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ep27

ベルトがない不便さは町工場に置いてあったビニール紐で解決した。

しかし制服のままでは動きにくい。

着替るために麻相は一旦自宅へ向かった。

それには田端も付き合ってくれることになった。

人質がいるはずの市民病院を目指すはずが麻相の都合を優先してくれた。

二人一組で行動しないと事が進まないとは思えなかった。

しかし状況判断ができる大人が一緒の方がいいと麻相は考えていた。

この得体のしれない力のことも麻相は理解しきれなかった。

力に対しての知識も田端に依存しなければならない。

麻相としても不本意だったが一緒に行動するしかなかった。

田端は普段の農作業時のまま、着の身着のままと言っていた。

その外観からは12月の気温に耐えられる格好ではない。

発熱インナーを着込んでいるはず。

それは麻相とて同じ、寒さを感じることなく平然としていられた。

二人の隠密行動は相変わらず、交差点に出くわすたびにスリリングな時間を迎えていた。

「居た?」

「居ました。」

塀から覗き込んだ麻相がグレーのツナギ男を発見した。

金髪逆毛、細面の切れ上がった目からは尋常でない雰囲気が漂っていた。

何かを見張っている様子、その場から動く気配がなかった。

視線は傍らにある民家に向けられていた。

「どうします?」

田端にささやきかけた。

「拳銃?」

「M9かな?オートマチックです。高崎が持ってたのと同じ。」

「へえ、麻相君は拳銃にも詳しいよね。」

「ゲームで色々と使ってたので。」

銃撃戦ゲームをやり込んできたため拳銃については相応な知識があった。

「何してるんでしょうね。」

田端も塀から頭を突き出して観察していた。

民家の玄関から杖を突いた老婆が出てきた。

「あっ、そういうことか。」

田端は一人で納得し呟いた。

ぎこちない歩き方でようやく玄関から出てきた。

「歩くの辛いし、ここに居させてくださいよ。」

静かな通りに老婆の声が響いた。

逃げるのを諦め自宅に居座った老人であることが伺えた。

「そういってもさあ、一か所に集めろって命令だから。」

金髪男は銃を構えることなく老女に向かう方向を示した。

抵抗しない者には手加減をしているのでとりあえず安心できた。

それでも理不尽を強いていることに違いはない。

田端はもう一度、金髪男と老女の動向を一瞥した。

「麻相君、どうする?」

麻相は何度も二人の動きを観察して考え込んだ。

「男の方は気絶させて拘束したいです。

お婆さんはそのまま自宅に居てもらうほうがいいですよね?」

「そうだね。麻生君、やってみて。」

物は試しとばかりに力を使うよう田端は指図した。

ただしこの状況は若干問題があった。

老女と横並びで金髪男が歩いている。

金髪男の足を払い除けるつもりが老女の足も払い除けてては元も子もない。

金髪男だけに衝撃を加えたい、それにはどうするのがベストか麻相は思案した。

金髪男も老女もこちらに背を向けている。

麻相は塀から抜け出し、金髪男の脚だけに視線を集中した。

胸の前で両手を広げて金髪男に下半身に向けた。

ーー風、 風ーー

両掌に気を込めて前へ突き出した。

金髪男はつんのめるようにはね飛ばされた。

飛ばされた距離は10メートルほど、人智の及ばない力が働いたのだった。

無様に転げ回る金髪男に老女は驚きの声をあげていた。

老女は足を止めて金髪男の有様を見ていた。

「まずっ、拳銃は持ったままだ。」

転げながらも手から銃を離さなかった。

田端は慌てて金髪男に向かって走り出した。

麻相もつられてダッシュした。

ズボンが落ちる懸念がないため麻相の足の速さが発揮された。

田端よりも先に金髪男に到着した。

ようやく立ち上がった金髪男は麻相と田端の姿を目にし驚いていた。

拳銃を振り上げようとしたその時、麻相がそれを掴んだ。

金髪男の顔は困惑していた。

その顔はやがて苦痛に代わり悲鳴を上げた。

麻相が拳銃もろとも金髪男の両手をねじあげていた。

金髪男の両手は麻相の両掌から次第に離れて浮き上がっていた。

手首があらぬ方向に曲がり腕を動かすことができないでいた。

金髪男は銃爪(トリガー)すら引けない状態だった。

金髪男は悲鳴を上げ続けた。

「麻相君、もうやめろ。」

田端の声に我に返り麻相は力を抜いた。

拳銃は地面に落下すると金髪男は白目をむいて気絶した。

両手首の骨折は間違いなかった。

田端はビニール紐を取り出して金髪男の両前腕と両足首を拘束した。

「力の加減ができてないよねえ。」

田端は努めて冷徹に言い放った。

その指摘に麻相は焦燥感に捉われた

あらぬ方向に曲がった手首を見て罪悪感が湧いてきた。

残酷な仕打ちを行ったことに麻相は悔いていた。

これでは高崎と同じではないのか。

「何事もやり過ぎはよくないよ。」

「いや、でも・・・」

「百パーの力を出す時と出さない時の加減に気を付けようよ。

途中で力を抜く、そのイメージだけでいいから。

でもこいつだけを突き飛ばしたのはすごいよ。

一点に対しての集中力はあるようだね。」

田端はそう言いつつ老婆の元へ向かった。

老婆もろとも跳ね飛ばしていたらどうするつもりだったのか。

その時に田端はどう対処したのかが麻相は気になった。

偶々それがうまく出来ただけであることに麻相自信が分かっていた。

力を調整しきれない自分が怖くもあった。

老婆はその場に立ち尽くし状況が飲み込めずにいた。

「おばあちゃん、だいじょうぶ?」

田端は優しく語りかけた。

老女は頷くだけで声を出さなかった。

「サ、おうちに戻ろうか。」

「こんなことになって・・・・」

老女は何かを訴えかけ田端は頷き続けた。

老女に付き添い自宅へ送りとどけた。

「食べ物はあるかな?あと三日はおうちから出られないよ。」

「なんとかなる。」

玄関先でも田端は気遣いをみせた。

「もうすぐ警察がきて悪い奴らを捕まえてくれるよ。

それまでおうちを出ちゃダメ。

窓から外を覗くのもダメだよ。」

老女は頷き続けた。

「ラジオはあるかな?」

「あるよ。」

「じゃあ、ラジオのニュースを聞いててね。

犯人が捕まったから大丈夫って流れたもう外に出てもいいよお。」

「ありがとねえ。」

「それじゃ、玄関にカギ掛けてね。」

田端がゆっくりと扉を閉めると施錠音だ聞えてきた。

あのような気休めを言って大丈夫なのかと麻相は気になっていた。

この事件があと三日で片付くとの田端の発言には根拠がなかったはずだ。

麻相と田端は金髪男の元へ戻ってきた。

「こいつどうしますか?」

「表通りの目の着くところへ置いておこう。仲間に見つけてもらえれば手当はするだろう。」

「でも、また連中と合流します。」

暴漢の手先となって悪事を働くことを麻相は懸念していた。

「手首が折れてるんだから使い物にならないよ。足を持ってくれるかな。」

金髪男は見た目ほど重くはなかった。

二人で運ぶ事は容易かった。

そこから近い表通りとなると主要幹線道坂池線になる。

そこまで運ぶことにしたが時間はかかると予想していた。

道中で暴漢に見つかった場合は金髪男をその場に置いて逃げると打合せをした。

麻相は後ろ手に足を持って先頭を進む。

田端は両脇から手を回して抱き上げるように後から続いた。

傍からみれば無防備そのものだから襲われたらひとたまりもない。

この姿勢では早く歩くことができないもどかしさがあった。

主要幹線道まであと50m足らず、エンジン音が聞こえてきた。

その音はバイクのものではない。

車のものにしては異様な音だ。

麻相は足を止めると田端は先に進むよう促した。

「ここで金髪男を放しても見つけてもらえないよ。もっと行こうよ。」

「見つかりますよ。」

「車相手なら逃げ切れる。」

田端はそう断言し先へ進むことにした。

幹線道路に近付くにつれてエンジン音が大きくなっていく。

静まりかえった住宅街、車の往来が途絶えた幹線道路。

出会い頭に見つかることは避けたいがエンジン音が近いから避けられそうもない。

麻相は歩道まで出るとエンジン音のする方向に目をむけた。

片側二車線同の真ん中寄り、トラックがこちらへ移動していた。

荷台には箱乗り状態で何人かがいた。

走行速度が遅いのは周囲の警戒のためと推測された。

田端もそれを目で確認すると立ち止まった。

「いいよ、ここに置いておこう。」

麻相と田端が道路の真ん中に男を置いた。

「逃げよう。」

その最中にトラックはホーンを鳴らした。

トラックのドライバーが二人を見つけて荷台に知らせると同時に速度を上げた。

麻相と田端は来た道を引き返し走り出した。

幹線道路に繋がる脇道、そこそこの道幅がある。

「ジャリトラは小回り利くからなあ。」

田端は愚痴をこぼしながら走っていた。

しかし麻相たちを追って来たのは二台のバイクだった。

軽いエンジン音に田端は顔色を無くなり焦りが見えていた。

それは麻相も同じ。

この距離ではすぐに追いつかれる。

見られるのを覚悟で空へ飛ぶのか反撃するかで迷いが出ていた。

「まてっ!!こるあああっ!!」

バイクにまたがる男たちの怒声が聞こえてきた。

切迫した状況、まっすぐに走る事しかできなかった。

いくつかの四つ角を過ぎ、少し広い交差点を通過した直後だった。

男たちの悲鳴、タイヤの滑る音と金属を引きづる音が聞こえた。

バイクのエンジン音はそこで静かになった。

その異音を聞いて麻相と田端は急停止し振り返った。

バイクは横倒しになり路上には部品が散乱していた。

そのバイクに乗っていたはずの男たちは電柱に寄りかかり気絶していた。

グレーのツナギを着た男たちの有様に状況が飲み込めず麻相と田端は顔を見合わせた。

「田端さんが力で?」

「麻相君じゃないの?」

どちらの力でもないとを確認するとお互いが思案顔になっていた。

「じゃあ、勝手にこけた?」

「こんな何もない道路で?」

立ち止まったまま横倒しになったバイクと気絶した二人を眺めていた。

交差点の角、民家の垣根の向こうから男が一人歩み出てきた。

オリーブグリーンのフィールドコート、迷彩柄パンツ、背中には迷彩柄の小型バックパック。

年齢は30代後半、角ばった顔にロングヘアは異彩を放っていた。

「あんな人、居た?」

田端が呟いた。

男はしゃがみこんで顔を覗き込み、気絶した二人の首に順に手を当てると頭を軽く叩いて立ちあがった。

頬骨の突き出た顔をほころばせ麻相と田端の元へ歩み寄ってきた。

麻相と田端は身構えたものの笑顔で手を振るその男に警戒をすることができなかった。

「バイクに乗るならヘルメットを被りましょう、って習わなかったのかねえ?」

その男は親し気に二人に話しかけてきた。

「健常者は皆避難している。その状況下であなた方が残っている理由をお聞かせ願いたい。」

形式ばった言動だがどこかおどけている、その様に違和感を覚えた。

風貌は独特だが言動と立ち居振る舞いには規律性が伺えた。

それでもこの人物の素性が分からないのでこちらの事情を話すわけにもいかない。

逃げ遅れたと言い逃れるしかないと麻相は思った。

田端はまじまじと観察していた。

「聞こえてたよ。チカラって何?」

麻相は目を見開き黙り込んだ。

田端は何かを感じ取ったようだ。

「さっき、君は面白いものを見せてくれた。」

麻相を注視して話しかけてきた。

麻相は顔色を無くした。

田端は口を半開きにしたまま言葉を飲み込んだ。

「俺が敵かもって怪しんでる?分かるよ。」

男が次の言葉を口にしよう時だった。

「おおお~いっ!!捕まえたかっ!!?」

何処からか声が聞こえてきた。

「お二方、逃げましょう。」

おどけたような言い方で男が促してきた。

麻相は辺りを見渡し今いる場所を把握した。

「こっちです。」

麻相はあい路へ誘った。






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