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「居城はここだ、血祭りだ。」

作者: ななぴーからー

この小説を開いていただきありがとうございます。ぜひブラウザバックせずに見ていただけると嬉しいです。

「まったく、しけたこと言うよなぁ」

俺はため息をついた。またいつもの泣き言だ。あればかりは付き合ってやれない。

「ひどい。僕は先輩しか頼れないのに」

そう俺に抗議してくるのは、二つ下の後輩・七星北斗だ。俺はこの天塩中学の三年生・敦。

「先輩ぃ、助けてくださいよぉ、頼みますってー!」

北斗はひたすらそう叫んでいる。無理なものは無理だと言っているだろうが。

「俺はやらない!!お前ももう中学生だろ?」

俺はそう伝えその場を後にすることにした。

「お母さんみたいなこと言わないでくださいよ…」

北斗がそう呟くのが聞こえた。何故か心がずきんと痛んだ。

(お母さん…か。)

俺にはわからないことだ。

男手ひとつで育てられた俺だ。母は弟を産んでまもなく亡くなった。弟とも四つしか離れていない、つまり、母が死んだとき俺は四歳だったから、母の記憶はあまりない。

父は、母が死んでも再婚はしなかった。それが俺は不思議だった。

俺は小さい頃よく、父に母がどこにいるのかきいていた。その度父は寂しそうな顔をしながら、

「まぁ、な、、」

と答えていた。そんなに寂しいのなら早く再婚してしまえばいいのに。

俺には父の気持ちがよく分からない。

そんな事を考えながら歩いていると、後ろから、

「おーい、敦ー」

という声が聞こえた。俺の親友・姫野裕也だ。

「おう、どうしたんだ?」

「国語の課題、提出いつだっけ」

「ああ、明日だよ」

「え?!?!待って明日?!聞いてない!!!」

「いや普通に先生言ってたぞ…」

「くっそー。手伝ってくれよ敦〜」

「はぁ?もしかして何もやってない?とかないよな………?」

「別に忘れてたとかそういうんじゃなくてさ。ただちょっと、遊んでただけなんだよ」

「そういうのを忘れてたって言うんだよ」

「じゃあ今日の放課後お前の家で勉強会な!お菓子買っとけよ〜」

「は!?勝手に決めるなよ!別にいいけど...」

「じゃ!そういうことで」

「あっ、おい待て!逃げるな!!」

ここで止まっていればあんなことにはならなかったのに......。

そう後で思うことになるなんて、このときはまだ知る由もない。


 ❊❊❊


放課後になって、俺たちは三人で俺の部屋で勉強会をしていた。

え?あと一人は誰かって?北斗のやつがついてきたんだ。

裕也は北斗に弱い。俺はこいつも入れるなんて聞いていなかったのに。

俺はこのときまだ気づいていなかった。いや、気づきたくなかった。北斗が何かを狙うように笑みを浮かべていたことを。

それから少し勉強会をしていると裕也が、

「そろそろ休憩しようぜ。俺トイレ行きたい」

と言い出した。

「良いですね。先輩方は十分頑張りました!」

俺もちょうど喉が乾いていたのでちょうどいい。俺はそう思って立ち上がった。

「何飲みたい?」

「ウォッカ」

「僕もー」

「馬鹿言うな」

「真面目に言うとアキュエリアス」

アキュエリ大好きな裕也に向かって、俺は地雷発言をする。

「ポカリならあるぜ」

「なんだよ敦、ポカリ派かよ」

「当たり前だろ」

俺と裕也はにらみ合う。昔からスポドリの話になるといつもこうだ。実際のところ、こんな小学生じみた争いはしたくないのだが…。

「ポカリは持ちにくいから嫌いだ!」

「持ちやすさで決めんなよ!!アクエリは味が薄い」

「なんだとー」

「ま、まあまあ、落ち着いてくださいよぉ」

見かねた北斗が割って入る。

「「お前はどっちなんだ北斗?!」」

俺と裕也の声が重なる。北斗の答えは―――、

「グリーンダカラです★」

結局、どれにするか決まることもなく、コーラを買いに行くことにした。

ついでにお菓子も買った。

家に戻り勉強を始めようとすると、

「俺もう勉強やだーーーーーー」

と、裕也が言い始めた。

「確かに結構やったよな...よし、日本史カルタでもするか」

「なにそれつまんなそう」

「うるせぇ、お前日本史苦手だっただろ。いい機会だっ」

「僕やってみたいです!!!」

「北斗が言うならしゃぁねぇな…」

「やった!!」

相変わらず裕也は北斗に弱い。

「じゃ、俺読むから二人でとれ」

俺はカルタを用意すると、早速読み始める。

二十回くらい読んだだろうか。今のところ裕也はボロ負けだ。北斗は動きが速い。

「このままじゃ後輩に負けて終わりだぞ、裕也だっせー」

「うるせー!北斗なんかに負けるか。見てやがれ!」

(その調子で勉強もやればいいのだが)

「じゃ次行くぞー」

俺が次の札を読み上げようとしたとき、家のドアホンが鳴った。

「誰だろ」

「出てくるからちょっと待ってろ」

俺は玄関に向かう。

「どなた様でしょうか?」

「久しぶり!やっと会えたね。まさか私のこと忘れたとか言わないよね?」

「え、ええ、そりゃあ、ええ、もちろん。」

(誰だコイツ………!)

ドアを開けるとそこに立っていたのは長い黒髪がよく似合う同じ年くらいの美少女だった。もちろん、そんな美人と関わった覚えなど一切ない。本当に誰なんだこの人…。

「あ、笹原くーん」

また後ろから人が来た。これは聞き覚えのある声だ。

「どうした緒方?」

クラスメートの女子・緒方歩美だ。家が近く、幼稚園の頃からの幼馴染だ。

「忘れ物。数学のノート」

「ああ、さんきゅ」

「あれ、誰かいるの?」

「裕也と一年の北斗」

「あぁ、北斗くん。最近仲良くしてるよね」

「知ってんの?」

「部活の後輩」

「何部だよ?!」

「文芸部ですがなにか?」

「ナニモナイデススミマセン」

北斗あいつ…文芸部だったのか…!

「あのぉ…私のこと忘れてません、よね?」

さっきの黒髪ロングの美少女だ。

「は、はい、もちろん覚えてますよ、ええ」

彼女の髪が揺れる度に、バラのいい香りが漂う。どこかで嗅いだことがあるような………。

でもやっぱり思い出せない、もう少しで思い出せそうなのに。

懐かしいような、なんか不思議なものな気がする。気がするだけだけれども…。

「ところで笹原くん、この子誰?」

そう歩美に聞かれて困ってしまった。

(俺こんな人と話したこと無いし名前だって知らないのに俺が答えられるかよっ)

そう歩美に心のなかで突っ込むがもちろん歩美がわかるわけも無く、不思議そうな顔をして答えを待っている。

「おーい、敦、まだか?」

そんなとき、部屋から太い声と一緒に裕也が現れた。

「うわ姫野じゃん」

歩美があからさまに嫌そうな顔をして一歩さがる。

「緒方?なんでここに…」

「笹原くんに用があったのよ。なんか文句ある?」

「はぁ!?文句ないわけねーだろ」

「まぁ、姫野はいいや。おじゃましまーす!」

といって歩美はズカズカと家の中に入っていった。

「お、おい待てよ!話は終わってねぇぞ!!」

そう言って裕也も行ってしまった。心なしか裕也の顔が気持ち悪いほど笑顔だった気がした。

そして、玄関では謎の美女と俺の二人っきりになってしまった。

「あ、あのさ、私の存在忘れてない...?何回もゴメンなんだけど私のこと覚えてる?」

こいつは一体誰なんだ。思い出せない...。

「えーと、えっと、ずっと前に会ったことがあるのは分かる…」

「もう、いいよ。私は覚えていてもらえるような存在じゃなかったってことでしょ。急に来てごめんね。さよなら」

「ちょ!ちょっとまってよ!」

そう言い終わる前に彼女は去っていった。

(何だったんだよ)

そう思いながら部屋に戻った。

「笹原くん、さっきの女の人はいいの?」

と、歩美が聞いてきた。

「なんか、帰っていったよ」

「ふーん」

「そういえばさっき歩美が俺に話があるって言ってたよな。どうしたんだ?」

「そんなこと言ってないよ?」

「え?何しに来たの?」

「だから、数学のノート渡しに…。あと、北斗くんいるならちょうどいい。あいつ、原稿の誤字脱字多すぎ」

「なるほどね...。おい北斗、歩美が説教だってよ」

「なっ…緒方先輩?!そ、そんな、僕ほら、今回ちゃんと期限通りに一人で提出しましたよ………?」

「お前、今までどうやって提出してたんだよ…」

北斗はしゅん、と俯く。

「まあ、いんじゃねぇの、北斗は初心者なわけだし」

「姫野、あんたは黙ってなさい」

歩美が鋭い目つきで裕也を睨む。

「なんだよぉ」

「聞こえなかった?黙ってなさい、って私は言ったのよ」

「俺を黙らせる権利お前にねぇしー」

小学生かよ。

「いいからあんたは黙ってて、このお馬鹿」

「なんだとーっ、お前、模試何点だったんだよ」

「476点」

そう、歩美は昔から頭がいい。今回の模試だって、歩美はこの進学校で学年三位だったのだ。

「あんたはどうなのよ」

「403点…」

「あら、400点行ってるだけ良かったじゃない。いつだっけ、330点とか出したのは」

「330なんて出してない!360だっ!!」

同じようなもんだろ。

「まあ、これであんたが馬鹿ってことが証明されたわね、姫野」

「うるせぇ!パプリカとトウガラシを間違えるお前よりかはましだっ!」

「そ、それは………」

歩美がそんな間違いをするなんて。

歩美は昔からしっかり者で、天才だった。それなのに。

「まぁまぁ、先輩方落ち着いてくださいよ。」

ここで北斗が止めに入った。

「「お前は引っ込んでろ」」

「ふぇっ!裕也先輩まで!?」

ほぅ。裕也にしては珍しい。北斗の言うことを聞かないとは…。

それにしても裕也と歩美は息ぴったりだな。

いくらか沈黙が続いたあと、裕也が厳かに口を開いた。

「緒方、そんなに簡単に男ばっかの家入って良いのか?」

「おい裕也どういう意味だ、俺はなんもしねぇぞ」

「ちょ、裕也先輩、僕まだ中一ですって...」

「うわ、姫野サイテー」

裕也の一言にみんなで突っ込んだ。裕也がなんとなく恥ずかしそうな顔をして言った。

「い、いや、冗談だよ冗談!お、お前ら何考えてんだよばーか!」

「下品な冗談はよせ」

「なにが下品だよ馬鹿馬鹿馬鹿」

歩美がため息をついた。

「姫野はそんなに私にここにいてほしくないのね…お望み通り帰るわ。じゃあね」

「ま、待ってくれよ!!!しょ、しょうがないから遊んでやる!!」

「残念ながら私はあんたたちほど暇じゃないのよ」

「ちょっと待て。あんたたちだと俺と北斗まで巻き込まれる」

「そうですよ!僕は暇なんかじゃないですって!!」

俺と北斗は歩美の発言を全力で否定した。

「じゃーね。おじゃましましたー」

「待ってって、言ってんじゃん、待ってよ」

「待たないよ。帰れって言ったのあんたでしょ」

「帰れとは言ってない!」

裕也が歩美の腕をがしっと掴む。

「ちょ、なにすんのよ、放してよ!」

「嫌だ」

その光景を見ていた北斗が俺に近寄ってきた。

「裕也先輩、絶対歩美先輩のこと好きですよね。」

「え、あ、うん、え?」

俺は曖昧な返事をしてしまった。

裕也は歩美のことが好き、だって………?

信じられない…。あんなにいつも喧嘩しているじゃないか。

俺は心のどこかがズキズキと痛んだような気がした。

「放してって言ってんじゃん!これだから裕也のこと嫌いなの―――」

歩美が今、姫野、じゃなくて、裕也、と名前で呼んだ。

「そ、そうかよ!俺もお前のことはだいっきらいだよ!!早く帰れよ!!!」

裕也が大声で怒鳴った。

「あんたに言われなくても帰ろうとしてんじゃん!笹原くん、北斗くんごめんね。」

泣きそうな顔でそう言って歩美は帰っていった。

この最悪な空気をどう抜け出そうか...。

「お、俺帰る。じゃあなっ」

裕也がこちらに背を向けて言う。

「あっ先輩待ってくださいよ、もう。あーあ、二人になっちゃいましたね。」

「二人じゃだめだったか」

「別にそんなことはないですよ。裕也先輩何も起こさないと良いんですけど...」

「歩美に手を出されても困るしな」

「やめてくださいって」

「裕也のやつ思いっきり振られてたな」

「ですねー」

そのことに少し安心してしまう俺がどこかにいた。

こんな俺は悪い奴だ。どうかしているんだ―――。

俺らは今日はもう解散することにした。


 ❊❊❊


―――北斗はあのとき何を考えていたのだろうか。

あの不穏な笑み、妙に落ち着き払った態度。

どう考えても何かあるに違いない。

そして、謎の美少女が来たとき、北斗だけは奥でなにか作業をしていた。

昨日の北斗は全体的におかしかった。いつもはもっと素直でかわいいのに。

そんなことを考えながら家でだらけていると、また―――昨日のように―――ドアホンが鳴った。

「はぁーい、どなた様ですか」

昨日の美少女だった。

「もう一度話したくて来ました。昨日はあまりにもショックだったので帰ったけれど」

「あ、すいません」

「私は、小川りりです。あなたの幼稚園のときの友達です。」

「りりちゃん?!」

美少女の正体は幼稚園の頃仲が良かったりりちゃんだった。

俺はりりちゃんと大事な約束をしていた。

しかし、りりちゃんは昔、みんなの前から姿を消した。

消息不明のまま時が流れていった。

「どこに行ってたの?」

「ニューヨーク。親の仕事の関係で…。本当は敦くんにお別れも言いたかったんだけど……」

「……かわいくなった、ね」

「ほんと?ありがとう...!敦くんもかっこよくなったね。ねぇ、約束..覚えてる?」

「あぁ覚えてるよ。でも、まさか本気なのか...?」

「え、本気じゃないの……?」

「そ、そんなことないよ」

その約束というのは、いつか結婚しようといっていたことだ。でも、そんな事を話していたのは幼稚園児の冗談だと思ってた。

だが、そのことが気になって彼女をずっと作れていなかったのは事実だ。

彼女なんか作ったら、幼心にずっと好きだったこの子との約束をないがしろにしてしまう気がして。

「その約束のためにずっと私は努力してきた。でも、でもね…、最近、なんでこうまでもしてこんなことしてるんだろって思っちゃうんだよね。もう忘れられてるかもしれないのに、って。」

「そんなことないよ。俺はまだりりちゃんのことが………」

そこで俺は言葉が出なくなった。昨日心が痛んだ理由がわかった。俺は歩美のことが好きなんだ。だけど、りりちゃんがこんなに可愛くなった理由は俺のため.........。

「…いいの、気にしなくて。ところで、昨日私の後ろから来た女の子、もしかして、歩美ちゃん?」

ドキッとした。りりちゃんの口からその名前が出るとは―――。

「そ、そうだよ。」

「ふーんそうなんだ。仲いいの?」

「まあな…。そこそこ」

「歩美ちゃんもかわいくなってたなぁ」

「そうか?」

ずっと一緒にいると分からないものだ。

「そうだよ。ずっと心配だった。歩美ちゃんが私よりも可愛くなってたらどうしようって。敦くんが好きになってたらどうしようって。」

まるで心を読まれているかのような気持ちになった。

「ああー、えー、なんて反応すればいい?」

「その鈍感さ、変わらないのね」

「ごめん…」

「謝らなくていいのだけど」

俺は頭が真っ白になってきた。

「明日また来るからね。その時までに返事を決めておいて。約束守ってくれると信じてるよ」

そう言ってりりちゃんは帰っていった。最後の言葉を言われたら、無理ですなんて言えない...。でも、想いに嘘は付きたくない。どうすれば良いんだよ。ああ、逃げたい………。


 ❊❊❊


俺は暗闇の中をさまよっていた。

ただひとつ光るものがある。

俺はそれに向かって一生懸命歩く。

でも俺がそれに近づこうとすればするほどその光は遠ざかっていく。

光が消えそうでも俺は歩き続けた。

りりちゃんになんて伝えようか。返事はどうしようか。答えは出ないままでいた。

このまま逃げて、闇の中にいられたら………。


 ❊❊❊


「?」

目が覚めると、外の景色に驚いた。

ここは僕が住んでいる場所じゃない。どこだここは。

体が動かせない...。なにかに拘束されているようだ。

「あ〜。やっと起きた〜!おはよう。」

「?!?!なに、誰っすか?!」

「え~、分かんないの?」

まじで一昨日から何なんだよ。恐怖と怒りの感情が込み上げてくる。家の中に入れられた...。どうやって!?

「わ、わからないですけど」

「ひどい。昨日も会ったじゃない」

「りりちゃんだよね?」

「違うよ?」

「緒方?」

「違うよ?」

「え誰」

「闇の支配者だぜ」

「は、?」

何を言っているんだこの人は。

「君、昨日僕の世界に遊びに来てたじゃん!!」

「はぁ?!」

てことは、まだ夢の中なのか?

「夢だろ、覚ませよ!」

「ざんね~ん。夢じゃないっす」

「ざけんなぁああああ」

ますます意味がわからない。

「俺をここから出せ!この拘束解けよ!!」

「やーだよ★ていうか感謝してよ。君の願いを叶えてあげてるんだから」

「は?なんだよ願いって。そんな物頼んだ覚えはねぇ!」

「言ってたじゃん、逃げたい、って」

「お前に頼んでないっ!!!」

「まぁまぁ落ち着いて。僕の世界で願ったんで、僕に頼んだのと同じです★君はここから抜け出せないですよ。後悔してももう遅いです。ちなみに、現実での時間は止まっているようなものです。」

「止まってたら意味ねぇじゃねぇかよ」

「じゃあ進めます?浦島太郎みたいになるかもだけど。」

「く、くそ!!」

「まーごゆっくり〜」

そういって支配人は出ていった。

「あ、あの、、、」

人の声が聞こえた。

「ん?」

振り向くとそこには同い年くらいの女子がいた。

「もしかしてあなたも迷い込んでしまったのですか...?」

「迷い込んだ..?」

ここは自分の意志で来るところではないのか?

「夢から覚めたらここにいたのです。先程の闇の支配者さんに案内されて…。でも、あの方すごく親切ですよね」

「そうか?」

もしかして…あの支配者とかいうやつ、女性には優しいとかそういうやつか?

…………え、なんかゾワッとしたんだが。

…なんか、視線?

あ、もう考えないようにしておこう。

なんか気味悪い。

今、やらないといけないことを考えよう。

…まず、しないといけないことは情報収集か?

ココがどういうところなのか、どうやったら脱出できるのか考えないといけない。

あと、この女性のこともな。

…正直言って、最近の出来事のせいで色々と疑り深くなってしまっている。

その出来事の最たる例はこの状況だがな!

……この女の子が俺にとって敵になるのか、味方になるのかどうか考えないといけない。

「君の名前は?」

「阿子。酒匂阿子です」

「了解。俺は笹原敦」

「敦くん、一緒にここから脱出しよう。」

「どうやって?」

「わからないけど…私はあなたを信じてる」

それって…俺のプレッシャー増えただけじゃね?

………取り敢えず、この女の子は敵にならないってことでいいのか、?

俺はどうすればいいんだ?

まずはココがどういうところなのか分かる必要がある。

とりあえずこの拘束を解く必要があるな。

「阿子ちゃん、この拘束解くの手伝ってくれないか、?」

「あ、はい!あの、私のことは呼び捨てで呼んでもらって大丈夫です!」

「そうか、わかった。俺のことも呼び捨てでいいからな。」

「はい!」

俺は、阿子と一緒に拘束を外した。

まずは部屋の中からヒントを探そう。

「おや、あれ、なんで二人が一緒に…?」

見ると、さっきの闇の支配者がいた。

さっきは見えなかったが、真っ黒な服装に身を包み、肩まで伸ばしたくせっ毛は片目を隠している。小柄に見える長身で、戦うと弱そうな感じだった。

「お菓子をお出ししようと思ってたからちょうどいいです。どうぞ、これ」

そう言いながら彼は真っ黒な、お菓子とは言い難い物体、強いて言うなら石炭?を出してきた。

「…これ、食べても大丈夫なやつか?その、毒とか入ってないよな………」

「失礼な。僕が頑張って作ったんですよ!」

いやいやいや。どう考えても食べ物じゃないって、これは。もしかしてあとでどっかで使う燃料か?

とりあえずなにかに使えるかもしれないからもらっておこう。食べはしないが......

「あ、ありがとうございます」

「食べてよ?」

「え」

「食べてよ?僕が作ったんだから」

「いやいやいや」

「いやいやいやって、これから君たちの食事作るの僕だよ?」

最悪。死ぬじゃん…。

「あ、もしかして色?色を気にしてる?」

「あ、はい」

「ほら僕、闇の支配者だからさ、なんでも黒くなっちゃうんだよねー」

心配………。

「ちょ、ちょっと今お腹空いてなくて...」

ナイスだ阿子。

「え〜それはないっすよ!僕頑張って作ったんだから!!」

「俺らはお前のこと信用してないの!わかんないの?」

「え………」

彼は持っていたお盆を落とした。それに乗っていたきれいな模様のカップとソーサ―が次々に落ちて割れた。

「考えてもみろよ、いつの間にか変なところにいて変なやつに変なもの出される気持ち」

「そりゃ、僕だってこんなところにいたくないですよ!!!」

「どういう意味だよ!ここに連れてきたのはお前じゃないのか...?」

「そ、そうですよ!ここはあなたの世界なんでしょう!?ここから出して!!」

阿子は今にも泣きそうな顔でそう訴える。

「違いますよ!そうですよね、闇の支配者とか言いましたしね。でも僕だってあなたたちと同じ立場なんです!働かされてるだけなんです!!じゃないと『お前が一番大事に思っているやつを殺す』って脅されてるから!!馬鹿ですよね、こんな」

そう言って彼は静かに涙をこぼした。

…どうしよ。

なんというか、こいつも苦労してるんだなぁ、って思った。

うーん、極限状態に置かれているせいか、思考が鈍くなっている気がする。

というか、闇の支配者(自称)ねェ……。

「お前、ココで働かされてるんだよな?」

「………えぇ、まぁ…」

ずびっ、と鼻をすすりながら答える闇の支配者(自称)。

「………お前は黒幕を知っているのか?」

「…わかりません。僕も突然連れてこられて、何処からか声がして。『働け』って…さもなくば『お前が一番大事に思っているやつを殺す』と言われて…。

一応、いやだ、と言ってはみましたが……『お前の家族から殺してほしいのか?』と言われるだけでしたね…。」

「お前はココについての説明をされてるよな?」

「え、」

「少なくとも、ココの構造や何が行われるのかは把握しているはずだ。」

知っているのは飯を作るところだけなのかもしれないが、ココから脱出する鍵にはなる。

「……場所を知っているのは厨房だけですね。…何が行われるのか、は……」

と、そこで言いづらそうに俯く闇の支配人(自称)。

…何か脅されてるのかね?

「家族なんて、僕はどうでもいいんですけどね」

「え」

「家族、というか―――僕らを捨てた親なんか、どうだっていいんです。妹がいましたが、死にました。何の罪もない小さな少女が。この手で幸せにしてやることもできないまま。死にました。あのかわいそうな妹が。死んだんです。」

……。

「…ッ……!」

阿子が、短く息を呑む。

可哀想、か。

「…。」

「あなたたちはきっと立派な親がいて幸せに暮らしてたんでしょうね」

「立派な親がいるからって幸せなわけじゃない。まぁ、俺の父は立派だとは思ってるけど」

母親がいないことなんて、今更どうでもいい。それに、この闇の支配者(自称)の言う通り俺は幸せだったのかもしれないわけだし。

……………あ。

「…なぁ、お前。お前ってさ、妹さんに幸せなのか聞いたことある?」

「……とりあえずお前って呼ぶのやめてもらっていいです?お前お前言われてると昔のこと思い出してしまってですね―――」

「だってお前の名前知らんし」

教えてくんなかったじゃん。

「また言った。だから、闇の支配者さまって呼んでくれればいいじゃん」

「ん? どうした闇の支配者(自称)。」

「(自称)を付けないでください!!」

カッコ自称って言ってるところからして悪意しか感じませんね、と苦いものを噛み潰したかのような顔で言う闇の支配人(自称)。

「だって自称でしょ。」

「違いますよ。そうやって名乗れって言われてるんです。これだって仕事ですよばかばかばか」

「そうやって仕事ばっかに取りつかれてると体壊すよ?」

ほら、ワーカーホリックとかってよく言うじゃん。

「余計なお世話ですっ。逆ですよ逆。仕事をやん、ないっ、とっ……ッ゛…!」

「どうした闇の支配者(自称)?!」

「痛い、いた、あ、痛、あぁああ、ああ゛、あ゛あ゛あ゛…ッあ…すいません゛、やる゛ッ、やります、痛いッ……ぁ、あああ゛…」

頭をかきむしりながら、痛がる闇の支配人(自称じゃなかったらしい)。

「支配者さんっ…!?」

倒れかける彼に、阿子が駆けつける。

「大丈夫ですか?!」

「ぐ、あ゛……来ないで。来ちゃだめ…来ないで、あぁ、あ゛来るな゛来るな、だめっ、あぐ…ッ」

ぶつ、とテレビの電源が切れたような音がして、支配人の身体が崩れ落ちる。

「お、おい!!どうしたんだよ」

流石に俺も心配になり、支配人に近づこうとする。

彼の悲しそうな、目を閉じた顔はとても美しかった。年齢は俺よりも一回り上の、十八、くらいだろうか。

«アハ、アハハハはハハハハハハ»

「ウッ...。な、なんだ!?」

突然頭が誰かに殴られたような衝撃を受けた。それと同時に誰かの笑う声が頭に響いた。

「あ、これ、あれだ。小説で読んだことある」

阿子が、思わずこぼれたという感じでポツリとつぶやく。

「なんか、あれでしょ?ほら、操られてるパターン。あーあ、つまんないの。」

……阿子さーん? さっきとなんかキャラ変わってません?

「いや、つまんないって…」

「冗談だよ。つまんないなんて言ってる場合じゃない、いい鍵だわ。おーい、闇の支配者さん!」

そう言って阿子は闇の支配者に近づき、彼の額に手をあてる。

うーん…。なんだかわざとらしい。やはり、余り関わるべきではなさそうだ。

「聖なる神よ、私に力を与えたまえ」

…………………………………………………ん? え、なんか厨ニっぽいこと言ってないか??

え、本格的なアタオカ?

それとも、二重人格か何か??

「あ、だめだ。やっぱ小説と同じとか、そう簡単にはいかないみたい」

……あ、ただのオタクだった。そりゃそうですよねぇ。…そんな簡単にいったら意味ないじゃねぇか。そんな簡単にいったら最近の小説ラノベの修行パートなんざいらねぇんだよ。

 その瞬間、闇の支配者が目を開いた。

「!!」

「俺は生きているか。生きているのか」

なんかどっかのラノベに出てきそうなこと言ってる。

「生きていますね」

「ッチ。今日こそは許さねぇ!!!」

こっちのほうが二重人格だったぁあああ!!!!!

え、阿子じゃないんかい!!

「あれだろ、巻き込んで悪かった。まあ俺の意思じゃないけどな」

彼はそう言って懐から短刀を取り出した。

「死ぬんですか!!」

「馬鹿言え。俺が死んでどうする」

正直、展開についていけないが、まって、強そう。戦ったら弱そうとか言ったやつ誰だよ。前言撤回………というか、別人格だから別にいっか? うん。

え、俺が死んでどうするですって?

うわぁお、ボスっぽいこと言ってる。

「…草…」

アッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ。

「は?」

わあ怖い。

眼光だけで人が殺せそうだね☆

…って、そんなことはどうでも良くて。

「取り敢えずお前は誰だ?」

「まだここで本名を言うわけにはいかないから、まあ闇の支配者と名乗っとく。これが俺の本性だ」

理解不能。

「さっきのは?」

「なんだろ。仕事モード?」

自分でもわかってないのか………。

「二重人格ではないってことですか?」

なんかさっきの感じだとタメ口で話せてたけど、コッチだと敬語になるな。

しかも一人称まで変わってるし。

「二重人格だと思ってたの?」

そりゃ思うわ。

こんな豹変されてて思わないわけ無いでしょ。

「草」

「今度はお前がそれ言うんかい。」

「ヤボな突っ込みやめろよ。俺のほうが年上なわけだし」

年上…今なら納得。

「知りませんよ」

「まぁ年齢なんてどうでもいいんだけどさ」

「どうでもいいこと多すぎません?!」

てかどうでもいいなら話すな。

「うるさいなぁ。えーと、名前なんだっけ?」

「名前知ってたんかい…。」

「知らねぇから聞いてんだよばか」

「え、知ってて忘れたんじゃないの?」

「そこまで耄碌してねぇよばか。俺が何歳に見える。ばかか」

馬鹿馬鹿言われると本当に馬鹿になりそうだからやめてほしいんだが…。

「十八くらいっすかね」

「残念でしたーwww。十七です」

十七も十八もおんなじようなもんじゃねえか!

…というか、さっきから阿子がなにもしゃべってない。

なんだ、どうしたんだ?

「阿子、大丈夫か?」

「………」

その視線の向けられた先は、彼―――闇の支配者の姿だった。

「おい、何ボーっとしてるんだよ、おい!」

俺は彼女の耳元で言う。

「あっ…ごめん、いや、あの、かっこいいなぁ、って………」

………。

「リア充爆発しろ」

「は? 何で俺に中指立ててきてるわけ?」

困惑した顔をする闇の支配者。

うーん、ギルティ(有罪)。

「あぁ、リア充といえば。」

「?」

「この世界で知り合ってリア充になりやがった輩がいたなー」

お前もそれになりかねないぞ…。

「とりあえずここから出たいんだけど」

「じゃ厨房行くか。いいか、余計なことはするなよ」

「何歳だと思ってるんですか」

「十歳くらい」

「十五ですよ!!」

「で、名前は?」

結局まだ言ってないんだった。

「俺は笹原敦です」

「あ、あの、私は、酒匂阿子です。えーっと、えっと、たくあんが好きです!」

たくあん?

「たくあんか。俺の妹も好きだったな。毎年一緒に作ってた。今となってはもう一緒に作れないんだがな…阿子ちゃん、今度一緒に作ろか」

(リア充かよ......ん?)

なんとなく違和感がある気がした。たくあんでかぶるなんて珍しすぎないか...? まぁ、そんなこともあるか。

ていうかやっぱ女子にだけ優しいのかよ!!

「俺のことは都と呼べ」

「みやこ…?」

「そのほうが呼びやすいだろ。めんどくさいから敬称はなし」

「都......」

阿子がボソボソとなにか言っている。だが、声が小さすぎて俺には何も聞こえなかった。

「いいな。行くぞ」

闇の支配者改め都はそう言うと、奥へ奥へと歩いていく。

「これからは黒幕と関わりがあるやつも出てくる可能性がある。気をつけろよ」

怖いこと言うなよ。

「大丈夫だ。俺がいる」

地味に頼もしいのムカつくな。とりあえずついていこう。


 ❊❊❊


「……………。」

うげえ、と顔をしかめる。

めちゃくちゃホコリが溜まってるし、蜘蛛の巣もはってある。本当にココ厨房か? と思う程汚い。

レンガの壁は所々崩れてて、ひび割れている。

床なんて、埃のせいで歩いたところに足跡がついてしまうくらいだ。

だが、極所のみきれいに掃除がされていて、恐らくそこで都が料理をしたのだろう。

というか、ちょっとだけ掃除するくらいなら他のとこもきっちり全部やれよ。

…ちょっと 意外だったのは、阿子が蜘蛛が大丈夫そうだったことだ。

ほら、よく女子じゃなくてもあるやつだけどさ、虫こわーいって言うやつ居るじゃん。

あれで進まなくなるのも嫌だったし、そこは安心した。

……あ、ちなみに俺は虫全般大丈夫だ。

何なら、蛇が好きだな。……蛇は爬虫類か。

まぁそんなことはどうでもいいとして、取り敢えず都について進む。

というか、ココが厨房だと思うんだが、まだ進むのか?

と、何故かある扉の前で都が止まる。

「…ま、俺が案内できるのはここまでだな。

コレ以上行くと………わかるだろ?」

ああ、さっきの現象か。

かなり痛がっていたからな。

というかアレってどういう原理で起きてるんだ?

頭を掻きむしっていたから頭になんかあるのかもな。

「……あの…その扉って……。」

「ん? さあな。俺もここからはよく知らない。ただ、俺は入るなとは言われてる。」

入ろうとしたことはあることはあるけどな、と彼は付け足した。

「まあ、気を抜いたらだめだよ」

「…俺たちはどういう扱いになる?」

「あなたたち? ……実はそれが僕にもよくわからないんだよなぁ。」

…先程から思っていたが、コイツ、最初の闇の支配者とやらの口調に戻ってきている。

だから俺もタメ口で話してしまっているのだろう。

「というかお前、タメ口だったり敬語だったり何なんだよ。」

「……最初の仕事モード(?)のお前にゃタメ口で話せるんだが、都となると敬語になっちまうんだよな…。」

「ああ、そういうことか。確かにちょっと仕事口調に戻ってきてたかもね。…んー、僕的にはどっちでも良いよ?」

そんな事言われてもな…。

「まあ、でもこれから仕事仲間とか、黒幕関係のやつにも会うかもってわけだから、仕事口調でもいいか?」

「俺は全然かまわない」

人の口調とやかく言ってるほど暇じゃない。

「ありがたい。」

都はそう言って、さっきの扉を軽くノックする。

「誰だ」

「僕です、闇の支配者」

「おう、ヤミーか。」

扉が開き、中から全身黒タイツの怪しい男が出てきたかと思うと、都はそれを横から殴り倒し、その懐からピストルを盗る。

「なっ…ヤミーお前…っ?!」

「おおっとぉ、手が滑ったぁ!ごめんなさぁい♡」

都はそう言って、その男を踏んづけて、俺と阿子の手を引いて走り出した。

「なるべく体制低くして。俺につかまってたら大丈夫だから」

都は五十歩ほど走って加速した後、強く地を踏んで、前のめりの体制になり、そのまま、扉の方から吹いてくる追い風に乗った。

「地面から足を離して、大丈夫だから。俺から手を離すなよ」

「「え、!?」」

まさかの小さい時からの夢だった空中散歩ができる日が来るとは.....

空中散歩どころの状態ではないけれど。

「どこに行くんですか?」

「ここは迷宮だからな。目指すは中心部だ」

空を飛んでいるのは未だによくわからないが、楽しいということだけは伝わった。

「まずい。第一ボスだ」

「第一ボス?誰です?」

「俺がそう呼んでいるだけだが、俺らに直接命令を出してこき使ううざいやつだ。俺はそいつの上にも同じようなボスがいると考えている。」

「じゃあ都は最下層ってことですか」

「言い方悪いな。まぁ、そういうことだ」

「へ〜最下層なんだ〜」

俺は全力で煽ってやった。

「お前をここから落としてやっても良いんだぞ…」

もう煽るのはやめておこう。

「お前、かわいいんだな」

「え?」

俺は都の顔を見たが、彼はフッと笑ってそれ以上なにも言わなかった。

なんだよ、今の。馬鹿にしやがって…。誰がかわいいなんて言われて嬉しいかよ。

男に言われたら逆に気色悪いだけだわ。

「ところで都、頭は大丈夫なのか?」

「俺の頭がおかしいみたいな言い方はよせ」

「その…、頭痛が、だ」

「まぁな。するにはするが、俺の制御能力も高まったな。」

するにはするんかい。…時々顔歪めてたのはそのせいか。

というか、頭痛っていう表現であってたんだな、それ。

「…そうか」

ま、気にならないなら良いんだが……。

あんなに痛がっていたモノをそれくらいで封じ込められるものなのか?

それとも、あの痛がりも演技だとか……。

いや、それはないか。

「何だ何だ、ツンデレか〜?」

「ふざけんな違ぇよ」

ま、こんな軽口も叩けるんだから大丈夫か。

「あのぅ、第一ボスとやらさんがこっち向いてるんですが……」

「あ。」

阿子に言われるまで完全に忘れてた、という顔で都が前を向く。

俺もつられて前を向き、第一ボスとやらを視界に収める。

「うわ……。」

キモチワル…。

何だあれ。

…形容するならば、蛙とミイラと蛇とコオロギと蜘蛛を合体させてごちゃまぜにした感じ?

……いやキッモ。

阿子は流石に無理だったのか顔を背けてうえぇ…と小声で何やら言っている。

「よぉ、第一ボス。」

え、そんなフランクに話しかけて大丈夫なやつなのコレ。

“…何をやっている闇の支配者。お前には部屋の管理を任せたはず。部屋の中のモノまで連れて、何のようだ?”

嗄れたおじいちゃんみたいな声が聞こえてくる。

コレが第一ボスの声か。

「ハハッ、いや、此処を通らせてもらいにな。」

お前軽すぎだろ!!

てか、仕事モード消えてね?

一応上司じゃないの?

“…そういうことか…。今年もこの時期がやってきたのか…。”

『この時期』?

…というか、今年とかってわかるのか? この閉鎖的な空間で?

コイツはつまり、何らかの手段で外部に接触することができる、又は外部の内容を知ることができる。

都の上司みたいだし、色々と知ってそうだな。

どうにかして話を聞き出したいが…。

“……闇の支配者よ、気をつけると良い。……此処はただの狩り場。己が身など、矮小なものでしか無いのだから…”

そう言って、虚空にとけていく異形。

え!?

ちょっと待って、なんか戦闘とかあるんじゃないの!?

えっ!?

身構えてたんですけど!?

「………まじかー。」

都も想定外なんかい!

てかなんかかっこいい事言って消えてったなあのボス!

そもそもボスってなんだよ!

あんな簡単に通してくれるんなら居ても意味ないやんけ!!

……え、何のためにいるのあいつ。

「…………うん、意味がよくわからないけど上に上がれるみたいだから家探ししてから上がっていこうか。」

あ、都が思考放棄してる。

って、家探しすんのかい。

「だめだ、やっぱり―――」

え?


―――暗転。


 ❊❊❊


「!?」

目が覚めると、外の景色があった。

見たことのある場所。

体が動かせない。なにかに拘束されているようだ。

この状況も、この場所にも。見覚えがありすぎて。

「あ〜。やっと起きた〜!おはよう。」

「都?」

「はぁ? 何いってんの〜? 都?? 違うよ? 昨日も会ったじゃん?」

…。覚えのある会話。

「……闇の支配者…。」

「おー、正解正解!」

…なんで、何で此処に戻ってきてる?

「んで、正解した君にご褒美!!

君の願いを叶えてあげてま〜す!」

前の、会話と同じ。

「願い……。」

「言ってたじゃん、逃げたい、って」

「………言ったな、そういや。」

…言ったが、お前に願っているわけじゃないんだがなぁ…。

「僕の世界で願ったんで、僕に頼んだのと同義なわけでして。君はここから抜け出せないですよ。だって君の願いの中ですしおすし。

あ、ちなみに、現実での時間は止まっているようなものなので、ご安心を!!」

全く安心できないな…。

取り敢えず、阿子を探そう。

………あれ? 居ない…。

「…あのぅ……。」

え。

「すいません、あのぅ…貴方は……?」

阿子、じゃない。

阿子じゃない女の子が、座っていた。

「え…。」

「あ、あぁ、私、変なものじゃありません!!

柊、水穂です。柊の木の柊に、水に稲穂の穂で…柊水穂ひいらぎ みずほです。」

どうやら、返答のない俺の視線が変な人を見つめる視線に見えたようで、慌てて自己紹介をしてくる。

柊さんは癖毛の黒髪を一つに束ね、青い縁の台形の眼鏡を掛けている、同い年くらいの少女だ。

服装も制服だが、俺はその制服を見たことがなかった。

「あ、俺、自分は笹原敦です。笹の原っぱって書いて笹原。……あの、中島敦って知ってます?」

「中島敦………ああ、『山月記』の! はい、わかりますわかります!」

「あの人の敦と同じ字で敦、です。」

おお〜、と感心したようにパチパチと拍手をする水穂さん。

え?

この子…拘束が…無い?

「あっ、拘束とけてないんですね! 今、解きます!」

―――ばぎん!!

へ???

まっていまなにえ?

「…え?」

今目の前で何が起こった??

え、拘束を素手でぶっ壊した?

拘束が無いのはそのせいか。……………え?

ぶっ壊した??

「あーあー、また壊しちゃったんですか水穂さん……。」

え、あ、都…闇の支配者。

「えへへ…。壊すつもりはなかったんですけど壊れちゃいましたね〜…アハハ…。…わざとじゃないんですよ!? 本当に!!」

じとりとした闇の支配者の視線に耐えられなかったのか、ブンブンと手と首を振って違う違うとアピールする水穂。

「…ぷっ、くくく、あははは!」

面白いな、この子……。

「ちょ、笑うのは酷くないですか! 笹原さん!!」

すまん、とまらん。

「す、すいません。あまりにも面白すぎてっ...。」

「もぉ〜!!」

水穂はぷくーと頬を膨らませ、怒っているようだった。

ただ、頭の中では?が飛んでいた。

この場面に似ているようなものをさっき見ていた。しかし、阿子ではなく水穂になっている...?

どういうことなんだ。都も闇の支配人のままで変わらない。さっきのほうが夢......?

たしかに空は飛んでいたが.......。

何が起こっているんだ? …重なるところもいくつかある、だが、決定的に違う部分がある。

阿子と、水穂だ。

……あの夢のような中で、最後に聞こえた言葉。

―――『だめだ、やっぱり』。

そこからは聞こえなかったが、なにか続けていたようにも思える。

そもそも、あの声の主は誰だ?

「お二人が一緒に居てくれたのは丁度いいですが…。ああ、はいこれ。お菓子です。」

「…なっ、なんですかコレ!! 真っ黒じゃないですか!!」

お菓子じゃないでしょう、絶対!! と叫ぶ水穂。

あ、あれ。気になってたんだよなー、旨いのかどうか。

結局、都は料理が下手だったんだろうか。

ひょいっと俺は手を伸ばしてお菓子を一つつまむ。

ん。………普通にうまいな。ドーナツか?

「…よ、よく食べられますね、笹原さん…。美味しいんですか?」

「ん? 普通にうまいぞ? 多分ドーナツか何か…だよな?」

都…もうめんどいから闇の支配者で統一しよう。

闇の支配者の方を見ながら問いかける。

「ええ。ドーナツです……というか、随分躊躇なく食べましたね…。」

かなり躊躇する見た目だと思うんですが、と言う。

おま、はぁ……。

夢、というか前のやつ? 前の時はあんなに憎たらしかったけど、今回はそこまで憎たらしくはないというか、なぁ…。

うーん…。


 ❊❊❊


「おい、起きろ、なにやってんだおい、おいっ!!」

「ほへぁ?!」

気付くと、都に頭をつかまれていた。

「ちょっ…なにすんだよ!」

「なにもしてねぇよばか!」

あたりを見回すが、誰もいない。というか、真っ暗でなにも見えない。

少し肌寒い気がした。

「…ここはどこだ?」

「十一次元だ」

「はぁ?」

「くっそ…、またかよ。いっつもこうなんだよ、俺が行ってはいけない場所に行こうとすると時空の壁にぶつかって十一次元に飛ばされる。逃げ出すのがめんどくせぇ」

「逃げないのか」

「いや、逃げないとだめだろう。こんなところで死ぬのはごめんだ」

「でも逃げたことはあるんだろ」

「そりゃあ、あるさ。ただ、毎回方法が変わるんでな…」

都は指を鳴らして立ち上がる。

「お前、寒いだろ。ほら、これ着ろよ」

そう言って都は、着ていた黒いコートを俺に投げてよこした。

ふわっと、バラの香りが漂った。前も嗅いだような…。

「あ、まって、都。阿子は?」

「いない」

「え」

阿子が…消えた?

「あいつは…時空の壁に跳ね返されたようだ」

「というと?」

「十一次元空間に入ってこれなかった、ということ。その方がいいのかもしれないが」

「じゃああいつ一人なのかよ」

「そういうことになるな…。めんどくせぇやつらにつかまってないといいんだが」

薄情なやつだな!あいつがいまどれだけ不安かくらいわかってやれよ!!

…あれ?あの、水穂とかいうやつは、どこへ…。もうどっちが夢なのかわかんねぇ。

「くっそ…。あぁ、本が読みてぇ」

いきなり何の話だよ…。まあ良いか。

ちょっと休憩してから行くのも良いだろう。

「なんの?」

「ヘッセかな」

ああ…文学オタか。

…ヘッセ…っつーと、あれか。ヘルマン・ヘッセ。

『少年の日の思い出』とか、『車輪の下』とかの人だ。

中一の時受けた授業で『少年の日の思い出』が出て、「そうか、そうか、つまり君はそういうやつなんだな」っていうセリフが地味に怖かったのを覚えてるわ。

「名人伝知ってるか?中島敦の。まあ、名前が同じ文学者の作品くらい知ってるよな」

「弓矢の名人の話っすか」

いきなり日本文学。

「うん、まあ、そうだな。俺、あの話すごい好きでさ」

「山月記じゃないんだ…」

「山月記は李徴が俺みたいでいたたまれないんだわ」

「どこがだよ。」

「プライド高くて、妙に自虐的なとことか、詩書いてるし、センス似てるし、ああ、もしかして俺って虎になるかわりにここで働かされてるのかもしれない」

…うん、もういいわ。

この話は此処で終わりにしよう。

「……話は変わるが、此処はどういうところなんだ?」

「いつもの法則的に、ここは多分……。」

と、そこでキョロキョロとあたりを見渡す都。

「伏せろ!」

「えっ」

「ばか、はやく。死んでも知らないぞ」

「おふっ」

都に頭を押さえつけられ、俺は顔を地面にぶつけそうになった。

「ちょ、なにすんだよっ」

「しっ。さらわれたいのか」

「えぇ?」

ビュッ、という音がしたかと思うと、でかいこうもりの大群が頭上をかすめていった。

「ここはこれがあるからなぁ」

「…怖」

やばい。都がいなかったらこうもりにさらわれてた…。

「どんくせぇやつ。お前、それで本当に男かよ」

「多様性ですぅ」

というか、仕方がないだろう。

いきなりコウモリが出てくるとは思わないし。

マジで何なんだよこの謎空間。

どうやって出来てるわけ??

「ん? …というか、都お前なんでココが十一次元だってわかったんだ??」

十一次元なんてわかる様な要素あったか??

「うぐ…っ。」

すると、都は胸を抑えて苦しそうな顔をする。

「え、どうした!?」

「こ、これが無自覚っていうやつか……。」

は?

「どっか痛むのか?」

「いや…。」

「じゃあ何なんだよ!!」

わけわからん。

「………は、俺……った……説の…界なんだよ!」

「は? なんて?」

「だーかーらー!! ここは、オレの作った小説の世界とうり二つなんだよッ!!」

「はぁ!?」

そういや小説というか詩を書いているとかなんとか言ってたな、と思い出す俺。

……は?

「え、意味わからん。」

「俺もわかんねぇよ!!

だけどそっくりなんだよ、脱出方法とか!!

というかまだ書いてない、構想段階だったやつまで出てきてて気味悪いし正直気持ち悪いし!!」

うわぁ、もうこれヤケクソだ。

なんか見ててかわいそうになってきた。

がんばれ、とグッドポーズをする。

「…ゔ……。逆に惨めになるからその『あー』みたいな目やめてくれ…。」

「了解…。」

お通夜みたいな空気になったじゃねぇか。

「取り敢えず進むか…。」

「おう…。」

なんか進む前からSAN値がピンチなんだが…。


 ❊❊❊


「…………二人は、行けたかぁ。よかった…」

ほっと、一息つく。

やっと此処まで来れた。

「あー、痛い痛い痛い。」

我慢しなくて良くなった私は、思いっきり頭を掻きむしる。

「やっぱり肩代わりなんかするんじゃなかった。あ゛ーーー。」

頭が死にそうなほど痛い。

けど、私なら耐えられる。

「こんな痛みくらいならね。」

痛みには耐えられる。だけど、私じゃあ彼処にはいけない。

だから。

「だから、頼んだよ? 二人共―――」


 ❊❊❊


「右、左左左中央右!」

「右、左左左中央右!?

わ、ちょ、待てっ、ああ!!」

と、そんな事をわちゃわちゃ言いながら俺たちは進む。

都(創った本人)に先導してもらっているので、枝分かれしている道を迷うこと無く進んでいくことができている。

「左右中央右左中央中有中央右―――後ろ!」

「は!? 後ろ!?」

そう言ってバックステップで後退してくる都を避け、俺もなんとか後ろに後退する。

―――バサバサバサッ

目の前を、コウモリが飛んでいく。

「ゔわ、あっぶね…。」

「…誰だよこんなめんどくさい仕様にしたやつ。」

「お前だよ。」

「そうだったわ。」

そんなコントみたいなやり取りの後、再び進み始める。

俺はただひたすら都においていかれないように走るだけなので簡単だ。

「くっそがぁ…じゃあこうだろ、これでいいだろ!」

都はそう言って、いつだか、誰かから奪ったピストルを構えた。

「あれだっ」

いくつものドアが連なっているところを、彼は一つ見極めて、引き金を引く。

―――ズガァアアアン。

すると、壁が消え失せ、向こう側に行けるようになった。

わあお。

綺麗に鍵穴を貫通する、とかではなく、思いっきり外している。

「ええ…」

なにやってんだ、と思っていると、ゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴ……と何やら頭上から何かと何かがぶつかっているような音がする。

外したのではなくそこが正解だったようだ。

音とともに、ぱらぱら、と天井から砂が落ちてくる。

まさか、崩落するんじゃ…。

「走るぞ!!」

音に驚いていた俺の手を引いて走り出す都。

「中央、右、左右左左中央左右…あ、間違った中央だ!」

「ちょおい間違えんなよ!!」

一回都が間違えかけたが、なんとか正解の道を進めたようで、いくつか変なオブジェのある広間に出る。

―――ゴゴ…ガラガラがシャン!!!!!!

背後で大きな音が響き、先程出てきた場所が大きな瓦礫達によって塞がれてしまったのがわかった。

「…ふぅ……。あそこからはスピード勝負だからな、ほんとに。お前がついてこれてよかったよ。」

できれば何が起きるのか教えてほしかったがな!!

まあいい。

「…それで、ここからはどうやって進めば良いんだ?」

「………それがさー、言いにくいんだがさ~。

これの元になってる小説が、ちょっと試しで書いてみただけの俺tueeee系なのね? 完結まで行かなかったただのアイディアだけのやつ。だから、戦闘シーンあるのよね?」

「はぁああ!?!?!?!?」

と、そこで、タイミングを見計らったかのように周りにあった石像が動き出す。

「え、はぁああ!? 武器は!?」

「うーん、この広間の中にあることにはあるんだけど…。」

今のところ持ってるのは拳銃だけだわ、と笑いながら言う都。

笑い事じゃないだろそれ…。

「ここで出るのは一応ザコ敵のスパイダータイラント・オブスペース・ロックリザードだから。」

「は!? 取り敢えず蜘蛛なのかイワトカゲなのかはっきりしろよ!」

「あ、糸吐き出せるイワトカゲ。糸はベットベトだし注意してね。麻痺毒とかも出てくるから。」

がんばれ、とサムズアップする都。

「てか武器何処だよ!!」

「スパイダータイラント・オブスペース・ロックリザードを一匹倒せば出てくる出てくる。

あ、素手で戦うのはおすすめしないよ。酸を身にまとってるから。」

「それで雑魚っておかしいだろ強さ!!」

「俺tueeeなんだから仕方がないんだよ! それが宿命ってものさ☆」

地味にムカつくコイツ。

と、そんな事を話していると恐らくスパイダータイラント・オブスペース・ロックリザードであろうトカゲが姿を表す。

「お前もうちょっと文学的な感じかと思ってたんだが?」

戦闘シーンがあるなんざ聞いてねぇ。

「いや〜、本当は文学方面のやつしか書いてないんだけど、友人と合作しよーって事になってだね。」

ほぼ友人の趣味だよ、と遠い目をする都。

「あー。」

そういうことか。

「じゃ、取り敢えず敦くんや、いってらっさい」

「え゛」

都にトンッと楽しそうに背中を押される。

―――ガコンッッ

「は、え、ちょ!?」

踏んだ場所が凹み、思いっきり罠を踏んでしまったことがわかる。

「何やってんだ!?!?!?」

絶対わかってて今押しただろ!

―――キリキリキリキリ……ガダンッッ

「え?」

は!? あれ、処刑器具だよな!? は? 何出てきてんの!?

名前は、そうだ、アイアンメイデン!!

「頑張って逃げろー! 取り敢えずスパイダータイラント・オブスペース・ロックリザードは足止めしておくから、それでどうにかしてスパイダータイラ…ってめんどいな、ロックリザードで良いわ。ロックリザード一匹やっちまえ!」

めんどくさくなってんじゃねぇか!

おい命名者!

「ってそれどころじゃねぇええええ!」

恨むぞこんな話を書こうと提案した都の友人…ッ! 

ていうか都の野郎なんなんだよ?!

俺に任せっきりじゃねぇか。

ちったぁ自分で動けばどうなんだ?!

身体能力の問題か?もしかして鈍足とか?運動神経ナイ??

「ほらよ、」

「はっ?!」

都がピストルを投げてよこした。

コートじゃないんだからもうちょっと丁寧に渡してよ…。

「重っ」

「ピストルが重い?お前それ、大丈夫か…?」

「うるせぇよ!!通常の世界じゃこんなもん持たねぇから慣れてねぇんだよっ」

「いやいやいや…1kgですよそれ?」

「1kgって十分重いだろ」

「………。」

都はだめだこいつ、という顔をして、俺からピストルを取り上げ、俺が行くわ、と言った。

「お前はそこで待ってろ」

あれ、身体能力…。大丈夫か。

「やっほぉロックリザード!元気か!」

あ、だめだ。馬鹿だ、あれ。何やってんだよ。うわぁ。

「今成敗してやるからよ」

そう言うと、都は思いっきり地を踏んで、ジャンプした。次の瞬間には、ロックリザードの背中に乗っていた。

え、あれって大丈夫なのか。危険なやつじゃないのか。

てか身体能力………。

「こちとら原作者様じゃあ!! お前の弱点なんざ全部知ってるんだよッ!」

パン、と都が一つの鱗に対して発砲する。

「GI,GYIIIIIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

スパイダータイラント・オブスペース・ロックリザードの雄叫びが上がる。

「あっ、まずっ。」

都が失敗したー、という顔で暴れるロックリザードの背中から飛び降り、さっき飛び降りたばかりのロックリザードの下に潜り込む。

「み、やこ!?」

自殺でもするつもりなのかあいつ、と助けに行こうとそちらに駆け出すが、すぐにそれは無用の心配であったと気付かされる。

―――パンッパンッッッ

二度、発砲音が響き、都が下に滑り込んだロックリザードが塵となって消えていく。

「はぁ!?」

つっよ…。

って、そんなものに気を取られている場合ではない。

「こん、のっ! くっ、そ、アイ、アンメ、イデン、がッ!!」

途切れ途切れの息の中、どうにかそれだけ口にする。

あー痛い痛い。脇腹も痛いし、足も痛い。息もゼーゼーで肺が痛い。

あーーーーー。

「おー! マジで原作再現されてんだな〜!

オイ主人公野郎、コイツをやろう!!」

は!?

都が唐突に此方を振り返り、何かを投げ渡してくる。

「ちょ、オイ刃物ォ!!」

あっぶなッ。

ギリギリで柄を握る。

てか何なんだこの日本刀…。

「それ、先代勇者(笑)が作った『サイキョーの剣』ってやつ!

俺は銃弾なくなったから\(^o^)/オワタ!!」

「はぁあああああああああああああああああああ!?」

おま、ふざけんなよおい。

逃げて走ってなかったらお前んとこ行ってぶん殴ってやるところだったわ。

\(^o^)/オワタって、そりゃ終わっただろうな!!

「はぁっ、はぁ、くっそおおおおおお!!!」

都、お前も恨んでやるよ…!


 ❊❊❊


なんとか逃げきって、やっと外の景色が見えるようになった。

「おい、どんぐり拾ってこい」

「なんで?!」

何故にどんぐりが必要?

「いいから拾ってこい、できるだけたくさん」

パシリかよ…。都ならいいけどさ。

ていうかどんぐりなんて落ちてるのかよ。

「はやく」

…しょうがないか。


「拾ってきたよ」

「ありがとう」

籠にいっぱいにつまったどんぐりを、都は一つずつ、日本刀で(なんと!)削っていった。

「どうすんの、それ」

「ピストルにつめる」

「はぁ?!」

まじかよ、そんなことすんのかよ。馬鹿か。

「都の小説にこういうシーンあったの?」

「ないね。小説は、アイアンメイデンに追われてるとこまでしか書いてない」

「馬鹿だぞ都」

「いや、銃弾づくり慣れてるし」

「どんぐりの?」

「まぁ、何回かやってる」

「威力弱そう」

「弱くてもいいんだ」

「なんでだよ」

「俺様が強いから」

何だその謎理論。

ロックリザードたちは、俺たちが見えなくなったら動きを止め、アイアンメイデンは大きさの問題で俺たちが入った通路に入れなくて止まった。そして、曲がり角で曲がったらいなくなった。

どんぐり銃弾が出来上がると、都は立ち上がり、歩き出す。

あ、ちなみに日本刀は俺が持っている。

「取り敢えず元の部屋に戻ればアイアンメイデンVersion2が追っかけてきて、その上ロックリザードの数が倍になる。」

何だその鬼畜仕様。

「だから、裏ルートで突破する。」

そう言って、迷路のようになっている部分を進んでいく都。

「ほい、到着。」

そこにあったのは鍵穴のついた壁。

「鍵なんてあんのか?」

「あるんだなぁ、それが。」

そう言って、懐から鍵を取り出して笑って見せる都。

日本刀を持ってきたところに、鍵も一緒においてある仕様なのだそうだ。

何だそのご都合主義。

…まぁ、創作物の中だし仕方がないと言ったらそうなのだが。

―――ガチャッ

「あ、開いた。正解か。良かった〜。」

「正解?? どういうことだ?」

「ん? あー。この鍵、この迷宮にいくつかあんのよ。その中の一つがランダムで正解の鍵になるんだけど…この最初の鍵が合ってて良かったよ。それじゃないとお前をもう一回あの間に連れて行かなくちゃいけなかったからな。」

「はあ!?」

いやフザケンナ。

「…お?」

都が何かあったように声を出す。

「どうしたんです?」

「ああ、なんでもない。」

そうは言ったものの、都はそれからずっと落ち着きなく周りをきょろきょろ見ている。なんなんだよ。


「木の棒集めてくれないか」

「いいけど…」

今度はなんだ、木の棒で刀でもつくるのか。

「なるべくたくさんな」

俺と都は木の棒を集める。

「ここに適当に置いてくれ。隙間つくってな」

俺が木の棒を積み上げると、都はどこからかマッチを取り出し、火をつけた。

「木の実拾って川からでも水とってこい」

ええ…。川の水で料理するのかよ。

「食えればいいんだ、食えれば!」

都は俺の気持ちを読んだかのように言う。合理的だなぁ。お腹壊したらどうするんだよ。

俺が木の実と水を持ってくると、都は、鍋にする石を探し出して、温めているところだった。

「おう、さんきゅ」

さわやかに笑うと、どこから持ってきたのやら、パスタを煮始める。

「なにそれお前」

「パスタだけど」

「どこから持ってきたの?」

「ロックリザードの糸乾燥させたらマジでうんめぇパスタになるんだぜ」

「はぁ?!あのべとべとしたやつ?!」

「おいしいから気にすんな★」

やっぱこいつの料理はだめだ………。

とは、思っていたものの、都は手際よく木の実で具を作って、うまそうなパスタが出来上がった。

石炭?よりかはずっとおいしそうだ。料理できるのかよ。

「ほら、食えよ」

「食えるのか?」

「ああ、食える」

「…なんで最初、あの石炭みたいなドーナツ出してきてんだ?」

「ああ、あれ。あれはレシピがあるんだ」

「やっぱ毒じゃん?!」

「いや、あれは多分、ブラックペッパーとココアとシナモンと黒糖の入れすぎだと思うんだよな。食ったら食ったでおいしいぞ」

都がパスタを食べ始める。

「はぁ…じゃがいもが懐かしい」

「???」

「俺ドイツに留学しててな」

そんなに文学好きかよ。

「そんなお金あったの?」

「ないよ。親もいないし」

「じゃあ、どうやって…」

「奨学金さ。返済不要の奨学金、とったんだよ」

天才か………奨学金をとるなんて………!

「自由は、楽しかったな………」


 ❊❊❊


気が付くと、真っ暗だった。

「都?」

さっきと場所は変わっていない。のに、隣には都がいない。

思い出せ…。仮眠をとろうって話してたんだった。じゃあなんで都がいない?

戻ってくるよな…?俺が動いてややこしくなっても困るし…。

俺はそう考えてその場にとどまることにした。


 ❊❊❊


「忍か?」

さっき見えた人影。どうもあいつに似ていて―――。

敦を置いて来てしまった。

でもあいつ、ぐっすり寝ていたから大丈夫だよな。

「忍、だよな」

「誰だ」

容赦ない冷たい声は、やはり忍のものだった。

「俺、俺だ、都だ」

「何故お前がここに…」

俺は居ても立っても居られなくなって、忍に抱きついた。

「忍…、生きていたんだな。急に消えたりするから…心配するじゃないか」

「すまない。お前と一緒にここから脱出しようと思ったのだが、第一ボスに会って、気付いたらここにいた」

「ばかだ、忍のばかばかばか」

何故か涙がこぼれてきた。こいつのことなんて、どうでもいいのに。こんな冷酷なやつ、どうも思っていないのに………。


 忍は、立派な家族がいて、幸せに暮らしていたが、まだ小さいころに公害病で父と母と兄を失い、みなしごになってしまった。里子に出されたが、里親はひどく、虐待された。もうその頃からだったのではないだろうか。あいつが人の心をなくしたのは。俺があいつと知り合ったのは闇の世界だから、詳しくはないのだけれど、ずっと前から知っているような気がして、すごく惹かれた。あいつもそう思っていたらしく、俺とあいつは義兄弟の契りを結んだ。でも、あいつの心は人間じゃない。俺が敵に乗っ取られたら、あいつは容赦なく俺を殺すだろう―――。


「お前こそなんでここにいるんだ」

「忍もいなくなっちゃったし、かわいそうなやつらがいたから、そいつを連れにして脱出方法探そうかなって」

「俺を…俺を置いていくつもりだったのか?」

「え?」

忍が…忍がなんでこんなことを言うんだ?

こいつは人の心など持っていないはずなのに………!

なんでこんなに寂しそうなの?なんでこんなに悲しそうなの?

「ばか」

俺はそれだけ呟いて、一歩下がった。

流石にずっと抱きついていて気恥ずかしくなったんだよ……。

誰に言うともなく言い訳をしてしまう。

しばらく、無言の間が広がり、俺は徐々に冷静になっていく。

…あ、そうだ、敦。

「取り敢えず、お前も今の拠点に来いよ。」

「………………。お前がそう言うなら。」

行くか、と言って歩き出す。

忍は、静かに俺の後ろについてきた。


 ❊❊❊


「―――…………し…ん、……さん! …敦さん!」

ゆさゆさ、と体を揺さぶられる。

「いや痛い痛い痛い!!」

反射的に突っ込むために起き上がる。

目を開いて、最初に飛び込んできたのは闇の支配者姿の都。

そして、心配そうに此方を見ている水穂の姿だった。

「…へ?」

え、ここ、え?

……待て、状況を整理しよう。

今、俺は都と一緒に裏ルートで突破、ご飯を食べて寝てた。

んで、起きたら都がいなくて、どうせ帰ってくるだろうと思ってちょっと待ってみたけど帰ってこなかったからそのまま二度寝しているはず。

……え、大丈夫だよな? 都、帰ってくるよな?

どうしよう、この謎の夢の中にいるとどんどん不安になってきたわ…。

「大丈夫ですか、敦さん。」

「あ、ああ。はい。」

「闇の支配者さん!! その劇物に何混ぜてたんですか!!」

眦を釣り上げ、水穂は闇の支配者に抗議する。

「え、いや……。レシピ通りに作っただけで、別に変なものは入れてないと思いますよ?」

「そのレシピってなんなんですか!! 見せてくださいよ!!」

「あ、ちょ…」

別に大丈夫だと言おうとしたが、かなり興奮しているのか水穂には聞こえていないようだった。

「何処にあるんですか!?」

「え…厨房、ですけど…。」

闇の支配者もやや引き気味だ。

「敦さん!」

「へっ?」

突然、ぐいっと腕を掴まれて立たされる。

え、なに?

「ほら、行きますよ!」

「え、っちょ、どこに!?」

厨房ですよ? とさも当たり前かのように言う水穂。

「ほら、闇の支配者さんも!! 案内してください!!」

「は、はい……。」

ちょ、押し切られんなよ闇の支配者!

―――と、そんな愉快なことになっている三人は厨房に向かった。


バン、と大きな音を立てて厨房の扉を開け、

「レシピ〜!」

何処ですか〜、と恨めしそうに言う水穂。

…これは……阿子とは違った方向にやばいやつだなぁ…。

「что!? …っ誰ですか?!」

「あ…天使さん。」

都の知り合いだろうか、天使と呼ばれたその少女は、銀色に青い瞳の、日本人ではあり得ない、少しほりの深い顔立ちをしている少女だった。

「え!? ヤミーさん!? なんで此処に人が…?」

「…実は…。」

と、都が同僚なのであろう天使さん(?)と話している間、家探しをするように水穂が厨房を漁る。

………何故か、夢の中の厨房は埃などがなく、キレイなままだった。

現実ではいなかった天使さん(?)って人がやってくれたのかな?

「あったど〜〜!!」

水穂はレシピを見つけれたようで、嬉しそうにレシピを掲げている。

「えっ……。このドーナツのレシピ、信用しないほうが良いんですか?」

「確定ではないけど…まぁ。」

「そうですか……。」

こっちでも情報のすり合わせが完了したようだ。

「…ええと、こんにちは。私は『純白の天使』こと天使さんです。よろしくお願いします。」

「あ、はい。笹原敦です。よろしくお願いします。」

都と違ってすんごい真面目な感じで自己紹介された。


その瞬間突如味わったことのないようなめまいに襲われた。

そして周りの景色が歪んでいき、そして真っ暗になってしまった。

薄れゆく意識の中で最後に聞いたのは、北斗の

「つまんないの。」

という声だった。

気がつくと俺はベットの上にいた。

変な夢を見ていた気がするが、何だったのか思い出せない。

俺は特に気にすることなく。二度寝に入った。

               1ヶ月後

「よしはんじんが勝ってる。」

テレビの前で俺ははんじん対オレックスの決勝戦を見ていた。

あの後悪夢を見ることもなく、平和な毎日を送っていた。

だがたまに何故かしらない人の顔が浮かんでくることがあった。

その人に対して裕也が弱かったり一緒に勉強会をしたりしたような気もするがしていないような気もする。

すぐそこまで出てきているのに、思い出すことができない。

名前だけが思い出せない。思い出も正しいのかわからない。

そもそも思い出なのかもわからない。

そんな疑問も最近では薄れてきた。

裕也や歩美にも聞いたがふたりとも知らないという。

それどころか裕也は

「そういう勉強会はりりとやっているだろ。」

とまで言い出すのだ。

そんなことを思い出しながら、テレビの前に座っていた。

しかし明日みんなでボカリーランドへ行く予定だったのを思い出し慌てて布団へと入ったのだった。


「?」

目が覚めると、外の景色に驚いた。

ここは僕が住んでいる場所じゃない。どこだここは。

体が動かせない...。なにかに拘束されているようだ。

「あ〜。やっと起きた〜!おはよう。」

「?!?!なに、誰っすか?!」

「え~、分かんないの?」

まじで何なんだよ。突如恐怖と怒りの感情が込み上げてくる。家の中に入れられた...。どうやって!?

「わ、わからないですけど」

「ひどい。1ヶ月前は友達だったじゃない」

あれ前にも似たような会話した気がする。

それよりもこいつの、顔は笑っているのに何か見下しているような冷たい目に背筋が寒くなってくる。

横を見ると同じ状況の裕也、歩美、りりそして知らない女子二人と男子二人がいた。

年齢的には16〜18くらいだろうか。

この状況に戸惑いながらなんとか冷静さを保って名前を尋ねる。

「お前誰だよ」

「僕の名前は七星 北斗よろしくね。これから毎日ここで一緒に遊ぶ相手さ!永遠に。」

俺はその名前に聞き覚えがあったが気にしなかった。

“あーあ、捕まっちゃいましたね……。せっかくリーちゃんやあーちゃん、まこくんが守ってたのに……”

は?

―――ズキズキ

頭が、痛い。

“まぁ、こうなった以上私が働くしか無いんですが…。せいぜい、飲まれないようにがんばってください。”

なに、言って…。

―――ズキズキ

言い返そうとするのに、頭が、ぼんやりして…。

「アハハ、ほんっと邪魔。」

軽い口調なのに、とても重苦しい雰囲気をまとって言う北斗。

ぶつ、と切れた感覚がして、女の声は聞こえなくなった。

「あ…。」

ズキン、とひときわ大きな頭痛が、暗闇の中に俺を誘った。


 ❊❊❊


―――ワーワー、と観衆の声。

「勇者様!」「こっちを向いて〜!!」「なんと精悍な少年なんだ」「美しい…」「勇者さま〜〜!」「見てください!」「あなたのお陰で、私の息子は…」「ありがとう!」「きゃー!!」「こっちを見たわ!」「勇者様〜!」

五月蝿いほどに、名を呼ぶ声。

俺は勇者などではない。

彼が勇者で、俺はチガウ。

やめて、やめてくれ…

その純粋な目も、歓声も、俺にとっては罪の証でしか無い。

『お前のせいで』

『キエロ』

『貴方がいなければ!』

『ヤダ、嘘、ヤダ…』

ああ。

嗚呼。

何故、何故…。


―――何故君は死んだ、「勇者」。


暗転。


 ❊❊❊


な、んだ今の。

勇者? 罪? 観衆?

なんだったんだ?

「ふふ、ふふふ。」

「ほ、くと?」

目の前に、北斗がいた。

嬉しそうに、楽しそうに笑っている。

「思い出した? …その反応…まだかな?」

でももう一押しか、と呟いて考え込む北斗。

身体は………いまだ動かない。

だが、さっきまでいた裕也や歩美、りりたちはいないようだった。

その代わり、周りが草原に変わっている。

「改めて、自己紹介だね。

―――セブンス。よろしく、スターリア・フェルスタニア。」

は???

は?

は、あ、え。

あ、

え、


 ❊❊❊


ふんふふんふふーん、と。

敦―――スターリア・フェルスタニアが眠りについたのをみて、機嫌良さそうに笑う北斗―――セブンス。

そんな彼の後ろから、

「とあるところに、一人の少年がいました。」

木陰から、誰かが姿を表す。

「少年は、孤独でした。………孤独で孤独で―――つい、秘剣である聖剣を抜きました。」

それは、少女。

「なぜ、それが聖剣と呼ばれたそれが、秘剣となったのか。」

美しい銀髪を、風に揺らして。

「それは、ヤンデレだったからでした。」

おどけたように。

「その聖剣は、【セブンス】。

 かつて、フェルスタニア王国第三王子、スターリア・フェルスタニアが魔王を倒したと言われる剣。」

セブンスは、振り返る。

「魔物が現れたから、聖剣が抜かれたんじゃない。聖剣を抜いたから、魔物が現れた。」

美しい銀髪の少女は、眠る敦に近づく。

「可笑しな可笑しな、御伽噺。…ずっと、ずっと待っていたのでしょう? 聖剣、【セブンス】。」

セブンス―――北斗の方を、振り向く。

「まあね? 待つのは、得意だし。

 ……それを言うのなら、君もそうじゃないかな? ―――勇者とともに旅をした聖女【セイント】。」

銀髪の少女―――セイントはおかしそうに笑う。

「私のせいじゃありませんよ? ぜーんぶ全部、あーちゃんやリーちゃん、みこくんの執念です。」

みんな、前世に執着し過ぎなんですよ。と。

ポキ、と一本の花を手折る。

「………魔王とは、魔物を生み出す者のこと。聖剣である貴方を抜いた、勇者―――彼は、聖剣を抜いたことで魔物を生み出した。それは、魔王と変わらない―――」

「だから、自害したと?」

「―――そういう、ことなのかしらね? …本当に、身勝手で、面倒で、可笑しな人。」

セイントは、自身で手折った花を、ぐしゃりと握り潰した。


 ❊❊❊

同時刻

「ふーん。じゃあここはオレたちの住む世界とは違うと。」

俺・姫野 裕也はそう相槌をうっていた。

なぜか起きたら知らないところにいた俺は拘束器具を、柊 水穂と名乗る女子に外してもらった。

その後ここがどこなのかを知っている感じの都と名乗る男子と忍という男子に何が起こっているかを聞いていた。

「だけど笹原くんがそんなことをやっていたなんて知らなかった。」

そう言うのは同級生の歩美だ。

ここには俺の他に歩美、りり、そして酒匂 阿子と名乗る女子と柊 水穂と名乗る女子そして忍と都がいる。

阿子とりりは知り合いのようで再会を喜んでいるが俺も含め他の人たちは初めてあった人も多いため気まずい空気が流れている。

そんな中ダンマリを決め込んでいるのは

「北斗!」

それは1ヶ月前までよく遊んでいた後輩の北斗だった。

しかし何故かこの1ヶ月北斗のことを完全に忘れていた。

しかし今の北斗は前の北斗とは似ても似つかなかった。

「北斗。どうしてここにいるんだ。なにか知っているのか。」

このような質問は何回も投げかけた。しかし北斗はうんともすんとも言わないのだ。

そんなこんなでやることもなくみんなで雑談をしていると。

「もうそろそろだ」

と今まで黙り込んでいた北斗が急に喋りだした。

「おい何がもうそろそろなんだよ。」

と都がかまをかけるが、今までどうり黙り込んでいるままだ。

すると今まで寝ていた敦が

「う、うう、ん」

と言いながらムクっと起き出した。

「だいじょうぶか」

「チッ!お前何しやがった。」

俺たちはいっせいに敦に群がった。

一人だけ起きてこない敦をみんな心配していたのだ。

それに忍以外みんな敦とだけは知り合いのようだった。

それが北斗の不審な発言とほぼ同時に起き上がってきたのだ。

俺等は北斗に対して警戒レベルを更に上げた。

「今の世界は一体?!」

敦はかなり困惑していた。

「一体何があったんだ?」

「笹原くん具合でも悪いの?」

「こいつ張り倒しましょうか?」

という水穂に対して

「お〜怖い怖い。」

と明らかに見下した感じで北斗が答えた。

その言葉にブチッときたのか水穂が叫びながら北斗に対してぶつかっていく。

しかし水穂のタックルが北斗に当たることはなくかわりに水穂が不自然に中を浮き壁にぶつかってしまった。そんな様子を見ながらしびれを切らしたように北斗が、

「それより早く先輩の話聞いたら?」

と言ってくる。お前に先輩って呼ばれる筋合いわないっていう顔をしながら敦は語りだした。

「みんな北斗について思い出したみたいだけど僕は夢の中で思い出したんだ。そこには俺の前世の記憶が詰まってた。でも何故かその記憶の中で体を自由に動かして普通の生活を送れたんだ。」

「ぜ、前世の記憶。」

「そんな非科学的なことを信じるなんて幼稚だな。」

と忍が冷めたことをいう。

「でもその記憶では、まるでゲームのように異世界を旅する勇者になっていたんだ。」

そこまで話すと敦はその中で体験したことを俺たちに話してくれた。

それを聞き終わるとみんな信じられないというような顔になっていた。

しばらくの沈黙が続いた。しかしそれを破ったのは

アハハハ  アハハハハハハハハハ

という北斗の笑い声だった。

「やっぱり人は面白いな。ちょっとした非現実ですぐこうなる。これだから人間のコマはやめられないよ。」

その言葉に悪意はなく純粋な楽しいという気持ちだけがこもっていた。



俺笹原敦は目の前で笑っている北斗という人物に対して戸惑いを隠せなかった。

「どういうことだ。」

俺は思わず北斗に投げかける。

「そろそろ知ってもいい頃かもね。」

そう言うと北斗はゆっくりと近づいてきた。

「本当のことを言うと僕は人間じゃない。」

その言葉に水穂が目をキラキラと輝かせる。

「僕は別次元の知的生命体さ。急に言いだしてもよくわからないよね。

でも信じてほしい。僕たちは別次元からやってきている。

人間よりも高度な技術を持っているのさ。だけど僕たちは念体で体を持たない。

死ぬことはなくなったけど感情が薄れ、楽しみがなくなっていた。だからこそ人を利用することにした。人は体があり、感情も豊かだからね。僕たちは念体だから、それを活かして人の脳とリンクして、その人の想像を取り出しこの次元の狭間にその空間を作っているのさ。

だが都合良くそんな想像を持つ人は少ない。だから自分たちで作ることにしたんだよ。都合の良い想像力をもつ人間を作ることにした。だが完全にコントロール下に置くと面白くない。だから想像力を養いやすい人間を作り、後は本人たちに任せることにした。そして失敗したらここに連れてきて働かせようと思っていた。」

「それだとまるで俺たちが、」

「ようやく気がついた?そう君たちはそもそも僕たちが作り出した駒になるためだけの存在なのさ。そうそしてそのコマを使っておこなわれるのがその想像の空間をフィールドに行う人生をかけたゲームさ。

アハハハハハハハハハ。」

その言葉を聞き俺は怒りを感じた。

「ゆるせない!」

だが先に声を上げたのは阿子だった。

「私達はあなた達の駒になるために生まれてきたんじゃない。」

「駒になるために生まれてきたんだよ。君たちが巡り合ったのも偶然ではなく僕の介入があったから。さっき先輩が体験した世界はぼくがつくったRPGの世界のおためし版だよ。」

その瞬間俺の怒りが爆発した。

「お前もこっち来て正々堂々戦え。」

だが次の瞬間

“………あなたがいーっぱい動くから、私が尻拭いする羽目になったんですけれども。”

「ああ、セイント……もといシエル。」

その名の通り、天から聞こえてきた声に、北斗は反応する。

「シエル…天使さん!?」

都さんがその声の主が誰だか気が付き、声を上げる。

「「!?」」

天使さん、という人が誰なのか、忍と敦は知っていたようだった。

驚いたような顔をして、空を見上げる。

“天使さん……ああ、私をモデルにした駒の子のことですか。五六 ふのぼりしえるとかいいましたっけ?”

そう言いながら姿を表したのは、二対の羽根を持つ天使と見紛うような少女。

その容姿は、『純白の天使』―――もとい、五六天にそっくりだった。

「そうそう! 『純白の天使』だとか、『闇の支配者』とか。そういう称号を持つ駒たちは、僕の仲間たちを参考にして作ったんだよね〜。

ああ、都だっけ? 君もモデルが居るんだよ?」

「なんだと?」

「まあめったに私たちが出てくることはないんだけどね。とりあえず北斗そんな挑発のって戦うんじゃないわよ。」

「わかってるよ天。だけどさここまで育ててきたコマと腕試しもしたくない?」

すると天はだいぶ悩んだ末、

「はあ〜しょうがないわね、わかったわよ今だけね」

どうやら話がまとまったみたいなので俺が

「戦うでいいんだな。」

ときくと

「いいさ。ただし競技は鬼ごっこそしてエリアはこの空間内。人数は3人敦と都と裕也。」

「それじゃあたたかえないじゃないか。」

「じゃあ捕まったほうが人生を奪われるでどうかな。」

「北斗!!」

「いいじゃん天。うられたけんかはかわないと。」

ふたりがはなしているあいだ俺は恐怖を感じていた。

軽い勢いでいった言葉が本当になるなんて。

それに二人を巻き込んでしまった。

しかし怒りは本物だ。

二人の顔を見ても決意の表情をしている。

「それと最後に一つ約束する。これで君たちが勝てばもうこのようなことはしないと誓おう。」

「北斗!!ソレ負けたらどうなるか、」

だが天は途中で黙り込むと渋々首を縦に振った。

「よしじゃあスタートだ!それじゃあ残りの人には退場してもらおう。」

間髪入れずにいうと北斗は指を鳴らした。

すると一瞬のうちにみんなが消え出場する人だけが残った。




すると突如目の前に「鬼 北斗 逃げる チーム人間」とでてきた。

「やばい逃げるぞ。」

裕也の声と同時に俺たちは弾かれたように逃げ出した。



          数時間後

俺たちはその後何回か鬼と逃げを繰り返した。

しかしどうしても北斗は捕まえられなかった。

そして勝負を決定づけているのは、北斗が逃げるときなぜかシェルターが現れその中にこもっているのだ。

鬼の北斗もどこか手を抜いているようで底しれない。

「なんであいつだけ色々な武器が使えるんだよ。」

「知るかよそんなもん。」

そんな会話を何回もした。

「はあ、腹減ったおにぎりが食いたい」

そんななか都がそんなことをさけんだ。

「おい、ばれたらどうするんだ。いまおにだからいいけどさ。」

すると目の前におにぎりが現れた。

「どうなってるんだ!」

「もしかして想像でできているから強く想像すればそれが出てくるんじゃないか?」

「そうかだから北斗はいろんなものを出せたんだ。」

「よしこれを使えば、、」

ソレを使って裕也はなんと重火器を作り上げた。

「これで勝てる。」

「じゃあ雰囲気出すために敦号令お願い」

号令って何すればいいんだよ。

その時昔漫画で見た言葉がふと頭に浮かんだ。

「居城はここだ、血祭りだ。」

「何だよそれ。」

可笑しそうに笑い、次の瞬間に容赦なく銃火器をシェルターにぶっ放す裕也。

「やっと気がついた?」

楽しそうに嗤う北斗のシェルターは瞬く間に壊され、北斗がでてくる。

「いまだ!」

駆け出した俺と都だが、すぐに北斗の周りに現れた者たちに気がつく。

北斗の周りに現れたのは、無数のヨロイ。何処からともなくヨロイたちは剣や斧などを取り出し、此方に駆けてくる。

「は!? 動くヨロイ…って、ふっざけんな!」

都がそう言って立ち止まり、何かを思いついたかのように地に手をつく。

ボコボコボコッッと地面が浮き上がり、ゴーレムがでてくる。

「マジか…!」

都は創造しただけで現実に物がでてくるなんて馬鹿げた話、半信半疑だったのか、成功したことに驚き、少年のように瞳をキラキラと輝かせていた。

まぁ、ゴーレムなんて架空のものが作れたら凄いよな。

かく言う俺もちょっと興奮している。

「じゃあ俺は……。」

思い浮かべるのは、さっき見た光景。

するとすぐに、背中の方に何か、違和感を感じ、成功したのかと興奮する。

その違和感を動かすと、ふわり、と体が宙に浮く。

「よし!」

俺の背にあるのは、二対の羽根。

さっきいた、天って人(?)思念(?)の持っていたあの羽根だ。

そのまま、大空に一気に飛翔する。

「わわわ!?」

此方に、弓が飛んでくる。

動くヨロイたちの中に、弓の兵士もいたのか…!

俺はとっさに避けるが、何分数が多い。

さっき北斗が貼っていたシールドを思い出し、自身の周りに張る。

さて、後は攻撃手段だ。

―――『居城はここだ、血祭りだ。』

なら。

メキ、メキメキメキメキメキ、とひび割れるようなすごい音がして、背後に城が現れる。

「ははは。」

此処まで来ると凄いどころじゃない。

まずまず、俺たちを作れるというところから察してはいたが…

「此処まで作れるなんてな。」

この空間を作った北斗が本当に怖い。

背後に現れた城。

白い大理石でできたこの城は、銃火器などを備えた、オレの黒歴史の傑作である。

「あー、恥ずかし。あっははは。」

だけどそれがまさかこんなことの役に立つなんて、な。

「おま、ええぇ!? なんだそれ!」

地上で、驚いた都の声がする。

いやお前も大概な?

ゴーレムとか…え、あれ◯ジラじゃね?

何怪獣対戦始めてんの?

こん中では裕也が一番楽か…って、裕也もすげえなんか軍隊とか作ってたわ。

え、軍人たちもいっぱいいるけど、人もOKなのこれ。

「忍!」

都が忍さん呼び出してる。まぁ、都ならそうだよな。

都が忍さんに何かを耳打ちしている…と、思った次の瞬間、忍さんが消える。―――否、消えたと錯覚するような勢いでヨロイの大群に突っ込んでいく。

「は!? え、あの人本当の忍びかなにかなの!?」

「違ぇよ、ただの身体技術だ。」

「都!? って、お前も羽根つけてきたのかよ」

「まあ、そっちのほうが便利そうだったし。」

不意にくしゃ、と顔を歪める都。

「あー。どうしよ。」

「ん?」

「わかるんだよ。解っちまうんだよ。だから……あ゛ーーー。」

「はぁ?」

なんか都の様子がおかしい。が。

「目の前のやつだよなぁ……。」

天使兵エンジェルナイト、とでも言うべきか。

天使の羽を持つ、兵士。

「うへぇ…。」



ゴッ...!!

「は?」

何かが俺の頭を殴った。

俺は静かに目を閉じた。


 ❊❊❊


「ハッ!!」

こ、ここは.....

たしか俺は誰かに殺された......はずなのに......

これは現実か........?



 ❊❊❊


「敦!!」

裕也のその声で俺は目覚めた。

「畜生あいつ、想像を使って幻覚や精神攻撃もできるんだ。悔しいがあっちのほうが一枚上手なのは間違いない。」

「お前もこのまま行けばあいつがつくった割れ目に落ちるとこだったんだぞ。」

あのまま行けば本当に死んでいたなんて考えただけでぞっとする。

「だからお前を引きずってここまで来たんだ。」

「それと一つおかしなことがあるんだ。さっきから想像でモノが出せない。」

俺もやってみたが本当に出せなくなっていた。

さっきまで出していたものも溶けたアイスのように歪んでしまっている。

「どうなってんだ。」

「ソレは君たちの想像がこの世界に反映されなくなっただけさ。」

突然上から北斗の声が聞こえた。

「どういうことだ。」

「君たちはすんなりこの世界に干渉できていたからきずかなかったかもしれないけど、本来ここにはぽくらしから干渉できないんだ。だけど君たちには想像力を上げやすいように僕の念の一部が含まれているからソレを入り口としてこの世界に干渉できていたのさ。だけど元はと言えば僕の念の一部。この世界への干渉に使えないようにするのも使えるようにするのも僕の自由さ。」

そう言うと北斗は突然現れた。

そして僕らの目の前に、「鬼 北斗」

というもじがあらわれる。

「さあ、これで終わりにしよう。最後の攻防だ。君たちはこのターン、負ける。」

すると北斗から黒と金の煙があがり、北斗包み込み鬼の衣装に変わる。北斗も本気だ。

「早く逃げ、、、」

裕也は最後まで言うことができなかった。

なぜなら、北斗がその前に裕也をタッチしたからだ。

北斗と裕也との距離は50メートルはあったはずだ。

これを一瞬で縮めるなんて。

「ほら早くしないと全滅で彼しんじゃうよ。」

その言葉で僕らは全速力で走り出したのだった。




俺らは建物の中に避難すると、作戦会議を始めた。

「はぁ〜あいつチートすぎだろ。」

「だけど作戦がないと、あれはどうにもならないぞ。」

「それなんだけど、僕らがまた想像でモノを出せるようになれば鬼時間まで持ちこたえられるかもしれない。」

「そうだ忍が前にいた本拠地があるんだ。そこならまだのこっているかもしれない。」

「おい!残っているって何が!」

「とりあえずついてこい。」

そして俺は都に引かれるまま連れて行かれたのだ。


             北斗 鬼時間終了まで40分


「おきたきた。どこ行ってたの先輩。」

そうお気楽に言う北斗に対して、

「お前に先輩って呼ばれる筋合いはない!」

と返す。

そんな事言いながらも作戦が成功するかわからないしそもそもこの推測が正しいかもわからない。

「だけどみやこくんの姿が見えないな〜。怖気ついて逃げ出しちゃったかな〜」

そんなわけ無いだろと言い返したいが作戦がバレたら困る。

「そうだよ。」

「あれ、冗談でいったのにホントだったんだ。」

「おいソレよりお前が怖気づいてるんじゃないか」

「そんなことしても無駄だよ。どうせなんか無駄なあがきを考えてるんだろ。」

「そうさ。じゃああがきだ、、、打て!!」

その瞬間近くの建物の屋上にいた都が発射ボタンを押すはずだ。

そして思惑どおりアレは飛んでくる。

そして北斗はアレを見て明らかに驚いた顔をした。

「どうして、、どうしてミサイルなんかがあるんだ!!」

そう忍の本拠地から取ってきたものはミサイルだったのだ。

「これは忍が反乱のためにお前らが用意した武器から作ったミサイルだ。これならお前に攻撃できる。」

「こんなものでは倒せないよ。」

そう言うと北斗は巨大な壁やバリアなどを大量に出した。

「この瞬間を待ってたんだよ。」

そう俺はいうと、自分の中にある北斗の念の一部を外に出した。

そしてソレを想像で作った膜で覆った。

「やっぱりな。他に注意が向くと俺らの能力を抑えられない。」

さっきから能力を封じていたときは物を出していなかった。

だからこの推測を立てて注意をミサイルに向けさせ北斗の念にある処置を施したのだった。

「使える一瞬の間に、お前の念を想像で封じ込めた。この空間ならお前に邪魔されず自由にお前の念を使える。」

「いやー面白いな君はいつも奇想天外なことを思いつく。」

「そんなことよりここからおさらばだ。」

そう言って俺は都のとこに行き逃げる準備をした。


            北斗 鬼時間終了まで5分


「はあ、はあ。」

後少しで逃げ切れる。

「いたー」

そんなとき北斗の脳天気な声が聞こえた。

終わった。

そう思ったとき都の顔を見て俺の気持ちが変わった。

都はまだ諦めていない。

すると都が

「ドリャー」

と言いながら鎧軍団と一緒に突っ込んでいった。

「時間は俺が稼ぐ。」

そう叫ぶと北斗に向かって攻撃する。

しかし決死の攻撃も北斗には届かない。

笑いながら吹き飛ばされる。

俺はこの都が作った僅かな時間で攻撃の準備をする。

5分がとても長く感じる。

しかし都は北斗に触れられ一瞬で消えてしまった。

もう俺一人しかいない。

「もう諦めたら?」

そう北斗に問いかけられる。

「そうだな、、なんていうかよ!」

そう叫び俺はさっきからためていた閃光弾を破裂させる。

「!」

一瞬北斗がためらう。

その隙に俺は北斗に駆け寄った。

そして北斗が俺に触れた。

「僕の勝ちだ!」

だが俺は消えない。

北斗が戸惑っているのがわかる。

「想像はすべてを引き起こす。時間を早めることもできる。」

「まさ、、か。」

俺達の目の前には「鬼 人間チーム」とうかんでいる。

「お前の負けだ北斗」

俺は北斗から離れる。

北斗は顔を歪ませながら

「くそ、くそ、なんでだ。コマの分際で、僕に勝つナんテ。」

すると北斗が黒と金の煙のような姿になる。

やっとのことで北斗だとわかるような姿だ。

「お前も道連れだ!」

すると北斗だったものが突進してきて僕に覆いかぶさろうとした。

が、振り上げていた煙の触手のようなものの一本が凍ったように固まった。

気体ではありえない。

すると触手がガラスを割ったように砕け散った。

そしてその破片は地面に付く前に粒子のようになって消えてしまった。

そして北斗だったもののあちこちがその様になって崩れていった。

「そんな、そんなこと。」

そう北斗が叫ぶが破壊は止まらない。

どうやらゲームに負けたときの強制力は北斗でも破れないらしい。

すると北斗が最後の力を振り絞って俺に覆いかぶさった。

その瞬間すごい激痛に襲われ北斗に広がっていた破壊の侵食がこちらにもうつってきた。

そして俺と北斗はもみ合いながら、同時に消滅した。


人生を奪われるといってもどうやら人生のぶんだけ意識だけは残るらしい。

何もやることがなく気が狂いそうになってくる。

過去の記憶などに浸り現実逃避をしたり、また現実に引き戻されたりをくり返す日々だ。

最近だと現実逃避が増え、もう気がおかしくなってきた。

そんなとき急に意識が朦朧としだした。

そんなことはいくらでもある。

だがこれはいつもとは違った。

意識がとおのいているのに妙に体?の感覚が戻ってきた。

そして意識が途切れた。





「なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ。北斗の悪あがきの尻拭いなんて。」

そう、天は言うと敦の消えたからだと意識を組み上げ始めた。

「本来消えないはずの魂を戻せだなんて上も律儀なんだから。」

そう言いつつ組んだ魂と体を合わせて元の次元へと送り返した。




「敦〜!友だちが来てるわよ。」

その声で俺 笹原 敦は飛び起きた。

今日はみんなとボカリーランドへ行く予定だった。

おれは急いで準備をし、いつものグループに向かった。

メンバーは、裕也、歩美、りり、都、阿子、水穂、忍だ。

急いでみんなの元へ行こうと玄関についたとき、どこからか

「ここまで恵んであげたこと感謝しなさいよね。」

という女性の声がきこえたきがしたが、気にせずみんなに声をかけた。

「ごめん!今行く!」

<終>



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