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ep28

頬骨の出た男も麻相の制服姿には違和感を覚えていた。

動き難そうであること、ひ弱そうに見えると。

麻相の着替えに付き合うために三人で白根町の麻相宅を目指していた。

寒くはないが制服は替えがないので汚したくはない、これが麻相の真意だった。

動きやすさと寒さ対策も考えないとこの状況を乗り越えられない。

ストリート系アウターの下に重ね着しようと麻相は考えていた。

三人共に周囲の物音に気を配り、目を凝らしていた。

「歩きながらでいいかな?それとも落ち着いてから?」

田端は頬骨の出た男に訪ねた。

「俺さあ、話に夢中になると周囲が見えなくなるから、そこんとこ考えてくれればOK.」

「牧さん、初めまして。俺は田端繁樹。こっちが麻相君、あそう・・・・何だっけ?」

麻相は一息遅れて口を開いた。

「麻相瞬です。」

この男を信用してよいのか麻相は疑心暗鬼だった。

「やっ、俺の名前を知っているとは・・・・・心を読んだね?」

「読ませてもらった。悪いとは思ったけど。」

牧修(マキオサム)、よろしく。麻相瞬君ね。」

「あのお・・・・」

麻相が口を挟もうとした時に田端は手で制した。

「心の中は嘘をつけないからね。俺ね、心の中で考えていることが分かるんだ。

ちょっと応用すると記憶も覗けるけど、こちらの気持ちが上向いてないと無理だよ。」

「お兄さん、テレパシーが使えるんだ。初めてだよ、直に合うのは。」

「いいんですか?力を・・・知られても。」

田端はあれほど秘密にすると言及していたことを麻相は心配した。

「同じ力を持った奴に合ったのも初めてだ。なんだかうれしいよ。」

牧は顔をほころばせて麻相を見つめていた。

上機嫌であることが声にも出ていた。

「この人も?力を?」

麻相の問いに田端は頷いた。

「テレキネシス?」

「その通り。」

無骨な顔からは想像できない親しみやすさが牧にはあった。

「念動力とか言われてるけど俺はテレキネシスと呼ぶ方が好きだなあ。」

さらには麻相や田端にはない朗らかさがあった。

「牧さんは青田の人じゃないですよね?」

牧のその風体や雰囲気から違うものを感じていた。

「ん、県外とだけ言っとこうか。」

「なんでここに?」

「天からの声、かな?ここで事件が起こる。助けてやってくれって頼まれたんだ。」

「天の声?」

「どこの誰かは分からない。夢枕に立つ、じゃなくてテレパシーで何度も頼んでくるから。

しょうがねえなと、ひとっ飛びして来た。」

「ひとっ飛び?空を?」

比喩ではなくリアルな意味でと捉えてよいのか麻相は尋ねた。

牧は頷いた。

「麻相君も飛べるよね。」

「えッ、まあ、一応は。」

「麻相君はまだ見習いといったところですよ。」

田端が合の手を入れた。

「見習い、かあ。」

「アッ!さっきバイクを転がしたのは牧さん?」

「今頃何言ってるの。」

田端は呆れていた。

麻相が記憶を辿った。

バイクはすぐ後ろにまで迫ってきていた。

あと2~3mも走っていたらバイクに轢かれるかして男たちに拘束されていた。

寸前のところで牧に救ってもらったのだ。

「お二人さんがツナギ服を運んで行った。

何もなければいいのになあ~なんて構えていたら、あら、バイクに追われてるじゃないの。

ほおら、よっと!バイクを横から押してあげた。

ついでに乗ってた奴は電柱にゴッチンこしておいた。」

「バイク二台、俺には無理だなあ。」

田端は己の能力の程度を吐露した。

「田端さんはテレキネシスも使える、として、無理、とは?」

牧は不思議そうに尋ねた。

「俺が動かせるのはせいぜい100キロ。バイク二台はそれ以上でしょ?」

「そうだね。やっぱ、出せる力には強い弱いがあるってことかあ。」

牧は腑に落ちないながらも納得したかのように頷いた。

「あの二人は生きてるんだよね?」

田端は暴漢の二人を心配した。

「ダイジョウブ。加減はしたから。」

それを聞いて麻相はうつむいた。

力加減できなかったことに自己嫌悪に陥っていた。

「しっかしよお、さっき、横並びのうちの一人を狙い撃ちでぶっ飛ばした、すげえよ。」

「いや、あれは、偶々で・・・」

自信なく麻相は弁解した。

「何をおっしゃいますかあ。謙遜しなくていいよ。」

満面の笑みをたたえて麻相を褒めた。

「どこから見てたんですか?」

「垣根の向こうから。どこかのお家の中から。不法侵入だな。そうでもなけりゃ無理ですって。

お二人さんの注意の払い方は尋常じゃなかったからね。」

「もしかして、俺たちがどっちの勢力か見極めをしていたのかな?」

「そうだよ。

めんどくさいやつが絡んでそうだからこっちも状況を見ないと手を出せない。

田端さん、俺の心を読んだにしては浅いところしか見てないなあ。」

「う、ごめん。

テレパシーを使い続けると精神的にきつくなってくるからほどほどでやめてるんだ。」

「ま、いいっしょ。裏の裏までは覗かれたくないことはあるからよ。」

それは麻相とて同じだった。

「アニメや映画の超能力者は無制限に力が使えるって設定だけど、実はそうじゃないんだよなあ。

力を使い続けると疲れてくる。歩くのもしんどくなる。」

田端も同じことを言っていた。

テレパシーは精神的負担があり、テレキネシスは体力的消耗がある。

とはいえ麻相には思いあたるものが無かった。

「麻相君はどうなの?やっぱ疲れる?」

「そこまで、じゃないですから。」

「ほおお、若いからかな。いいねえ。」

お世辞とも本音ともとれる言動に麻相の内心は複雑だった。

「さっき、めんどくさいやつと言ってたけど。」

「今はまだ言えない。証拠がないから。確信が持てたら言うよ。」

狭い路地から路地へと歩いていたがそれが途切れた場所へ出た。

両側二車線で見通しが良い。

通りに面して駐車場と店舗が並んでいた。

二人は緊張していたが一人は悠然と構えていた。

足を忍ばせて見渡せるところまで近づこうとした時だった。

ガラスの割れる音が響き、男たちの浮わついた声が聞こえてきた。

三人は物陰から音の出所を覗き込んだ。

通りに面した店舗のウインドウが割られ男たちが出入りしていた。

店舗前には車が一台、三人のいる場所からは20mほど離れていた。

店舗の窓から出てきた男たちの手にはフランスパン、総菜パン、菓子パンが握られていた。

思い思いにそれを貪り食っていた。

いずれもグレーのツナギを着た男たち、合計4人。

「あ、鹿島んちが・・・・」

「知り合い?」

「同級生の家。ベーカリーです。」

「略奪してやがる。やっぱ規律がねえなあ。」

「牧さん、どう思うね?」

「奴らの素性ですか?あ、さん付けでなくて呼び捨てでいいですよ。」

「あ、でも、悪いから。」

「いいですって、俺もそっちの方が気楽に話せます。」

「集団で行動しているから統率者が居て、そいつが敷いたルールをもとに行動しているはずです。

それにしてもガラの悪い連中ばかりだ。ルールなんて守りそうもない。」

暴漢たちは危害性がある人相と風体であると田端の目には映っていた。

それは麻相も同様であり、かつてつるんでいた不良グループと同類の風体、顔付だった。

「無頼の輩にはありがちです。

見る限りでは族と半グレばかりですね。暴力団は関わってなさそう。

柄の悪さは同じでも関係性が薄い。脈略もなく集められたようにも思えます。」

牧も同様な感想だったが含みがあるようだった。

「そんなことより、鹿島んち、助けてやらないと。」

麻相は気が気でなかった。

二人が話し込んでいる間に男たちの乱行は続いていた。

店舗内に残っていたパン類は持ち出され乗りつけただろう車に放り込まれた。

厨房にあったはずの小麦粉袋を店の外に持ち出して路面に投げつける。

開封し小麦粉を掴んで投げたり、袋を引き回して辺りを真っ白にしていた。

店舗内からはさらに重苦しい音が出続けていた。

荒らしたいだけ荒らし、破壊の限りを尽くしている。

「俺に任せてもらえますか?」

牧が二人に断りをつけた。

牧はバックパックとフィールドジャケットを脱ぐと麻相に預けた。

フィールドジャケットの下には迷彩柄のジャケットを着こんでいた。

迷彩柄パンツとも合わせて上下でコーディネイトしていたのだった。

麻相はフィールドジャケットを無造作に掴んでいた。

「そのジャケット、大事なやつだから。」

「え゛っ?」

麻相は慌てて袖を揃えてたたみ直して両手に持ち替えた。

牧は無為に通りに出ると男たちが群がっている店舗に向かった。

男の一人が牧の姿を見つけて動きを止めた。

その男は店舗の中の男たちにも呼び掛けていた。

牧は姿勢を正し直立不動の姿勢をとった。

「集合っ!!」

牧の声は通りに響き渡るほどの大声だった。

店舗から出てきた男たちは怪訝な顔をしながらも牧の前で横一列に整列した。

「先の任務はどうか?完遂かァっ!」

毅然とした声で牧は男たちをたしなめた。

男たちは互いに顔を見合わせ口ごもっていた。

「何やっとるかァっ!」

男たちはあからさまに後ろめたさのある態度を示していた。

「浸入者ありと連絡があった。哨戒せよ。」

牧は独特の言い回しで男達に指図をした。

「ワカレィっ!!」

男たちは一斉に敬礼をすると牧も敬礼した。

牧が先に手を下ろすと男たちは遅れて手を下した。

「この件は不問とす。急げェィ。」

牧が激を飛ばすと男たちはいそいそと車に乗り走り出した。

まるで牧から逃げる様に通りの向こうへ走ると最初の角で曲がっていった。

牧はそれを見届けると周囲を見回した。

誰も居ないことを麻相と田端にハンドサインで送った。

それでも田端は左右を見渡し安全を確認してから通りに出た。

「めんどくさいやつと言っていたのが分かったよ。」

田端は確信を持ったように牧に告げた。

「まだ確定じゃないよ。」

牧は手を伸ばしフィールドジャケットを返すよう麻相に催促した。

「同じ手は使えないし不穏分子が居るのがバレた。そんでも確認はできたから好としよう。」

牧は自嘲気味に苦笑をしならがジャケットとバックパックを受け取った。

麻相は荒らされた店舗を覗きに向かった。

内部の惨状を目にした麻相はうなだれて声を上げた。

麻相にとっては同級生の家というだけでなく祖母と買い物に来たことのあるベーカリーだった。

一人住まいになった後も買い出しに来ていたので店主とも顔なじみになっていた。

田端も牧も遠巻きに店舗の中を眺めていた。

「このお店、再建してもらわないと・・・・」

田端は言葉に詰まっていた。

あらゆるものが倒され壁も剥がされ、ショーケース、厨房側のガラスまで割られていた。

牧も言葉を発することなく悲痛な眼差しをむけていた。

田端は店舗の外観を見まわした。

「ベーカリー・カシマさんは地域独占だよね?」

「吉備町、中畑町と白根町では、この一軒だけ。」

麻相が悲愴な声で答えた。

「ダイジョブ。絶対に再建するよ。

商店街でもない住宅街にこれだけ大きな店舗を構えてるのは儲かってるしるしだよ。

ダイジョウブ、心配いらない。」

田端は根拠があるかのように麻相に諭した。

麻相は顔を上げると大きくため息をついた。

「だよなあ、大きな店だ。商売うまいよここの人。」

牧も麻相を安心させるかのように店の印象を語った。

「パン、残ってたんですね。コンビニやスーパーなんて買い漁られて空でしたよ。」

「そうだね。なんでかな?」

田端も牧もしばらく黙りこんだ。

「荒熱とりじゃないですか?オーブンから出すと冷ましますよね。」

牧が思い出したように話し出した。

「ああ、釜の外に置いてあるよねえ。」

「巡回してた連中が外から厨房を覗いて残されてたパンを見つけてしまった。」

牧は結論付けた。

「皮肉なものだね。店主の良心から冷めてないパンは売らなかったのに。」

田端も牧も沈痛な言い回しではあるもののどこか他人事だった。

「だとしても、店を壊す理由はないです。」

麻相は断固とした態度を取っていた。

「たぶん防犯カメラが店の中にあったはずだよ。

映ってたのに途中で気が付いてカメラを壊して。

エスカレートして店の内部やガラスもとなったんだよ。」

「レコーダーのデーターを消去しなければ意味無いけどな。

ほんと、猿以下の連中だよ。檻に入れて出られなくすればいい。」

牧は吐き捨てるように言った。

それを聞いて麻相の心は少しばかり落ち着いた。

「あいつら、牧さんを見て態度が変わったね。」

田端が話題を変えるように振り返った。

「この迷彩、やっぱ効くね。」

「効く?あいつらが大人しくなる根拠があったの、かな?」

「市役所が占拠された時、迷彩を着た奴が統率者の様な振る舞いをしていた。

見覚えある迷彩服だったよ。

ハッタリかますつもりでさっきの奴らに号令かけたらビンゴオ、です。」

「ハッタリが効かなかったらどうするの?」

「力でドオオ~ン!倒すだけでしょ。」

「それじゃあ力の存在を知られるよ。」

「そん時は、合気道の避け方も知らねえのか、と罵れば誤魔化せますよ。」

田端は困惑顔でため息をついた。

麻相は牧の迷彩服をつぶさに観察していた。

「学校にも同じ服着た人が来てました。」

「学校?」

ジャケットの上にバックパックを背負ったった牧は不審そうに尋ねた。

「青田高校があいつらに襲撃されたんですよ。

その時にツナギ服連中を束ねるような奴が居て、それと同じ迷彩服を着てました。」

田端が状況を説明すると牧は思案顔になった。

「高校を襲撃?意味あんのか?」

牧はつぶやいた。

「そう、何を考えてるのか見当がつかない。

麻相君個人に恨みでもあるみたいなことをしでかした。」

「高崎って奴、中学の時につるんでたワルがいるんですが、そいつに・・・・」

「おっ、麻相は元はワル?やわやわな男子(ダンシ)じゃないと思ってたよ。」

牧はそれすら意に介さず、むしろ歓迎するような口ぶりだった。

「ふうう~~~ん、そのタカサキって奴のお礼参りってところかな?」

「たぶん、そんなところです。」

倉庫での一件は偶然だったが高校襲撃は計画的だと麻相は考えていた。

「高校を占拠していろいろなブツを運び込んでました。拠点にするかも、です。」

「そいつは厄介だなあ。」

牧は乱れた長髪を後ろに流して整えた。

麻相は再び牧の迷彩柄パンツを観察していた。

そしてオリーブグリーンのフィールドジャケットのよれ具合いが気になった。

麻相の視線を感じて牧は胸を張りジャケットを見せびらかした。

「これ、カナダ軍の奴からもらったんだ。」

「か、カナダぁ?軍?」

麻相が声を上げた。

「今なら通販でも買えるけど、当時の現物は貴重だからね。」

ミリタリー・ファッションに興味のない麻相は理解しきれずにいた。

「さっきの号令といい、まだ現役で通用するよね。」

田端が冷やかすように言った。

「いやあ、除隊して10年、無理ですよ。

号令の掛け方も忘れちまって、あいつらに通用するかヒヤヒヤもんでした。

でもはっきりしたのは、奴らに訓練したのは自衛官か元自かということです。」

牧は確信をもって言及した。

「牧さん、自衛隊だったんですか。」

麻相は驚愕した。

「落ちこぼれ自衛官だったから自慢する気もないよ。」

牧は照れ笑いを浮かべると迷彩パンツのポケットに手を入れた。

三人は白根町へ向かって歩き出した。





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