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ep19

教室、前側の扉に陽子の姿があった。

強張った顔で恐る恐る教室の中を見回していた。

「かわいい顔が台無しじゃないのおお。笑ってみせなよ。」

揶揄うように高崎は陽子を眺めていた。

凍ったような顔の陽子、視点が定まらず目が泳ぎ続けていた。

「入って来い、そこ、真ん中。」

高崎が顎で指図した。

陽子の背後からはツナギの男、銃口を突き付けていた。

陽子は教室の中央へ移動したがおびえている様が伺えた。

教壇近くに居る麻相を見つけると陽子の視線は麻相だけに注がれた。

「エエ身体だなあ。麻相?どこで手に入れた?」

人を物扱いする高崎の言動に怒りをこらえつつ二人との距離を目測していた。

高崎は教壇に近く、前扉から数歩の位置。

陽子は教室の中央よりは廊下側の壁に近い位置。

麻相から高崎とはほぼ正面で2m程度離れている。

陽子とは3m、絶望的に遠い距離だと麻相の目には映っていた。

他の生徒と教師は右側、教室の隅だが視界の外。

この距離でどうするかと麻相は思案していた。

相手は拳銃を持っている。

銃爪(トリガー)をひかれたら終わり。

負けを認めるしかないのかと麻相は口惜しくなった。

「麻相、仲間になるか?」

麻相は答えなかった。

「それとも、女差し出すか、どっちだ?」

「どっちもいいわけないだろ!!」

高崎の常套句に虫唾が走り、反発した。

「んら、も、り、も、と、さ~ん、どうする?」

高崎は陽子に聞いた。

陽子は首を振った。

「嫌ってか?ならいい。」

高崎は麻相を睨みつけた。

「麻相、仲間になるか女が死ぬか、選べ。」

「馬鹿言うな!」

「ば~か?あ?」

高崎は拳銃を陽子に向けた。

ツナギの男は陽子から離れると他の生徒に銃口を向けた。

「何を・・・・」

「かあいい女が死ぬときの声ってのも、いいもんだぞお。」

蒼白となった陽子は震え出し、呼吸が荒くなっていた。

「やめろっ!」

「仲間になるか?」

拳銃を揺らし今すぐにでも打つと麻相を目で威嚇した。

「映画のヒーローはここで飛び掛かってくるよな?

麻相、お前にはできねえぞ。

ひょろっひょろっな図体では俺にはな。」

拳銃を両手に持ちなおしつつ麻相を挑発した。

高崎の視線は麻相へ、銃口は陽子に向けられていた。

銃口から目をそらすため陽子は潤んだ目を閉じた。

「仲間になるんだろ?」

勝ち目はないと麻相は諦めの心境になっていた。

今この場だけ、口先だけなら何とでも言える。

陽子を救うにはそう言うしかない。

「おらっ!どうすんだ!」

陽子はうつむき、目から涙が落ちた。

「返事しろいっ!仲間になるんだな?」

答えることができず黙り込んだ。

陽子の身を守るためには言うしかない。

嘘でもいいから、仲間になります、と。

麻相は負けを認めそれを言おうとしていた。

ーー言ってはダメーー

陽子の声がした。

ーー言ったら負けだよーー

麻相とてそれは分かっていた。

この場を切り抜ける方法はないものかと考えあぐねていった。

ーーでも、怖い、どうしたらいいのーー

陽子の心の震えは麻相にも伝わってきていた。

ーー怖いーー

陽子がおびえている。

どうすることも出来ず麻相は突っ立ったまま押黙った。

ーー怖いーー

こんな奴に負けてはいけない。

ーー助けてーー

陽子を守りたい、麻相は心から思った。

あの時、陽子は傍にいてくれた。

自分のために泣いてくれていたと麻相は回想した。

ーー守るーー

頭の中が強烈に熱くなっていた。

「返答なしっつ!ええわ、おんな、死ね。」

無表情になった高崎は銃爪(トリガー)を引いた。

「やめっ!」

麻相の体は一瞬で動いた。

陽子の頭を押し下げて胸の陰に隠した。

そして陽子に覆いかぶさるようにし高崎に背を向けた。

陽子は身をかがめ麻相の陰に収まった。

銃声は4回、立て続けに教室内に響いた。

麻相と陽子の背後の壁に四つの弾痕ができた。

銃声を聞いた女子が悲鳴を上げてしゃがみこんだ。

両隣の教室からも同様に悲鳴とどよめきが聞こえてた。

拳銃を両手で構えたままの高崎は想定外の結果に驚いていた。

一瞬の出来事、予想外の出来事が起きているとは二人とも想像だにしなかった。

「ああ?当たんねえぞ、これっ!!」

「あ、高さん、撃ったあ!?」

「撃ったっ、まずいだろお。」

前後の扉の前に居たグレーツナギの二人が声を上げた。

女子が意味不明な声音と悲鳴を上げて後ろ扉へ駆け出した。

男子も奇声を発しながら廊下へなだれ出た。

「わああ、おい、止まれ!」

マスク男が制止するがお構いなしに生徒は廊下へ飛び出していった。

マスク男は勢いに押されてなす術が無く、パニック状態の生徒を止めることはできなかった。

教師も後を追うように教室から逃げ出した。

B組の生徒が逃げ出したことがきっかけになり両隣の教室からも生徒があふれ出した。

阿鼻叫喚の中を廊下で揉み合い絡み合い、ようやくの事で階段へ向かう流れができていた。

高崎は茫然として拳銃を上下に振った。

「正規品だろっつ、これはっ!」

怒りの表情で拳銃を見ていた。

廊下の生徒をかき分けて迷彩服を着た男が勢いよく入ってきた。

「タカサキっ!!貴様、命令無視カッ!!」

30代と思われる迷彩服が一喝するも高崎には聞こえていない。

教室には高崎の他に銃を手にした男が三人。

生徒は麻相と陽子の二人だけになっていた。

高崎は再び拳銃を構え銃口を麻相に向けた。

銃口の先、フロントサイトは麻相の背中を捉えていた。

「逝きやがれえっ!!」

高崎は銃爪(トリガー)を引いた。

「ヤメナイかっ!!」

迷彩柄の命令を無視するかのように銃声は立て続けに4発。

背後の壁にはさらに四つの弾痕ができた。

スライドがロックされて銃は静かになった。

全弾を打ち尽くし銃爪(トリガー)が固定されてもなお高崎は撃ち続けようとしていた。

麻相に傷ひとつなく、流血していないことに高崎は猛り狂った。

「当たんねえっ!!なんだこれ!!役立たずがっつ!」

拳銃を床にたたきつけると鈍重な音とともに転がっていった。

前後の扉から別の男たち数名が入ってきた。

「何してんすかっ!!?」

「撃っちった!」

皆がグレーのツナギを着用し、手にはライフルか拳銃を携えていた。

男達はみな10代後半から20代と思われた。

一見して反社会的勢力を思わせる顔立ちだった。

「タカサキを連れ出せ!!!拘束しろっ!!」

「その銃を俺に貸せええ!」

別の男の銃を奪い取ろうと高崎は吠えながら手を伸ばした。

しかし、その場に居た男達に手足を捕らえられたため高崎の暴挙はそこまでとなった。

それでも喚き散らし暴れる高崎だったが男たちに吊り上げられ教室の外へ。

そして他の生徒が居なくなった廊下を階段方向へ連れていかれた。

それでもなお意味不明な言葉で喚き散らし、廊下に響き渡っていた。

「この二人は?ど~します?」

「んな、リア充、ほっとけ。」

迷彩柄は憤怒の表情で履き捨てるとツナギの男と一緒に教室を出て行った。

「あの距離で全弾外しってアリですか?」

ツナギの男は迷彩柄に疑問をぶつけた。

返事は返ってこなかった.

下層階から騒がしさが聞こえてくる。

それに反して静かになった教室に麻相と陽子だけが残っていた。

陽子の震えは止まったが、麻相は震えていた。

「痛いところ、ケガは?」

麻相は呟くやくように聞いた。

「ダイジョウブ。麻生君は?」

陽子の問いかけに麻相も答えた。

「ダイジョウブ。」

陽子は麻相の胸から聞こえる心臓の鼓動に安堵していた。

ーー生きているーー

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