登校
⒉
校門の前に近づくと何だか目の前にもやがかかるときと、そうでもないときがあって、その日はわりと見渡しがよく校門前で立って声がけしている教頭がよく見えた。生徒たちの大半は頭を下げるだけで、数人だけが気持ちの良い挨拶を返していた。
ゆめはマジョリティ側で伏し目がちにひょろ長い教頭の前を通り抜けて校庭に足を踏み入れた。
教室に入ると長瀬が話しかけてきた。
「今日放課後時間ある?」
長瀬とは不思議に小5からずっと同じクラスだった。
「なんで?」
カバンくらい置かせろよと思いながらも立ち止まって答えた。
「ちょっと見せたいものっていうか、来て欲しいとこがある」
「え?部活は?」
長瀬は男子バレー部所属だったが、バレー部は人気が高く部員も多いのでずっと補欠だ。
「あー。休む」
「ふーん。いいの?」
長瀬はゆめよりだいぶ背が高いので、顔を見てると首が疲れた。
「顧問にちゃんといったから。家庭の事情って」
「わかった」
2人は互いにうなずいて離れた。
ゆめの思考はしばらく長瀬の用件に対する疑問に占められたが、みづきの声で遮られた。
「ゆめー。ちょっと聞いてよ」
眉をしかめているが口は笑っているみづきが近づいてきた。
みづきによると、インスタのDMで怪しいのが来たとのこと。なんと愚かなことに、2人で春休みにカラオケ行った時の写真を無加工でアップしたらしく、それにつられて今回の件に。さらに嫌なのはゆめにご執心らしく連絡先を教えてくれという懇願が主な内容らしい。
「あのさー。不用心じゃね?巻き込まないでよ」
「ゴメン、ゴメン」
言葉とは裏腹に表情はニヤケている。
「どうしたらいいかな?」
「どうもこうもないっしょっ。教えないでよ。てか、無視してよ」
ゆめはいかにもめんどくさいといった体で吐き捨てた。
「 だよねー。わかった」
そう言い残してみづきは隣のクラスの方へふらふら歩き去った。