表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星明かりのルルク  作者: 大石次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/23

燃え盛る郷

出発の2時間程前に不意に手の空いたわたくしは、輝ける亀のごとき叡智のお裾分け島内のわたくしとアイシアとルルクの部屋に立ち寄りことにしました。

わたくしの部屋と言ってもこの島に入ってからは連日諸々の調整やら雑務で忙しく、わたくしは2日くらいしか泊まっていませんが。

武闘派のスネークハント閥と夜魔退治特化のロックアクス閥、無閥の呪い師狩り特化のレッドブーツ閥の3者が張り合ってしまい始末が悪いことになっていますからね・・

ともかく手が空いたので自分達の部屋に向かいました。ルルクちゃんに煎り豆茶でも淹れてもらいましょう。


「あ、マスター・ベルニュッケさんじゃないですか。早いですね」


リラが端で寝ている机で勉強していたルルク若干、警戒しながら言ってきました。

先日、傀儡人形に指導任せた結果、ちょっぴりシゴキが厳しかった件以来、若干はこの子の中でのわたくしの評価が下がっているようです。不本意ながら。


「空き時間に自習。関心ですねぇルルク。アイシアはいないのですか?」


「ペンジンさんがまたわがまま言ってるみたいです。ベルニュッケさんやロックアクス閥の2人に比べたら無理が通ると思ってるんでしょう。ほんとにっ!」


「アイシアは基本的には人が好いですからねぇ」


斬るとなったら容赦無いですが。

わたくしは椅子に座りました。ふと、目につきます。


「ルルク、右の頬の傷痕を上位治癒術で消してあげましょうか?」


頬に稲妻のような傷痕があります。


「大丈夫です」


即答。強い子ではあるんでしょうが、そうサクっと割り切るモノではないですか。


「煎り豆茶を淹れてくれませんか? ミルクと砂糖をしっかり入れて!」


「贅沢ですね。ま、いいですけど・・」


ルルクは高過ぎる椅子から降りて支度を始めてくれました。教材を覗いてみると教会学校6年の算術書でした。難度はやや高い物で、ここまでの正答率は8割強。


「ふふん」


わたくし達が育てているワケですから、まだまだ不合格ですね。



正直遅いくらいだけどさ。必要な呪いの術と道具、人選に随分手間取って僕達はスネークハント閥、ロックアクス閥、レッドブーツ閥の3派が厳重に管理するゾガ大陸北部の氷の(ほこら)の前に来ていた。

夜魔祓いも呪い師も合わせて30人もいる。


「ほんとに全部凍ってますね!」


「トゥイっ」


幻獣トーチテイルをいつもの鍋みたいな兜ではなく耳当て帽子の上に乗せたルルクが戸惑っていた。1人だけ防寒着も着せられている。

祠はその名の通り融けぬ呪いの氷でできているからさ。寄るだけで真冬の凍気(とうき)だ。


「ここまでしなくてはならないとは。善悪はともかく、1つの摂理の祝福を受けて産まれた者ではあったのだろう」


銀貨3枚のアイシアは言った。あまり性別を感じさせないが美形だ。先日、担当域の夜魔の目立つ個体の討伐消化に数日付き合った時、1日だけ月の物の日に当たってしまっていたが、


「頭痛と腹痛と貧血があるだけだ。問題無い」


とやや青い顔で平然と言い、実際、討伐は完璧にこなしていた。

女の夜魔祓いは珍しくもないが、こういう人物で、これだけ技量のある人は初めてだ。夜魔祓いなんてならずに呪い師になればよかったのに。

と思って見ていたらザィネに右足を踏まれた。


「痛っ?」


「ロロアっ、仕事で来たんだろうがよ?」


「おお、わかってる」


怖っ。僕の従姉妹(いとこ)で、それだけなんだけどな。

まぁ親族で上位の呪い師に成れたのが俺達だけ、ってのもあるんだろうけど。


「では、行きましょうかっ! 道を通して下さい」


なぜか仕切るクラウンタートル閥のベルニュッケ。アイシア担当の呪い師、ってだけでグイグイ来るよな、この人。

苔亀のベルニュッケのグループって、洒落た呪い家具の創作技術論文の発表とか家具の販売とかしてるグループなんだけど? 家具屋だよね??

とにかく氷の祠の扉の封印は解かれ、俺達は中へと入っていった。



極寒の祠の最奥の台座まで来ると、一転、熱気が凄まじかった。


「ルルク、耐熱の呪い道具を」


「はい!」


ルルクには早々と冷気を纏う道具を使わせ、熱から身を守らせた。

この子は泣き言も多いがまず我慢しようするから、厚着していると短時間で暑気当たりになりかねない。

台座にうっすら炎を纏った宝珠が据え置かれていた。宝珠の中には燃え続ける郷がある。


「かつてこの地にあった明星の魔女ラカが最初に力に目覚め、焼き尽くした出身郷ヨミド。事態収拾に当たった当時のスネークハント閥の呪い師達でも鎮火できず、宝珠に封じるより他無かった」


夜魔祓いに似た格好をしているレッドブーツ閥の呪い師の男が呟く。わりと名の知れた男だ。


「火葬の窯のようになっているが、この中に、切り札があるんだな?」


「正確にはその材料らしい。何十年もラカの力を抑え込み続けた。その事実その物が強い呪いになるんだろう。回収の準備をしよう。昔のままではない、そうなんだろう? スネークハント閥」


「当然だ。こんな事態にならなければ数年以内にはもっと穏便な段取りを組んで処理する予定だったからな!」


呼び掛けられたスネークハント閥は苦々しく応えた。明星の魔女ラカはスネークハント閥出身でもあった。

このスネークハント閥を中心として台座の周囲に凍結系の呪いの陣から敷かれた。ルルクもその端の一角を担う。炎の幻獣であるリラは今回は離れた位置で留守番だ。

陣が発動するとビシッ! と宝珠に霜が張り付き、内部の炎が弱まった。


「では、ゆこう! 今回の指揮はレッドブーツ閥の爆ぜる足音のエイダンが取る。それぞれ装備の確認を、特に防具が大きく破損した場合、即座に離脱をっ」


私を含む夜魔祓い達は右手で左胸を叩く動作をした。同意する、の意だ。

突入組は全員、熱に対抗する吹雪のケープを纏い、それぞれ冷気を宿す武器や杖を持っていた。私もクラウンタートル閥が用意した真冬のサーベルという呪い武器を形態していた。

入り口を開き維持し、離脱を助ける担当の呪い師達が宝珠に新入する陣を宙に張った。ベルニュッケはこの班に入っている。


「アイシア、気を付けるんですよ?」


「師匠っ、頑張って!」


「トゥーイっ!」


「行ってくる」


陣を通り、私達は宝珠の中へと進入していった。



火勢は弱まったとはいえ、郷は燃え続けている。木々、石、金属、土、肉、その他様々な物が焼け焦げる悪臭と熱気が立ち込める。


「・・酷い悪臭だが、呼吸はできるな」


「残火の遺跡の資料を元に、この状態で管理できるようになるまで改良した。我々はスネークハント閥はロックアクス閥より優秀だ」


「聞き捨てならないけど?」


「喧嘩売ってんの? 規模が違うだろ?」


ロロア達とスネークハント閥の突入組が剣呑になりだしたが、


「お喋りしてられそうにないぞっ?!」


エイダンが自分の氷の杖を構えた。燃え続ける郷から次々と、焼かれ続けた郷民達が喚きながら私達に向かって駆けてきた。

本来なら夜魔になるべきところを郷が封じられたことで半端な状態で魔と化したモノだろう。

呪い師達は上位凍結術で、夜魔祓い達は氷の武器でこれに対処を始めた。私も真冬のサーベルを振るう。

悲惨な魔物ではあるが大した相手ではない。ただし数は多い。際限も無い。


「末端のコイツらは倒しても復活すると聞いているっ! 目的地は教会だっ。突っ切ろうっ!!」


エイダンの指揮の元、私達は死ねもしない哀れな燃える郷民達を打ち払いながら、燃え続ける教会を目指した。


「っ!」


燃える教会には同じく燃え続ける男女の巨人と合わさった巨大な蜘蛛の魔物が張り付いていた。


「ラカぁああっ!!! 許さないっっ、許さないぃぃっ!!!!」


「悪魔の子っ! 悪魔の子っ!!」


喚き散らす蜘蛛の巨人。


「ラカの両親だ。ここは邪教の隠し郷で、生け贄の因習があったという。ラカは拷問されて死ぬはずが、邪教徒達の命と肉体を奪って傷を癒し復活して報復した。ヤツが誰も習得できなかった身体交換術を獲得したのは偶然じゃなかったのさ」


淡々と言うエイダン。


「まず、最初の間違いは正しておこう」


呪い師達が猛烈に上位凍結術を連発する中、私達夜魔祓いは空橋術で突進する。

巨人の蜘蛛は燃える網を吐いたが、前衛に回った夜魔祓い達が纏めて凍結させて斬り、砕く。

中衛に呪い達は愚かな夫婦の巨人の身体を打ち据え、凍らせて引き付け、後衛の私の他数名が蜘蛛の胴体に飛び付く。

心臓の位置は気配と透視(とうし)術で見切っている。


「月よっ!」


私は真冬のサーベルを激しく発光させ、他の夜魔祓い達と共に蜘蛛の胴を斬り裂き、心臓に凍気を注ぎ込んで凍り付かせ、粉砕した。

蜘蛛の巨人は喚き散らしながら砕け散った。これに呼応し、郷の火勢が弱まり、教会に集まりつつあった燃える郷の人々も砕け散っていった。


「爆破は得意なんだ」


わずかに燃える教会の扉を爆破術でエイダンは吹き飛ばした。



教会の聖堂の本来神像があるべき場所に凍結した子供の死体が浮いている。凄まじい氷のマナ。


「これは?」


「何番目の誰だったのかは定かではないが、数十年前に我々スネークハント閥が最後にラカを倒した時に使っていたヤツの身体を、呪いで加工した物だ。この身体を使いヤツに対抗する決定的な呪い道具を作る」


「呪いの道理ではあるんだろうな・・」


ここまで直接的な物だとは想定しておらず、私も、ロックアクス閥の2人も困惑してしまった。

人同士争って綺麗に勝つ、というのも虫が良い話なんだろうが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ