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星明かりのルルク  作者: 大石次郎


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目覚めの針

凍り付いた部屋の真ん中に氷の塊があって、そこに剣が1本刺さっていた。

凄いマナ。冬が、ここに集まってるみたい。師匠がクラウンタートル閥から借りてる氷の曲刀よりずっと強い。


(私はパスカ。パスカの剣と呼ばれることになるでしょう)


「話せるんだ」


「大人達はそんなこと言ってなかったじゃん?」


「隠してたの? 何か企んでる??」


(ふふっ。企みはあります。隠す、必要もあるのです。勇気ある子供達よ)


「勇気・・」


あるかな?


「当然じゃんっ! わっちはボススっ。最強の夜魔祓いになるボススじゃん!」


「・・え? 名乗るの? ユミーだけど。・・大人になるまで生きてたら、さっさと引退して呪い美容品の店をやるつもり」


なんか名乗って、目標言うみたいになってきた?


「あたしはルルク。強くはなりたいし、大人にもなりたいけど・・師匠の足手まといにはなりたくないな、って思ってる。かも?」


「はっきりしてないじゃん!」


「願望は曖昧じゃ叶わないんじゃない? あたしは生き残りたいし、お金が欲しいし、豪華で美しくなりたいし、ちやほやされたいわ!」


「えー? なんか2人とも凄いなぁ」


(ふふふっ、いいですね。眩しいくらいです。私は巡り合わせとマナの質だけで貴女達を選びましたが、思っていた以上なのかもしれません)


パスカの剣はなんだか楽しそうに思念を送ってきて、それから刀身から3本の氷の針を出してきた。


「っ? 針??」


あたし達が戸惑っていると、


(それは目覚(めざ)めの針。私が忌まわしい炎の郷で、長い年月を掛けて練り上げ、ここに連れてこられてから施された私への錬成の式を利用して鍛え上げた特別な呪いの針です。明星の魔女、ラカを倒すことができるでしょう)


「え~~~っ??!!!」


3人で声が揃ってしまった。


(貴女達に託します)


「?!」


あたし達はさらに驚かされた。


「託す?」


「なな? なんでだよ??」


「お断りしたいわっ。意図は知らないけど、大人に頼んでよ!」


パスカの剣はため息をついた、みたいな思念を送ってきた。


(この針には私の企みに関する思考や記憶を、観測術や予知で悟られない力を付与しています)


「予知?」


(ラカには不完全な予知能力があり、それを補う為に観測術も極めています。強く対抗しない限り、心を読まれますし、手の内の兆しも読まれてしまいます)


「ヤバいじゃん?」


「余計に大人が使った方がよくない?」


(目覚め針でラカを倒せるのは身体交換術で彼女の魂が剥き出しになったその瞬間だけです)


「・・・」


術は受けろ、ってこと?


(この針は魂で扱うことのできる武器です。3本は同調し、誰か1人でも襲われれば他の2人も助けにゆけます。このことは貴女達だけにしか教えられません。予知され観測されてしまうので)


「責任重大じゃん・・」


「釣りの餌じゃない・・」


(大人達は灰被りの城での最後の戦いに子供達は連れてゆかないつもりのようですが、スネークハント閥の中に少数、強い呪い道具で予知や観測に対策をした協力者達がいます。その者達の手を借りて忍び込むのです)


あたし達は顔を見合せた。


「貴女はラカをどうしても殺したいんだ」


「というかラカって魔女、何がしたいんじゃん?」


「待って。得が無くて、不利ばっかりよ」


(側近以外の手下の呪い師達には金銭や新しい強い呪い閥の発足への直参を持ち掛けていますが、彼女の本当の目的は箱庭です)


箱庭・・お金持ちが作る玩具の庭??


「具体的に言って。よくわからないわ」


(ラカはこの世界の一部を削って、それを材料に新しい理想の世界を創ろうとしています)


あたし達は続けて驚き過ぎてちょっとよくわかんなくなってきた。少しくらい削ってもいいんじゃない? みたいな。


(最初は小さな願いでした。ささやかな安らぎの場所・・それを求めていただけなのでしょう。しかし、その出自の痛みと、繰り返す闘争と身体交換術の消耗の中で、彼女の無垢な願いは狂気に育ってしまいました。一度箱庭が完成してしまえば、それは再現も無くこの世界を吸収し始めるでしょう)


「そんな・・」


「ダメじゃん」


「・・で、良い子ちゃんなあんたはそれを止めたいって?」


「ユミー?」


パスカの剣は少し沈黙しました。


(ラカの力は彼女1人の力ではありません。あの狂気の郷で、何人も何人も・・失われた子供達の思いが、何もかも焼き尽くし、自分達を攻撃する全ての敵を知り、死ぬことを知らず、救いの世界を創りだす奇跡を彼女に宿したのです)


1つの呪い、なのかな?


(私も私の生涯を奪った彼女を憎みましたが、多くを見て、近くあり過ぎたのかもしれません。そしてわかるのです。彼女の方法で彼女達は救えないと。彼女が創りだそうとしている箱庭は終わり無く燃え続けたあの忌まわしい郷と、同じ物だから)


パスカの剣の思念は泣いていた。


「・・しょうがないわね。あんた達の夜を、このユミーと子分2人が祓ってあげるわ」


ユミーは自分の前の目覚めの針を手に取った。


「子分じゃないっ! ま、引き受けてやるじゃん? ボスス最強伝説の第1章じゃん?」


ボススも冷たそうな針を手に取る。


「師匠に秘密にするのは気が引けるけど・・パスカ。あたしもやるよ」


あたしも針を手に取った。冷たいけど温かい。不思議な感覚がした。


(ありがとう。若玉葱(わかたまねぎ)のような私の小さな戦士達。ずっと誰かが来てくれると、私は、私達は信じていたんだと思います)


パスカの剣は冷たく静かな光を湛えている。月の光に似ていた。

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