灰被りの城
ラビリンス最奥の守護者グレーターデーモン13体との交戦後、俺以外に生き残ったのは幹部の獣人7人と、幹部の呪い師3人。途中、やはり来た人形の群れに随分削られた。
俺は引き裂かれた者、潰された者、焼かれ、凍え、痺れ、毒され、石化し、術により即死した者達を踏み越え、祭壇へ進んだ。
禍々しい絶望のアメシストが据えられている。宝珠の中で怨念が渦巻いていた。生と明日を打ち砕かれた魂の塊。
「・・絶望するばかりではどこへも届くまい」
俺が促すと、残った呪い師達は術で絶望の宝珠を捉え、亜空の彼方にしまい込んだ。
「灰被りの城へ戻るが、その前に生存を誇れっ!!!」
俺は吠え、同胞の獣人達も吠えた。
耳を押さえ顔をしかめるのは呪い師どもだけだ。
柱の樹の杖を手に、全て灰にまみれた玉座の間の中空に呪いの多重球形陣を張って式の組み上げを続けていた。
「・・・」
知らず、わずかに笑みを浮かべてしまった。入口に背を向けていてよかった。
予知では満身創痍で片腕と片目を失い半日後に来るはずがオズキモズはほぼ無傷で玉座の間に今、現れた。この男にはよくあることだ。
「2つまでだ。贅沢は言うなよ?」
呪いの小箱を片手に持っていた。
私は中空の陣を中断して消し、オズキモズの呪いの小箱から絶望のアメシストを操作術で取り出した。
「オズキモズ、契約は果たそう」
私は亜空間から怒りのトルマリンと灰の王冠を取り出し、事前に練り上げていた式で絶望のアメシストと怒りのトルマリンを打ち砕き消滅させた。
不完全ながら灰の王冠が鳴動し私はそれを被った。
大きさの合わないそれは私に合わせ小さなティアラに形状を変え、私と、城に、死と炎の力を与える。
この城を造った者は扱いきれなかった。だが、私は違う。
死の炎を纏った私は城中から、かつての途方も無い死が降り積もった忌まわしい灰をティアラに吸い集めながら崩れ去った玉座に向かう。
「ラカ」
声だ、呼び掛けられた。一度立ち止まる。
「お前の願いも叶うといいな」
「・・ただの清算だ」
私は歩きだし、玉座は死の炎と共に復元され、私は私の玉座に着いた。
ここに灰被りの城は死の炎の器として再び顕現した。
見える。城より立ち上る炎に天は焦がされ、残火の遺跡は激しく炎を噴き返し、凍える湿原は全て熱波に撫で焼かれた。
既に制圧された巨木の森は呪い師どもの障壁によって護られていたが構いはしない。
私が敗北する予知を1つずつ打ち消してゆく。そうして、遂げてみせる。
私には役割がある。
明星の魔女が灰の王冠の力を解放したようだ。力は半減のはずだが凍り付く湿原が丸ごと焼かれた。
秩序の呪い師達は制圧した巨木の森の上空に浮遊島のいずれも略称だが、ロックアクス閥が斧島。レッドブーツ閥が靴島。スネークハント閥が鷹島。を配置していた。
クラウンタートル閥の亀島は森の外側で待機している。主に島同士の転送門を使った負傷者の受け入れと、最悪敗れて撤退戦になった時の保険を担当していた。
亀島にはルルク達子供達や各島の非戦闘員も避難させてある。
他の閥は基本的に手持ちの浮遊島までは派遣せずにそれぞれ支援対応をしていたが、獣人やその混血で構成されるボーンゴブレット閥は骨島を亀島からやや離れた位置に派遣していた。
ここで捕虜やオズキモズ軍から離脱した獣人達を纏めて引き受け、様子見を決め込んでいた。ハイナットやタナカもここだ。状況的に亀島には置けない、というのが正直なところだ。
「亀島に残らないのか?」
私は斧島の残火の遺跡へ向いた見晴らし台のある岬の1つにいた。振り返ってベルニュッケに話し掛ける。
障壁を張った斧島は巨木の森を抜け、焼け付く風の吹き荒れる、焼き払われ、もう湿原とは呼べなくなった平原上空を鷹島、靴島と共に飛行していた。
「3位からさらに2位の呪い師にのし上がる足掛かりを獲得しようという計画です。珍しい家具の材料も手に入りそうですし、ここにきて、わたくしの守りの術の技量の向上も著しいですからね!」
「・・思ったより大事になったな」
「そうですねぇ。なんの心残りか知りませんが、いい迷惑です」
「ルルクが1人前になったら私は引退しようと思う」
全く考えていなかったが、するり、と口に出た。
「おや? 意外ですね。生涯、やみくもに現役でいる方だと思っていましたよ」
「私もそう思っていたが、思えば、師匠は私に死ぬまで戦えとは言わなかった。私は1人になって、・・そうだな」
認めよう。
「私は拗ねていたのかもしれない」
「おやおや、おやおやおやおや?」
ベルニュッケは調子づいて近付いて絡んできた。私は肘で押して対抗する。
「殊勝なことを言うじゃないですかぁ? 銀貨3枚のアイシアさん。それで? 辞めて何をするつもりですか?」
「苺とハーブを育ててジャムを造って売ろうと思う」
「貴女は子供の頃から苺のハーブジャムが好きですね。しつこいですね」
しつこい??
「味の好みだっ、いいだろう?!」
「ふっふっふっ、ではわたくしが素人農家に相応しい呪いの家具等を用意してあげましょう」
「まだ先の話だ。この件も片付くか、わかった物じゃない」
「願いは形にしてゆく物ですよ? ふっふっふっ」
別に小規模な農家を始めるのに大袈裟な呪いの家具等必要無いのだが、ベルニュッケは何やら勝手に算段を始めてしまった。
気が早いだろう。
残火の遺跡を覆っていた多重障壁は、靴島の支援組の呪い師達が連携して放った大爆破術で派手に砕いた。
燃え盛る残火の遺跡と灰被りの城の炎は鷹島の支援組の呪い師達が連携して放った大凍結術で相殺した。
水蒸気による爆発も起こり一時、辺りは蒸気に包まれ遺跡はこれで完全に崩壊したが、灰被りの城はほぼ損傷が無い。やはり城を外部から術で破壊するのは難しいか。
最後に私らロックアクス閥の斧島だ! 支援組が連携して風の幻獣ファントムビートルの大群を召喚して灰被りの城の城門に突撃させるっ。
ついでにめちゃくちゃになってる残火の遺跡の大気に風の道を造ってまともな空気を通してゆく。
「ロロア! 行くよっ?」
「よしっ!」
私達は他の呪い師達、夜魔払い達、アイシアやベルニュッケ達も全員、改良型の吹雪のケープをはためかせ、他の2島と共に灰被りの城に迫った斧島の縁から飛び出した。
私は耐熱仕様の傀儡人形の鳥、ロロアは箒に立ち乗り、アイシアとベルニュッケは飛行絨毯に乗ってる。
他の2島からの隊ともすぐ合流した。
ファントムビートル群が造った風の道を通って、私達は灰被りの城に雪崩れ込む。
中ではどうも人喰い未満の獣人の雑兵に夜魔を寄生させた魔物の群れがいたようだけど、入り口付近は既にファントムビートル達によって始末されていた。
「っ!」
エイダン達、レッドブーツ閥の選抜らしいのが突入するとすぐに念入りに強化したらしい潜行術の呪い道具で姿も気配も消していずこかへ忍び込んで行っていた。
「エイダン達、行った」
「汚れ仕事は任せよ」
「・・まぁ、ね」
私は鳥の傀儡に、取りこぼしの寄生獣人兵数体に向かって超音波を放たせ粉砕しながらロロアと組んで先を急いだ。
私達は私達で仕事があるってもんさ!
あたしとユミーとボススはペンジンさんの部屋で、ペンジンさんそっちのけで千里眼の鏡に齧り付いて見ていた!
この鏡、調整されたからあたし達でも普通に使える。というかマナを込めれば誰でも使えると思う! ペンジンさんが独占してるけどっ。
「師匠頑張って! ついでにベルニュッケさんもっ」
「私の師匠の方が頑張ってるっ。華麗だし!」
「わっちの師匠の方が強いじゃんっ? 頑張れ師匠!」
灰被りの城の中の師匠達の活躍を見てる!
「・・お前らっ、私の鏡を勝手に使うなっ?!」
ペンジンさんが割って入ってこようとする。
「部屋から持ち出してないんだからいいじゃないですかぁっ?」
「どうせ観戦してたし、一緒でしょ?」
「ケチケチするなじゃんっ?」
押し返すあたし達。
「視点の管理は私がするっ! 教育上よくない部分は見せないようアイシア達に言われているんだっ。私が文句を言われるだろうがっ?!」
「教育上よくないかどうかは自分達では判断しますっ」
「それをさせないように言われてるっ!」
あたし達がムキになってるペンジンさんと揉み合ってると、部屋にスネークハント閥の人達が慌ただしく入ってきた。
「子供達っ! そろそろ行くぞっ?! 間に合わなくなるっ」
「もうですか?!」
「早くないっ?」
「遅いくらいじゃん? 行こうっ」
あたし達が鏡をおっぽりだしてスネークハント閥の人達の方に向かうとペンジンさんは唖然とした。
「おいっ? どこへゆく??」
「申し訳無い、ペンジン殿」
スネークハント閥の1人がペンジンさんに上位石化術を掛けた!
石化してゆくペンジンさんっ。
「おおおっ??」
「ペンジンさんごめんね!」
「死ぬワケじゃないし、いいでしょ?」
「ちょっと魔女をやっつけるじゃん?」
「何をっ! 無謀なっ・・あっ?!」
ペンジンさんは鏡を抱えたまま石化しちゃった。
「行こう、使える転送門の手配はしてある!」
「はいっ」
あたし達はペンジンさんを残し、スネークハント閥の人達と一緒に亀島の転送門へと急いだ。よ~しっ、バッチリやりますからねっ? 師匠!!




