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ep34

光にあふれた場所からトンネルをくぐった。

行き着いた先は暗闇だった。

暗闇なのに異様に広い場所だと陽子は感じていた。

真っ暗な広い空間と思っていたらいきなり水の中へ落とされた。

水をたたえた広いプール、広大さからすれば海というべきかもしれない。

夜空のような暗さの下、陽子は海水に浸かっていた。

浮いていた。

立ち泳ぎでもしないと沈んでいくはずが沈んでいかない。

周りに大量にある海水は塩っぱくなく、冷たくもない。

かといって温かくもなく、不思議な海水だった。

ただ、この海水に浸かっているだけで心地よく感じる。

それはこの風景がイメージでありリアルではないからだと陽子は気が付いた。

無意識下の麻相が描く架空のもの、夢の中なのかもしれない。

心の中に描かれたイメージだとしても殺風景だった。

空には月はおろか星一つ出ていない。

晴れているのか曇っているのかもわかりにくい。

真っ暗闇の中に大海原があり、波一つない水平線が広がっていた。

そもそもあれは空なのかと疑問が湧くほどだ。

このどこかに麻相が居る。

見渡す限り海原しか見えず、どこに居るのか見当がつかない。

方向感覚は麻痺していた。

東西南北との感覚ではなく前後左右しかない。

振り向くだけでそれが入れ替わる。

逡巡するだけ無駄に思えた。

まずは前に向かって進むことにした。

泳ぐだけ泳げば何かがあるはずと根拠もなく進んだ。

陸があるはず、麻相が居るならそこだろうと泳ぎ続けた。

しかし泳いでも泳いでも陸は見つからない。

どれだけ泳いでも海が広がっているだけだった。

立ち止まると陽子は右に手を差し出した。

その差し出した方向へ進路をとり再び泳ぎ出した。

距離感が全くない状態で泳いでみたもののこの方向にも手がかりはなかった。

ただただ広大な海原が広がっていて目印になるものは何もない。

麻相が居ない、居るはずなのに居ない。

陽子は焦燥感に捉われていた。

さらに疲労感にも見舞われていた。

イメージの世界で泳いだところで疲れはしないはずなのだが手脚が重だるく感じる。

脚の力が抜けていく感覚に見舞われた。

山崎のいうところの迷路とはこれのことかと陽子は思案した。

山崎の警告した通りにここから出られなくなるかもしれない。

今すぐならば出られる。

それともここに居続けるのか。

麻相の意識を探し出して連れて行くことが叶わないとしても

ここに居続ければ麻相を慰めることはできる。

ただし、それは陽子が自身の肉体を捨てることを意味する。

陽子は逡巡していた。

ーーどうしたらいいの?ーー

その時、海の中で揺らぐものが見えた。

形ははっきりとしない。

ーー中のいるの?ーー

陽子は海の中へ潜り込んだ。

腕で水をかき分け、足で水を蹴った。

手足を動かした分だけ潜っていく。

浮力も重力も関係なく、呼吸すら苦しくない。

深く深く潜っていけた。

辺り一面が真っ暗な中で潜るのを止めた。

水の中での中間地点、上も下もない真ん中、陽子はそう確信していた。

上下左右前後の区別ができない暗闇の中でだった。

麻相の気を強く感じたが姿として捉えることができない。

ぼやけていた。

このあたりに居るのは間違いないが今にも消えて無くなりそうな感覚だった。

どうしてよいかわからず陽子は途方に暮れた。

麻相は確かにここに居る、その確信だけは揺るがなかった。

ここに居る、いつも一人で居る。

陽子はあの日の事を思い出した。

ーー初めて会った時のこと憶えてる?ーー

陽子はそこに居るはずの誰かに話しかけた。

ーーあの時 スポーツドリンクをおごってくれたーー

ーーうれしかったーー

ーー今度は私がおごってあげる 何がいい?ーー

その時、回りを取り囲む水がゆっくりと動き出した。

ーーずっ・  ・・しょーー

それまで何もなかった暗闇の中から無数の光の粒が現れた。

それは陽子の周りをひとしきり飛び交うと目の前で一つの塊になった。

陽子は光の塊を両手で包み込んだ。

ーー行こうよ、一緒にーー

陽子は光の塊に語り掛けた。

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