令嬢 過去の無念と今の画策
お互いに反発し合ってはいるものの、話したい事・聞きたい事がある俺と宇多川。
「えっと……。その辺にでも適当に座ってくれ」
取り敢えず自室に迎え入れ、気まずく声をかけたが、宇多川は仁王立ちのまま、カッと目を見開いた。
「いーえ! あなたの部屋になんか座りたくもないわ! 立ったままで結構よ!」
「じゃあ、勝手にしろよ!」
チッ。顔立ちが整っているだけで、本当にこいつは可愛くないな。
丁重に対応しようとする気も失せ、俺は雑にベッドに腰を下ろすと、さっさと本題に入る事にした。
「で? 話したい事って何だ? さっき言いかけていた、りんごの中学時代の事か? だったら、俺の聞きたい事と一緒だ」
「! 察しがいいじゃない。そうよ。あなたは知らないだろうけど、りんごは中学時代、ある男子と仲良くなったせいで、友達や先輩とトラブルになって……」
「ああ、その話は大体りんごから聞いている。その男子と友達の仲を取り持とうとして失敗して、どちらとも気まずくなってしまったんだろう?その上、悪い噂を流されて、結局、その男子は同じ部活の先輩と付き合い始め、三ヶ月で別れてしまったと……」
「……! りんごが話したの?」
宇多川は信じられないというように、大きく目を見開いたので、その事を知るようになった経緯を説明した。
「ああ。ついこの前、その男子と付き合っていた女の先輩と出会して、りんごの様子がおかしかったので、俺が問い質したんだ。自分からはあまり喋りたくなかったようだった」
「そうにしても……、その事を話すなんて、りんごはあなたに余程心を許しているのね……」
宇多川は唇を噛み締めると、不機嫌そうに俺に問い返して来た。
「そこまで知っているなら、あなたは私に何を聞きたいの?」
「それは……」
『夢ちゃんにまで、その男子はやっぱりりんごが好きなんじゃないかしらって言われてしまって、大喧嘩になって大変でした…!』
俺は少し躊躇い、りんごの発言を思い出しながら答えた。
「宇多川の意見を聞きたい。その男子の行動についてどう思うか?」
「そりゃ、中途半端な対応でりんごを窮地に追いやったんだから、許せないに決まってるでしょ? 例え、その男子にそうせざるを得ない事情があったとしてもね!」
「!」
眉間に皺を寄せて拳を握る宇多川に、俺はある種の確信を持って聞いてみた。
「宇多川は、その男子の事情を知っているのか? というか、もしかして、直接会いに行ったとか……?」
「……!!」
打たれたようにこちらに向く宇多川に、慌てて付け足した。
「りんごには絶対言わないから教えてくれ!」
「……。分かったわ。確かに、当時、私はその男子に直接文句を言いに行ったわ。親友の一大事だもの。黙っていられなかったのよ」
宇多川は、渋々という様子でその男子について語り出した。
「私がりんごの親友と言ったら、向こうは何を聞きたいのか分かっていたみたいで、全部話してくれたわ。
その子は本当はりんごの事が好きだったんみたい」
「! やっぱりそうだったのか……」
その話を聞いた時から推測されていたが、改めて宇多川から知らされた事実を俺は複雑な気持ちで受け止める。
「その男子は、気持ちを素直に表せずに、友達の方を褒める事があって、それをりんごが脈ありだと思って、友達とくっつけようとして来たから断ってしまったらしいの。
その後すぐに、りんごがその男子を好きだったから友達と上手く行かないよう画策したという噂が流れて、りんごに真意を問い糾した事で更に仲が拗れてしまったと……。
そこへ、同じ部活の先輩に自分と付き合えばりんごの噂もなくなると言葉巧みに丸め込まれ、付き合ったものの……。
後になって、りんごの悪い噂を流したのは実はその先輩だったと知って、別れたのだって。その男子はひどく落ち込んでいたわ……」
「うわ、エグい話だな……」
流石にその男子に同情して顔を顰めたが、宇多川は半目で肩を竦めた。
「その男子も、最初から素直に自分の気持ちを打ち明けて、さっさとりんごに振られて吹っ切ってから次に行けばよかったのよ。女子の争いに巻き込まれたりんごが可哀想だわ!」
怒り口調でそう言うと、宇多川は俺に向き直った。
「あなたもそう! 自分の都合で、りんごを巻き込んでいる! 風紀委員会の査察は何とか切り抜けたけれど、このままだと、またりんごにどんな危害が及ぶか分からないわ! 中学時代は、違う中学でりんごの境遇をどうしてやる事も出来なかったけれど、今は違う。りんごに迫る危険は私が阻止するわ!」
「宇多川! お前は、ずっとそうやって、りんごに近付く男を排除し続けるのか?
りんごだってバカじゃない。自分で物事を判断出来るだろ。
あいつ自身が望んでいないのなら、それは、宇多川のエゴじゃないのか?」
宇多川の剣幕に押されながらも反論をすると、即座に言い返された。
「! あなただって、りんごが望んでいないのにあわよくば、恋人関係になろうとしているでしょう? それだってエゴじゃないの?
「飼い主」と「ペット」だなんて言葉で誤魔化して距離を縮めようとして、やり口が汚いのよ! 私が止めるわ! 例え体を張ってでも……!」
「……!! |||||||| な、何をする気だ? 宇多川!」
俺を排除する為に、実力行使も辞さない構えの宇多川ににじり寄られ、汗を流していると……。
コンコンコン!
『あの〜、浩史郎先輩? 夢ちゃん知りませんか〜? リビングにも部屋にもいなくって……』
「りんご……!」
ドアをノックされ、りんごの声が聞こえたのに安堵して、油断したところ……。
「キャーーーッ!! りんご、助けてぇーーっっ!!」
ブチブチブチッ!
「へっ? 宇多川、一体何を……、うわっ!」
ドスーン!
宇多川が突然悲鳴を上げ、自分のブラウスのボタンを3つほど外すと、ベッドに座っていた俺に突進して来た。
バターン!!
「どうしたの? 夢ちゃん! 浩史郎先輩! ……!!||||||||」
「いてて、何をする……、……!!||||||||」
りんごが部屋に飛び込んで来る中、起き上がった俺は、前をはだけ、下着が見えている宇多川の上にのしかかるような体勢になっていた。
「ふふっ」
宇多川はりんごに見えないように俺を蔑むような笑みを浮かべた。
「……! り、りんご! これは、違うんだっ!! あうっ!」
ドンッ!!
宇多川は慌てて弁解をしようとした俺を突き飛ばし、りんごに泣きついた。
「りんご助けてっ! 話があるからって里見先輩に呼ばれて、いきなり襲って来てっ……!! こいつ、やっぱりケダモノよぉっ!!」
「違うっ!! 話があるって最初に持ちかけて来たのは宇多川で、俺は嵌められたんだっ!!」
「ゆ、夢ちゃん……! ||||||||浩史郎先輩っ……!||||||||」
「お、お嬢様っ……!||||||||」
……!!||||||||
宇多川と俺を交互に見て、オロオロしているりんごの後ろに黒川さんが立っているのに気付き、俺は人生終わったと思った。
濡れ衣でりんごに誤解されたまま、宇多川のボディーガードにのされて死ぬのが俺の運命なのかっ……!!
恐怖に硬直する俺の前で、黒川さんは呆然と呟いた。
「そ、そんなっ……! お嬢様があの体勢から三角絞めに移らないなんてあり得ませんっ……!」
「「え」」
「ええっ! じゃあ、浩史郎先輩に押し倒されたのを、夢ちゃんは嫌がっていなかったって事っ?」
「その可能性が高いです! あの聡明なお嬢様がわざわざ許嫁のいる男性の部屋に入るなどと、何かの思惑があっての事だと思われます!」
「ハッ! もしかして、実は、夢ちゃんが浩史郎先輩を好きで、自分から浩史郎先輩にアプローチをっ……!?」
「その可能性が高いです。許嫁の森野様には、宇多川の者として深くお詫び申し上げますっ!」
「い、いえ、私に謝られてもっ……」
殴られなかったのはよかったが、黒川さんが土下座してくるのにりんごが困っているのを、目をパチクリさせながら見守っていると、宇多川が号泣しながらその場に崩れ落ちた。
「違うっ! 違うの〜〜っ!!// 里見先輩なんか、りんごに群がる害虫ぐらいにしか思ってないの〜〜!!
二人共、話を聞いて〜〜っ!!」
*あとがき*
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
こんな話ではありますが、年内最後の投稿になります。
どうか皆様、よいお年をお迎え下さいませ。
よければ来年もどうか宜しくお願いしますm(__)m




