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星明かりのルルク  作者: 大石次郎


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16/23

憎悪のオニキス

燃えるヨミド郷から回収された、かつてのラカの遺骸の初期加工が済んだというので

、私とベルニュッケとレッドブーツ閥のエイダンで様子を見に向かうことになった。

ロックアクスの2人は閥の雑務で亀島に不在。加工がどのような状態か判然としなかったのでルルクは部屋で自習をさせておいた。


「あれ? 御弟子さんは連れて来なかったんだ。信用無いなぁ」


クラウンタートル閥の中でも錬成の技に秀でた呪い師、モッタヨーが同じグループの呪い師との作業の手を止めて振り返ってきた。

呪いの陣の中央には様々な触媒の素材や道具を見下ろすように、剣に替わりつつある少女の遺骸があった。

相変わらず氷のマナを湛えているが、燃える郷に据えられていた時と違い抑制はされていた。

奇怪ではあるものの残酷趣味という程の様子ではなかった。


「信用と言われてもな」


錆亀(さびがめ)のモッタヨーは元々無閥のロクデナシですしね」


「これは強い剣になる。杖に加工してほしかったくらいだ」


「資料と当時を知る古参の呪い師の話、あとはペンジンの観測の限りでも、呪いの技でアレに対抗するのは無理があると思うなぁ」


「そりゃ残念」


エイダンは肩を竦めた。


「この子の素性は少しはわかったのか?」


「それ、必要? 素材だよね?」


「君達は秩序の呪い師なんだろ?」


言い方がやや強くなった。


「モッタヨー」


ベルニュッケが促すと、モッタヨーは面倒そうながら応えだした。


「身体に多少記憶が遺ってた。名前はパスカ。少しマナが強い程度の、平凡な羊飼いの娘だね。身体交換術というのは力よりも相性なのかも?」


「遺族は?」


「ああいたよ。まだ羊飼ってた。もったいないけど遺髪を無害に加工して渡すことになった。見舞金はスネークハント閥が出してたね。ま、当然でしょ?」


「そうか・・」


私がそういえば髪が短くなっている剣に変わりつつある氷の少女、パスカの遺骸を見ていると、


「銀貨3枚のアイシア、君の弟子も万一に備えて対策しておいた方がいいんじゃないかい?」


エイダンが不意に言ってくる。確かに・・ごく普通の娘でよいというのであれば、ラカは意識的かどうかはともかく、自身の欠落のような物を埋めようとする思考を持っているのかもしれない。

ルルクのような子は危険な気はした。


「モッタヨー、何か有効の魔除けは作れるか?」


「勿論! ただし、コイツに限らず色々試作中の呪い道具や武器の実用試験に付き合ってよ? この錆亀のモッタヨーの品は、試作でも強力だよ? キシシシッ」


独特な笑い方。他に頼むかな・・



灰の王冠の封印を解く秘宝は残る3つ。憎悪のオニキス、怒りのトルマリン、絶望のアメシスト。


怒りのトルマリンはオズキモズ自ら手勢を率いて納められたラビリンスに挑む兆しを掴んだ秩序の呪い師達は、連中が突入後に戦闘型の傀儡人形を大量投入して勝てないまでも手勢の消耗を計ることになった。


絶望のアメシストは納められたラビリンスが極めて難度が高く、突入すれば消耗必須。ラカと獣人達と秩序の呪い師とそれに強力する夜魔祓い達はどちらが先に入るか牽制し合う状況になっていた。


そして現時点での私達の本命、憎悪のオニキスは、


「押せぇーーーっっ!!!!」


敢えて少し先行させて入り口に仮設させたラカと獣人の手勢の砦に私達は突撃していた。今、使える傀儡人形をオズキモズの方に使っているので夜魔祓いと呪い師達が直接にだ。

砦を囲って輪状の潜行術解除の陣が張ってあったのでへったくれもない。


「クソッ、獣人の旗を立てろっ!!」


「そんなことはどうでもいいっ、獣どもは夜魔祓いどもを抑えろ! 速過ぎるっ!」


相変わらず連携は取れていない。しかし、獣人達はまだわかるが、無閥の呪い師達はなんのつもりか?

下っ端達からは単に報酬や有力な新興閥にいい立場で入りたいという思考しか読めなかったが、名の通った無閥の呪い師もいくらか合流していた。

いかに強壮でも半死半生で秩序の呪い師閥と抗争する明星のラカと組むことに、そんな連中が旨味を感じるだろうか??


「中は窮屈らしいぞ」


私は錆亀のモッタヨーの試作呪い道具、大喰らい蛇牢(へびろう)、を取り出してマナを込め、獣人の群れと間の悪い無閥の呪い師数名に向けて投げ付けた。

悪趣味な蛇の玩具のようなそれは急激に巨大化して生きてるかの様に襲い掛かり、大口を開けて纏めて呑み込んでしまった。

これは高性能。量産すべき。よし、小さくして手元に引き戻そうと思ったら、


「ゴゲゲゲッッ!!!!」


大喰らい蛇牢は私に従わず、暴れて仮設砦を破壊しだし、夜魔祓いや秩序の呪い師まで追い回し始めた。


「オイッ! 銀貨3枚っ! しまえっ」


「なんだこのガラクタ蛇っ?!」


非難轟々。


「・・不良品だ。ルルク、ベルニュッケとリラと組んでアレをなんとかしなさい」


「えーっ?!」


「余計に仕事増えてますよっ?」


「トゥイ!」


「・・面目無い。目立つヤツは片付ける」


名誉挽回だ。私は暴れる蛇の玩具は任せ、仮設砦を指揮している2者に狙いを絞った。

無閥の呪い師墓標のダイルゥーワと、(うさぎ)族獣人挽き肉のタナカ。

2人は珍しく、まともに連携して戦っていて、他にの夜魔祓いと秩序の呪い師達は手こずっていた。


「なんか作戦グダってない?」


「今回指揮誰だよ? エイダンあんたがやればよかったのにっ」


「レッドブーツ閥は孤立気味なので、人数が多くなってしまうとね」


ロロア、ザィネ、エイダンが合流した。


「墓標のダイルゥーワは厄介だ。私とザィネで抑えよう。生け捕りにしたいね」


「いやっ! 私は銀貨3枚と組むっ。あんたはロロアと!」


「? まぁいいが・・」


エイダンは困惑し、ロロアは不満そうに私から離れてダイルゥーワの方に向かった。

輪状陣は既に越えていてスマーグ達から奪った潜行術の腕輪もまだ使えたが、今、風上にいる上にもうすぐそこだ。獣人の嗅覚で既に嗅がれているだろう。段取りがちょっと悪い。


「ザィネ、挽き肉のタナカに詰められたら絶対に障壁術に頼るな。私は遠目にヤツの戦い方を見たことがある」


「資料は見たよ。戦鎚(せんつい)使うんだろ? そんなのよくある・・げっ?!」


進んで視界に入ってきたのは酒樽のような巨大戦鎚を振り回して、地面を壁を、放たれた術や飛び道具を叩き払う筋骨隆々の兎の獣人だった。


「種族の壁は越えられるぅーっ!!! オズキモズ様っ、はぁはぁっ!! 今回の手柄でっ、御寵愛ををっ!! 御寵愛ををーーっぅ!!!」


「・・・」


凄まじい我欲が言葉として溢れている。雌、だったか。


「痺れとけっ! からっ」


ザィネは上位電撃術をタナカに放ち、即座に回転する刃を持つ浮遊立方体の傀儡人形? を2体出してけし掛けた。

私もそれに紛れて距離を詰めようとしたが、


「ぬんっ!!」


一薙ぎで2体の回転刃の立方体を粉砕し、烈風を巻き起こしながらそのまま旋回を止めずに私に打ち掛かってきた。

大味だが手慣れた戦い方をする。

私は回転する軸足に爆破術を放ったが止まらない。頑強。

私はウワバミのポーチから炎の戦斧を抜いて鎚の部位はとてもでは無いので柄をどうにか狙ってカチ合わせた。

火花と爆炎が散る。この間修理したばかり戦斧の刃がまた欠け、私は吹っ飛ばされた。斧も手離してしまった。


「くっ」


「非力ねっ!」


だが回転は止められた。ザィネが今度は上位点火術を連発しながら、蛙型の傀儡人形を多数呼び出し、けし掛けだした。

蛙はタナカに触れると爆発する。


「鬱陶しいんだけどっ?!」


近くの他の夜魔祓いと秩序の呪い師達は墓標のダイルゥーワが放った変幻する石塊(せきかい)の術に阻まれていた。

オズキモズの方に主力の人形を供出してしまったこともあるが、ザィネの手持ちの人形がタナカにあまり通らない。いい流れじゃないな。

だが柄に傷は付けてある。引き付けてもくれている。段々迫られて凄い冷や汗をかいていたが。

私は生命薬を対価に治癒術を自分に掛けつつ瓦礫から身を起こし、再び突進した。

霊木の灰の小袋を3つ投げ付けて操作術で操る。

タナカは即応して2つを戦鎚で吹き飛ばしたが1つは屈強な胴に命中した。

すかさずザィネが点火術で小袋を燃やし、タナカの全身を浄めの火で炎上させた。それなりに喰っていたんだろう。派手に燃える。


「オズキモズ様ぁっ!!」


「月よっ!」


私は飛び込み、戦鎚の柄の傷を発光させた背の長剣で正確に斬り付けた。が、


「っ!」


異常にマナが込められていた。柄を叩き折ったが、長剣まで折れてしまい、破片であちこち傷付けられてしまった。

怯んだ次の瞬間、ただの焼けた金属棒となった柄でタナカは私を殴り付けてきた。障壁術で受けたが当たり前のように砕かれ折れた剣でどうにか受けるが、すぐにひび割れだす。

忠告しておいて我ながら間が抜けている。


「愛っ! 愛が全てよっ!!」


炎上しながら吠えるタナカ。なんというマナ、剛力。

ザィネがありったけの蛙傀儡と点火術をタナカの背に連打するが止まらない。


「・・ふぅっ」


熱気で全て焼き付く中、どうにか呼吸を整えた。一瞬だ。

私はタナカの両肩に2発ずつ爆破術を連打し、圧がわずかに緩んだ隙に最速で砕けゆく折れた長剣からポーチから抜いた炎の細剣に持ち変え、交錯様にタナカの鉄のごとき腹を炎の刃で深々と切り裂いた。


「あら・・負けちゃった・・」


タナカは炎に包まれ、力を失い倒れた。信じ難いが、昏倒しただけだ。まだ、死んでいない。

見れば、エイダンとロロアも最後はエイダンが墓標のダイルゥーワに麻酔薬を射ち込んで昏倒させていた。

レッドブーツ閥の呪い師はそれなりに近接戦ができる。



・・このラビリンスに出張った連中の本隊はこの入り口の仮設砦で待ち構えていた連中だったようで内部の隊は大した物ではなかった。

オズキモズはやはり怒りのトルマリンを回収してしまったようだが、憎悪のオニキスは回収できた。


「これはまた、酷い物だ」


その秘宝はまさに灰の王冠の犠牲者達の憎悪その物だった。


「もう1個取られても半分はこっちが取ったからもう勝ちみたいなもんですね!」


「トゥ~イ」


リラを鍋兜に乗せたルルクは気楽な物だ。


「まぁ完全解放される最悪の事態は避けられたが、捕らえたダイルゥーワとタナカから情報をもう少し引き出したいところだな」


ラカの目的とオズキモズの内心。見誤りたくはない。

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