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星明かりのルルク  作者: 大石次郎


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13/23

明星の魔女

・・正常な大気が足りない。火の摂理を解き明かした私と炎の力を与えたオズキモズ以外の呪い師達と獣人達は、マスクや呼吸を助ける呪い道具を身に付けていた。

ゾガ大陸の北部の残火(ざんか)の遺跡は延々と僅かに燻り燃え続けている。

錬成(れんせい)の技を使う者達や工学に秀でたドワーフ族達が言うところの酸素が足りなくなり、代わりに一酸化炭素という毒気が立ち込める。

本来炎も消えるはずだが、しかし呪いの火は消えない。大昔の灰の王冠が暴走した呪いの影響が残り続けている。

当時、灰の王冠を生み出したらしいロックアクス閥の愚か者達は、この呪いによる大気の消耗と気温の変化を整え、拡大を防ぐ為に、この遺跡の周囲に凍える湿地帯を造り、さらにその外周に巨木の森を造りだしていた。

結果、湿地と森には強壮な幻獣達と夜魔達が蔓延り、ロックアクス閥の者達も思うように近付けなくなっていた。

滑稽というより他無い。取り繕うことしか知らないからだ。


「さっさと頼むぜ? 小さい大将」


「わざと低能な口を聞くな、オズキモズ」


「へっへっへっ」


この笑い方も芝居掛かっている。私の知る限りこの時代で最も強い獣、オズキモズ。産まれついた時から2本の尾を持つ王たる獣人。

この星の進歩の1つの可能性の権化なのだろう。

・・全く関心を感じないが。

私は、不完全な子供の身体で、柱の樹(はしらのき)の杖を構えた。

私を囲み、私の下僕達とオズキモズの手下どもに集めさせた大小の魔石(ませき)が大量に浮き上がる。

背後の台座に置いた未だ力の戻らぬ灰の王冠が呼応する。不用意に側にいた呪い師が1人と獣人が2人、悲鳴を上げて焼き尽くされ灰となって王冠に吸い取られた。


「現れよ、灰被(はいかぶ)りの城」


私の言葉に応え、全ての魔石が対価として砕け散り、地響きと共に残火の遺跡の地中から巨竜のごとき灰にまみれた城が出現した。

私の下僕達とオズキモズの手下どもが歓声をあげる。


「これで、全ての呪い閥と同等の力を持つ拠点は獲得した。あとは灰の王冠の力を蘇らせるのみ」


が、身体に異変を感じた。また、身体の結晶化が始まった。小さな子供の左手が、結晶に変わりだし、私はそれをマナを込めて鎮めた。

一部の側近と、オズキモズ以外は気付いていない。


「・・魔石を多数持ってしても、力を使い過ぎた。私はしばし城で休む。オズキモズ、残る3つの秘宝に加え、私の新しい身体の候補も、早く見付けろ」


「もうマナの強い子供を10人は捕まえてきたろ?」


億劫そうな顔をするオズキモズ。産まれながらの強者であるが為、人に使われることがそもそも億劫なのだろう。


「どれも失敗だ。私との身体交換(しんたいこうかん)術に耐えられず、焼き尽くしてしまった。もっと、特別な子供が必要なのだ」


「正直、人間の子供は大して見分けがつかねーよ」


「オズキモズ、お前は既に私を知っている。そのお前であれば、一目でわかるはずだ。私の器に相応しい者が」


「小さい大将、あんた以外にあんたの器なんて無い気がするがねぇ」


冗談めかすが、その目に哀れみの思考が見て取れた。不快だ。


「必ずある。私がこの時代に再び現れたのも偶然ではない。感じたのだ、暗いの夜の淵に、確かに見えた眩しい、私の為の強い器を。私は、かつての私以上に、完全になれる」


それは確信であった。予知(よち)術の真理とは、兆しを掴み実現すること。その実行を成し得た者だけが、予見者なのだ。


明星(みょうじょう)の魔女、ラカの名において命ずる。私に、私の冠と、私の身体を捧げよ」


そう、こうして、オズキモズ。お前にこの私の城を前に命ずることを私は知っていた。



曇り鏡のペンジンや立て続けに対応するハメになった嘆きのトパーズの強奪の件や事後対応に掛かりきりになって担当域の夜魔狩りが遅れていた。

人喰いに関してこの件と絡んで組織的な動きがあって空振りも多かったが、私はリラとロロアと組んでそれらを2日で手早く済ませた。

私達は、ゾガ大陸北部まで出張ってきていたクラウンタートル閥の移動拠点であり改造された飛行島(ひこうじま)でもある、輝ける亀のごとき叡智のお裾分け島、という名称を連中はつけていたが腹が立つので単に亀島(かめじま)とクラウンタートル閥以外から呼ばれている島の要塞に無事、帰還。

ロロアは同日、亀島に戻ってきていたザィネと協議に向かった。ザィネはこの2日、ロックアクス閥本体や各隊と連絡をつけることに奔走していた。

私とリラはまず、この島に残って我が儘放題らしいペンジンの世話や、嘆きのトパーズの件で捕虜にした獣人や無閥の呪い師達の尋問、それからルルクの教育係代行を任せていたベルニュッケに会いにいったが、


「あの三つ編みガリガリゴボウそばかす爆弾はクラウンタートル閥の本部に直に報告に行ってる。使い走りみたいなもんだから、あっちこっちしてるのだ! はははっ!!」


と、右腕を骨折しているらしくずっと布で吊ってるが、なぜか治癒術でさっさと治そうとしない、ぽっちゃりとした体型で、亀島の居住棟の接客主任をしているのだが口と態度の悪い呪い師、ゼブオンに棟の受付近くで言われてしまった。

ベルニュッケは亀島の転送門でノウオシア大陸の本部へ行ったか。嘆きのトパーズもあちらに送って再封印してもらっていたので、まぁ誰かは行くべきところではあったんだろう。

この場に残っているとゼブオンにキリも無くベルニュッケの陰口を聞かされるハメになるので私とリラはその場を退散し、取り敢えず、土産を買ってこいとうるさかったペンジンの元へ向かった。


「メッシカヤ郷の回転焼き菓子! ヨルポ郷のメルメル鶏燻製っ! ヨザのハーフエルフ集落のポートワインっ!! わかっているじゃないか! 銀貨3枚のアイシアっ! 代金はクラウンタートル閥につけておくといいっ。・・おいっ、この燻製でサンドウィッチを作るのだ! 黒パンと白パン、交互に皿に盛るんだぞっ?!」


ペンジンは曇った鏡を帯で結んで亀のように背負ったまま、嬉々として侍従仕様の傀儡人形に命じた。

幽霊谷で最初に見た時は浮浪者のような格好だった上に負のマナを浴び過ぎて怪人その者であったが、今はすっかり清潔な格好で、負のマナも落ち、額の1つ目と鏡を背負う奇行を覗けばよくいる風変わりな老呪い師、といった程度に落ち着いていた。


「ペンジン、今後も協力は頼むが、いつまでも亀島に留まらず、クラウンタートルの本部に移ったらどうだ? あそこの方が安全」


「断るっ! 本部の上位呪い師どもは信用ならんっ。私から鏡を奪おうとするっ! 私はここに残るんだっ」


「・・・」


急に手強い。


「亀島の守りは確かに強固ではあるが、連中は残火の遺跡の城を復活させたと言うし、万が一にも」


「嘆きのトパーズはもう横取りしてやったから灰の王冠の完全復活はもう無いっ! 獣人達の数も減っておるし、あの、明星の魔女も! 身体交換術の失敗で復活した側から死にかけているぞっ? もう勝ったも同然っ!! 全て終わっても私はここから出て行かないぞっ?! 清潔な暮らしっ! 美味い食べ物っ!! その重要性を私は今になって気付いてしまった。家賃は私の鏡の千里眼だっ! もう死ぬまでっ、出て行かないしっ、鏡も渡さないっ! 私が死ぬ時はこの鏡も割るからなっ!! 誰にも渡さないんだっ」


「・・あ~、了解した。貴方は貴方の好きにしたらいい」


「トゥイ・・」


私はここも早々に退室することにした。手に負えない。

最後に私はルルクの様子を見にゆくことにした。いつかのベルニュッケに習いルルクにも豆餡の饅頭を土産に買っていた。

確か021番の訓練室だったな。


「・・ん??」


それなりに激しい稽古の跡が見える訓練室は端の方に学習用の机と椅子と本棚が置かれていた。

そこで、ボロボロの訓練着姿のルルクが指導用仕様らしい傀儡人形2体に囲まれ、吊るされた氷嚢を額に当て目の下にクマを作って号泣しながら勉強していた。

ハッ、と私とリラに気が付くルルク。


「師匠ぉ~っ!! 助けて下さいっ。たった2日の間に教会学校5年生の教養と万能解毒薬の調合法と解毒術と浮遊術と戦闘訓練の基礎のやり直しをやらされてるんですぅ~っ!! ほとんど寝てないしっ、御飯も生命薬だけなんですぅーっ!!!」


私はため息をついた。


「ベルニュッケのヤツ・・」


「トゥ~イっ」


忙し過ぎて適当な設定をした傀儡人形に丸投げしたな。

致し方無い。少しはわずか2日の期間で随分省略して学習できたなと内心思いつつ、私はルルクを訓練から解放してやり、泣きながら饅頭を食べるルルクの苦情を聞いてやり、あとは毛布にくるんでリラと一緒に寝室に寝かせた。

起きたら風呂は自分で入るだろう。

数時間後、ベルニュッケは嘆きのトパーズ奪還やペンジン確保の功績等の評価で事態収拾後に3位の呪い師への取り立ての言質を得た。と大喜びで亀島に戻ってきたが、私は勿論、きっちり説教してやった。

しょうがないヤツっ! 浮かれ者めっ。

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