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星明かりのルルク  作者: 大石次郎


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11/23

鏡の男

幽霊谷へはロロアとザィネが所持していた翼を持つテントの飛行で移動することになった。

テントは外から見るとせいぜい1人用だが、中はちょっとした隠れ家のようになっていた。

歯車の館と違い無駄な装飾や広大さは無い。


「ふぁ~っ」


「トゥイ!」


布の小窓からリラと外に顔を出して景色を見ているルルク。既に防具は外している。


「急げば半日で着けるが、明日の早朝の時間に合わせたい。あんた達も休みたいだろ?」


調理限定で操作術の精度と出力を強化する、呪いの調理台で全員の昼食を作っているロロア。


「誰のせいで疲れたんですか?」


不機嫌顔でソファにもたれているベルニュッケ。


「情報と機会と飯と宿! 使った道具の補充もしてやったろ? 稽古付けてやったんだよ」


「物は言い様だ」


私も防具は外していた。


「・・銀貨3枚のアイシア。この件に本腰入れて付き合うつもりなら、のんびりあの子供を育ててる間は無いよ?」


ザィネが警告してきた。テント内では吹き抜けの中二階の廊下の窓からルルク達は顔を出していて、ソファと暖炉のある間からは多少遠かった。


「正直、私はベルニュッケとの腐れ縁で首を突っ込むことになったのだが、いよいよマズくなったら他の夜魔祓いかベルニュッケよりまともそうな呪い師に預けるつもりだ」


「私よりまともな、とはっ?!」


「とにかく、幽霊谷も夜中に突入するというならルルク以前に私もごめんだ。戦力が全くたりない」


幽霊谷は負のマナが集まり易く、冥府の裂け目もあり、夜中にこの少数で立ち入るのは破滅的だった。


「だから早朝、それも比較的浅い東南の域だ。降りる前に霊木の灰もたんまり上から撒いてやるさ」


「気前がいいですね」


「この件にはロックアクス閥の面子が懸かってる。あんたみたいな欲得じゃない」


「むぅっ」


益々不機嫌になるベルニュッケ。


「本当にあんな所に住む者がいるのか?」


「いる。何十年も前から私達は監視している。無閥(むばつ)の呪い師、曇り鏡のペンジンはそこにいる。ヤツは自分の行いが憎まれることをよく知ってるからな!」


「違いないよね。それから、あんた達、オムレツはギムリス風? モノガリ風?」


ギムリス風はベーコン油を利かしたピリ辛。モノガリ風は香草を使った塩味だ。ロロアは性悪の無閥呪い師と同列に聞いてきた。

無閥はその言葉のままにどの派閥に属さない上位呪い師のこと。そんなことは許されのにで、無閥の時点でお尋ね者だ。

ペンジンと言えば千里眼(せんりがん)の類いの強力な禁忌の呪い道具を持っていて、それであらゆる全てを覗き見することに取り憑かれた男。そして、


「モノガリ風で、ルルクにも聞いてやってくれ。リラにはポポの実を」


「わたくしはギムリス風、ソースはドバドバでっ!」


相変わらず、ベルニュッケとは食事の好みが全く合わない・・



翌日、早朝。日の出と共に私達は負のマナの立ち込める幽霊谷の東南域に到着し、霊木の灰を大量に散布して、それを呪い師3人が上位風紋術で操り、東南域の端々まで振り撒いた。

夜魔達の気配は朝陽と霊木の灰の効果で谷の裂け目等へと退散していった。

私達は東南域の谷の底がやや隆起したような箇所へと降下を始めた。


「こっちのことは丸見えだろうが、大丈夫なのか?」


「訪ねる旨は伝えてある。いい条件付きだ。相手は曇り鏡のペンジンだ。本気で逃げるつもりならお手上げだよ」


「特上の林檎パイを持ってこいと伝えてきてたから、逃げないと思うけどなぁ」


「パイを持ってこい、とは含むところがある言い回しですね!」


「そう言われてもさ」


「林檎パイ食べるんですかっ?!」


「トゥイ!」


私達はとにかく霊木の灰で一先ずは浄められた幽霊谷の東南域に着地し、魔除けの香も一応焚き、翼を持つテントから出た。

テントはすぐにザィネが収納術でしまった。


「なんというか・・溶けた墓場、みたいな所ですね」


実際そのような風景だった。霊木の灰を撒かないと日が差しても早々立てる場所ではない。その浄めの効果も今日、日が暮れるまでだろう。


「すぐそこだ。あそこに竜の頭の骨があるだろう? 目印なんだよ」


私達がロロアの示した骨のある場所まで進み、ロロアとザィネが何か必要な術を掛けようすると、その前に目の前で隠蔽(いんぺい)術が解け、気味の悪い小屋が姿を表した。


「あれ? 気が早いな」


「なんか悪そうな小屋ですよ? 師匠っ!」


私達が戸惑っていると、戸が荒々しく開けられ、額に1つ目を持つ醜く老いた、古びた呪い師の服を着た男が禍々しくも汚れた掛け鏡を抱えて飛び出してきた。

男の額の目はギョロついていたが両目は白く濁り、失明しているらしかった。

ルルクが度肝を抜かれていた。


「遅いっ! ロックアクス閥は間抜けかっ?! 早く私を逃がせっ!!」


「お、おうっ。話も早いぞ?」


「協力するんだね? 曇り鏡のペンジン」


「私は私に危害を加えようとする者を監視するっ、数時間前に、お前達の閥の者を拷問して話を聞き出す獣人どもを見たっ。そんなヤツらは私は、この私が! 見たこと無いヤツらだった。ヤツらは拷問を終えて運の悪いヤツを殺すと呪いの道具を使ってすぐに姿を消した! こんな偶然は無いっ。私の鏡に対抗しているんだっ。ヤツらが、来る!」


泡を食ってペンジンが喚くと同時に、背後のそう遠く無い距離に汚れた獣の気配を複数感じた。


「っ?! 来てるぞっ9体っ!」


この距離まで気付かないとは。私は振り返って長剣を抜きながら叫んだ。


「表せっ!」


「風よっ!」


「光よっ!」


ザィネが解明(かいめい)術を使い、ロロアが風紋術を使って周囲の霊木の灰を巻き起こし、ベルニュッケが照明術で明かりを宙に5つ灯した。


「ぐぅっ?!」


「クソがっ!」


姿を消していた術を解かれ、霊木の灰で身を焼かれ、朝陽が差しても影の多い谷でも照明術の明かりで姿をはっきり晒される狼族主体の獣人の群れ。

全員強力な呪い道具らしい腕輪をしていた。


「獣人族! 既に散々喰って穢れているなっ。なぜペンジンを狙うっ!」


「こっちの台詞ですねっ。どうも・・ロックアクス閥だけじゃないですね?? まぁいいでしょう。その覗き見野郎は以前から目障りでしたので。詳細な案内まで、御苦労様です」


首領らしい狼族が妙に慇懃に言ってきた。


「アイシア、首皿(くびさら)のスマーグですっ。ヒシノ国の賞金首ですよ!」


犠牲者の頭部だけ喰らう殺人狂だ。


「話し合いは無理筋らしいな。ルルクはベルニュッケと組んで守りを固めるんだ。ザィネとロロアはそのギョロ目さんを守ってくれ。私はリラとあの悪食を地獄に帰す!」


「御指名ありがとうございます! 御名前伺ってもよろしいですかぁっ!!」


スマーグは両端に小振りな鎌の付いた得物を手に私に突進を始め、それを合図に乱戦になった。


「銀貨3枚のアイシアだっ!」


「随分御手頃な御値段ですねっ!」


私の爆破術とリラの浄めの火を躱して間合いを詰めるスマーグ。即座に2枚の刃で3連撃を打ち込んできた。手練れだ。

続けてこちらに視線をやったままリラに斬り掛かり、私が剣で弾いて庇うと左の袖の中に仕込んでいた短刀を至近距離で投げてくる。

私は仰け反って躱しながら電撃術をヤツの得物の柄に撃ち込み、手離させた。


「っ!」


「トゥイ!」


すかさずリラが青い火を放ち焼き払いスマーグを怯ませた。

私はスマーグより先に操作術でやはりこっちも仕込んでいた右の袖から短刀を抜いてヤツの右目に突き刺し、素早く右側面に周り込むと、スマーグは鉤爪で強引に右側面の広範囲を斬り付ける構えを取った。察した私は攻撃せずに背後に周りその流れのままに爪を空振りさせたスマーグの胴に、


「月よっ!」


光る長剣を振り下ろした。


「っっ! せめて首を落としてくれませんか? 食欲をそそられないでしょう? うふふふっ」


スマーグは嗤って2つに分かれた骨と焼けた衣服だけ残して消滅した。

残り8体の獣人達も呪い師達とルルクでどうにか仕止めてくれていた。

特にロックアクスの呪い師2人の火力が高い。さすが武闘派の閥。


「なんて野蛮なっ、だから物事に直に関わると良いことは無いんだっ!」


「ペンジン、そうも言ってられないよ? あんたがその汚い鏡で盗み見たヤツらの活動の全貌、話してもらうからね?」


「新しい隠れ家は用意する。こっちも犠牲が出た。できることはなんでもする」


ザィネとロロアに代わる代わる言われ、ペンジンは額の目をギョロつかせながらも、観念したようだった。

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