護衛役の想いと苦労
宇多川は害を成す存在である俺をりんごから引き離すべく画策し、ベッドの上で、俺が彼女を押し倒すような体勢になっているところをりんごと黒川さんに目撃されてしまったが……。
宇多川に護身術を教え込んだ黒川さんから反撃をしない違和感を指摘され、まるで宇多川が俺に横恋慕して、りんごから奪う為の画策をしているように二人に思われてしまった。
「ああぁんっ。違う! そうじゃないのっ! ただ、私は害虫の里見先輩からりんごを守る為に、その危険性を教えようとっ……」
「えっ。それって、夢ちゃんが、わざと私にこういう場面を目撃させようとしたって事??」
宇多川の泣きながらの言い訳にりんごは顔色を変えた。
「夢ちゃん……。私を思ってくれるのは有難いけど、私の為にこんな風に体を張るのは、全っ然嬉しくない!」
「り、りんご……!」
宇多川に対して険しい表情で苦言を呈するりんごは初めてで、俺は目を見張った。
「夢ちゃんは、もっと自分を大切にして欲しいな」
「その通りでございますよ? お嬢様。今回の件は黒川も肝が冷えました」
「ご、ごめんなさいっ……りんごっ。黒川っ。ううっ……、あううっ……」
二人に諭されて、宇多川は膝をつき、号泣しながら謝った。
いや、というか、まず、俺に謝るべきでは……??
「うんうん。分かってくれればいいんだよ? 夢ちゃん?」
りんごは宇多川の背を撫でてそれを宥めながら、俺にも済まなそうな視線を送って来た。
「ごめんなさい、浩史郎先輩。夢ちゃんには昔心配をかけてしまった事があるから、私の交友関係に神経質になっているんです。許してあげて下さい」
「あ、ああ……。まぁ、俺にも心配をかける原因があるのは否めないし、誤解が解けたのなら、いいが……」
俺には意地でも謝らないが、捨て身の画策もバレ、大好きな親友のりんごに厳しく注意され、グズグズになっている宇多川をこれ以上責める気にもなれなかった。
まぁ、今度何かあった時の為に、今回の件が宇多川に一つ貸しにはなるだろう。
トタトタ……。
「なんだか、また、上が騒がしいみたいですけど……、まぁまぁ、宇多川さん、森野さんどうなさったの?」
「「杉田さん……」」
「「……!」」
下から様子を見に来た杉田さんが、泣いている宇多川と宥めるりんごを前に、目を見開いた。
もの問いたげに俺と黒川さんにも視線を向けて来たが、事情を説明し辛い空気を読み取ったのか、杉田さんは宇多川とりんごに優しく声をかけた。
「まぁ、女の子は色々あるわよね? もう遅い時間帯だし、下に降りて休みましょう? 気持ちの休まるハーブティーでも淹れて差し上げるわ」
「ぐすっ……あり…と…ございますっ。ぐすっ……」
「杉田さん、ありがとうございます」
「杉田様、森野さん、お嬢様を宜しくお願い申し上げます」
黒川さんが頭を下げる中、宇多川はしゃくり上げつつ杉田さんとりんごと共に階下に下りて行く。
それにしても、いつも聡明で自信に満ちた宇多川が、りんごに少し責められたぐらいであんな風になってしまうとはな……。
大事な人というのは、強さの素にもなり得るが、同時に弱点にもなり得るという事か……。
俺がううむと考え込んでいると、黒川さんが大柄な体を曲げて、頭を下げて来た。
「里見様、私からも宇多川の者として深くお詫び致します。申し訳ありませんでした」
「あっ。いえ、黒川さんに謝って頂く事では……」
俺は慌てて手を横に振った。
黒川さんの洞察力がなければ、宇多川の思惑通り、誤解されていたかもしれない事を考えれば、こちらがお礼を言いたいぐらいだった。
あと、やり方はひどいが、宇多川の行動は基本的にりんごを守る為に成されている。
「宇多川からしたら、俺なんか大事な親友に相応しくない相手で、そうまでして引き離したいんでしょう。俺がもっと身持ちの固いしっかりした奴だったら、そんな事もないんでしょうが……」
自虐的にそう言うと、黒川さんは少し考え込むようなポーズを取った。
「いえ……、そうとも言い切れないと思います」
「え?」
「お嬢様は、里見様が間に入る事によって森野様との関係が変わる事に焦っておられるようにも思います。先程の策略はお嬢様らしくなく粗いものでした」
「……!」
そう言えば、風紀委員会への計略はあんなに綿密に立てていたのに、さっきのアレは勢いに任せた、行き当たりばったりのもので、速攻で黒川さんにもバレていたものな。
本来の宇多川なら、もっとうまくやれた筈なのだ。
「幼き頃より、宇多川の後継者として、お嬢様は常に冷静沈着で完璧な行動を取っておられました。ですが、森野様や里見様が関わる事に関しては、時折、揺らぎが生じる事があります。
側でお仕えする者として、それは心配な事でもありますが、一方では嬉しいと思う気持ちも否定できません……」
「黒川さん……」
いつもは鉄面皮の黒川さんの表情に僅かに笑みが浮かんでいた。
「ご迷惑をおかけした後にお頼み申し上げるのも図々しい話ではありますが……。里見様、どうかお嬢様の良き友人でいらして下さい」
黒川さんは、俺に再び深々と頭を下げる。
「いや、宇多川は俺を嫌っているから、友人にはなれるかどうか分かりませんが、りんごの事に関しては協力してやっていきたいと思ってますよ。何もされなければですが……」
「はい。もし、お嬢様が問題行動を起こされる事があれば、お屋敷に強制的に戻らねばならない事になっていますので、次からはお嬢様も自重されると思います。実は、今でもご報告するギリギリのラインでして……」
俺の返答に対する黒川さんの苦笑いに、彼の苦労が忍ばれるのだった……。
✽あとがき✽
新年明けましておめでとうございます✧✧
今年もどうか宜しくお願いしますm(_ _)m




