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狼族

・・灰の王冠、200年程前に当時のロックアクス一派の呪い師によって造られた強力な炎の(まじな)い道具。

あらゆる物を焼き払い、そのマナを使用者に吸収させる力を持っていたという。

元々は夜魔祓いに頼らず夜魔を滅ぼす為に造られた物だったようだが、マナを吸収する内に使用者は魔人と化し正気を失う危険性があった。

呪い師達の禁忌(きんき)の墳墓に封じられたそれを、何者かが掘り起こし持ち出したらしい。

各勢力の呪い師達は主に功名心に駆られて灰の王冠の奪還に乗り出していたが、いい迷惑だ。

だが放置はできない。結局私達は10日のルルクの稽古が済み次第、他の夜魔祓い達と月の蝶で連絡を取り合いつつベルニュッケに協力することになった。



10日目の夕暮れ、ルルクの稽古は大詰めになっていた。


「電撃術で牽制し月の光の剣で制圧」


「はいっ!」


ルルクは電撃を周囲の石に放ち、続け様に光を灯した短剣を手に速攻を掛け、次々と石を両断した。

特別な物ではないが幼児程度の大きさの石だ。十分な攻撃力、速さ、精度だった。


「よし、ルルク。もう今の君なら並みの個体であれば猪の夜魔に勝てるだろう。今日の武術と呪い術の実技稽古はここまで」


「はい、師匠っ、ありがとうございました! はぁ~っ」


一礼してからその場に仰向けに倒れ込むルルク。


「生命薬を飲んで少し休んだら、薬学と呪い学の座学試験をしよう」


「う・・頑張ります・・」


よく食らい付いてきてくれてはいた。教会学校4年生程度の一般教養も問題無く習得している。

貧しさから学ぶ機会が少なかった、ある種の飢えによるところもあるんだろう。

マナの適性がかなりあるとはいえ、この健康な向上心を奇怪な夜魔との戦いに活用させて本当によいものか? と今更でも思わないではない。

今回の呪い師に纏わる騒動もできれば遠ざけたかったが、預けられる当て等なかった。

「これ、もう少し美味しく生成できませんかね?」等と言いながら地べたに座ったまま生命薬を飲むルルクを見ながらそんなことを考えていると、


「んはぁ~っ、お饅頭が売ってると思ったらキヌアの生地に甘薯(かんしょ)の餡でしたよぉ。田舎と田舎が取っ組み合いするかのような調理ですねぇ。味は・・田舎ですね~」


エイバ郷の月桂樹の祓い所の上空ではなく、入り口の壁からベルニュッケが饅頭をたくさん入れた包みを抱えて歩いて入ってきた。7日ぶりだ。

入り口の壁は月の光ではなく上位解錠(かいじょう)術で開けていた。

ここはこの女が属するクラウンタートルの一派が管理する施設ではないが、正式な呪い師ならばこれくらいはする。


「・・また来たんですか?」


迷惑顔のルルク。


「おや、生意気な子供がいますね。この貧相なお饅頭をお土産にと思ったのですが?」


「7日ぶりですね! マスター・ベルニュッケ様っ」


豹変するルルク。そういえば食事の栄養には配慮したが稽古中に菓子等は全く買ってなかったな・・


「それでよろしい。ほ~れ!」


ベルニュッケは操作術で4個饅頭を操って嬉々とするルルクに渡そうとしたが、


「手を洗ってからだ」


私が私の操作術で手元に引っ張り寄せた。


「あ、はい・・」


ルルクはしょんぼりと手洗い場に向かった。


「なんですか? アイシア。弟子を盗りゃしませんよ?」


「少しは調べがついたのか?」


カチンときたが、ベルニュッケの軽口には付き合わない。


「まぁ、貴女がちんたら弟子に稽古をつけている間にそれなりに。ただ大枚はたいて急いで来たのに損した気分ですよ? 私1人で動いてるじゃないですか?」


「感想はいい。灰の王冠に関して、何かわかったか? 蝶の小屋でやり取りする限り、夜魔祓いの間では(おおかみ)族とロックアクス一派の呪い師の動きが目に付いているようだが」


「耳敏いですね。まぁ多くの出所は他の呪い師でしょうけど・・そうですね。出遅れた分、ここは1つ、大胆に動いてみようじゃないですか?」


食べ掛けの饅頭片手に、ベルニュッケは不敵に言ってきた。



翌日の早朝、エイバ郷を夜明けには出発した我々は、エイバ郷から比較的近い森の中の高台を掘って造られた狼族の集落の東側の入り口近くに来ていた。

ベルニュッケは上位風紋(ふうもん)術で辺りの風を操って我々が隠れる木の枝の辺りが風下にしていた。人と狼の中間の姿をした狼族は鼻がいい。

今の時間なら朝陽も邪魔だろう。

私は視力を強化する鷹眼(けいがん)術で、ルルクは反射に気を付けさせながら望遠鏡で東側口を見ている。


「ほんとに人喰いなんですか? あの獣人達??」


獣人自体あまり見たことない様子のルルクは困惑しきりだった。


「グルシオ氏の狼族はよくあるあんまり文明化しない獣人族の集落に過ぎないんですが、数年前からどうも一族の中に人喰いが出てしまったようですね」


夜魔でもないのに、人や亜人族が人や亜人を共喰いするのは当然禁忌だ。だが、本能的な獣人族はしばしばこの禁忌を侵しがちではあった。


「私の調べでは族長の息子とその取り巻き数名が殺ってますねぇっ! 犯行の間隔も短くなってますっ。連中の中では処理できなくなっていたところを何人か買収して聞き出したのでガチですっ」


「人喰いは捨て置けないが・・僻地の、こんな小規模な狼族、灰の王冠の騒動から随分遠い気もするが?」


この騒動に狼族の一団が絡んでる情報はあった。おそらく、主犯の呪い師達の手下だ。


「狼族は総じて保守的であっても、同じ狼族との横の繋がりは強いですっ。端っこでも1つの氏族から絞ればっ! 大幅に省略して取っ掛かりを掴むことができるはずですっ」


「・・そうだとして、どう詰める? 族長の息子なのだろう? 夜魔祓いや呪い師は、衛兵や教会の僧侶やエイバ郷の自警団ではない」


私は昔から夜魔と無関係な犯罪者の類いへの対応が苦手だ。やるとなったら大体やり過ぎてしまうので、尻込みするところがあった。


「どうもこうもないですよぉ? アイシア。展開している風紋術で集落の中から人喰いで血で濁ったマナの気配をビンビンっ、感じてます! あとはぁっ」


ベルニュッケは小さくしていた飛行絨毯を拡大して乗り込み、


「っ?!」


「わっ??」


私とルルクも操作術で有無を言わせず乗せると、前触れなく一気に狼族の集落入り口まで直行しだした。


「おいっ?!」


「えーっ?!」


到着してしまった。仰天している狼族の見張り達。


「呪い師っ??!」


「なんだお前らっ??!」


「出あえっ、出あえっ!!」


狼族達が集落からワラワラ出てくる中、ベルニュッケは飛行絨毯の上に立ち上がると躊躇なく背後の森の木々数本に爆破(ばくは)術を掛けて幹を粉砕し倒木させた。


「私は苔亀のベルニュッケっ!! 栄光なる千年王国足る偉大な知恵の中枢と確定された城、マウントタートルより訪れし、クラウンタートル閥が誉れ高き麗しの娘っ!!! 細身もこの髪型もソバカスも、私のグループでは流行ってるんだよっ?!! この野郎ぉーっ!!!!」


口上? を決めつつさらに数本、爆破魔法で木々を砕くベルニュッケ。

私もルルクも唖然とするばかり・・


「?????」


「はぁ??」


「森を破壊するのをやめろっ!!」


武器を手に混乱する狼族達。ベルニュッケは両手にマナを溜め、高台に造られた集落に向けて差し伸べた。


「集落内で爆破術が連鎖炸裂したらどれだけ落盤するでしょうねぇ? ククククっ」


「やめろーっ!!」


「子供や年寄りや病人がいるんだぞぉっ?!」


「結婚したばかりなんだっ!」


「卑怯者ぉーっ!!」


「通り魔めぇっ!!!」


経歴、私の築いてきた経歴が唐突にここで終わろうとしている。ルルクの健全な未来も。


「やめて欲しければ、族長の息子、デナンとその取り巻きを引っ立ててきなさい。人喰い、と言えば鼻のいい貴方達もわかるでしょうか?」


「それはっっ」


狼族達は顔色を変え、顔を見合せ、押し黙り、あるいはヒソヒソと話し合い始めた。

随分雑だったが、どうやら効果的ではあったようだ。だが取り敢えず、事前にもう少しは相談してくれ・・

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