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迷子

作者: 磨諏迦

 今だにふと思い出す子供の頃の出来事なんですが、聞いてください。

 小学五年生ぐらいだったと思います。私の生まれ育った場所は自然の多く残る田舎で、森に埋もれるように神社がありました。ただ、私は物心ついた頃からその神社には近付くなと言われて育ちました。

 私以外の人達は神社に行くのに。

 ただ、わたしとおばあちゃん、そして父の妹であり私のおばの三人だけはこの神社に近付くことが許されなかったのです。

 友達は神社のお祭りや森周辺で遊べるのに私だけ行けないし遊べない事にとても不満がありました。ですが、何となくですが、神社のある森に私が近付くとなんとなく嫌な感じがしていて、少し怖い場所なのかもしれない。というのも、子供心にあったように思います。

 それでも皆と遊びたくて小学五年のある日、勇気を出して神社で遊ぶ友達に声をかけて一緒に遊んでもらう事が出来ました。

 学校から一度家に帰り、鞄を置いてから森で遊ぶ約束をしました。ワクワクとドキドキで思わず駆け出していたのを覚えています。ですが、いざ皆で遊ぶとなった時、友人達は森ではなく広場で遊ぼうと言い出したのです。小川のある広場は暑い日に遊ぶにはちょうど良く、虫の多い森よりもそっちがいいと言われてしまえば反対する事も出来ず、がっかりしながら皆と遊びました。

 その帰り道。私はやっぱり神社の森に行ってみたくて思わず一人で森に入ってしまいました。

 今思うと、一人で行くなんてどうして出来たのか解りません。その時は好奇心の方が強く、足の赴くまま森に入ってしまったのです。

 ですが、入ってしまえば特になんともない普通の森で、夕方と言うのもあって少し暗いのが怖かったな。という印象でした。

 しばらく歩いていると神社に着くはずなんですが、初めて入った事もあり、道に迷ったのか辿り着けず、少し不安になりながら歩いていた時、すすり泣く声が聞こえて、どきり、としました。

 私は怖い話が好きで暗い場所でのすすり泣きは色々な事を妄想させられて、一気に怖くなり、その場に立ち尽くしたんです。ですが、その泣き声がすぐ近くでしている事に気付き、声的に小さな男の子っぽかったので、もしかして自分と同じく迷子で泣いているのかな? と思いました。そう思うと恐怖も薄まり、動く事が出来たんです。暗がりの中、泣き声を頼りに探すと、本当にすぐそこに男の子がいてほっとしました。人がいる。自分と一緒で迷子の子がいる。ただそれだけで安心し声をかけたんです。男の子は、怖いけど大きな声を出して動物が来たら怖いから我慢してたんだ。と言いました。大声を出したら動物が来るなんて知らなかったのでびっくりして思わず「そうなの?」って聞いてしまいました。

 男の子は、何度かここで迷子になってるから知ってるんだ、と答えてくれて「ここはね、やせいの動物がおおいから、おっきい音だしたらダメなんだよ」と教えてくれたんです。私は感心してしまい、小さな声で話すように心掛けました。

「私も迷ったの。二人一緒なら、出口見つかるよね。一緒に探そう」

 と手を差し出すと男の子は鼻をすすりながら手を取りました。

 そこから先、男の子は泣かずに私と一緒に出口を探して森を歩いてくれました。道中草の音で驚いたり、動物の声で怯えたりと忙しかったのですが、全然道が見つからず「どうしよう」と心細くなってきた頃、男の子が「あっちかもしれない」と先導し始めたのです。

 私は最初「え?」と思いました。

 今まで何も言わずについてきていた子が急に「あっち」「こっち」と言って私の手を引いて歩き出したんですから。

 動揺したまま男の子に引かれるがままに歩いていると村の明かりが見えました。

 やった、やっと出れた。そう思った時

「森には近づくなって言ったでしょ!!!!」

 と突然怒鳴られ、声の方を見るとそこにはおばあちゃんがいました。

「あんたの帰りが遅いから探しに来てみれば、何で森なんかにいるんだい!!」

 強く手を引っ張られ、たたらを踏みながらおばあちゃんの後に着いていくしかありませんでした。

「待って! おばあちゃん、男の子が!」

「男の子? 何言ってんだい! 誰もいないよ」

「え!?」

 振り返ると、出てきた森の所には誰もいません。

 手を離した覚えもありません。

 そして、その時気付いたんです。夜のように暗くなっていたはずなのに、今はまだ明るい事に。

 森をさ迷っているうちにだんだん暗くなっていったはずなのに。

 家に着いた時には、四時半でした。友人達と別れたのは四時ぐらい。たった三十分ほどしかたっていなかったのですが、私は森を歩き回っていた時間帯は数時間です。体感だから、たった三十分が数時間に思えたのかもしれません。

 おばあちゃんに森であった事を話すと

「だから行くなと言ったでしょう! その男の子の事は忘れなさい」

 と言われました。理由を聞くと

「本当にその子はいたのかい? 人間だったかい?」

 と聞かれ、私はすぐに頷こうとしましたが、ふと違うかもしれない。と何故か思ってしまい頷けなくなりました。

「私達はあそこに呼ばれやすいんだ。今日あった事は、覚えていたらいけない。どんなに気になっても考えてはいけない。忘れてしまいなさい」

 おはあちゃんにそう言われ、訳もわからず、納得もできないまま頷いたんです。

 でも心のどこかで、覚えていてはいけない事だというのは解っていました。

 ただ、十年以上たった今でも、ふと思い出してしまい忘れることが出来ていません。

 私は大丈夫なんでしょうか。

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