飼い主の心猫知らず
ぱすっ!ガタンッ!!
ぽすっ!ガタンッ!!
!!
「「わあぁっ…!!」」
弟のかっくん、妹のいーちゃんにせがまれ、浩史郎先輩が射的で目当てのおもちゃを倒すと私は目を見開き、二人は歓声を上げた。
「兄ちゃん、いい腕してんね〜!ハイ、お嬢ちゃん、坊っちゃん、景品!」
「「やったぁ!!ありがとう!浩史郎(お兄ちゃん)、すげー!!(すごーい!!)」」
射的コーナーの係のおじさんは、景品を落とすと欲しがっていたかっくん、いーちゃんそれぞれに直接渡してくれ、二人は目を輝かせて浩史郎先輩に礼を言っていた。
うわ。何、この絵に描いたような浩史郎先輩の勇姿!
「いや。これぐらい何てことないさ✨✨いつでも言ってくれよ。」
ぐぬぬ…。小憎たらしい。
私なんか、毎年二人に頼まれ、いいところを見せようとするも、一個も取れないで終わっているというのに…。
歯噛みしている私をよそに、浩史郎先輩は、涼しい顔で二人にそんな事を言ってのけた。
「毎年りんごが張りきって取ってやるって言うんだけど、取れた試しがなかったんだよな〜。」
「りんごちゃん、一生懸命やってくれるんだけど、盛大に狙いを外すのよね〜。」
ああ。ホラね。やっぱり言われちゃった。
「ぐすん…。浩史郎先輩が優秀なせいで
姉の評価が更に大暴落…。」
私が涙ぐんでいると、慌てて浩史郎先輩が声をかけてきた。
「い、いや、慎重に狙いを定めればそんなに難しくないよ。りんごもやってみ…」
「そうなのかい?浩史郎くん、僕に射的を教えてもらえるかな?」
「えっ。は、はい。もちろん。」
私に話しかけている途中で浩史郎先輩は、お父さんにも頼まれ、射的をレクチャーして、更にお父さんの信頼も獲得していた。
ぐぬぬぬ…。
悔しいけど、ここでも浩史郎先輩には完敗…。
浩史郎先輩に最近、負けっぱなしなんだよなぁ…。
テニスの練習をしに行った時は、勝負を仕掛けるも、インナーパンツを履き忘れ、意図せず、卑怯なパンチラ戦法を使った上、惨敗。
部活の試合では、初心者の私は応援係、浩史郎先輩は、即戦力で好成績を収める。
バイト先では、私より後に入って来たにも関わらず、すぐに仕事を覚えて、いつの間にか、教育係のパートさんにも信頼され、同僚の男子とも打ち解けている。
最近は、マーケティングの難しい本を読んでいるらしくて、店長に経営について話し合っているところを見かける事もある。
私も仕事には大分慣れて来たし、接客の仕事は楽しいと思うけれど、浩史郎先輩のようにはできない。
勉強は言わずもがな。教えてもらっている立場だし。
浩史郎先輩がハイスペックなのは、元々分かってはいたんだけど、それでも、以前はもっと勝負に勝とうとムキになったり、抜けていたり、子供っぽい面もあったのに…。
今は、さっきみたいに勝っても煽ることなく、こっちを気遣ってくれる。
いい事なんだろうけど、何だか、急に大人になってしまったみたいでちょっと寂しいな…。
本当に猫と飼い主ように、対等にはなれない関係だというのに、お母さんは、私と浩史郎先輩の仲をまだ誤解しているみたいで、こっちを面白そうに見てくるし…。
その後、含み笑いをしたお母さんに、浩史郎先輩と食べ物の買い出しに行かされ、花火を見る予定の場所で、皆なかなか戻らないので、電話をしてみると…。
『ああっ、ごめ〜ん!りんご。今、遠くの屋台まで行っちゃって花火大会までに戻れなさそうなの。こっちはこの近くで見る事にするわ。』
「ええ〜っ?そうなのぉっ?でも、せっかく食べ物買ったのに…?」
お母さんに急に来られないと謝られ、私が驚いていると…。
『ごめんごめん。食べ物は全部そっちで食べちゃって?』
「ええっ。そっちで食べてって言われても…。」
『浩史郎くんと仲良くね?んじゃ、また花火大会の後でねん?プツッ…。』
「あっ。お母さん、ちょっ…。」
言いたい事を言って、切られてしまった。
もぉ〜!!
お母さん、勝手に何か企んでるんじゃないでしょうね。後で文句言ってやる…!
ふくれていると、浩史郎先輩に「家族の団欒邪魔して悪かったな」と言われてしまった。
「シェアハウスを離れてから、俺は会えなくなった猫とどうにかして接点を持とうとしているのに、君はいつも俺なんかどうでもいい感じで…。まぁ、飼い主の気持ちを猫がわからないのはしょうがないかもしれないが…。」
…!?
ガタンッ!
「そんな事ないですってば!!浩史郎先輩だって私の気持ち分かっていません!」
「うわっ。何だよ!」
私が浩史郎先輩に対して思っているのと、ほぼ同じような事自分に対して言われてしまい、私は席を立って、大声を出してしまった。
「私だって、シェアハウスを離れてから、寂しかったし、減ってしまった浩史郎先輩と過ごす時間を増やそうと必死だもん!
今回だって、私が浩史郎先輩に来て欲しいから誘ったんだし、がっかりしたのは、浩史郎先輩と家族皆一緒に花火見たかったからで…。(お母さんが何か画策しているからとは言い辛い…。)」
「…!」
一気にまくし立てるように私がそう言うと、驚いて目を見開いている浩史郎先輩を前に我に返り、しゅんと俯いた。
「その…、せっかく来てくれて、家族と仲良くしようとしてくれてるのに、浩史郎先輩に嫌な思いさせてごめんなさい…。」
「いや、いい…けど…。」
浩史郎先輩はそんな私に戸惑ったように目をパチクリさせたが、テーブルの上の溶けかけたかき氷に目を遣り…。
「えっと…。りんご、かき氷食わしてやろうか?」
私に、かなり頭に(キーンと)くる罰を言い渡した…。
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