みづきとカラオケへ
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桜の木はほとんど花が散ってしまっていた。それを横目に見ながら帰宅部所属のゆめはとぼとぼと1人校門を出た。
「ゆめー」
いつの間に忍び寄ってきたのか、みづきが横に居た。
「カラオケいかなーい?」
「え?なんで?」
ゆめはそう言いながらみづきがここにいることに疑問がわいた。
「あんた部活どうしたのよ」
みづきは卓球部所属のはずだ。
「あ、休んだ」
「先輩に怒られないの?」
「しーっ」みづきは人差し指を口に当てた。
話にならない。みづきが歩き出したのでゆめは続いた。
「どこ行くの?着替えてお金もってくるよ」
「いいって。お金は大丈夫」
怪しい。きな臭い。
「制服はさすがにまずいんじゃないの」
「平気平気」
みづきはそう言って、何かを払うように手を振った。
「ねえ、何隠してるのよ」
「あ、見えた」
学校から徒歩5分程の所にあるカラオケボックスだ。知人に会うのを避けるため、みんなあまりここは使わない。
入口に男が1人いて軽く手を振っている。みづきの知り合い?不信感しかない。
「ゆめちゃんだよね。斎木です。よろしく」
まだ10代だろう。いかにも『モテます』的なオーラを放っている。整った顔が嘘くさい。
ゆめは軽く頭を下げてから立ち止まった。
「どーゆーこと?」
「前からゆめに会いたがってた人」
みづきの言葉にゆめは天を仰ぎたい気分だった。まさかのまさかだ。バカだバカだとは思っていたが、みづきの愚かさは本物だ。ゆめはそのバカに付いてきたおのれも心中で罵倒した。
斎木と名乗ったスカした若者がカラオケ店の入口のドアを開けて2人を中に誘い入れた。
ゆめは店内に入るとき、チラリと斎木を盗み見た。斎木はゆめと目が合うと薄ら笑いを浮かべてウインクで返してしてきた。
『サイアク…』
ゆめは小さく呟いた。