獣王
ファントムビートル群は灰被りの城の中程まで突破して力尽き、運悪く止めを刺された個体以外は風のマナに満ちた棲み処に転送されていったようだ。
一方、灰被りの城に攻め込んだ私達は、
「セァッ!!」
呪い師達が追い込みノノコリーとドォセさんが深手を負わせた、獣人の幹部の1人メズムを鉤爪の武器ごと炎の戦斧で両断し仕止めた。
が、幾度も補修したユルナットの戦斧はとうとう砕け散ってしまった。
「進路を見切られてる」
ペンジン鏡の覗き見を含め事前の調査では突入前の時点で残る獣人幹部は8名前後、呪い師の幹部は十数名。
玉座の間を目指す隊は4手に別れていたが、この進路で既に4名の獣人幹部と6名の無閥の呪い師幹部を仕止めていた。
最短進路でもないのに厳重過ぎる。
「スネークハントの資料通りなら明星の魔女は予知に近い能力を持っていたはずだよ? それくらいするって」
ザィネが青い顔で応える。彼女に限らずロックアクス閥の呪い師は疲労困憊だ。
ロックアクス閥は潜行術を多用することになったレッドブーツ閥以外の隊の露払いを引き受け、ここまでがむしゃらに術を連発していた。
「さすがに装備の消耗がキツいね」
生命薬を飲みつつ冷や汗をかいてるロロアが言った。
「想定済みです! 島の武器庫から予備の武器は色々持ってきていますっ! 無断で!」
ベルニュッケが上位収納術でしまっていた武器を虚空から山程と取り出すと、夜魔祓い達からは軽く歓声が上がった。
私はいずれもミスリル鋼を用いた手槍、長槍、片手剣5本に刀1本・・槍と刀は中々の業物。を使わせてもらおう。
「この先・・オズキモズと遭遇することを前提とすべきだ」
玉座の間まで、遠くない。
隠された扉を開け、どうにかその凍てつく部屋に来た。呪い具の潜行術を解除する。チラリと振り返るとここまでついて来られたのは3人だけだった。
呪い道具を使った条件付けで発動する転送術で半数はどうにか島まで戻れていたが、かなりの損耗だ。
スネークハント閥。我々の調べではこの時代で決着をつける為にわざと事態の悪化を看過し続けたフシがある。
収拾後それなりに代償を払ってもらわないといけないね。
孤立がちな我々レッドブーツ閥だけではアレなので、呪い師の評議会での多数派工作もキッチリやってもらっている。
現場組を消耗品扱いされては困る、って話さ。
「エイダンさん、失踪者の内、いくらかは特定できてしまいますね」
「・・誰も見付からなかった。遺品もだ」
この低温の部屋にはガラス質の棺のような箱に納められた子供達が20人あまり、仮死状態で寝かされていた。
額と胸に信じ難い程に根深い式の呪いの刻印がある。解読するまでも無い。身体交換術の印だ。全員が明星の魔女ラカの換えの身体だ。
スネークハント閥の資料よりも高度化しているが、時間と設備と道具と対応した専門の呪い師がいれば1人ずつ解除可能だろう。
つまり不可能ってことさ。
「意識は無いだろうが、麻痺術を掛けてやってくれ」
「はい」
3人は協力して上位麻痺術を部屋で眠る子供達に掛けた。
「この程度の器量で済まないね」
私は夜魔祓いを習い霊木の灰を5袋分、操って逆巻かせ、子供達の同じ数だけ圧縮させて宙に起こした上位点火術の火に合わせた。
放つと凍てつく部屋は浄化の炎に包まれた。
・・玉座にて私は溢れる灰の王冠のマナを用い球形多重陣の式を練り上げ続けていた。あと、ほんの少し。
「っ!」
子供達が焼かれたようだ。厄介なレッドブーツ閥に無駄足を踏ませた。よくやってくれた。
「私も結局、父母と同じ質なのだな」
今更感じるところは無い。
急がねば、きっと彼女が力を貸している。私の力への対抗の仕方も心得ているだろう。
事実彼女の行方ばかりはまるで予知できなかったが、それ以外の可能性の羅列からある程度炙り出せはする。
「パスカ、早く来い。お前は私の一番強い身体だった」
懐かしい、そんな気持ちさえしている。私は不思議と愉快だ。
あの、無知で人の好い、羊飼いの子。ただ1人魂までは奪い損ねた。
私は同じグループの・・まぁ私の助手達と、斧島まで出張っていた。
「モッタヨーさんっ、ヤバいですっ! やっぱ亀島まで下がりましょう!」
慌ててる助手達。灰被りの城に迫ってる斧島、靴島、鷹島は、襲撃を受けていた。
体当たりして自爆することで障壁に穴を空ける特性のイカのような合成幻獣と、空けられた穴から侵入する大量に召喚された石の下級魔族ガーゴイル達に。
私のグループは障壁術と、私が開発した砲状の杖に魔石を装填することでマナを消費せずにマナの弾丸を連射できる、矢の杖でガーゴイル達に応戦していた。
「箱庭というのに興味があるんだよ。それに、私がアイシアの弟子に渡した魔除けに色々細工をしておいた、その効果の程を確かめたいのさ。キシシッ」
「え?? 子供は来てないですよね?」
「スネークハント閥がチョロチョロしていた。それに、ちょっと範囲は狭いが、アイシアの弟子に渡した魔除けには位置やおよその状況を追える細工もしてあるのさ! 錆亀のモッタヨーに抜かり無しっ!!」
「おお~っ!」
「さすがモッタヨーさんっ」
「我々も計測させて下さい!」
盛り上がる私の助手達。わかってるな、可愛い助手達よ。
「よしよしっ、この世の全ては我々の計測材料なのだっ! キシシシシッッ!!!!」
と、言いつつ、さすがに数が多い。
最悪、私だけでも助かる算段を取らなくては! 正しく測れる私がいなくなったら、世界が可哀想だよね?
構造に変質は見られたが、過去の資料や調査からすると玉座の間は目前だ。この距離でも異常なマナを感じる。
残った夜魔祓いは20数名、ロックアクス閥の呪い師は10数名、それ以外の閥の呪い師は30名はいる。
脱落者は即殺されない限りは事前に各呪い閥から支給された脱出用の呪い道具で転送されているが、それなりに犠牲は出ていた。
ベルニュッケもシレっとついて来ている。1度顔を出すと事態に片が付くか私が撤退するまで残るようなところはある。
大体の面倒はヤツが持って来るので当然と言えば当然なのだが、
「・・・」
私は胃が痛くなってきた。・・と、
「っ!!」
爆発的な炎のマナと生命力っ! 天井だ。
対応が間に合った者全員が天井に向けて障壁術か上位障壁術を張ったが、その全てを天井と共に砕いて柱のような巨刃の大剣を二刀流で軽々と振るう炎の塊が落ちてきた。
それはマナの障壁を破ると即座で炎を纏わせた巨刃の大剣を1本、呪い師の中では前衛に出ていたロックアクス閥に投げ付けた。
ロロアとザィネは咄嗟に回避したが、他のロックアクス閥は一撃で抉れた床ごと消し飛ばされる。
残った呪い師達が一斉に攻撃や妨害の術を放ち、私達夜魔祓いはそれぞれの武器に月の光を溜める。私も刀に溜める。
それは宙で呪い師達の術の7割程度を巨刃の大剣の一振りで打ち払い、それ以外は平然と炎の身体で受け切った。マナが強過ぎて術が通らない。
だが、着地する前に一手は押せる!
夜魔祓いの内、ノノコリー達動きの速い7名がまず相手の武器を狙って速攻を掛ける。これに、
「っ?!」
身体を旋回させて広範囲に炎の巨刃で薙ぎ払ってきた。
ノノコリー達は為す術無く武器を砕かれ、2名は両断されて焼き尽くされ、さらに2名が深手を負った。
追い討ちをするはずの私達の中では中程度の速さの私を含む10名は急遽、改めて相手の炎の巨刃の大剣を狙い、ドォセさん達重い得物を使う残りの夜魔祓い達は深手を負った2人を救助し、ノノコリー達武器を失った3人が立て直すまで守りに入った。
10人掛かりの猛攻でどうにか後方に弾いて着地させた。
2本ある尾まで炎を纏っている。大岩のような巨躯の狼族の獣人。
「ああぁ~~~~っっ、寄って集って軽いな。ラカの使い走りより、先に潰して回った方が早かったんじゃねぇか? へへっ」
「二尾のオズキモズっ!!」
刀はもう刃零れしている。人喰いで、おそらく魔女から炎の力を得ているとはいえ戦士が、個の力をここまで高められる物か?
「手負いはすぐ島に戻れっ! ノノコリー達は得物を持ち換えた呪い師を庇えっ。アイシア達は続けて武器狙いだ! 我々で討ち取るっ」
ドォセさんの指示に手負いの2人は転送したようだ、ノノコリー達も予備の武器に持ち換え、位置を変えた気配。
「こんな差がある? 笑っちゃうわ」
振り返ってられないがノノコリーは予備の薙刀をウワバミのポーチから取り出したはず。
「術は通らないよ! 呪い師は障壁と治癒っ、あとは空気の管理だっ!」
「足手まといにはならないっ!」
ザィネとロロアも折れてはいないようだ。
「妥当な指示だな。付き合う道理は無ぇが」
オズキモズは私1人を狙って加速した。刃で受けられる物ではない、峰でどうにか大剣の腹を打って身を捻って躱したが、刀は砕かれた。
交錯様にオズキモズが面白がる顔が見えた。コイツっ。
そのまま私の後ろにいた2人を斬り捨て焼き払ってドォセさん達に迫る。
攻撃の回転の遅いドォセさん達は全員で受けに回り、一撃、受け切った。
私達もオズキモズに追い付く、私は炎の細剣と真冬のサーベルを抜いていた。
私以外の7人で振り向き様の一撃を何人か武器を砕かれながら防ぎ、私は懐に入れた。
炎の細剣でヤツの炎のマナを少しでも巻き取りながら真冬のサーベルで巨刃の大剣の腹を斬り付けて損傷させる。
すぐに噛み付いてきたが、吹雪のケープを裂かれながらもなんとか避けられた。距離は取らない! もう1度懐に飛び込むのに何人犠牲が出るかわからないっ。
すかさず体勢を直したドォセさん達が打ち掛かったが、オズキモズは跳び上がって避けると周囲にめちゃくちゃに炎の斬撃を放ってきた。
私も細剣で吸った炎は噴かせて棄てながら駆けて離されない。離れてたまるか! 私では受けると弾かれるので全て躱しながら掛ける。
動きの癖を知っているベルニュッケだろう合わせて、角度を付けた上位障壁術が展開されえ何発か弾いてくれた。
ノノコリーの気配が即応してベルニュッケに近付いたから、察して守りに入ってくれたはずだ。
道がどうにか通った。2度目の着地様に斬り込む。巨刃の大剣の回転の内側に入る。こんな物をまともに受けてられないっ。
ギリギリまで細剣で炎を吸って力を弱らせながら冷気を纏うサーベルで斬り掛かる。
「ハイナットの剣を上手く使う! お前か? お前がラカを殺す武器を持っているのか?! 予知ではこの進路にいるはずだっ」
「どうだろう?」
巨人の一撃のような拳打や蹴り、大剣の柄の辺りの斬撃をいなしながら、合間に吸い過ぎた炎を棄てながら、サーベルを入れ続ける。
決して重武装ではなかったが、本体は軽く斬った程度では掠り傷な上に炎の中でみるみる傷が癒えてゆく。
それでも本体を牽制しながら大剣の損傷部位にも1撃2撃と入れ続け、位置取りも回り込もうとしているドォセさん達に誘導する。
「もう1本の剣を片してくれっ!」
私が叫ぶと、ロロアとザィネが上位収納術で床を溶解させ出していた炎の大剣を亜空間にしまった。
同時にドォセさん達が左右から挟撃し、私はまた回転斬りを使わせない為に大剣を持つ右腕の肘関節に真冬のサーベルを渾身の力で振り下ろした。
信じ難いが切断は全くできない。だが、技は止めた。
「オォウッッ!!!」
ドォセさん達の一斉攻撃をやむを得ず巨刃の大剣で受けるオズキモズ。夜魔祓い何人かの武器も砕けたが、ヤツの大剣も損傷部位から砕けた。
「ウォオオォォンンンッッッッ!!!!」
直後にオズキモズは吠え、凄まじい火炎の旋風を巻き起こした。
ドォセさん達の内何人かは焼き尽くされ、私も炎を吸い切れず細剣が砕け吹雪のケープも焼き払われ、身体を少し焼かれた。
「アイシア!」
ベルニュッケが治癒術を掛けてくれる。まだ無事な夜魔祓い達がドォセさん達を救助し、武器を失ったオズキモズにザィネとロロアは上位凍結術を連発して炎を打ち消しに掛かり、他の呪い師達は障壁と負傷者の治癒と空気の操作に専念していた。
「銀貨3枚っ、押し切るよっ!」
前衛に出て来たノノコリー。
「心得てる!」
炎を消されたオズキモズは床を蹴り割った破片でザィネとロロアの障壁を破って吹っ飛ばしたが、隙はできた。
「月よ!」
「月よ」
最速のノノコリーが月の光を込めた連撃を薙刀の刃を砕きながら打ち込む。浅いがマナは大きく削げた。
しけしオズキモズは後続の私の突進を見切っている。私は迷わず自分の背に向けて爆破術発動させた。
「?!」
一気に詰める。
「セェアッッ!!!」
オズキモズの腹部に発光する真冬のサーベルを突き刺した。
「ごぉおおっっ?!!」
ヤツの炎のマナを全て剥ぎ取り、凍結させながら押す。
私は跳び上がりながら月の光を乗せた片手剣2本をポーチから抜き、オズキモズの胸部を十字に切断した。
「おおおぉーーーっ??!!!」
オズキモズの首は胸部ごと床に落ちた。私の双剣もヤツの残った胴体の腹に刺さった真冬のサーベルも砕けた。
「ヘヘヘっ、負けるってのも悪くねーな。教訓がありそうだぜ?」
「・・獣人の権利の向上。お前ならもっとやりようがあったんじゃないか?」
オズキモズは目を細め嗤った。
「さぁて、二尾のオズキモズ。どんな悪名に伝わるか? 楽しみ、だぜ・・へへへ・・・」
オズキモズは骨だけ遺し消滅し、その骨も自らの炎のマナで焼き尽くされていった。
「はぁ・・」
膝を突く。ベルニュッケが生命薬片手にこちらに小走りで来る。多少焦げているが存外元気そうだ。
残った夜魔祓いは私を含め9名。呪い師は18名。手当ての結果次第でさらに減るだろう。
散々、と言うより他無かった。




