敵対者との同意
ヤモリ事件の後、腰にタオル一枚の裸の俺がりんごに抱き着くような体勢になっていた場面を宇多川に見られ、その後リビングで尋問を受ける事になってしまった。
「いや、本当に誤解なんだよ。夢ちゃん! 浩史郎先輩は爬虫類と西園寺先輩が苦手だから、ただ助けようとしただけで! 夢ちゃんの心配するような事は何もなかったんだよ!」
爬虫類と西園寺を同列のように 挙げてしまいながら、状況を説明するりんごに、宇多川は(俺に)疑わしい視線を向けた。
「りんごはそうだとしても、里見先輩に邪な気持ちがあったのかもしれないでしょ?」
「あったとして、宇多川に何か関係があるか? 俺達は仮にも許嫁なんだが?」
煽るように言ってやると、宇多川は瞳孔を開き、激昂した。
「はぁ? 何を言っているの! 私はりんごの親友よ!」
「(おおっ、許嫁と親友の対決ね)」
「(お嬢様、頑張って下さい)」
少し離れたところから、杉田さんと黒川さんが俺達の様子を生温かい目で窺っている。
「許嫁だろうと何だろうと変な男に狙われていたら、守ってあげなければならないわ! 中学の時だって……」
「うえっくしょい!」
「「!」」
宇多川が言いかけたところで、りんごは盛大なくしゃみをした。
「りんご、大丈夫? Tシャツ濡れてるじゃない!」
見れば、りんごのTシャツがところどころ水が滴っており、肌に張り付いている。
さっき、浴室でヤモリを捕まえ、俺と接触した時に濡れてしまったらしい。
「すまん、りんご。すぐ着替えて来てくれ」
「あらあら、体冷えたら、風引いちゃうわよ? ついでにお風呂に入って来たら?」
「ええ。無理はしないでお体を温めた方がよろしいかと……」
宇多川と俺はもちろん、杉田さんと黒崎さんに心配して声をかけたが……。
「で、でも、二人の喧嘩を止めなくちゃ……っくちっ!」
「わ、分かったわ。里見先輩と喧嘩しないから! だから、早くお風呂に入って来て?」
「ああ。宇多川と休戦するから、心配するな」
俺と宇多川を心配しつつ、なかなかここを離れられない様子のりんごに慌ててそう言った。
「ぐしゅっ。分かった。お風呂急いで入って来ます。本当に喧嘩しないでね〜?」
鼻をすすり、俺達を心配げにチラチラ振り返りつつ、りんごは一階の浴室に早足で駆けて行く。
「慌てなくていいぞ?」
「ゆっくりでいいのよ?」
その小さな背にそんな声をかけた俺と宇多川は、気まずく顔を見合わせた。
「……休戦中だぞ?」
「……分かってるわよ」
眉間に皺を寄せながら、怒りを堪えている様子の宇多川に肩を竦めると、俺は二階の自室に戻ったのだが……。
ベッドに腰掛けて本でも読むかと棚にある文庫本に手を伸ばしたところで、部屋のドアがノックされた。
「ちょっと……いいかしら?」
「……!」
ドアの外で凛とした女子の声が聞こえる。
ガチャッ。
「なんだよ、休戦だって言ったろ?」
ドアを開き、腕組みで廊下に仁王立ちしている宇多川に俺は顔を顰めたのだが……。
「それとは別に、話しておきたい事があるのよ」
「ほう。奇遇だな……。俺も宇多川に聞きたい事があると思っていた」
宇多川と俺は、お互いに憮然とした顔を突き合わせながらも、同意したのだった……。
*あとがき*
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