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星明かりのルルク  作者: 大石次郎


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10/23

歯車の館

ルルクの放った数個の照明(しょうめい)術の明かりによって照らされた館の2階ホールで、ガラクタの夜魔擬き達が蠢く。


「どう手を付けたらいいんでしょうっ? 師匠っ!」


「ベルニュッケと組んで照明術の維持を優先っ!」


「はいぃっ」


「ベルニュッケはガラクタ達の脚の破壊を頼むっ!」


「いいんでしょう! ロックアクス(ばつ)ごときの兵士等恐るるに足りませんっ」


「リラっ、ゆこうっ!!」


「トゥーイっ!」


私はリラと組み、長剣に光を灯し、とにかく数を減らしに掛かった。



小一時間程遡る。

私達3人はベルニュッケの飛行絨毯でギムリス近くの歯車の館に向かっていた。


「ロックアクス閥ってそんなに凶暴なんですか?」


「そうですよぉ? ルルクなんて小さい子は頭から噛られちゃいますよぉ??」


「ええ~っ?!」


ギムリスの赤ヤモリの下宿に7日滞在し、私は月桂樹の祓い所で情報の確認をしながら、同じくギムリスに滞在中の他の数名の夜魔祓い達と時に協力して周辺で目立つ夜魔を一通り退治した。

ベルニュッケは獣人達の動向を含む灰の王冠に纏わる情報収集に専念し、ルルクは教会学校5年生程度の教養と、治癒術、基礎的な生命薬の調合法、明かりを灯す照明(しょうめい)術の修得に成功していた。

ギムリス郷のある地域で残る仕事は歯車の館へ向かうことのみ、だ。


「ベルニュッケ。誇張し過ぎだ」


「あれー?」


「冗談なんですかっ!」


歯車の館は魔工(まこう)学という呪いと工学を合わせた禁忌の技を研究していた大昔のドワーフの集団が所有していた施設であったが、とっくに放棄されている。

これを20年程前からロックアクス閥の呪い師達が勝手に占拠して拠点化していた。


「・・ほんとに連絡は付けてるんだな? 彼らとは我々夜魔祓いは没交渉だ」


「そりゃあ、もう! 人喰い騒動の報酬のわたくしの取り分の半分は使いましたからっ」


金で片の付く連中だったか? ロックアクス閥の呪い師達は設備維持にはほぼ協力せず、代わりに夜魔祓いに頼らず夜魔を狩って回る好戦的な一派。

大昔に灰の王冠のような迷惑な代物を作ったのもこの一派。今回の一件は彼らの仕業ではないようだが、当然関与を疑われており、それに対してムキになって事態収拾に乗り出している、という噂だ。

他の夜魔祓いや呪い師は関わりを避けていたが、それなら逆に行ってみよう、というワケだった。

私達はルルクの育成をしながら動いていて基本的に出遅れてるからさ。



歯車の館の目の前まで飛行絨毯で来ると館は想定の倍は強固な障壁術で覆われおり、我々の目の前に幻影(げんえい)術で拡大された朧気な呪い師の姿が映しだされた。


「亀の女とその連れかっ?!」


「亀の女っ? 栄光なる千年王国足る偉大な知恵の中枢と確定された城より(きた)るっ、この苔亀のベルニュッ」


「どーでもいいっ!!」


「ぐぬっ?!」


「灰の王冠の件に介入するというのであれば、我らロックアクス閥の試しを越えてみよっ!」


障壁の下方に穴が空き、そこへ機械仕掛けの通路が出現し、扉が開いた。呪い師の幻影も消える。


「なんと一方的なっ! わたくし達が先祖の不始末を処理してあげようというのにっ」


「出世したいだけなんですよね?」


「ルルクっ、穿った見方をするものではありません!」


「え~・・」


「まぁやるしかないだろう。降りよう」


私達3人は地上に降り、館の中へ入っていった。



1階はレバーを操作して路を開く迷路になっていたが、こういう作業が得意なベルニュッケと積極的に取り組むルルクにほぼ任せて30分程度で踏破し、2階へと進んだ。

そのままガラクタがあちこちに積まれた広間に進むと突然入ってきた扉が閉まり、灯りが消え、床にいくつも呪いの陣が発生し、負のマナが溢れ、あっという間にガラクタを材料に夜魔擬きの群れが現れた。


「しち面倒臭いですねぇ」


「初見だな、よく見た方がいい。ルルク! 明かりを」


「はいっ」


マナを目に通せば見えることは見えるが、よくわからない相手だった。私はリラも呼び出した。


「トゥイっ!」


こうして私達3人はガラクタの夜魔擬きの群れと戦うハメになったのだった。



・・残るは3体。いずれも左腕自体が速射可能な弩弓(どきゅう)になっていてしつこく撃ってくる。

私とリラは躱し、ベルニュッケはルルクの障壁術で身を守りながらマナを溜めた。


「爆ぜなさいっ!」


爆破術で纏めてガラクタ達の下半身を粉砕するベルニュッケ。

私はタイミングを合わせ、霊木の灰を1袋分、宙に撒いた。


「リラ!」


「トゥーイっ!!」


灰を巻き込み、火勢を増したリラが尾から放った青い浄化の炎はガラクタ達を包み、怯ませ、弱体化させ、弩弓の弦も焼き切った。


「月よっ!」


私は踊るような脚捌きでガラクタ3体の心臓の役割をするらしい体内の部品を次々と両断して滅ぼした。倒してもガラクタは残る。


「やりましたね! 師匠っ」


「ふんっ、造型が甘いんですよ! ロックアクス閥はっ」


「・・・」


だが、人為的に夜魔を造る技術はどのような物でも危険だ。このことは念入りに月の蝶で他の夜魔祓い達と共有しておこう。



それ以降は特に障害は無く、私達3人は3階にあったロックアクス閥の拠点にたどり着けた。

そこは武器庫と図書館と作業場が合わさったような場所でいかにも彼ららしい。

ただし、拠点にはたった2人の呪い師しかいなかった。

10代中盤な男女に見えたが実際は30歳前後、といったところだろう。


「2人ですかっ?! 偉そうに、我らの~、とか言ってたクセにっ」


「こんな辺境に大勢で詰めるワケ無いだろ? 僕達もたまたま補修当番で来てただけだ」


「調子づくことしか知らないクラウンタートル閥に文句言われたくないよ」


幻影術とは随分口調が違う。


「ぐぬぬっっ」


「ベルニュッケ、揉める必要は無い。銀貨3枚のアイシアだ。我々も灰の王冠騒動に巻き込まれている。獣人達・・いや、2尾のオズキモズの動向も気にしている」


ロックアクスの呪い師2人は顔を見合わせた。


「・・僕は銅兜を割るロロア。ここまでたどり着く実力はあったみたいだね」


「私は牛の頭蓋骨を割るザィネ。子供がいるのが気になるけど、私達に協力するつもりがあるのなら、幽霊谷(ゆうれいだに)へ同行しない?」


今度は私とベルニュッケが目配せし、リラを抱えていたルルクは困惑した。幽霊谷はやや離れた渓谷にある夜魔達の巣窟だ。しかし、


「まず、話を聞こう」


進展には違いなかった。

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