魔女と使い魔の邂逅・使い魔編
―――月の綺麗な晩だった。
青白い月は柔らかく大地を照らす。
丸くて大きな月は、青白くてどこか物悲しい。
満月かな、とぼくは思ったけれど、かすむ瞳にそれはよく判らなかった。
満月ならいいな。
ぼくはか細い吐息を落とす。
満月の日に死ぬのなら、なんとなく諦めがつく。
ぼくは小さなちっぽけな蝙蝠だ。
魔物でもあるけれど、これといって何ができる訳では無い。ほんのちょっぴり魔法が使えたり、人間のように変化することはできるけれど、ぼくにできるのはそれくらいで一族の中でもつまはじき。
一族がそろう洞窟を追い出されたのは、仕方ないことなのかもしれない。
ぼくみたいな役立たずが一族にいることを、みんな嫌がる。
一人ぼっちのぼくは、はたはたと飛んで―――疲れて、疲れて、やっと休んでいたところで猪に跳ね飛ばされた。
ぼく気づかなかったんだよ。
休んでいた枝がそんな低い場所だったなんてさ。
―――だからぼくは一人、こんな場所で死んでいくんだ。
だから満月ならいいな。
月の光が優しい………
なんてぼくがぼんやりと思っていたら、突然あたたかな光を感じた。
何かが月光に照らされる地面を更に照らす。
なんだろうと思えば、ふいに羽を持ち上げられた。
「蝙蝠?」
―――痛い。
少し高い声と同時に、ぼくは誰かにつままれた。
それは月を背負った一人の少女。
赤味の強い金髪。眼差しは琥珀。
「怪我ならいっか」
ふむ、と小さな呟き。
少女は笑んだ。
とっても嬉しそうに。
彼女はぼくの皮膜をびろりと広げた。
痛くて、おもわず身が震えた。
「キ………」
ぼくは痛みに小さく鳴いた。
少し驚いた様子の彼女は、ふいに「生きてる………?」と囁く。
もう死にそうだけれどね。
やがて彼女は「まぁ、いいか」と小さく呟いた。
なにがいいんだろう?
ぼくが不安に思っていると、彼女はおもむろにぼくに何かの光を近づけた。
それは優しい光。
ちっぽけな魔物のぼくにもそれはわかる。
月の光だ。
彼女は自分の指先に歯をたてて、ぷくりと自らの血を出すと、口の中で何事かを呟いてぼくの口にその血を落とした。
途端、ふわりとぼくの体に風が流れた。
物凄い力が巡り、痛みがひく。
ぼくの中で何かが一気に駆け抜けて、やがてゆるりと落ち着いた。
ぼくは物凄くびっくりした。
彼女は魔女だ。
可愛くて、優しい、魔女。
こんなちっぽけなぼくを救い上げ、使い魔にしてくれた!
月の光と魔女の血で、ぼくを使い魔にしてくれたのだ。
「ああ、魔女さま………ありがとうございます」
ぼくの声はかすれた。
喜びで全身が震える。
魔女はびっくりしたように瞳を瞬いた。
うわぁ、可愛いなぁ。
こんな可愛い人がぼくの魔女さま。
ぼくのマスターなのだ。
「魔物だったの?」
小さな呟き、ぼくは畳み掛けるように言う。
「ぼくのようなちっぽけな生き物を使い魔にしてくれるなんて、ぼく………」
感極まって言葉が続かない。
でもぼくは精一杯の気持ちを込めてもう一度口をひらいた。
「ぼく、魔女さまに、いえ、マスターに一生ついていきます!」
「………」
マスターはしばらくぼくを見つめていたけれど、やがてにっこりと微笑んだ。
「そんなことはどうでもいいのよ。
あんたにはあんたの人生があるの。だからあたしのことは忘れていいわ。
元気でね。じゃああたし帰るから」
マスターはゆっくりと身を翻し、いってしまう。
なんて優しく謙虚なマスター。
ぼくのことをこんなに思ってくれるなんて。
ぼくは身がふるふると震えるほど感動した。
ぼくの人生なんて、もうマスターなしでは考えられない。
ぼくは感激でマスターからだいぶ距離をとってしまったけれど、大丈夫。
ぼくはマスターの血を頂いたのだもの。
マスターの使い魔として、マスターの居場所はもうどこにいたってばっちり判る。
一生ついていきます、マスター!
感想などいただければめちゃくちゃ喜びます。




