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ep26

主要幹線道坂池線を西進したが意外にも車の流れはスムースだった。

陽子も母親も渋滞を予想していただけに拍子抜けした。

ただ青田市と池口市の境界にある丸中トンネルを通過する際は驚愕させられた。

反対車線には車の残骸が放置されていた。

玉突き衝突のもの6台とフロントガラスに弾痕がある車両があった。

残骸の陰からライフル銃を構える暴漢の姿があった。

陽子も母親もトンネル通過中に撃たれるのではと戦々恐々だった。

ところが暴漢は青田市から出ていく車には関わらない姿勢を取っていた。

それどころか早く通り抜けろとばかりに手を大きく振って促していた。

トンネルを通り抜けると出口では警察官が交通整理を行っていた。

青田方面へは通行止めになっていた。

トンネルを目前にして折り返す車がはあるが数としては少なかった。

事件を知ってから青田市へ向かうモノズキもいない。

トンネルを抜けたため通信が回復したのを確認すると陽子は父親に電話をした。

父親は昼休憩中にネットニュースで事件を知り陽子らに電話をしたが繋がらなかったという。

心配する父親に対し池口市まで移動し駅に向かってると陽子は伝えた。

父親は池口駅前のビジネスホテルに予約を入れるよう言ってきた。

ホテルの予約が無理だった場合でも池口駅近くで合流することになった。

改めて着歴を確認すると電話、ライン、メール、ショートメールのすべてに父親からのものがあった。

スマホも電波が届かなければ役に立たないことを陽子は痛感した。

父親の指図に従いホテル予約サイトを見てみたが池口駅前の二軒は満室だった。

念のため置外駅前のホテルを調べたがそこも満室になっていた。

陽子はそのことを母親に伝えると池口市役所に宿泊施設を問合せるよう指図してきた。

状況が状況だけに繋がるか不安はあったが意外にもすぐに電話が繋がった。

そこから聞こえてきたのは市役所内の喧騒だった。

スマホのスピーカーからでもわかるほどに職員が声高に指示を出し、情報をやり取りしていた。

官公庁の就業時間を過ぎていたので緊急時対応であることが伺えた。

池口市役所の受付担当は早口で陽子の問いに答えた。

戸倉小学校、見田小学校と東中学校に避難所を設置したのでそのどちらかへ。

今後も他の施設に避難所を設置するので再度問合せをと言ってきた。

陽子はそのことを母親に伝えた。

母親はここから近いのはどちらかと問い、陽子は戸倉小学校か東中学校と答えた。

青田市に近い学校には避難民が殺到し混雑していると母親は予想した。

少し離れた見田小学校なら空いていると予測した母親はそちらに向けてハンドルをきった。

陽子はスマホのマップで道路案内をし、母親はそのとおりに車を進めた。

ここまでの道中、コンビニ、スーパー、ドラッグストアに客が列を成しているのが目に付いた。

今さっきまで母親が遭遇していた買い付け騒ぎそのものだった。

隣町まで飛び火するにもタイムラグがあると陽子は思った。

とはいえ、陽子たちも持ってきた物だけで足りるのか不安はあった。

避難する期間がどれほどになるのか予想すらできずにいたからだ。

先ほどからカーナビでラジオを聴いているが全国ネット局ではこの事件に触れていない。

地元ラジオ局が取り上げてはいるが情報が足りてないのは明らかだった。

青田市役所、警察署との連絡がとれず、それ以外の情報網が寸断されている。

逃げてきた市民の口コミとスマホ撮影動画が唯一の情報源では信ぴょう性が足りなかった。

ラジオ局、系列TV局が青田市への取材を敢行したが幹線道路が遮断されていると伝えていた。

警察により立ち入り禁止措置がとられて近づけず取材できないと弁解していた。

放送では武装蜂起した団体の広域放送を繰り返し流し、その意図を解説するのが精いっぱいだった。

そのブルーフラット散開同盟が実在する政治結社なのかは調査中としていた。

そして青田市民は早々に市外へ避難するよう呼び掛けていた。

「もういいから、ラジオ切って。」

母親は焦れたように陽子に言った。

「学校を占拠したって、高校なの?」

「そうだよ。ライフルやけん銃持った変な連中が押し込んできた。」

「よりによってテスト中、やめてええ。」

嘆いて見せたがこれは母親の本心だった。

「私、撃たれた。」

「はあっ!!撃たれたあっ!?怪我はっ?!」

驚嘆の声を上げた母親だったが視線は前方に向けられていた。

一瞬だがハンドルさばきも怪しくなった。

「怪我してないよ。見ればわかるでしょ。」

陽子はこともなげに言った。

「麻相君が守ってくれた。」

「何?麻相君?」

聞き間違えたとばかりに母親が問い返してきた。

「身を投げ出して庇ってくれた、守ってくれた。」

「ちょっとお、想像できないんだけど。」

陽子はあの場面を思い出すたびに心が震えた。

ただし麻相が庇ってくてたことで身も心も救われた気持ちになっていた。

「最初は私に拳銃を向けてきた。

そしたら麻相君が私を守ってくれた。」

「麻相君、ダイジョブだったの?」

「うん。弾が全部それて一発も当たらなかった。」

「へええ~」

母親は気の抜けた返事をした後にしばらく考えを巡らせていた。

「あんたたちって、そんな仲?」

陽子は母親の言わんとすることは分かっていた。

「違うよ。」

「そう。」

母親はそう言ったきり黙りこんだ。

その沈黙は盛られた話、真実ではないと母親は考えているからだと勘繰った。

現実に起こらない事だらけの中でヒーローの出現もあり得ない話。

どういえば母親に信じてもらえるのか陽子は思いあぐねていた。

「次を右。そのまま500mで左に校門。」

陽子の指示するままに車は進んだ。

ヘッドライトに照らされて校舎が見えてきた。

校門と思わしき所に誘導灯で手招きする人物が居た。

「麻相君がって、まんま学園ドラマのノリ。」

母親がようやく口を開いた。

「ほんとっお~に、怖かったんだからあ。」

陽子は告げ口するかのように訴えた。

誘導灯が振られる中、グランドへ車を乗り入れた。

「受付が混雑しているので30分ほど待ってから体育館へ来てください。」

「荷物は持って行っていいですか?」

「かさばらない物だけでお願いします。医療器具や他の必需品は受け付けの時に言ってください。」

車を止めるとそのようなやり取りがあった。

母親はシートにもたれて大きくため息をついた。

見渡すとグランドの1/3ほどが車で埋まっていた。

隣の車の中にも待期している人が居た。

「待つしかないようね。」

母親は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

自宅を出てからここまで緊張したまま、避難所へ着いてもほぐれることなかった。

今後の身の振り方を考えるはずが気持ちが落ち着かない。

別の事を考えてしまうと母親は焦れた。

シートに体を預けたまま麻相を招いた日の事を思いだした。

陽子と麻相のやり取りを伺っていたが他所他所しさがあった。

陽子が図書館デートをしていると聞かされたのがちょうど二年前。

麻相の素性、素行を後から知って戸惑った。

元不良だったというからいずれ陽子に手を出すのものと覚悟はしていた。

しかし、あの雰囲気からしても手すら握ったことがない関係だと確信した。

垣間見る高校生カップルはもっと馴れ馴れしい。

巷のカップルのような姿を見せられればそっち方向の確信を得るに至ったはずだ。

親の手前で猫を被っているとは思えず、あれが二人の自然体なのだろう。

この二人は昔の学園ドラマを再現しているのかと微笑ましくなった。

麻相は意外にも奥手、堅物、臆病者なのだとほっとした。

その麻相が拳銃の脅威から陽子を庇ったという。

事実かどうかは分からないが陽子が嘘をつくと思えない。

普通の男なら逃げ出す状況だったはずで麻相がポンコツでないことは確かだ。

二人の関係をどのように捉えてよいのか母親は思いあぐねていた。

友達とか恋人などという関係ではないようにも思えた。

「陽子がねえ。」

母親はやおら切り出した。

「図書館で男の子とデートしてるって聞いた時、どれだけ出来る子かと想像したわけ。」

「デートじゃないって。」

「いいじゃん。そしたら勉強を教えてるって、思わず笑っちゃった。」

「しょうがないじゃない。成り行きでそうなったんだから。」

「へええ、成り行きねえ。」

訝しがる母親に陽子は弁解することができなかった。

母親は先日のリビングでのやり取りから連想した事を思いだした。

「あ、これは陽子のペットだなって。」

「ペットおお?麻相君があ?無茶苦茶いわないでよお。」

陽子は思わず気色ばんだ。

母親は高笑いをした。

その高笑いには色々な意味が含まれていた。

夕闇が深くなり体育館からは煌々とした灯が漏れていた。

「あ、父さんから電話。」

着信音に慌てて母親はスマホを取り出した。


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