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星明かりのルルク  作者: 大石次郎


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14/23

牢と蜥蜴

私とベルニュッケとロロア、ザィネはゼブオンの案内で亀島の地下牢獄へ来ていた。

一般囚人棟では囚人達の恨みつらみを聞くこともあったが、ゼブオンが上位解錠(かいじょう)術で厚い扉の鍵を開け、今回の件で捕縛した獣人や無閥の呪い師達の収監された特別棟に入ると状況が変わる。


「気持ちのいい光景じゃない」


呪い師達は皆、石化されて抵抗がままならない状態でクラウンタートル閥達等の秩序の側の呪い師達によって上位観測(かんそく)術を掛けられて記憶を探られていた。

獣人達の方は拘束された上で念入りに足元に陣を描く固定型の浄化術を掛けられている。

程度の差はあれ人喰いを繰り返し夜魔に近付いている為、穢れを祓う必要があった。術と薬物で意識は奪われているが、多くの獣人達は呻いていた。


「この土亀(つちがめ)のゼブオンの右腕が無事ならばっ! 自らコイツらを成敗してやったところだがなっ。今は居住棟接客主任の職責を果たさねばならないのだ!」


昨日より大袈裟に固定して布で巻いて吊っている気がするゼブオン。


「白々しいヤツですねっ。骨折くらい、わたくしが上位治癒術を掛けましょうかっ?」


「やめろっ! これは高度な骨折だっ。安易な治療は死に至る! 断腸の思いでっ、この土亀のゼブオンは後方支援に回る決意なのだっ!」


「いいからとっとと案内してくれよ?」


「クラウンタートル閥って変な呪い師しかいないの?」


ロックアクス閥の2人はうんざり顔だった。


「くっ、同じ4位で年下のクセにっ!」


「ゼブオン、あまり時間に余裕は無いんだ。頼む」


「・・時間は重要だ。来い」


私達はゼブオンによって先日捕虜にした幹部獣人ハイナットの牢に入った。

薬品臭の中、ハイナットは陣の中央で鎖に拘束されていた。


「拘束具を強い物にして、薬品は多少は軽くしてある。話せるだろう。ふんっ、人喰い猫め!」


私は少し歩み寄った。


「アイシア、近寄り過ぎてはいけませんよ?」


警告するベルニュッケ。私を子供の頃から知っているから時折、子供扱いするような口調にはなる。


「・・君、銀貨3枚のアイシアだ。話はできるか?」


ハイナットは虚ろな目でこちらを見上げた。


「理知的に話してみせて、満足か?」


「君の姉に関して、君が恨むのは当然だが、私は私の役目を果たすだけだ」


「お前は自分の意志を秩序に委ね、呵責(かしゃく)無く剣を振るう殺人狂だ。私達より邪悪な者だ」


これにロロアが反応した。軽く電撃術を撃つ。


「にゃうっっ」


拘束されたまま苦しむハイナット。


「おいっ、猫。調子付くなよ? お前を手配しているどの国、どの組織に引き渡してもお前は正気で死ねないぞ?」


「やめときなって」


ザィネが嗜めた。

長々と話せる物でもないか。


「ハイナット。私達の調べた限り、獣人達はオズキモズに心酔し、暴れ、獣人への冷遇への報復を重視する者達と、獣人の権利拡大や自治できる十分な土地・・そうだな、国を求めている者達に大きくは分かれるようだ。君は、後者じゃないか?」


「はぁはぁ・・黙れ」


「ハイナット。国を持てば、君達は君達同士が憎み合うことを知ることになるかもしれないが、罪を償うのであれば、私達は協力の用意がある。手を組めないか? オズキモズの獣人至上主義は尖鋭的過ぎる。明星の魔女との関わりも現時点で不可解だ」


資料や伝聞によるオズキモズにしては大人しく明星の魔女ラカに従っているようでもあり、意図を掴みかねるところがあった。


「君の姉、ユルナットは君に、君達の時代を見届けろと」


ハイナットは唾を吐き掛けてきた。これは右の頬に当たるな、とは思ったが、動けない相手のしたこの反撃の行為を躱したり防いだりするのは、公正ではない気がした。

結果、ハイナットの唾は私の右の頬に命中した。


「猫っ!」


ロロアが激昂し、強めの電撃術をハイナットに撃った。


「ニャァアアーーーッッッ!!!!」


仰け反って苦しむ繋がれたハイナット。マズい。私はハンカチで右の頬を拭いながらロロアを止めようとしたが、先にゼブオンが無効化(むこうか)術を使ってロロアの電撃術を解除した。


「コラっ、ロックアクスの小僧! 接客主任であるこの私の前で捕虜を殺そうとするんじゃないっ」


「捕虜は客か?!」


「落ち着きなっ、ロロア」


「ベルニュッケ」


私は急激な険悪なやり取りに引いていたベルニュッケを促した。


「しょうがないですね」


ベルニュッケは白目を剥いて痙攣しだしたハイナットに上位治癒術を掛けだした。

私はため息をつく。権利を求めている方の獣人との交渉は困難。特にハイナットとの交渉役として私は不適。

しかし、この性質の獣人達の説得に失敗するとオズキモズの配下と無関係な世界中の一般獣人達が各地で反乱を起こしかねない危うさはあった。

既にこのゾガ大陸北部でのオズキモズ一党の活動は獣人社会にかなり誇張されて広まっている。

夜魔祓いに組織力は無い。呪い師の閥の内、獣人達と比較的近しく今回の騒動と距離を置いている閥に間に入ってもらう必要を感じた。



その日の午後には私達は転送門とロロアとザィネ達の翼を持つテントでゾガ大陸北部のヤィーボラン岩原(がんげん)で、上位夜魔メイノクと交戦していた。


「ルルクっ! 守り以外は考えなくていいっ!!」


「了解ですっ!!」


ルルクは足場が悪過ぎるので自分に浮遊術を掛けつつ障壁術で、さっきから上位凍結術を連発しているベルニュッケを守っている。

昼間の日射しに焦がされながらも滅びないメイノクは、変幻自在に飛び回る負のマナの光弾(こうだん)を続けて放ち、様々な角度から私達を狙う。

メイノクは進化した蜥蜴の夜魔がかつての手練れの夜魔祓いだったメイノクを取り込んだ個体。

メイノクの最後の縛りでこの奇妙な岩だらけの平原の中心部から離れられなくはなっているが、尋常な力ではない。

無人のヤィーボラン岩原が棲み処でなければ、危険性から優先して討伐隊が組まれとっくに処分されていただろう。


「くっそっ! こんなヤツ、構ってられないのにっ」


上位爆破術で私の援護をしながら苛立つロロア。

明星の魔女というのは夜魔の使役が得意らしい。手近なゾガ大陸北部で目立つ上位夜魔はなるべく始末しておく必要があった。


「いや一石二鳥ですよぉっ? というかザィネ、人形達をもっと下げなさいなっ、壊されちゃうでしょうっ?!」


この岩の平原ではいい素材が採れる。メイノクがいるせいもあって中心部は手付かずだ。

灰の王冠騒動に想定を越える資金投入をするハメになった呪い師達は、金策や装備や道具に使える素材を隙あらば集めるのに躍起で、私達も採集用の傀儡人形を数十体準備してきていた。


「だから倒してから出そう、っていったんだよっ!」


管理は傀儡人形の扱いが得意なザィネがしている。一応、弩弓等で援護させているがやみくもに射っても効果は薄い。


「途中までに消耗するでしょうがっ!」


「ぐぅっ」


翼のテントで高い高度を飛ぶとメイノクの遠距離攻撃されて近付けず、低く飛ぶとメイノクの影響で好戦的な幻獣達やメイノクの分体の群れに襲われる有り様で、傀儡人形は降下後の護衛にも使っていた。


「リラ、手早く行こう!」


「トゥイっ!」


私はウワバミのポーチから引っ張り出したユルナットから奪った炎の戦斧を巨大な下半身をベルニュッケにほぼ凍結されたメイノックに火炎を逆巻かせて投げ付ける。

メイノクは光弾を集中させて炎の戦斧を刃零れさせて弾いたが、弾幕が薄れた。

ザィネが傀儡人形達にメイノクの目に矢を集中させてさらに怯ませる。

私は岩場を飛ぶように走りながらハイナットから奪って炎の細剣を抜き、リラに浄めの青い炎を上乗せしてもらい、間合いを詰める。


「ジャアアァァッッッ!!!!」


音? や気配を察して、メイノクは4本ある右腕の拳を振り下ろしてきたが、ロロアが上位爆破術で遮った。

行ける、


「せぁっっ!!!」


私はメイノクの胸部まで跳び上がり、そこでもう一段跳ね、燃え盛る青い炎の細剣をメイノクの眉間に突き刺し、頭部全体を浄化の火で燃やした。

苦しむメイノク。だがまだ浅い。私は炎の細剣をヤツの眉間に刺したまま、空橋(くうきょう)術で頭頂部の真上まで駆け上がり、背の長剣を抜いた。


「月よっ!」


爆発的に光を剣に溜め、宙を蹴って下方に跳びながら身体を旋回させて燃えるメイノクの頭部を真っ二つに割った。

勢いが付き過ぎたがなんとか空橋術を利かせて着地できた。リラも駆けてくる。


「ジァアァ・・・」


浄化の炎はメイノクの全身に拡がり、焼き尽くしていった。


「月に照らされるは安らかに、路の遠く、(まこと)の郷へ」


私は長きに渡って強壮な夜魔を封じた夜魔祓いメイノクの為に祈りを捧げ、落ちてきた熱された細剣に軽く凍結術を掛けて回収した。斧の方はどこだったか・・


「片付きましたがもうそれなりの貢献をしたと思うので、あとはゼブオンに習って後方支援に徹しませんかぁ?」


「そう都合良くゆけばいいがな」


ベルニュッケに応え、寄ってきたルルクのズレた兜を直してやりながら、そうはならないだろうな、と思っていた。

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