猫からの歩み寄り
りんごに俺とは猫と人程も距離がある。越えられない境界線があると言われ、腹が立って仕方がなかった。
俺がこれから何をどうやっても、りんごの心には届かないのだと、そう言われた気がして…。
「そういう事言うなよ…。俺と君とは確かに色んな事が違うし、距離もあるのかもしれない。
けど、俺は知りたいし、近付いて行きたいとも思ってるよ。
それは俺の希望だから、君から歩み寄りがなくても構わない。
だけどな、歩み寄って同じ距離に来ているのにそっぽを向いて見ないふりをするのだけは止めてくれないか?」
「浩史郎先輩…。」
睨みつけて詰め寄る俺を、りんごは泣きそうな顔で見て来た。
猫として俺に懐いていた気持ちすらなくなり、嫌われるかもしれない。
それでも俺は踏み込まずにはいられなかった。
「りんごが中学の時に何かトラブルがあったのは、薄々気付いてたよ。」
「…!」
りんごは触れられたくない部分に触れられたように、ビクッと肩を揺らした。
「男子を避けているのは、お父さんの事だけじゃなく、その時のトラウマもあるんだろうって。でも、言いたくない事なら、無理に聞かないでもいいと思ってた。
けど、りんごにとっては、俺との関係よりさっきの先輩や周りの目の方が大事なのか?
西園寺達風紀委員会に吊るし上げられそうになった時は、髪を切ってまで俺と一緒にいる道を選んだくせに、今更何だよ!」
「浩史郎先輩…。」
俺にひどく責められ、りんごは涙目になり、俯いた。
「ご、ごめんなさい…。浩史郎先輩を傷付けるつもりでは…。」
「いや…。俺も言い過ぎた…。」
悲しそうなりんごの表情に少し頭が冷えて、ふうっと息をついた。
「……。」
「……。」
お互い気まずい沈黙の末、りんごは目をシパシパ瞬かせながら思い切ったように口を開いた。
「一緒にいたくないわけじゃありません。近付いて来てくれるのが嬉しくないわけじゃありません。
猫からだって、ちゃんと歩み寄っていけますよ?
お金貯めますから、今度は、浩史郎先輩の好きなフランス料理店に行きましょう!」
大真面目にそういうりんごに俺は脱力して言った。
「いや、別に俺だっていつもフランス料理食べてるわけじゃないんだけど…。」
「ふふっ。そ、そうなんですか…?」
りんごが、表情を緩め、笑顔になると、その頬を堪えていたらしい涙が一筋伝っていった。
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