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ep69

麻相は身支度を整えるとザックを背多った。

「お父さん、お母さん、行ってきます。」

「気を付けて。」

「おう、行ってこい。」

父母は笑顔で送り出してくれた。

早朝6時、いつもなら出勤する時間に麻相は青田駅に向かって歩き出した。

10月の秋晴れの中、麻相は遅い夏休みをとった。

病気療養していたベテラン清掃マンが職場復帰するとそのタイミングを狙っていた。

麻相が長期休暇をとっても仕事に支障が出ないことを見定めると一週間の休みを取得した。

浅草への観光旅行は陽子との約束を果たすためだった。

麻相は未だに参考人であり旅行は避けた方が賢明と言えた。

ただし事件後から今日まで神妙な態度でバイトに従事していた。

様子を見に来ていた刑事たちからの心象はよかったので多少は羽を伸ばしても良さそうに思えた。

麻相への嫌疑は七回目の事情聴取でほぼ晴れたといってもいい。

陽子の父親が身元保証人になってくれたことも心強かった。

警察署に提出した旅行計画書には東京周遊、期間一週間となした。

しかし東京に滞在する3日目までの宿泊先は押さえてある。

それ以降は宿の予約が取れなかったと計画書には記述した。

主要駅にほど近いカプセルホテルかビジネスホテルに宿泊予定とした。

それに対し警察からは特段の指摘はなく、逐次連絡せよとの注文もなかった。

4日目以降を{予定}にしたのは別の思惑があるからだった。

ーーやっぱり、家を出るの?ーー

ーーこのまま一緒に居たらお父さん、お母さんも危険になるーー

麻相は自分の巻き添えで陽子に危害が及んだと考えていた。

陽子はそれを否定したが麻相は納得していなかった。

得体の知れない相手から麻相は標的にされていると田端から聞かされていた。

正体は分からないが人智を超えた力を持ち、常識にとらわれない思考を持つという。

単独なのか集団なのか判然としないが意外な人物が邪悪な想念をもって挑んでくる。

目的の為なら手段を選ばない、ならば普通の人には防衛する術はない。

身の回りの者にも危害が及ぶことが予測された。

陽子の親とは別居した方がよいと考えるようになっていた。

ーー生まれ育った家から出る、陽子は嫌だよねーー

ーー少しはね。でも、いつかはあの家を出るつもりでいたからーー

陽子もいずれは実家を出るつもりでいた。

それは想定内だったが麻相から提案されたのは意外だった。

森本家での生活にも馴染んでいたのでこのままもあり得ると考えていたからだった。

ーー理由付けが必要だよね。遠くに就職するとか遠くの大学へ行くとかーー

ーーお父さん、お母さんに納得してもらわないと後味が悪いからーー

血の繋がらない麻相を実の息子のようにかわいがってくれていた。

家族というものを実感できたことに感謝してもしきれなかった。

だからこそ危害が加わる状況は避けたかった。

ーーそれに、やっぱ変だよ。死んだ娘のカレシが同居してるなんてのはーー

籍を入れたわけでもなく親しい間柄だったというだけでは周囲の理解は得られにくい。

父親と母親の親戚筋へこの状況を説明し理解を得るのは困難だと思えた。

特に問題なのは陽子の兄だった。

麻相をことさら毛嫌いしており、わだかまりが氷解することはないように思えた。

家族間の騒動のネタになることは避けたいと麻相は考えていた。

ーー麻相君を私の代わりだと思ってるのよーー

ーー陽子が囁きかけたからじゃないのか?ーー

ーーそんなことやってない。分かってるくせにーー

麻相の中に陽子の精神体が居候しているだけではなかった。

記憶から思考までをも双方が共有する。

お互いが恥ずかしいと思っていることまで筒抜けになっていた。

今の麻相と陽子の間には嘘や偽りは通用しない。

ーー本当の息子の様に思ってくれるのは嬉しいよ。だからこそ危ない目に遭わせたくないーー

麻相の本心だった。

東京に行くのは別の目的もあった。

ーーあいつらの正体を知りたいーー

ーーあいつらは連携しないけど一つの意思の元に動いていると思うのよーー

ーー単独で勝手に行動する。共通の目的があるようだけどーー

ーーそれが何か、どこの何者かもわからないしーー

ーーどんな敵なのか知っておかないと。こっちは無防備すぎるーー

ーーその人は東京にいるの?ーー

ーー東の方だったから。あの人なら何か知ってるーー

あの時、麻相と陽子に助言(アドバイス)をした人物に会うのも目的だった。

遥か遠くからの(テレパシー)で伝えてきた感触、それだけが手がかりだった。

ーー行けば分かる、よねーー

ーー気を追っていけばね。会うだけ会わないとーー

ーー安定してない?力が不安定?ーー

ーーなんとなくだけど、高齢のようだーー

ーー会ったこともない相手にテレパシーで伝えるのは相当な強さに思えるけどーー

ーーそれがいつも出来ないようだよーー

ーー全部わかっているなら最初から教えてくれればいいのにと思うけどーー

ーー人がそんなに便利になれるわけないよーー

未来予知(プレコグニッション)遠隔透視(リモートビューイング)で事態の推移が分かっても(テレパシー)の出方に波がある。

伝えたくても伝えきれない相手側の事情があるとの認識は麻相と陽子とで共通していた。

その{彼}に会うことが叶わなかった場合は潔く諦め、次の行動へ移るつもりでいた。

牧が責任者を務めるアグリ事業団体を尋ねるつもりでいた。

ーー農家さんになるの?なれるの?ーー

ーーそれは分からない。話を聞いて実際に仕事内容を見てから決めるーー

ーー受験に失敗したらって社交辞令かもしれないけどーー

ーー人手不足なのは間違いない。仕事を教えてもらえるなら俺でも、と思うーー

ーー麻相君の事情を知っているからねーー

ーー四の五の言ってられない。頼れる者が居るなら頼ってしまおうと思ってるーー

ーー成長したよね。今までは一人で抱え込んでたのにーー

囃したてる陽子に麻相は苦笑した。

牧を訪ねた次は田端を訪ねるつもりでいた。

ーー田端さんは大卒だし、サラリーマンの経験もある。今は農家さんーー

ーー経験豊富だからいろんな視点で答えてくれるかもねーー

ーーどんな選択肢があるのかだけでもいいーー

大学へ進むべきか、このまま就職でよいのか第三者的な視点で意見が欲しかった。

ーー新婚さんを冷やかしに行くだけでもありだよーー

ーー私たちも新婚みたいなものじゃないの?ーー

ーーそれは言わないーー

陽子の冷やかしに麻相は言葉が出なかった。

ーー山崎さんの心境の変化だけでも聞きたいーー

野次馬的ともいえたが麻相はこの疑問の答えを知りたかった。

あの時は犬猿の仲に思えた二人が今では一つ屋根の下で暮らしている、この疑問は解いておきたかった。

そして二人に悪戯(サプライズ)したい気持ちが麻相と陽子にはあった。

ーー俺たちを見たら田端さんも山崎さんも驚くよーー

ーーでしょ。どんな顔をするのか楽しみーー

テレパシストの二人には麻相と陽子が重なって見えるのではと予想していた。

奇々怪々な物を見るような顔つきをするのではと興味は尽きなかった。

新しい生活を始めた二人との再会を麻相と陽子は楽しみにしていた。

青田市の空は高く澄み切っていた。

路地から幹線道路に出ると人通りが多かった。

そこに広がる風景はいつもの見慣れたものとは違っていた。

車道にはひっきりなしに車が行きかう。

朝の通勤時間帯と重なり駅に近づくにつれて人通りがさらに多くなっていた。

この町でクーデタ―騒ぎがあったとは誰も覚えていないかのようだった。

女子大生が猟奇殺人の犠牲になったことすら遠い昔のことのような空気が流れていた。

青田駅前の通りにはコンビニ、ファーストフード店があり、学習塾の看板が高々と掲げられていた。

学習塾の看板を見上げて麻相はあることを思いついた。

ーーもし、俺が大学に行きたいって、言ったら?ーー

ーー勉強、教えてあげるーー

ーーもう10月だよ。間に合うかなーー

ーー頑張れば、国公立だって何とかなる!ーー

ーーそん時は・・・・・よろーー

ーー任せて!ーー

自信なさげな麻相。

自信満々に答える陽子。

人込みに交じって駅舎になだれ込んだ。

麻相と陽子は改札を抜けるとホームへ向かった。

作者談:ダメだ、こりゃ。

表現方法がゴチャゴチャ、ガタガタ、なおかつ堅苦しい文章になってしまいました。

反省したくてもできません。

この失敗を次に生かせるならばよいですが、これで一杯一杯です。

40年前の「劇場版 幻魔大戦」に触発され超能力戦記物を夢想してました。

この作中のところどころにあの映画のシチュエーションをモチーフにした場面が出てきます。

お気づきになった方はおられるでしょうか?

パクリではなくオマージュでありリスペクトですからお間違えなきよう。

あの映画は壮大なスケールであるので私には到底思いもつかない展開でした。

それに倣おうと荒唐無稽な話を膨らませつつもまとめきれず一旦は放棄したネタです。

超能力なんて存在しないとの信念と自己矛盾も抱えながらも本作を書き上げました。

苦しくも楽しい時間でした。


問題だったのは語彙力が衰えてしまっていることです。

以前なら言葉に詰まっても別の言葉に置き換えることが簡単にできました。

十数年前ならば言葉、ワードが次々と浮かんできていたのです。

ところがこの作品を書いている最中はそれが出来なくなっており驚愕。

文字は無限だとワクワクしながら創作できていた頃が懐かしくも隔世の感があります。

おそらく今後は創作することはなくなるでしょう。


お付き合いくださった方、ありがとうございました。


                                   令和7年  所出平向 

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