番外編 疑惑の浩史郎④
ガタガタッ!
「ちょぉっと、話があるから来てもらおうか?森野林檎さんよぉっ……!☠」
「ひいぃんっ……!||||||||」
額に血管を浮き上がらせ、1Bの教室に飛び込み、机の前に手を付き迫ると、奴は震え上がった。
「何だよ、その顔は? 知りたい事があるんだろう? 教えてやるよ。ホラ、来いって!」
「まま、待って下さいっ。浩史郎先輩っ! 私、まだ、心の準備がぁっ……!!」
他の生徒達がざわめく中、涙目のりんごを急き立てて、廊下に連れ出したところ……。
ダダッ!!
「ちょっと、待ちなさいっ!! 里見先輩!!」
「「!!」」
ミディアムヘアを翻し、物凄い速さで駆けつけた美少女が、りんごの前に庇い立ち、憤怒の表情で俺に怒鳴り付けて来た。
「すごい剣幕で、りんごに何をするつもりなの!
風紀委員に目をつけられて、注目されている時期だというのに、正気っ?」
「ちっ。宇多川……!」
「夢ちゃぁん……!」
りんごの親友であり、宇多川財閥の孫娘である宇多川夢の登場に、俺は邪魔が入ったと舌打ちし、りんごはホッとして脱力した。
「別に邪な目的はない! 俺は、ただ、りんごにとんでもない手紙を貰ったから、誤解を解こうとしただけだ!」
「手紙……?」
俺は奴に貰った手紙を彼女に開いて見せた。
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浩史郎先輩、言い辛いことかもしれませんが、正直に答えて下さい。
あなたは小学生に興味のある変態さんですか?
もしそうなら何才から対象範囲か教えて下さい。
女の子だけでなく、男の子もイケる感じですか?
私、もうその事が気になって気になって夜も眠れません。
私が卒倒しないようにソフトな言い方で教えてくれると有り難いです。
どうか、どうかお願いします。
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「ふぐぅっ……! ||||||||」
「! これって……??」
りんごが更に体を強張らせる中、宇多川は文面に目を通し、目を丸くした。
「全く名誉毀損も甚だしい! 俺はロリコンでもショタコンでもないぞ!」
「ほ、本当ですね……? 猫カフェのお姉さん(美人で巨乳)に振られたからといって、小さい子……、かっくんやいーちゃんに恋愛的興味を持ったりしないですね?」
俺が語気強く断言すると、りんごは縋るような瞳で俺を見上げて来た。
「何言ってんだ。当たり前だろう……!」
呆れてため息混じりにそう言うと、りんごは、その場に崩れ落ちた。
「よ、よかったぁぁ……! 浩史郎先輩もいーちゃん、かっくんも、大事な家族だから、もしそんな事になったらどうしようかと思っちゃったよ。うっわあぁんっ……!!」
「お、おい、りんご……」
安心して大泣きしているりんごに、俺が戸惑っていると、宇多川も驚いて、俺に続いて主張してくれた。
「里見先輩を庇うわけじゃないけれど、そういう趣向はないと思うわよ。りんごに無益な心配をさせたくないから、そこは保証しておくわね」
「そうなの?夢ちゃんまで保証してくれるなら、安心だ……」
スンスン鼻を鳴らしながらも、ようやく落ち着いたらしいりんごに、俺は問い糾した。
「どうしてそんな疑いを持つに至ったのか説明してくれないか?」
「うっ。そ、それは、その……。実は、昨日、浩史郎先輩の部屋に差し入れを持って行こうとしたら、小学生の子の写真を見ていたらしい浩史郎先輩の「俺はロリコンじゃないと思っていたのに……。柿人くんには感謝しなくちゃな……」とかいう呟きを聞いてしまって……。もしかして、浩史郎先輩は、小さい子が好きなのかと思ってしまったの」
「えっ」
問い糾したものの、りんごにたどたどしく説明され、俺は目を剥いた。
まさか、昨日、柿人くんからもらったりんごの昔の写真を見て、思わず呟いた事を当の本人に聞かれていたとは……。
「……」
「え、えーと、それはだな……」
宇多川に凍るような視線で射抜かれながら、タラリと冷や汗をかき、俺は必至に言い訳を考えた。
「き、昨日見た仮面◯イダーの映画に出て来るヒロインのファンになってしまってな? 携帯でヒロイン役の女優さんの画像を検索したら、子役時代のものも出て、可愛らしかったもので、思わず呟いてしまったんだ」
ちょっとかなり苦しい言い訳だったが、素直なりんごはすぐに信じてくれた。
「ああ、そうだったんですね! 好きな女優さんを発掘出来たので、女優さんの出ている映画を見るきっかけになったかっくんに感謝していて、その女優さんの小さい頃の写真に思わず萌えてしまったと!」
「あ、ああ。別に小さい子が好きなのでなく、好きな女優さんの小さい頃の画像だから、可愛く思えただけなんだ!」
俺は必死に、りんごに話を合わせて誤魔化した。
「あ〜、よかった! 変な勘違いしちゃって本当にごめんなさいでした。今日はの夕食は凝ったもの作りますから、許して下さいね♪」
「あ、ああ。誰にでも間違いはあるのだし、気にしなくてもいいが、夕食楽しみにしているよ」
ロリショタ騒動も一件落着し、教室へ戻りながら先を歩くりんごに、俺は罪悪感からさっきとは打って変わって、柔らかい物腰で応対していたが……。
「(里見先輩……)」
クイッ!
「!」
不意に、後ろから宇多川に袖を引かれ、低い声で耳打ちされた。
「(さっきの話、アイドルじゃなくて、りんごの事を言ってたでしょう……)」
「!!」
ギクリと肩を揺らす俺に、宇多川は目を細めて鼻に皺を寄せた。
「(やっぱり! どうせ柿人くんに交渉してりんごの小さい頃の写真を貰ったとかでしょ?)」
「(い、いや、自分からじゃなくて、
柿人くんの方から話を持ちかけられ……)」
「(貰った事に変わりはないんじゃない。持ちかけられても、普通断るでしょう! 欲のままに小学生の子に流されてどうするの! りんごにバラされたくなければ、写真は柿人くんに返して置きなさいね? この変態!)」
「うぐっ……!」
宇多川は軽蔑の瞳で口撃を加えると、りんごのところへ駆け寄って行った。
後には、(一時的とはいえ)りんごにロリショタ疑惑をかけられた上、宇多川にりんごの小学生の時の写真に萌えていた事を知られ、更にはその写真まで返す事になり、色々大事なものを失った俺だけがその場に残されたのだった……。
*あとがき*
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