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ep5

昨日のあれは何だったのか、ちょっと理解できない出来事だった。

中学時代にも自分のファンはいた。

告白されたこともある。

昨日のアレはそのどちらかだったはずと陽子は考えていた。

いきなりの事で見返りを求められると思ったがあの不器用な物言いはそうでもなさそうだ。

見返りを求められても拒否する準備はできている。

中学時代の麻相を憶えていないのは彼が記憶に残ることをやっていないからだ。

スポーツにしろ勉強にしろ目立っていたなら噂に上ってくるので知らないはずはない。

元不良だったらしいので違う世界に居た。

それであれば知らないのも仕方がないことだと思えた。

あの後も喉の奥からこみあげてくる苦々しい胃液が不快、胸のムカつきが消えなかった。

部室で経口補水液を飲んだがさほど変わらず。

その影響なのか頭もモヤモヤしたていた。

職員室では担任の言葉を覚えきれずメモを取ったほどだった。

顛末を伝え聞きしたのか担任からは休んでいくよう言われた。

歩けないわけではないのでそのまま下校すると伝えて職員室を出たのだった。

ペダルを漕ぎだしたがムカつきは残ったまま。

気持ちが悪くならないだけましだったが気分が晴れなかった。

喉の奥の苦みが消えなければ夕食を食べられないかもと不安になっていた。

そんな時に麻相から冷えたスポーツドリンクを渡された。

あの一本ですべてが収まった。

昨日のことはきちんとお礼を言っておこうと陽子は思った。

ただし誤解を招かないためにもおしゃべりはしないつもりだった。

それをやったがためにかつてのクラスメートの男子に誤解させてしまったことがある。

そんなつもりではなかったと伝えた際の相手の落胆ぶりは見るに忍びなかった。

今回は同じ失敗はしない。

昼休憩、弁当を早めに済ませるとB組へ向かった。

教室を見渡し短髪のやや面長を探した。

麻生はすぐに見つかった。

生徒の半分が教室外に出ており、残った者はそれぞれがグループで話し込んでいる。

その中で一人だけ机を前に腕組みをし目を瞑っている男子が居た。

寝ているのか妄想に(フケ)っているのかわからない。

「あ、あの、麻相、クン?」

恐る恐る声をかけた。

麻生は驚いたように目を開け声の主を探した。

陽子の姿を確認するとさらに大きく見開いた。

「昨日はありがとう。」

話しかけるなオーラが漂っているが要件を早く済ませたかった。

「あ、あ、ああ。」

麻相はそう言っただけで視線をそらしてしまった。

人見知り、照れ屋、女子とのおしゃべりが得意でないと陽子は察した。

「それだけ。」

そう言うと麻相の席から離れようとした。

すると麻相が呼び止めた。

「あのさ、昨日、あの後、職員室へ行ったよね?」

切れぎれに言葉を並べてきた。

部活終了間際のことを麻相が知っていたことがちょっとした驚きだった。

陸上部顧問の声が大きく周囲に聞こえてしまったのかもと想像した。

「ホームルームの打合せで鬼頭先生に呼ばれたの。」

ありのままを打ち明けた。

「あ、学級委員なんだ。」

しげしげと陽子を眺め何かを納得したのか麻相は姿勢を正し目を瞑った。

あんなことがあった後なのに追いうちとは可哀そうだ、とでも思っているのか。

憐れみを受けるつもりはないと陽子は憤りを感じた。

麻相の態度からはこれ以上話すことはないと言いたげだ。

睡眠の邪魔も出来ないので陽子はB組教室を出た。

そんな二人のやり取りを雑談中の女子グループがチラ見していた。


放課後、部室では先輩、同級生から身体の心配された陽子。

元気なので普通に練習できると陽子は答えた。

笑顔で答えたがここでも憐れみを受けるのかと心中複雑だった。

昨日とは違い部員を長距離指向と短距離(スプリント)指向とに分けた。

フィールド競技とスプリントは重複出場する者も居るため

それら跳躍競技はスプリントと合同練習するのがここの陸上部の慣例だった。

準備体操後にはマイクロハードルを使ったスプリント・ドリルから始まった。

中学時代にも経験していたが単調で苦しい練習、それでも基本は大事と陽子は捉えていた。

先輩からは膝の高さやリズミカルな動きがないと指導が入る。

頭の中でリズムを刻みつつ、それに連動して足を動かす動作を続けた。

陸上部のすぐ横でサッカー部が練習していた。

インターバルの際に眺めているとサッカー部員の中に麻相が居た。

球技系に入部していたと初めて知ると同時に奇妙な光景に気が付いた。

きれいなボール回しで上級生はパス練習に余念がなく列を組んで次々とこなしている。

その隊列のなかに一年生のジャージも混じっている。

ところが麻相と他2名の一年生は列に加わらず一か所でパス練習をしている。

この3名はボールの扱いがぎこちなくビギナーレベルであることが陽子の目にもわかった。

高校でサッカー部に入ったからには中学でもサッカー部だったはず。

ビギナーから苦労するならば得意分野の部活を選んがほうが良かったはず。

麻相は走るのが得意ならば陸上部も選択できた。

部活奨励の校風ではあるが強制はしていない。

ならば【帰宅部】でもよかったはず。

それもこれも好き好きなのだから他人がどうこう言うことでもない。

無視しておこうと陽子は目の前の練習に集中した。






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