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1591年1月10日 お説教

俺は今、佐倉城の一室で正座させられている。板張りの部屋での正座はこの風魔小太郎の体をもってしても、きつい物がある。


当主であるこの俺にこんな事ができる人物はただ一人である。


切っ掛けは、密貿易船から手に入れた物資の配分だった。


家老・垪和と共に差配し、南瓜、じゃが芋、キャベツ、西瓜 、トマトといった農作物は佐渡へ、サトウキビは八丈島で栽培するよう決めた。


佐渡は二年前に上杉景勝が当地を納める本間一族を滅ぼしたあと、放置同然で領民はかなり困窮していると聞いている。鉱山開発で多くを雇ってはいるがそれでも、住民の半分にも満たない数である。


そこで、新たな作物を育ててもらい佐渡の特産とすれば、現地の農業も良い方向に向かうのではと考えたのである。


また、八丈島というか伊豆諸島は誰の管轄なのかはっきりと決まっていない。


一応八丈島は板部岡さんらしいのだが、そう頻繁に行ける距離ではないので島に代官を置いて一任状態だという。板部岡さんに相談して栽培してみることにした。


また、今回手に入ったオリーブ油で思い出したが、日本にもオレイン酸豊富な椿油が伊豆諸島で生産されている筈だが、噂は全く聞いたことが無い。


特産品として奨励できないか提案してみるつもりだ。


最後は豚、軍鶏、牛、羊、カシミア、アンゴラ兎といった動物類だがこれらは本領の下総上総で育て繁殖させることにした。というのも、俺は下総上総の土地を農地にして掘り返して欲しくないのだ。その点、畜産であれば、土地に生えた草を食べるだけであるから土地を掘り返される危険は少ない。


そして、さすがはきょうの差配である。今回の手に入った奴隷にはこれら作物の栽培、畜産の経験豊かな者が多かったのである。


奴隷たちは明語は話すので、きょうに通訳を頼み、この地での働き次第では奴隷から解放すること。土地の有力者として取り立てる事も可能であることを伝えた。その為には先ず日本語を覚えてもらわなくてはならない。きょうに頼み乗組員から明語と日本語を操れる者を数人雇い入れた。海賊の手下などに教師が務まるかなと心配したが、彼らは荒事とは無縁の文人で元より船でも通訳として仕事をしていたとの事。ならば問題なしである。しかも、この通訳達、全員が日本人だった、出身は其々だったが、倭寇の元で働いていたんだから相当訳ありな人生を送って来たのだろう。詳しくは尋ねなかったが、もしかしたら倭寇に無理やり攫われた者もいるかもしれない。彼らは一様に下船して俺の配下で働けることを喜んでいた。


さて、ここまでなら、何の問題もない。俺が怖い怖い夕さんからお説教される理由などない。


問題は、俺が側仕えとして、アラブ系とアフリカンの女性を一人ずつ召し抱えようとしたからだ。白状しよう一目惚れである。しかも、一度に二人も。


雄二が結婚すると知ってから、俺も少々、独り身を寂しく思っていたのだ。


流石に当主が奴隷と結婚するわけにはいかないので、最初は妾扱いだが、一芸でも見いだせれば奴隷から解放し側室にしても良いだろうと思ったのである。


だが、夕にはこれが通じない。というか、まだ、側仕えにする事すら誰にも言ってないのだが・・


そもそも、奴隷という身分以上に異人であることが問題らしい。


「夕、日ノ本の人間が異国人に比べて何故小さいか其方は説明できるか?」


『それは、私達の栄養事情が貧弱なせいございましょう。日ノ本は明など大きな国と比べれば耕地も少なく、取れる米にも限りがございます。これは致し方ない事です。それに、今回の殿のなさろうとしてる事とは関係ないじゃありませんか!!』


「夕、よーーーく聞け。其方が言った事も我らの体が小さい理由の一つではある。だが、それだけではないのだ。もっと、大きな理由がある。それは血だ。先だっての陸奥の大名達の話を聞いて思ったのだ。領主も領民も先祖代々同じ土地で何百年と暮らしているという。恐らく他の地も似たようなものであろう。となれば、結婚する相手は同じ集落の人間か、良くて隣の集落の人ということになる。限られた人達の間で何世代も過ごしていけば、どうしても受け継がれる血が濃くなってしまう。その結果、体が弱かったり、体が小さい人間が多くなってしまうのだ。

其方も、実の親と子や実の兄弟同士で結婚できない事くらい知っているであろう。

この、日ノ本を発展させ豊かで逞しい子孫を残すには、栄養の改善だけでなく外部の血の受け入れも必要なのだよ。これは日ノ本だけの話ではないぞ。小さな島や険しい山岳で暮らす人々は、外部との交流が少なく小柄な人が多いのだ」


これは決して方便ではない。実際、高地に住む南米のインディオや極地など人の移動に難のある土地に暮らす原住民なども小柄な人が多いのだ。だが、


『異界の文殊様のご託宣はよーーく承りました。ですが、殿は結局はあの者達に魅力を感じているという事ではありませんか?日ノ本の女子おなごはそんなに魅力がありませんか?返答次第では、歩き巫女はじめ、日ノ本の女子おなご全員を敵にまわすことになりますよ!!』

そんな事されたら、この世界でも落ち武者になってしまうじゃないか!

「それはたちの悪い脅かしだぞ」

『いいえ、脅かしではございません。単なる事実です』

こんなやりとりというか説教というか脅迫が今日一日延々と続いているのである。

流石にもう半泣きだよ。でも、ブロンド髪のエキゾチックなアラブ美人に、完全八頭身で長い脚のスレンダーな褐色美人だよ。ここで引き下がったら男じゃない。


そもそも、彼女たちは奴隷と言っても船内では動物の世話などをしており衛生面には格別の配慮をしていたという。なので最初から美人だったのだが、日本にきて風呂で磨かれ、いよいよその美しさが際立ってきたのだ。とうとう俺は開き直った。


「わかった、夕。彼女達を傍に置くことを認めてくれるなら、其方の言う事は何でも聞く。だから条件を言ってくれ」

『ほう、では、先程までの長口上は単なる言い訳だったと認めるのですね』

「あぁ」もう自棄だよ。


夕は笑みを浮かべながら顔を近づけて来て、してやったりとばかりに言った。


『それでは、条件を言います。殿の股間に付いてる物を全て刈り取らせて頂きます。』

「!!!」思わず後ずさった。早く逃げなきゃ!

『というのは、冗談です。殿のその顔を見たかっただけですわ、う、ふ、ふ』


お前が言うと冗談に聞こえないんだよ!いい加減、思考を股間から離せ!


ふい様に側仕え長として来て頂きます。一年間、吹様の料理を召し上がって頂きます。殿は風魔の里では吹様の料理を大層お気に入りだったとか。悪い条件では無いでしょう』


まさか、毎日、蛇や蜘蛛を食べなきゃならないのか。そりゃあ説明聞くまでは美味しかったが・・


ブロンド美女と八頭身美女欲しかったら、毎日蛇や蜘蛛食べろとは何て事思い付く奴だ。


「夕、其方も中々いや今小町と言っても良い位、可愛くて美しいよな」

『今頃ようやくご機嫌取りですか?あまりにも遅きに失しましたね。もう、里に向けて鳩を放しました』

「・・・」

『今後もそのような殊勝な心掛けを欠かさなければ、蛇は二日に一度にしてもらえるよう吹様にかけあってあげますわよ』


もうどっちが上司かわからない。

(「お前は首だ!」と言ってやりたいが、怖くて言えない)

「忝い。では、それで頼む」


食材さえ聞かなければ吹さんの料理は美味いんだ。自分にそう言い聞かせた。


ようやく決着した翌日、出航する密貿易船の見送りに木更津というか浜を訪れた。


丁度、きょうと二人になる時間があったので、


きょうすまんが、今後も髪色が金の若い女子がいたら融通してくれ。後、この事はくれぐれも夕には内密に頼む」

『承りました。殿からの勅命ですね。任せてください』


きょうは男の嗜みに理解があるようで助かるわ。

勿論、こんな自己中な頼みだけでなく、

カルバリン砲の調達、スマトラ島、マレー半島には臭水(原油)火が出る水がある筈だから、探査して、日本への輸送の方法を検討して欲しいと伝えた。ボルネオ島という島を知らないか?知っていたらそこにも臭水がある筈なので同様に探査して欲しいと伝えた。本当はボーキサイトの調査も頼みたかったが、現地での呼称も不明なうえ鉱石としてはあまりにも特徴がないので諦めた。

彼らを見送り、慌ただしい新年もようやく終わり。これからは上洛準備と新作物、牧畜業の開拓だ。と思っていたら、突然、背後から声がした。


『私に隠し事が可能とお思いとは。舐められたものですね。吹様の十八番蝮のお刺身を召し上がっていただきます』

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