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1590年8月20日 諸々の決定事項

風魔の里に挨拶に赴き、風魔小太郎名跡を正式に鳶沢甚内に譲ったあと、俺達兄弟は正式に伊勢直光、伊勢直雷いせなおらとして親方様に任官した。最初から領地持ちの重臣級であり、異例のことらしい。


まず、親方様より出陣のお触れがあった。時期は9月20日


常陸には岩槻城主・北条氏房を大将とする1万

下野には唐沢山城主に復帰した北条氏忠を大将とする1万

上野・越後には北条氏照を大将とする1万5千

上総・安房には佐倉城主・北条直重(千葉直重から北条に復帰)を大将とする3千と清水康英の水軍2千

甲斐・信濃には足柄城主・北条氏光を大将とする8千

駿河・遠江・三河には親方様を大将とする1万


総勢5万8千の大軍である。3月から続いた小田原籠城に続いて、また領民を大量に徴兵することになるが、今期の北条領は農繫期を小田原籠城で過ごした上、豊臣勢に田畑を踏み荒らされたので収穫が殆ど期待できない。となれば、戦のなかった周辺国に攻め入って奪ってしまおうという訳である。憎らしい事に豊臣軍は農業に影響が出ない程度の徴兵で攻めてきていたのだ。9月出陣にしたのも相手領の収穫が終わった直後を狙おうという判断である。


但し奪うと言っても兵による無秩序な乱取りではなく、年貢という形で徴収する予定だ。何しろ今回進出する領地は今後も北条領となるわけだから、領民には新たな主・北条に良い印象を持ってもらわねばならない。


その為、「乱取り禁止」の触れがご隠居様、親方様名で各隊に出された。


それまでの食い扶持は、伊達が下田に置いていった大量の関白の兵糧と堺の波田家が送って来た大量の米麦で補える。


波田家の向崎によると、畿内での仕事は大収穫だったらしい。特に聚楽第からは金5万枚、銀5万枚の収益である。石川五右衛門に3割渡しても各3万5千枚の大金である。


因みに波田家は昨年11月に先代様(俺の体の元の主)風魔小太郎が直接来訪、諸々指示をされ、以後一切小田原との連絡を絶つよう厳命されたそうだ。堺から雄二に宛てた文にも『波田家には連絡するな』と書いてあったらしい。小田原から波田家に急報を飛ばせたのは首実検の後である。また、文にはなかったが波田家にだけ伝達された事項もあったという。それは、『小田原が落ちても猿は根切はしないだろう。北条の血族の誰かは寺に入れたりする筈だ。その際は、その生き残りを攫い、猿が遠征中に稼いだ財で明か澳門に落ち延び捲土重来を期してほしい』とのことだったそうだ。幾手も先を読んで対応を考えている先代様の深謀遠慮には頭が下がる。


以前、雄二が推察していた北条札を使った商家への検察については波田家には来なかったそうだ。『うちは厠汲み取り業として名を売ってたんで、そんな汚い所には伊賀者も来たくなかったんでしょう』と向崎は笑っていた。


ただ、堺の大店が二軒ほど、主人や家族、番頭など一部の奉公人が行方不明になっているという。彼らの所在は未だわからないそうだ。


また、志摩の九鬼水軍が北条に臣従してきて、三河まで占領の際は全力でお味方すると言っているという。どうも隣国に伊勢神宮がある九鬼氏にはお天道様といわれるあのアルキメデス熱光線が余程効いたらしい。これは意外な副産物である。まあ海の男は信心深いからね。九鬼水軍が臣従したので親戚筋の熊野水軍も臣従してきた。


また、今まで新型炮烙玉、新型種子島と呼んでいた武器の名も改められた。


氏照さんが『長くて呼び辛ぇ。そもそも家は炮烙玉なんて作ってねぇ。それにあれは玉じゃねぇ。どう見ても珍だろう!』と評定で下ネタ噛ましてくれたのが切っ掛けだ。


さすがに『炮烙珍』と名付けられては堪らないので、「ダイナマイト」と提案したが、『それも長ぇ』と言われたので雷矢らいやと言って許可された。カミナリヤじゃまた『長ぇ』って言われそうだったからね。


新型種子島は『もう只の鉄砲で良いだろ』という氏照さんに、『あれは金属使ってませんよ』という氏規さんの絶妙なツッコミが入り、じゃあお前が決めろ!と振られてしまった。現代なら空気銃ってところだけど、空気なんて言葉通じそうもないので、発砲音が殆どないことから無音銃むおんじゅうと提案し認められた。


さて、最後は我ら新伊勢家の領地だ。


下総・上総に決まった。これは元々親方様らに希望を出していたのだが、そのまま認めてもらえた。更に、技開家老”本来の名は技術開発担当家老だが例によって氏照さんが『長げえ、覚えらんねえ』と言い放ち短縮された”として、全北条領内の鉱山の開発採掘権の優先権を貰えた。鉱山開発の権利など普通なら他の重臣から大反発を喰らいそうだが、氏照、氏房、氏規ら一門勢が小田原を勝利に導き家族と再会できたことを俺達伊勢家に深く感謝している事から認められた。また、引退したとはいえ風魔に影響力がある新伊勢家を敵にまわしたくないという事情もあるようだ。何しろ、鉱山の新規発見には風魔の山師の協力が不可欠だからだね。


早速、新規鉱山として、


西伊豆船津川流域・硅石明礬鉱山

武蔵・秩父鉱山(石灰石等)

上野・六合鉱山・中小坂鉱山(鉄鉱山)・足尾鉱山(銅)

越後・遠江の臭水(石油)の掘削権

越後・佐渡の開発権


を認められた。地名すら知らない場所が多かったが、大半が氏照さんが支配する予定の越後・上野だったので『構わん、思いっきり掘れ!』と言って貰えた。


佐渡についても簡単に『与える!』と言われたので、氏照さん攻略後は伊勢家の飛び地となる事が決定した。


足尾は厳密には栃木(下野)だが上野からの方がアクセスが良いので上野と言ってしまった。無論足尾なんて誰も知らないようで直ぐ許可された。


誰も知らない鉱山の名を次々と挙げていったので、重臣から『何が取れる?』と聞いてくるかと思ったが皆無だった。技開家老の威光という事ここにあり!と思ったが、


『伊豆や甲斐・駿河にある既存金山の開発権を放棄したお陰だよ』と雄二に囁かれた。


俺が何でこんなに鉱山のありかを知っているかというと、呉の資料館で戦前の日本鉱山要覧という資料を読んでいたからだ。もっともおおよその場所しか分からないので実際に掘る際は風魔の山師に調べてもらうつもりだ。


佐渡金山銀山はこの時代まだ発見されていない。如何に北条家の国家予算から開発費が出るとはいえ、自前の財源は欲しいからね。


まあ氏照さんなら後日佐渡で金山が発見されたと知らせても、『寄越せ』とは言ってこないだろう、多分。万が一揉めたら泡盛で篭絡しよう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 農民兵を使いながら、鉱山開発して工業化は難しいのでは?農業の生産性をあげて、農民から余剰人員を作り、それを手工業の職人や鉱夫として使いながら、工業化を進めるという段取りの方がよいと思い…
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