仮面
こちらは百物語八十五話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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私は民俗学の研究をやっている者です。
昔ちょっとだけ怖い体験をしましてねぇ。
朝起きて研究室へ向かうと、同僚からあるお土産をもらったのです。
「西アフリカへ行ってきたんだ。安く買えたけど、すごく貴重な物らしいぞ。お前にやるよ」
同僚が手渡してきたのは、薄汚れた「仮面」でした。
その仮面は真っ白で、眠っている人の顔を模ったような仮面でした。少し不気味でしたが、その地域の独特な文化を感じられるようなものであったので、私はそれを喜んで受け取りました。
「ありがとう、アパートの部屋に飾るよ」
私は仮面をアパートの自室へ飾ることにしました。
事件が起きたのは、その日の夜のことでした。
「はぁ…はぁ…なんなんだ、もう…」
その夜、私は何度も悪夢にうなされて全く眠ることができない状態でした。
悪夢の内容はかなり嫌なもので、生きたまま首を切断される悪夢や虐殺に巻き込まれる悪夢。このような悪夢が、なんと数日間も続いたのです。
もう最悪でしたよ。研究には参加できないし、体調不良と心労で部屋から出ることもできない。とことん追い詰められていました。
ある日、心配した友人たちが私の部屋を訪ねてきてくれたのです。全員民俗学の研究で知り合った人たちばかりです。
「大丈夫か、〇〇?ずいぶんと痩せたなぁ…」
私の事を心配してくれる友人たち。しかし、1人だけ私より部屋の中にあるあの仮面を見つめている友人がいました。
「おい…これ…お前どうしたんだ…?」
その友人は壁に飾っていた仮面を手に取ると、恐る恐る何かを確認し始めました。
「研究所の同僚からもらったんだよ。確か西アフリカからのお土産で…」
それを聞いた途端、その友人の顔色がみるみる青ざめていったのです。
「おいおい…これ本物の『デスマスク』じゃないか!しかも『呪術』に使う儀式用だぞ!?」
その友人は海外の民俗学を専門に研究しており、民間信仰や伝説に詳しい人物でした。
「どこで手に入れたのかは知らないけど、これは呪術用のデスマスクだ。処刑された罪人のデスマスクで、西アフリカのとある地方で昔行われていた『呪殺』で使われる道具なんだぞ」
同僚が買ってきたお土産は、その国の地方で昔行われていた呪いの儀式に使用されるもので、本来ならば一般人が手にしていいものではなかったのです。
私は急いでその仮面を段ボール箱の中へ押し込むと、お土産をくれた同僚へ急いで電話をしました。
電話で同僚に事情を話すと、同僚はあの仮面を手に入れた時のことを細かく話してくれました。
「西アフリカへ行った時、V村という場所へ研究のために寄ったんだ。V村の近くにある川で休憩していると、観光客向けに土産を売っている男が近寄ってきてね。伝統の仮面の『レプリカ』を格安で売ってくれたんだ。それがあの仮面だったんだ」
あの仮面は、現地の男から買ったレプリカの仮面らしい。しかし…
「あれはレプリカじゃないよ。仮面の裏に人間の古い『皮膚』と『血液』が付着していたからね。たぶん仮面を売った男は盗人か何かで、儀式が行われた場所から勝手に盗んできたんだと思うよ。よくあるんだよ、そういうこと…」
友人はそう言うと、段ボール箱を持って私の部屋を出て行きました。近いうちに西アフリカへ行く予定の同僚がいたらしく、持っていってもらうと私に話してくれました。
数週間後、私は長く続いていた悪夢から解放されて研究に復帰することができました。
あの友人の同僚が村の人間に仮面を返してくれたらしく、仮面はすぐに向こうで手厚く供養されたそうです。
皆さんも旅行先でよくわからないお土産を売る人にはご注意を…