどん壊れてく(笑)
ちなみに使い魔バージョンは書きません。
想像したのが人間バージョンブランだったから……二人みたいに風呂場に叩き込んだりしないと思うのよ、うん。