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ep56

二月に入ると欠席するクラスメートが増えてきた。

私大受験、学習塾の追い込み講座、自宅での特化自習と理由はそれぞれ。

空席の分だけ虚無感が漂い授業内容は希薄なものになっていた。

教師も随分と力の抜いているのがわかる。

教科書をほぼ棒読み、板書だけ済ませると授業の後半は雑談だった。

そんな中でも青田高校では学年末テストが行われた。

テストの難易度は低いと思われたが一学期からの総括だから解き方を忘れている問題もあった。

麻相にとって数学のハードルは高いはずだった。

やる事は今までと同じと陽子に言われたのは今も麻相の心に響き続けた。

この三年間の集大成だから「やる事」ではなく「やってきた事」だ。

問題を読み進めると二通り、三通りの解答方法が浮かんでは消えていく。

慌ててその一つを掴み取り目の前の問題に当てはめる、それで解答はあっさりと導き出された。

意外な流れに麻相は感動しつつも、その余韻に浸る事なく次の問題の取り掛かった。

受験組の生徒が多い中では志気は上がらず学年末テストの平均点は低かった。

平年通りの結果、陽子の予想通りだった。

数少ない就職組と浪人確定の麻相だけが学年末テストで奮闘した。

全ての教科で平均点前後を獲得したために単位を取得、卒業資格を得られた。

麻相の場合は二学期末テストの数学でも平均点を採っていたので今更の感はあった。

それでも数学の教科担任から個別に褒められるという珍事がB組教室で起きた。

これには麻相を見下していたクラスメートからどよめきが起きた。

共通テストの結果が思わしくない生徒は学校でのテストの結果など気にする暇はないようだった。

そんなクラスメートへの気兼ねと自身の今後も考えると麻相は素直に喜べなかった。

2月中も弁護士との面会予定がある。

渡された書類の読み込み、内容を理解したうえで承諾証なり委任状への署名、捺印をする。

面会時に署名済みの書類を渡し、新しい資料と書類をもらう、この繰り返しだった。

いつまでも難解な書類と向き合わなければならないと麻相は半ばうんざりしていた。

陽子の父親には先日の弁護士とのやり取りを報告した。

弁護士がその要求を承諾したことに父親は驚いていた。

契約期間を超過し日延べするならばその間は費用を支払うのが大人の常識だと。

無償での請負は別の考えがあるだろうが麻相を騙すような事はやらないはずと父親は言っいた。

それでも書類にはしっかり目を通すことが肝心。

書類を読みもせず丸投げだけは避けるようにと念を押してきた。

分からないことは弁護士に質問して麻相瞬の株を上げておくのが得策だと陽子の父親から諭された。

陽子の父親は何らかの方法で月星法律事務所と秋山弁護士を調べてくれていた。

秋山弁護士は良くも悪くも普通、これといった悪評はないから信用しても良いとラインで言って来た。

陽子は共通試験が想定外の結果だった事で気持ちが高揚していた。

国立大の広い講義室に居ながら難問を苦も無く解き続ける事ができた。

大舞台に弱いところを克服出来たかのような錯覚すらあった。

その時の好調を維持したままだった。

{受験勉強休み}を取ることなく泰然と授業を受け、その勢いのまま二次試験前期日程へ突入していた。

二次試験当日、早朝にラインが麻相の元に届いた。

「行って来る!」

それは自信にみなぎる陽子を誇示するかのようだった。

その日の夕方。

「かんぺき!!」

全てが順調であることを麻相に伝えてきた。

二次試験中期日程を目前に控え、青田高校では卒業式が行われた。

特段に荒れることもなく粛々と式次第どおりに進行していき、最後に校歌斉唱で幕を閉じた。

両親が臨席する生徒は過半数以上いた。

森本家は母親のみが出席していた。

その一方で麻相を含めた何人かの生徒は肉親の臨席もなく寂しい卒業式になった。

教室に戻り最後のホームルームを終えると卒業生は校庭にあふれた。

思い思いの友人や教師と記念撮影をする者が多数。

それぞれが記憶に残る話題で盛り上がり笑う者がいれば涙を流す者もいた。

そんな人垣をかき分け逃げるように立ち去ろうとする麻相がいた。

「捕まえたあ~」

めざとく麻相を見つけて腕を引っ張る者が居た。

陽子が満面の笑みを湛えて麻相を引き戻そうとしていた。

「な、なに、なんだよ。」

麻相は怪訝そうな顔をしつつも陽子の手引きに従った。

生徒用玄関前まで連れ戻された。

そこには女子たちがたむろしていた。

その女子を囲むように男子も相当な人数が居た。

陽子と親交のあった同級生と陸上部の後輩、男子は陽子のファンと思われた。

「はい、撮って、撮って。」

そう言いつつ目の前の女子にスマホを渡した。

「はい、ここ動かない。」

麻相の膝を軽くはたいて制止を促した。

麻相と横並び、肩がぶつかるほどに陽子は接近した。

「いいのお?撮っちゃって?」

スマホを渡された女子は困惑して陽子に尋ねた。

「いいの。早く。」

促す陽子に周囲にいた女子も同調し始めた。

「撮っちゃいなよ。最後の思い出なんだし。」

「麻相、笑え。」

「そうだよ、あんた、愛想ないよ。」

女子は嘲笑ぎみにはやしたてた。

「はあ~い、迷惑そうな顔しない。」

すぐ横にある麻相の顔付に陽子は注文を出した。

「いい顔お~、そのまま。」

ようやくのことで笑顔を作った麻相、終始笑顔の陽子は一つの画面に収まった。

「いいよ、撮れた。」

スマホが返されると陽子はすかさず画面を確認した。

「あ、今日はいい顔してる。うん。ありがとね。」

そう言いつつ陽子は麻相の肩を一つ叩いた。

ーーまた、連絡するからーー

麻相の頭に直接話しかけてきた。

麻相は小さく頷くと人垣を押しのけて自転車置き場へ向かった。

そんな麻相を見送るでもなく陽子は他の女子の元へ歩み寄っていった。

麻相の姿が遠くなったのを見定めて女子の一人が問いかけた。

「ねえ、これからも麻相と付き合うの?」

「大学が忙しければ無理でしょ。勉強、多変そうだから。」

陽子は思わせぶりな言葉を並べて誤魔化した。

「好きだったの?麻相のこと。」

ズバリの問いかけにも陽子は戸惑うことは無かった。

「好きとか嫌いとかじゃなくて、気になる、お世話したくなる、かな。」

「それって好きってことじゃない?」

麻相との仲をどう説明すればよいのか難しいと陽子は感じていた。

好きとか愛するとか単純な言葉では言い表せない何かなのは間違いない。

その何かを言い表す言葉が見つからなかった。

「異性として好きとかじゃなくて、なんていうのかなあ。」

「何それ?」

「ヤッてないの?」

なぜそんな発想に繋がるのかと蔑んだ。

皆がリア充な高校生活を夢見ていたが叶わなかったのだと陽子は皆の気持ちを思いやった。

「あいつ、マジ堅物。手も握ってこない。」

ありのままを吐露した。

それを聞いた皆が声を押し殺して驚嘆した。

陽子からすり寄っても拒否する、ここまでは言わなくてもよいと口をつぐんだ。

麻相が何かに遠慮していることは分かっていたがその何かが分からなかった。

それが分からない限り、解決しない限り何もないと陽子は考えていた。

陽子の吐露に呆気にとられた女子たちの後ろでは男子が茫然と眺めていた。

麻相が一緒に記念撮影した、ならば自分もと手をあげる者はいなかった。

麻相と陽子の仲は皆が認めざるを得ない履歴ができてしまっていた。

しかもさっきは陽子の御指名での記念撮影だ。

呼ばれもしないのに前へ出るような厚顔な男子はそこにはいなかった。

「シオン、小沢、マッチィ、一緒に撮るよ。」

陽子は後輩たちを手招きして横に並ばせた。


避難所に到着するや麻相は制服を脱いだ。

制服をハンガーにかけて吊るすとこの制服の今後を考えた。

荷物になるので捨てるかしない、そんな考えしか思いつかなかった。

青田市市民体育館に避難所が出来て約二か月半。

その間に少しずつ変化があった。

気心知れたご近所さんとはいえプライシーは守りたい。

何をするにもお隣さんにすべてが知られてしまうような有様を皆が嫌うようになった。

窮屈な避難所生活から脱しようと退去する動きが見え始めた。

今回の事件による損害は明らかな人災だ。

自然災害とは事情が違うため損害保険会社は適用を拒否してくると皆が思っていた。

被害者団体が行なった国への陳情が功を奏したのか国からの圧力があったのか分からない。

人災にも拘わらず火災保険、地震保険が適用され満額支給されることになった。

事情を知る物からすれば保険の適用は諦めていたが真逆の対応になったので避難民は歓喜に湧いた。

異例の対応に陳情にあたった代表者は声を詰まらせた。

保険金が満額支給される見通しになったことを受けて避難所退去の動きはさらに加速した。

ある家族は分譲マンションを購入したなどとの話も聞こえてきた。

それまでの貯えと白根町四丁目の敷地を抵当に銀行からの借り入れも合わせてだという。

その家族は白根町四丁目での生活に見切りをつけたのだった。

そうこうしているうちに避難所のパーテーションに空きが一つ、二つと増えていった。

白根町四丁目の住処を離れられない家族はこのまま避難所生活を続けるしかなくなっていた。

どこかに借家を借りるにもその間の賃貸料は自腹になるから生活が苦しくなる。

元の住処での生活再建をするためにもあのクレーターの埋め戻しを急ぐ必要があった。

被害者団体の代表者は引き続き県や国に働きかけると意気込みを語っていた。

大きな団体と交渉する崇高さに麻相は感銘を受けた。

とうてい真似できそうもない、自分にはできないと諦めきってもいた。

麻相も白根町四丁目での生活を諦め、別の住処での生活を始める準備をしていた。

とはいえ麻相瞬名義の生活費は200万円弱しかない。

遺産相続の手続き自体は完了していたが金の移動は遅々として進まなかった。

会社の残務処理と清算が遅れていたために資産の譲渡はまだ先の話だった。

火災保険の満額支払いは確定したもののいつの入金かの連絡は未だに来ていない。

保険金をあてにしない、入金後も手を付けずに将来の為に残しておく。

生活費200万円でこの先一年を乗り切る算段をしておくべきと弁護士が勧めてきた。

今までと同じ水準の生活は無理だと麻相も覚悟はしていた。

色々考えた末に弁護士の勧めを飲むことにした。

そのために住処を移すにも安アパートしか選択肢がなかった。

転居が終われば就活をし正規雇用か非正規雇用のどちらでもいいから仕事をする。

それで得た金を光熱費、食費に当てていく。

とりあえず住処があれば何とかなると楽観的でもあった。

不動産屋をあたったところ条件に合う物件が一つだけあった。

家賃月額2万円、敷金礼金不要なのは安すぎるので気になった。

更にはその物件が北市場町にあることが懸念材料だった。

陽子の住むマンションとは目と鼻の先だった。

陽子との関係を断つつもりでいた麻相にとっては良い立地ではなかった。

それでも他所の物件はその倍以上の家賃だったので選択の余地はなかった。

引っ越しは二次試験中期日程の行われる初日に指定した。

その日の陽子は早朝より国立大へ行く。

麻相が昼前後に北市場町に移動しても気取られないことを狙ってのことだ。

陽子には陽子の人生があり、新たな交友関係を築けばいい。

こんなメンドクサイ奴とは縁を切るべきだと麻相は望んでいた。

作者談:小ネタぶち込みすぎでストーリーが崩壊してると自分で自分に突っ込み入れてます。

でもね、他の作品を読むにつけ主役はど~やって生活してるん?と。

現実社会との関わりはあるのにぜ~んぶ端折っているのはどんなものかと。

実力不足の小説家(自称)がそこに首を突っ込むとこのようにストーリーが崩壊してしてしまいます。

細かい事は抜きにして~想像にお任せします~と投げてしまう方が楽なんですよね。

読んでくれてる皆さん、ごめんなさい。

ゴールは見えてるのでこのまま行きます。


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