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人喰い

戸惑う、狼族達を割るようにして壮年の素朴だが身形のいい狼族が顔を出してきた。


「族長のゾナン・グルシオだ。随分乱暴な呪い師だな」


「人喰いを匿ってる相手にしては穏便な方ですよねぇ?」


状況は作れたが、このまま面子の掛かりそうな場面でまともに交渉するのは浮世離れしているベルニュッケには難しい。

私は飛行絨毯から飛び降りた。


「夜魔祓いの、銀貨3枚のアイシアだ。グルシオの狼族の長よ、人喰いが生きたまま夜魔になれば手が付けられなくなる。貴方の息子達は、もう、難しい」


族長ゾナンはしばらく私の目を見ていたが、深いため息をつき、御付きの者に促した。


「デナン達を連れてこい。武装はして、必要なら薬を使っても」


言い終わらぬ内に、高台の集落の東側の土壁を突き破って、大柄な槍を持つ狼族と、それぞれ重装に武装した狼族3体が、殺害した狼族を掴み、抱えたまま飛び出してきた。


「デナンっ?! なんというっ」


騒然となる狼族達。

デナン達は死んだ狼族達の血を滴らせ、その血を美味そうに飲み、嗤った。


「アハハハッ!! なんだっ、同族の血もちゃんと美味ぇじゃねぇかっ! コイツはぁ2本()のオヅキモズも教えてくれなかったなっ! アハハハハッッ!!!」


「2本尾のオズキモズっ!」


「誰ですっ?」


短剣を抜きつつ、冷や汗をかきながらルルクも飛行絨毯から降りてきた。


「札付きの賞金首の狼族の首領ですっ。全く別の大陸で暴れていたんですがね??」


「あの人は俺達の神だっ! このクソ田舎でっ、燻りながら! ずっと信奉し、3年前からついに獣の本性を救済したっ!! そしてあの2本尾のオズキモズがっ、俺に使いを寄越したんだっ! 灰の王冠の元に集えっ、獣の時代が来るとっ!! やったっ!! 俺達の思いが通じたっ! ずっと俺達だけがオカシイと思っていたが違った! 俺達だけがっ、正気だったんだぁああっ!!!」


デナンは感涙しながら絶叫し、手下達も泣きながら遠吠えをし、闇のマナを強く纏った。マズいな、夜魔に近付いてる。


「デナンは私がっ! ルルクも手下を1体は引き受けるんだっ。倒せなくてもいい、殺されるな!」


「はいっ、師匠っ!」


「私は手下2人ですかぁ・・あ、族長達は下がって下さぁい。危ないよっ、と!」


ベルニュッケが上位凍結術の不意打ちで手下の1人を凍結させて打ち砕き、そこから乱戦になった。

ベルニュッケはすぐに火球(かきゅう)術で火の玉を連打して手下の1人を牽制しつつ他の手下やデナンやグルシオ氏の狼族と分断し、ルルクは電撃術の連打でもう1人の手下を威嚇し弱体化を狙った。

電撃術は連射に向かない。強いマナを纏う相手には通り難い。威嚇と同時の弱体化の咄嗟の思い付きにとらわれ過ぎだな。


「どこを見ているっ?!」


デナンは負のマナを纏わせた鋭い突きを放ち、突いた後に即、槍の穂先を旋回してその場を薙いできた。

普通の手練れ程度なら、2段目の攻撃で手酷く斬り付けられていただろう。

普通の手練れであればな、


「光よっ!」


既に抜いていた長剣に月の光を纏わせつつ穂先の斬撃を払い、そのまま障壁術で柄ごと押し、押した直後に障壁術を解除し操作術で取り出し紐を解いた霊木の灰をデナンにぶちまけた。


(あぢ)ぃいいっ??!!!」


仰け反るデナンの槍の柄を光の長剣で切断しつつ、袈裟懸けに斬り付けたが、負のマナと、防具の下の鉄のように強化された獣毛の肉体が硬く、浅い傷だ。だが月の光で焼け付いてはいた。

日のある内は力が乗り切れないが、押し切る!

デナンは右手の穂先側の槍で突き掛かってきたが、避けて右腕を斬り落とし、相手が石突きの方の槍を捨て左手で大きく強引に掴み掛かって来ると、爆破術で左肘裏を撃って勢いを削いだ。


「ぐっっ」


私はデナンの右膝を踏んで跳ね、回転しながら背の側に回り込み光の剣でデナンの首を落とした。


「っ?! 獣の時代は必ず来るっ、必ずだ! オズキモズがやってくれる! ハハハッ!! 解放だっ!!!」


首だけになっても喚き、デナンは骨と防具だけ残して月の光に焼き尽くされていった。

私は他の2人を振り返った。


「さよならです」


立ったまま縮小した飛行絨毯を駆るベルニュッケは上位炎紋(えんもん)術で、入り口前のあちこちを燃やしていた火球術の炎を集め、両足と武器を破壊されても襲い掛かろうとしていた手下の1人を包み込んで焼き尽くし滅ぼした。

残るは1体のみ、ルルクだ、


「わぁああっ!」


気合いを込めているが、電撃術で無力化しきれず、近接戦になったルルクは手下と互いに浅手で斬り付け合い泥試合のようになっていた。

術を使う余裕は無さそうだ。一見、互角に見えるが、夜魔に近付き負のマナが溢れる者を相手にしている。互角では相討ちにもならない。


「リラ」


「トゥ~イっ!」


私は左手の指輪からトーチテイルのリラを呼び出し手下にけし掛け、青白い尾の浄めの炎を放って全身を焼かせた。


「ああぁぁーーーっっ!! 解放ををっっ!!!」


踠いて武器を取り落とす最後の手下。


「ルルク! 簡単に止めは刺せない」


「ふぅふぅっ・・・はいっ! 光よ!」


ルルクは呼吸を整え、短剣に月の光を灯し直し、苦しむ手下の背後に障壁術を張ると突進し、体当たりの勢いで手下の防具越しに突きを打ち込み、障壁術の壁に激突させて心臓まで貫いた。


「ごぉぅっ?!」


骨と防具だけ残して焼き尽くし、どうにか倒した。


「ん~っ、まぁ下位の夜魔と同じくらいの相手でしたけど、分の悪い感じに詰められても折れてなかったですし、止めの障壁術の思い付きもいいと思いますよぉ? 後でお饅頭まだあるからあげましょう」


「お饅頭・・」


「ルルク。殺されるな、という指示はよく完遂した」


「はい・・もっと頑張り、まぁす・・・」


ルルクはその場に昏倒してしまった。すぐにリラ駆け寄って、頬を舐めてやる。トーチテイルに舐められると浄化され、マナが少しずつ回復する。

私とベルニュッケは泣いている族長ゾナンに向き直った。


「愚かな息子達よ・・ううっ」


「オズキモズは今の暮らしに不満を持つ狼族、いや、獣人族全般を唆している可能性が高いだろう。長、ゾナン。狼族達の間だけでも危機を共有した方がいい」


「わかった、伝えよう。目を背けてきた、血族の罪も償わねば・・」


「それもいいけど、他にも色々聞いてもいいですかぁ?」


ベルニュッケが無遠慮に聞き始め、そのまま被害の自体収拾をクラウンタートル一派が担当し、以後このグルシオ氏族をクラウンタートルの庇護化とするところまで取り付けてしまった。

どさくさ紛れにも程があるが、なんの後ろ盾も無く明るみになれば、おそらくこの狼族達は近隣の郷連合や、ここぞとばかりに影響力を行使したい領主から派遣された兵達によって討伐されてしまうだろう。

ルルクの手当てをしながら、一先ず好きにさせることにした。

しかし2本尾のオズキモズのような危険なヤツが出張ってくるとは、思ったよりかなり厄介なことになりそうだ。

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