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許嫁=猫…ではない  作者: 東音
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再びのシェアハウス(りんごの場合)



「浩史郎先輩。せーので一緒に玄関に入りませんか?」


「お、おう。いいよ。りんご、ホラ!」


浩史郎先輩は、私の子供っぽい提案をいつものように、

「は?君はバカなのか?せーので一緒に入るとか幼稚園生か?」などと冷めた目で、却下することもなく、優しく微笑むと、その大きな手を差し出してきた。


なんだか信じられない事ばかり起こるけど、これ本当に現実なんだろうか。


私は夢の中にいるみたいなフワフワした気持ちで浩史郎先輩の手をとった。


「「せーの!…わっ!」」


大きく玄関に踏み出した筈の一歩は、意外にも私に合わせて小さく足を踏み出してくれていた浩史郎先輩の一歩と距離があり、私はバランスを崩しそうになった。


ガシッ。


転びそうになった私を、浩史郎先輩が抱えるようにして、支えてくれ、私は安堵のため息を漏らした。


「ふうっ。浩史郎先輩、ありが…。」

「りんご。戻って来てくれて本当にありがとう…。」


私の言葉に重ねるように、浩史郎先輩は、私に告げた。


体を支える手に力が込められ、私は浩史郎先輩にギュッと抱き締められるような形になった。


「い、いえいえ。こちらこそ。追いかけて来てくれて…、ありが…とう…。」


私は何だか顔が熱くなり、浩史郎先輩の胸にに向けて小さい声で呟いた。



父親は中小企業のサラリーマン、母親は福祉関係のパートに勤め小1の妹、弟と5人家族でかつかつのアパート暮らしをしている森野林檎(16)は、お金持ちの多い私立碧亜学園において、カースト制度の最下層に位置する者と言って過言ではなかった。


入学して間もない頃、自分を巡って女の子達が喧嘩をしているのに逃げ出そうとしている男子=里見浩史郎(17)=浩史郎先輩に腹が立ち、彼女達の前に引きずりだしてしまって以来、浩史郎先輩とは因縁の間柄になってしまった。


更に、私と浩史郎先輩の仲を誤解して、浩史郎先輩のご両親から、許嫁とシェアハウスでの同居の話を提案された私は、その場で話を受けてしまった。


私に対して良い感情をいだいていない浩史郎先輩とのシェアハウスでの生活は、最初は大変だったけど、

次第に口は悪いけど、一生懸命で、嘘のない浩史郎先輩と過ごすのが楽しいと思えるようになっていった。


ホームシックになってしまった私に、浩史郎先輩は自分の傷になっている過去まで語って家族とちゃんと向き合うように説得してくれた。浩史郎先輩の為にも、実家に戻り、同居を解消するよう話を進めていた私だったが、何故か浩史郎先輩が実家にやって来て信じられない事を頼んできた。


「一緒にいたいから、同居を続けたいです。」

と…。


私は、嫌われているとばかり思っていた浩史郎先輩から思いも寄らない事を言われ、驚いたが、同時に嬉しかった…!

それはもう天にも上る程に。


私達はお互いに傷つけ合った事を謝った。そして、「私も先輩と一緒にいたい。」


と、気持ちを伝える事ができた。


そうして、実家を後にした私達は今またシェアハウスに戻ってきた。


正直、浩史郎先輩のあまりの変わりように、戸惑っている気持ちもある。


まだ、半分位は夢の中の出来事なんじゃないかと疑っている。


でも、浩史郎先輩のあの時の表情は本物だった。


彼が私を必要としている事は間違いがなかった。


例え、一緒にいたい理由が、家事が面倒だったとかそんな理由で、帰った途端に態度を一変させてこき使われたとしても、全然驚かない。


むしろ、納得しちゃうかもしれない。


だとしても、浩史郎先輩と一緒にいたいという今の私の気持ちは確かなもので、変わりようがなかった。


きっと何があっても、この気持ちは変わらないだろう。私は舞い上がる気持ちを抑えきれないままそう思った。


しかし、その思いが、家に帰ってすぐ揺らぐ事になろうとは、私は夢にも思わなかった

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