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ep45

どす黒い雲で覆われていたが雲が高く降雨までにはいたらないと思われた。

麻相たち四人は見えない力で前と後ろから押しつけられ宙に浮かされていた。

「結界?」

「こんなのが?」

牧はもがいたが前に出ることも下がる事もできない。

手足を動かす事はできるが体の移動がままならなかった。

「前と後ろの結界に挟まれている、はず。こんなことができるなんて・・・」

田端は言葉を無くした。

空中を移動する力を持つ三人でさえ成す術もなかった。

山崎は麻相の右腕のヒーリングが終わると手を離した。

「血は止まりましたァ。肉が飛び散ってるので無理はしないでくださいィ。」

サボット弾がかすめただけだが右腕上腕の肉の一部を削ぎ取っていた。

癒えたのか感覚の麻痺なのか麻相は痛みを感じなていなかった。

それでも右腕の力が入り難いとの自覚があった。

制服の右腕は赤く染まっていた。

山崎は掌がそれに染まっているのを虚ろな目で眺めた。

先ほどからの片頭痛とともに眩暈に見舞われていた。

田端と麻相のヒーリングで力を使い過ぎていた。

そのために意識が朦朧としていた。

通常ならば座り込むなり横になって安静を保つが今はそれも出来ない。

それを諦めて成すがままの姿勢でいた。

麻相は右腕を動かしてみたが痺れは若干残っていた。

傷口を見てはいないが相当に酷いことは想像できた。

右足の擦過銃創は軽傷だったこともあり若干の痛みがあるだけだった。

目の前にあるはずの結界に腕を突っ込んで潜り込ませた。

弾力があり押し返される、押したり広げたりと掌で感触を確かめていた。

「ゴム風船みたいだ。」

目には見えないが膜のようなものを麻相だけが弄んでいた。

伸縮自在で破れそうにない、身体を大きく動かすことはできない。

この膜さえ突き破れば手立てがあるはず。

どうにかできないものかと麻相は思案していた。

牧は無駄な動きをしないで現状の打開を考えていた。

二つの銃撃は麻相の心臓を狙ったと推測していた。

若干距離があったためにわずかな誤差が急所を外した形になっていた。

麻相だけを狙った銃撃には田端は疑問を感じた。

麻相に拘る理由でもあるのか知りたかったが今はそんな状況ではない。

このまま膠着状態になるのか新たな攻撃にでてくるのか予断を許さなかった。

麻相と山崎の消耗が大きく、田端と自分もそろそろ限界と見ていた。

目の前にあるのが結界ならばテレキネシスで押せるはずと牧は試みていた。

顔、胸、脚を押さえつける力は変わらず目の前にそれは在り続けた。

「田端さん、何か、何か手はないですか?」

牧は藁にも縋る気持ちで懇願した。

田端は苦渋の面持ちで署長を注視市続けていた。

「お前等の無力さが分かったかな?」

署長の体がゆっくりと浮き上がった。

麻相たちと同じ目線になると不敵な笑みを浮かべた。

「一番弱っている奴からにしよう。」

そう言うや否や山崎を指で指し、中に入るよう手招きをした。

麻相の傍らにいた山崎の体は音も無く結界の内側に入っていった。

「ちょ、ちょっと。」

自分の意思に反して結界内へ入れられてしまったことに山崎は戸惑っていた。

何が起きたのか理解はできてもそれまでとは違う感覚だった。

ましてや無類のテレキネシスを使う相手に対しテレパシストができることはない。

「お前ら一人ずつ、阿鼻叫喚の苦しみを味あわせてやる。」

署長が山崎を見下ろしつつ、口を細かに動かし続けた。

山崎の顔が次第に陰り出した。

目を閉じ手で耳を塞いだ。

麻相ら三人は眼の前で何がおきているのか注視していた。

「まさか・・・」

田端が呟いた。

山崎は悲鳴を上げ始めていた。

「いや、いや、いやああああ~」

その声音は次第に強く大きくなっていった。

「精神攻撃だ。」

「昨日、麻相がやられた奴か?」

「あの時の・・・」

麻相は結界の膜を弄びながら自宅前の出来事を思いだした。

「誰にでもトラウマになることの一つや二つ・・・・もっとあるもんさ。

それをほじくり出されて念仏のように唱え続けられりゃ、精神が逝かれもする。」

「そんな講釈はいい!!何とかしろよ!山崎が死ぬぞ!!」

牧は焦れて田端を急かした。

山崎は絶叫し続け、体から力が抜けていくのが傍目から分かった。。

膝から崩れ落ちる様は見ている側にも痛切さが伝わってきていた。

「セクハラ覚悟でやってみるか。この状態でテレパシーが届くか不安だけど。」

田端は目を閉じ前方頭位の姿勢になった。

ーーほおおお~ら、こんなに大きくなっちゃったああ、沙耶ちゃんは食べられるかなああーー

その途端、山崎は目を大きく見開いた。

「変なもの見せないでええええええっ!!」

山崎の絶叫に署長の顔はひきつり視線を山崎から逸らした。

その瞬間に麻相の指が結界の膜の中に入り込んで行った。

結界の中にある掌を見つめていた。

ーーこれを捕まえれば自在にできるよーー

誰かが麻相は囁きかけた。

麻相は両腕を広げて結界の中に入り込み両掌で結界の端を掴んだ。

拳に力を込めた。

麻相が脳裏に描いた球状の結界、相手の結界を延伸し発達させることをイメージした。

無色透明だった結界は赤色に染まるとその範囲を広げていった。

瞬く間に署長を包み込み球状の結界が出来上がった。

署長は雑念を振り払うかのように頭を振ると四人を一瞥した。

「思念の逆流か。よく考えたな。」

山崎の気を散らし精神防御をさせるための窮余の一策を田端は採った。

そのためには山崎が嫌悪するネタを送り込むしかなかった。

麻相は山崎の体を移動させると対面にて対峙させた。

田端と牧もそれぞれが移動し四人でエレメントを構成し結界を完成させた。

強い結界を維持するために必要不可欠だが麻相にとっては初めての経験であり一か八かの選択だった。

「ああ~いやだいやだ!いやだいやだ!いやだっ!!」

山崎は金切り声で文句を言い続けた。

「山崎さん、今そんな場合じゃないから。」

麻相がたしなめるとようやく声を潜めた。

田端は苦笑いを浮かべ、牧は事情がつかめず真顔になっていた。

署長は周囲を見回した。

「俺の作った結界を横取りしたのか?」

囲い込んだ四人を見回すと署長はほくそ笑んだ。

「それでも、一番弱い奴を狙えば・・・」

そう言うや否や山崎に向かって突撃していった。

「ひっ!」

山崎は短い悲鳴を上げた途端、その姿が消えた。

署長は結界ぶつかり跳ね返された。

その背後に山崎が出現した。

気配を感じとり署長が振り向きざまに再び山崎をめがけて突撃した。

山崎は姿を消し、別の場所に現れた。

「何だと!?」

署長は再度、山崎に向かって突撃したが詰め寄る前にその姿は消えていた。

結界に押し戻されると署長は動きを止めた。

田端、牧の順に視線を送ると次いで麻相を睨みつけた。

「こんなことができるのはお前だな。」

このエレメントでウィークポイントになりそうなのが山崎であることを麻相は予測していた。

結界を維持しつつ山崎をテレポートする準備までしていた。

エレメントの一つである山崎が欠けたらこの結界は破られることを見越していたのだ。

麻相の想像力に田端は感心した。

しかしこのままでは埒が明かないことも分かっていた。

麻相は署長を閉じ込める事は出来ても攻撃の手段を持っていない。

署長は結界の中で胡坐をかき模様眺めの様相だった。

結界が薄くなってきていると田端は感じていた。

既に限界を超えている麻相にいつまでも結界を維持できる力があるとは思えない。

結界の中に封じ込めているからこそ署長を無力化できている。

この結界が切れれば署長には逃げる、再び強力なテレキネシを使い始める。

そのころには四人とも力が尽き、物理的な方法で殺される。

この状態で署長を抹殺する方法はないものかと田端は考えていた。

麻相は手も足も頭も痺れ出していた。

いつ力が尽きるか知れたもんじゃないと麻相は不安に駆られていた。

不安というよりも絶望の方が似合うかもと内心笑っていた。

体から力が抜けてきている、限界超えている。

「限界かあ。」

麻相はあることを思いだした。

陸上部名物の地獄ランで陽子が見せたラストスパート、あれは素晴らしかった。

限界超えてるのに全力疾走できたのは自分を追い込めてるからだと麻相は羨望していた。

それに比べればまだ自分は追い込めていないと麻相は口惜しくなっていた。

陽子はもっと高い場所にいる、そこに近づきたい。

「まだ、だっ!」

体のあちこちの痺れを無視するかのごとく麻相は気を張り詰めた。

結界が赤みを増した。

「うおっ!強ええぞ、これ。」

強烈な結界を体感し牧が驚嘆した。

「んでもよお、こんなん、体力持たねえぞ。」

麻相から強力な気が送られてきていた。

それは同時にそれぞれのエレメントからも気を搾り取ることを意味していた。

麻相にとってもラストスパートだった。

「みんな、あと少しの間、我慢して。麻相君、もっと上へ、空へ登れないか。」

田端のリクエストに応じ麻相は結界を上空へ飛び上らせた。

瞬く間に警察署建屋が見下ろせるほどの高さにまで登っていった。

「ちょっと熱いかも。もう少しだ。」

田端は深呼吸を繰り返し、独自の呼吸法に切り替えると気を集中した。

「禁を破ります。御師さん、力を貸してください。」

田端が右腕、左腕の順に弧を描くと胸の前で印を結んだ。

(リン)!、(ピョウ)!、(トウ)!、(ジャ)!、(カイ)!、(ジン)!、(レッ)!、(ザイ)!、前ンン!」

静かに唱えると次々と印を結んでいった。

次いで縦と横に格子を組むよう手刀を走らせ呟くように呪文を唱え続けた。

警察署建屋から弾ける音が小さく聞こえてきた。

それは次第に大きくなり青紫色の火花となって結界に届き始めた。

「お、おい、その技、誰から?」

署長の顔に恐怖が浮かび上がっていた。

上空の暗雲が下がり雷鳴が轟いた。

田端は手刀を天に向けて突き出した。

怒雷(どらい)招来!」

地響きを伴う轟音とともに辺り一面が発光した。

暗雲から雷光が下り結界内に閃光が走った。

まばゆい光に満たされた結界の周りの4人の陰だけが浮かび上がっていた。

結界内の光は瞬く間に消え失せると、そこに署長の姿は無かった。

田端は大きく息を吐きだした。

「終わった?」

そう呟くや否や結界が消え、麻相は力なく墜落していった。

「おい、おい!」

牧がすかさず急行して麻相を拾い上げた。

「大丈夫かよ?」

肩を貸された麻相は意識はあったが息も絶え絶えだった。

麻相が力尽き結界も消え、テレキネシスも消えた。

飛行能力を持たない山崎は墜落していった。

田端は呼吸を整えることに専念していたため山崎の墜落に気が付くのが遅れた。

「きゃあああ~」

「まずっ!」

悲鳴を聞き、ようやく危急の事態を知った田端が急降下していった。

田端が追い付き下から抱き上げると降下速度を落とした。

御姫様抱っこされた山崎は思わず田端の首筋にしがみついた。

ほどなくして驚嘆の声を上げ山崎は顔を上げた。

「そう、だ、ったん、ですか。そんな、そんなァ。」

山崎の反応を見て田端は苦々しい顔をした。

「読まれちゃったか。」

気を使い過ぎたこと、危急の事態に直面し脳裏をブロックしきれなかった。

さらには身体が密接したことから山崎は田端の隠していた過去の全てを知ってしまった。

お互いに気まずくなり次の言葉が出なかった。

「このことはみんなにはナイショ。」

「当り前ですよォ。そんなこと言えません。」

ようやく交わした言葉だった。

「あっ。」

山崎が小さく呟くとバツが悪そうに目を伏せた。

更に都合の悪い秘密を知られたのかと田端は勘繰ったが違っていた。

山崎の臀部を支える左腕に冷たいものを感じた。

田端はそれに気が付いたがあえて口に出さず平然としていた。

墜落した恐怖心から山崎は失禁していた。

山崎は目を伏せて田端の顔を見ようとはしなかった。

警察署前の荒れ果てた植込みに二人はゆっくりと着地した。

山崎を降ろすと、田端は着ていたジャケットを即座に脱ぎ手渡した。

「お尻に巻いて。」

一言いうと田端は上空を見上げて麻相と牧の到着を待ち構えた。

山崎はジャケットを腰に巻きつけ羞恥心を露わにしてた。

身を隠せるものなら隠したいがそんな場所はない。

ここに居るのは四人きり、隠れれば余計に怪しまれ詮索される。

その事だけは知られたくなかった。

牧に抱えられるように麻相も着地した。

二人ともその場にへたり込んだ。

「はあああ、疲れたあ~~持続走10本まとめたみたいだああ~」

元気よく愚痴る牧とは違い麻相は無言でうなだれるだけだった。

「麻相君、よく頑張った。あれだけできるなんて想像以上だよ。」

田端は顔を崩した。

「俺もがんばった。田端さんも山崎さんも頑張った、みんな頑張った。」

誰も逃げ出さずに対峙したことを牧が褒め讃えた。

「山崎さん、どうしたん?」

牧が異変に気が付いた。

「いや、ほら、お股が破れたんだよ。」

牧は山崎を眺めつつ先ほど来の出来事を回想した。

「あ?ああ、そうかあ!落っこちた時、大股開きになったんだな。」

田端の嘘に牧は何の疑いも持たなかった。

「3Dストレッチじゃないと縫い目から裂ける。御パンツまる見・・・・・・あ、失礼。」

牧はセクハラワードを口にしかけたが慌てて引っ込めた。

山崎は聞こえない振りをしてぎこちない笑顔で反応した。

「麻相、立てるか?田端さんは平気ですか?」

「立ってるだけでいっぱいいっぱい。はあああ~しんどいよ。」

田端も膝に手をついて項垂れた。

「署長がラスボスってことでいいんすかね?」

「たぶん。あんなのがもう一人いたら、もっと強い奴が居たらこの4人は今頃天国だよ。」

「地獄の間違いでしょ。」

「違いない。」

田端は安どのため息をついた。

「あれで署長は消滅したってこと?」

牧の問いかけには誰も明確な答えを持っていなかった。

結界内が閃光に満たされたのは分かったが署長は断末魔の声を上げていない。

雷撃を受けて消滅したのか結界から逃れられたのか誰にも分からなかった。

「頭がァ、痛くなくなりましたァ。署長さんに会ってからずっと頭痛がしていたんですゥ。

それが無くなったということはァ・・・・・消滅したってことでいいんじゃないですかァ。」

山崎が結論付けた。

もし仮に署長が結界から抜け出していたならば直ちに反撃してきたことは想像に難くない。

力を使い果たした今のこの四人ならば抹殺することは容易い。

この四人が未だ無事であることは脅威は去ったと考られた。

強烈な疲労感に苛まれた麻相は虚ろな思考で状況を把握していた。

「さ、基地へ帰ろう。腹減った。」

牧が皆を促した。

作者談:結末は一方的な敗北であってもひと騒動起こす、武装蜂起する。

「機動警察パトレイバー2 the movie」にもインスパイアされてこの物語を妄想してました。

さらには「幻魔大戦(劇場版)」のような超能力戦記にすること。

敵を現実的なものに置き換えたのが最初期の案でした。

しかし敵は武器所持との特異性はあれど全て生身の人間。

自衛隊一個小隊によるクーデター、そこへ高崎率いる暴走族が参加するとの設定にしてました。

攻撃力は主人公たちが圧倒的に有利なのです。不公平ですね。

ラスボスを高崎とし、麻相が最後に出す大技「結界に閉じ込めて超重力(グラビトーン!!)で押しつぶして56す。」というもの。

さらにはラスボス決戦の後始末はしない、超能力戦隊は即座に解散してしまうとの設定でもありました。

超能力を開花させたばかりの主人公が次々と大技を出し続けるのは可笑しい。

特撮ヒーローやアニメヒーローではそのような主人公が当たり前なのですが大人となった私には受け入れられません。


映画、ドラマでは細かい箇所を端折るしかないのは承知、それに倣えばこの物語も簡単に終わりを迎えます。

それが出来ないのは執着心が強い作者のこだわりです。(恥)



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