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1591年5月25日 日光山

俺は今、下野の日光二荒山神社に来ている。当然ながらこの時代の日光に東照宮はない。この神社は小田原包囲戦の時にも北条よりの姿勢をとり宇都宮氏の背後を脅かしたりと、北条にとって有難い存在なのだ。


『ようこそ入らっしゃいました、お伊勢様』

神主が出迎えてくれた。それも一人ではなく神社総出という感じだ。

こういう場面にあうと、伊勢神宮で内宮に祀られたという効果なのだな実感する。

一応、日本の神社の総本家みたいなものだからね伊勢神宮。

実は俺は今回、日光連山でやりたい事があって来ているのだ。

日光連山は古来より信仰の対象となっており、麓には神社や寺が点在し、本来なら部外者の立ち入りなど認められるはずがない。

そこを、この日光二荒山神社の皆が周囲の寺社に働きかけ、入山を認めて貰えたのだ。よく見ると神社衆と共に屈強そうな僧兵も多くいる。


『お初にお目にかかります、お伊勢様。拙僧らは輪王寺の僧兵にござります』

輪王寺もまた包囲戦時に北条の支援をしてくれた寺である。神仏習合のこの時代、伊勢神宮の神である俺は輪王寺の僧にとっても信仰の対象という事らしい。

因みに今回、雄二は帯同していない。新婚の二人にはゆっくりしてもらおうという配慮だ。

代わりにといっては何だが、今回随行しているのは、鳶沢重伍、それに忍びの総合商社三つ者から施設部隊のスペシャリスト20名である。俺が所有する各地の油田の精錬設備を施設したのも彼らである。掘削から設備設置まで正にチートな人たちなのだ。


今回は日光連山に銅製の避雷針を設置、その周りに磁鉄鉱を環状に敷設する。というのも下野国、現在の栃木県は夏の落雷が非常に多い土地なのだ。

今回は全部で40か所設置の予定だ。信仰の山である日光連山に人工物の設置などよく認められた物だが、


『お伊勢様のお社が山に設置されることは霊験の向上に繋がりまする』

と言って全面協力してもらえることになった。

伊勢神宮に行った時は、心の中で散々悪態付いたものだが、こうして見ると神宮に祀られたのは良い事尽くめじゃね?少しずつ俺も信仰心芽生えて来たよ。


避雷針の銅は足尾銅山の物である。足尾は非常に順調に採掘が進んでいる。

足尾銅山というと現代人には鉱毒事件が思い当たるが、この時代の採掘技術では問題になる程の採掘量ではない。むしろ、毒の元となった二酸化硫黄から硫酸も生成しているくらいである。しかし、毒害に気を付けるのは言うまでもなく、周囲の森や川に異変がないか見回る専門の奉行を配置した。


僧兵達は、山伏のような修行もするのか山歩きも三つ者に全く遅れを取らない。

勿論、俺、というか風魔小太郎の体も容易に彼らに付いて行けた。

僧兵達には避雷針について説明すると、

『落雷の危険が減るのは正にお伊勢様の御加護』

と感激していた。


今回の避雷針敷設の目的は永久磁石造りである。

これは、現代で香織から教わった磁石造りの方法である。

避雷針を支える銅製の支柱を等間隔に30本配置し、その周りに一定の距離間隔を取って直方体に削り揃えた磁鉄鉱を埋め込めると、強力な永久磁石が出来るのである。さすが落雷研究に打ち込んできた香織らしい発見である。彼女はこの件を論文にすると言っていたがその後どうしただろうか?


こうして、風光明媚な山頂に立っていると、香織ともう少し景色の良い所でデートでもしていたら違った結果になったのかな?とついつい考えてしまう。

何しろ、研究所の中でしかデートしたことなかったからね。お互いに研究馬鹿だったから。

男のセンチメンタルな話など誰も聞きたくないだろう!と気分を切り替える。


施工は三つ者主導で行うが、完成後の管理は僧兵に任せるのだ。

落雷のあった翌朝、埋め込めんだ鉄鉱石を回収、その際、埋めた地点の支柱からの距離を石に刻み木枠に納める。新たな鉄鉱石は同じ場所に同じ深さに正確に埋めるようマニュアル化して後を託した。僧兵は字が読めるのでこういう時は助かる。


これで、ひと夏でかなりの数の磁石がとれる筈である。

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