アイス当たる
7
コンビニの5台分の駐車場の端に長瀬は不貞腐れたように立っていた。やるせない表情が哀れでもある。
「ごめん」
項垂れた長瀬の頭が小刻みに揺れた。
謝るなら頼むなと言い返したい。
「エサは?」
ゆめの言葉にはっとしたように長瀬が目を見開いて
「結構食べたみたい。入れといた分はかなり減ってた」
としきりに何度もうなずきながら言った。
「 じゃあ元気じゃん」
「そうだな」
疲れ果てたと言わんばかりの長瀬の表情はゆめをいらつかせたが、口にも表情にも出さないように心がけて口を開いた。
「心配だけどしょーがないよ。誰かに拾われたか、自分で出ていったんだよ」
「・・・うん」
嫌いなものでも食べたような珍妙な顔つきの長瀬は今にも泣き出しそうに見えた。
そもそもこいつは何がしたかったのか。あんな段ボール箱で子猫を飼育できるとでも思っていたのか。飼い主を見つけるなり保健所に相談するなりしなかったのか。
いくつも疑問がわくが、こんな状態の人間にまともな回答は出来そうもないし、偉そうに正論も吐きたくなかった。
「 ねえ、コンビニ行こう」
「へ?」
長瀬が間抜けな顔が持ち上げた。
ゆめは棒付きのアイスを2つ買って1本を長瀬に渡した。
「お、サンキュ」
コンビニのダストボックスの横で包装を取って2人はアイスを口に含んだ。
「冷めてー」
片目をつぶった長瀬が小さく叫んだ。辺りはすっかり闇に包まれている。ゆめは肌寒さを感じて少し肩をすくめた。
「あんたさー」
ゆめはアイスを口から出すと、首を少しを傾けて横目で長瀬を見やった。
「ん?」
長瀬が眉を上げた。ゆめはうす暗い夜空を見上げて言った。
「あの後歩いてたの?」
「えっ、何?」
長瀬はアイスの棒をコンビニから漏れるライトに照らして食い入るように見ていた。
「いや、なんでもない」
ゆめはばからしくなってアイスを口に入れた。
「よっしゃあ!」
長瀬が拳を突き上げた。叫び声に通行人が1人振り向いた。