一抹の不安 《宇多川夢視点》
せっかく、りんごと平穏な時を過ごせると思っていた軟式テニス部の合宿に、変装をし、名前を偽った西園寺先輩が現れたのには驚いた。
取り巻きの二人はいないみたいだけど、警戒すべきなのは間違いない。
場合によっては、正体を暴いて追い出してやろうと思っていたけれど、どうやら彼女の目的は里見先輩と接触を図りたいだけのようだった。
テニスの練習相手を指名した里見先輩に怒涛の如くしごかれ(彼は、今までのトラウマにより、早く手合わせを終えたかった為と思われる)、疲弊してその場に座り込んでいる西園寺先輩に私は近付き、こそっと話しかけた。
「さ・い・お・ん・じ・先輩?」
「ハッ! わ、私の名前は西園で西園寺ではなくってよ?」
肩をビクッと揺らして、否定する西園寺先輩に私はにっこり天使の笑顔を浮かべる。
「あっ。西園先輩でしたね〜? 失礼しました! 彼女のような縦ロールの髪型で、声も言葉遣いも似ていたので本人かと思ってしまいましたよ!」
「……!☠ まさか! 私が西園寺さんな訳ないですわ……な、ないでしょう?」
西園寺先輩は、慌てて解けた髪を三つ編みに結い直しながらぎこちなく答えた。
「そうですよね? 風紀委員長の西園寺先輩が名前を偽って軟式テニス部の合宿に参加していたら、大問題ですものね?
もし、そんな事があれば私はショック過ぎて、シェアハウスの査察で起こった全ての事を全校生徒の皆様にお話ししてしまいそう……」
「なっ……! あなた何を……||||||||」
「あなたの目的が里見先輩に近づく為だけなら何もしませんが、ちょっとでもりんごに手を出そうとしたら容赦はしませんので宜しくお願いしますね?」
「っ……!」
慄いている西園寺先輩の顔を見遣り、そう釘を刺すと私は彼女に背を向け、少し離れていりんごの元へと戻った。
「夢ちゃん、優しいね。 西園先輩を慰めてあげていたの?」
「も〜違うわよ! あの人は変装した西園寺先輩だから、悪さしないように牽制しただけ!」
「え、ええっ!? あの人西園寺先輩なのぉっ?? ハッ。でも、言われてみれば、確かに名前似てるし、語尾もちょいちょいお嬢様ぽくて怪しかったかも」
呑気な事を言われ、事態を説明すると、りんごは驚いて目を白黒させていた。
「そうでしょ? とにかくりんご、西園先輩もとい西園寺先輩には気を付けてなるべく二人一緒に行動するようにしましょう?」
「う、うん。分かったよ……」
神妙な頷くりんごに私は表情を和らげ、更に注意をした。
「あと、彼女に目を付けられると困るから、浩史郎先輩にも必要以上に近付かないようにね?」
「う、うん……」
「あ、あと、男は野獣だから、他の男子部員にも近付き過ぎちゃダメよ? あと、女子部員でも何かおかしな事があったら、私に言ってね?」
「ぷふっ。夢ちゃん、過保護過ぎ……。お母さんみたい!」
「お、お母さん……?」
くどくど注意していたら、りんごに笑われてしまった。
「心配してくれてありがと! でも、夢ちゃん以外でよく関わっているのは、熱血にテニスを教えようとする松平先輩と優しい七瀬先輩ぐらいだから大丈夫だよ?」
「まぁね。今のところ西園寺先輩にさえ気をつければ、心配する事はないと思うのだけど……」
と言いながらも、ふわふわしたりんごの笑顔を前に、私は一抹の不安を拭い切れないのだった……。
*あとがき*
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