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1590年8月18日 風魔の里

俺と雄二は忍びを引退し武将になることになったので、後継者の鳶沢甚内を伴って故郷(と言っても俺は初めて行くが)に挨拶をしに行った。


まず驚いたのは、自分の先代が生きていたことだ。自分がこの体に宿る前の風魔小太郎を先代様と密かに呼んできたが、ここには本物の先代様がいるのだ。


場所は足柄山中の庵、竹林は趣あるが周辺には細い獣道が少しあるだけ。こんな所に人が住んでいるとは誰も思わないだろう。


風魔小太郎は代々、引退後は北条幻庵と名乗るそうだ。では引退者が複数いたら?


全員、北条幻庵なのだそうだ。人前に全く出ないから問題ないし、里の者には特定できる別称で呼ばれるので全く困らないそうだ。1号、2号みたいに呼ばれるのかな?


現在、北条幻庵は一人だけだ。庵には客人だという果心居士という人物がいた。


早雲寺の攻防では大変な助力をしてくれた人だそうで、俺は礼を言った。


『いやいや、幻庵様には長い事ただ飯頂いてましたし、何よりあの服部半蔵と戦って撃退出来たんだ。例を言いたいのは俺のほうです』


とのこと。


この果心居士という人は幻術幻惑に長けた人だそうで、さしずめ、戦国のイリュージョニストと言ったところだろう。


「今後も仕事頼んでもいいかい?」と聞いたら、


『面白そうな事、相手なら大歓迎です』と言ってくれた。


幻庵様からは、


『まさか透破者の我ら風魔から、武将に取り立てられる者が二人も出るとはのう。しかも、儂が生きている間に』


と感慨深げに言われた。そんなに凄い事だったんだ俺たちの武将成り上がり。


鳶沢が次の風魔小太郎になることを告げ、庵を後にし、里に入った。


洞窟をくぐり抜けて見た里の第一印象は結界に守られた秘密村って感じだった。


四方を山に囲まれた盆地に畑と家々が点在している。標高が高いのだろう空には頻繁に雲・霧が覆い隠すようにやってくる。


なんとも、長閑な里山である。暫し感慨に耽っていると、雄二が、


『山には近づかないでくれよ。トリカブトや毒キノコ・毒草が満載だからな』


なんと長閑な風景に見えるが、一面毒の山か。流石風魔


やがて、一軒の家の前に着いた。里では一番大きな家だ。ここが里長の家なのだろう。


『ようこそ御出でくださいました。小太郎様、雄二様、鳶沢様』


初老の女が迎え出てくれた。


『こちらが、夕の先代、元歩き巫女長のフイさんだ』


雄二の紹介に続いて


『吹でございます。お初にお目にかかります。小太郎様』


ん?先代様も里に来るのは初めてなのか?と思っていると


『お話は伺っております。小太郎様の御身にお天道様の御霊が舞い降りられたとか、誠、おめでたい事でございます』


あぁ、そうい事。チクったのは夕だな。


『粗末な家ですが、今宵はこちらにお泊りください』


毒草毒キノコだらけのこの里で、皆は一体どんな物を食べてるんだろうと思っていたが、出された食事は山菜主体のなかなか美味な物だった。酒に付けた果実のデザートもあった。中でも絶品は鰻の蒲焼である。付け合わせにポテチと揚げ煎が付いてる。この世界で初めて見るスナック菓子だ。


吹さんが


『今お召し上がりの実はイチイの実を小田原から取り寄せた焼酎に漬けた物にございます。イチイの実は種子は毒として使用しますが、果肉は無毒ですの。勿論、種子は取り除いてありますので安心してお召し上がりください』


『先ほどお召し上がり頂いたキノコは赭熊茸と申しまして、猛毒のキノコです。その赭熊茸から毒を抽出し、無毒となったキノコ部分は大変美味しく頂けます。』


・・・・


そこに小姓が一人膳を持って入って来た。


『大変美味しそうに食べてらしたのでもう一膳ご用意いたしましたが如何ですか?』


そうそう鰻の蒲焼とスナック菓子だ。


勿論、「いただきます!」と所望した。


やはり美味しい。たまらん。


『私は大好きなのですが、この里でも蝮の美味しさを分かっていただける人が少なくて。この味を分かってくださるとは流石小太郎様です』


へ?今なんて?ま、まむ


『開いた蝮にそのタレをかけながらじっくり焼いたそのお味は絶品でございましょう?』


・・・・まむし・・


『タレは味噌と味醂と隠し味に蜘蛛の・・』


もう聞こえん。というより聞きたくない。あれ程美味しかったのに急に舌が萎えて来たよ。


気分を変えてスナック食べよう。先ずはポテチだ。


朗らかな笑みを浮かべて吹さんの説明は続く。


『そちらは、蝮の皮を油で揚げ塩を振った物でございますね』


ブッ!思わず吐き出しそうになった。これも蝮かい。


気になったので、揚げ煎は聞くことにした。


「あのこちらは?」


『そちらは、蝮の骨にタレをかけ弱火でじっくりと揚げた物になります。カリッとした歯ごたえがたまらないでしょう』


ゼスチャー交え本当に美味しそうに話す吹さん。


『いかがでした。美味しかったでしょう?もう一善召し上がりますか?』


「!!あいや、もう充分頂戴しました」


吹さん。あなたの説明がなかったら、この世界で間違いなく断然一番美味しかった食事だったよ。


でも、小田原から取り寄せた焼酎って言ってたな。あの泡盛屋のことかな?一応聞いてみるか。


「先ほど、小田原から取り寄せた焼酎との事だったが、その焼酎屋は琉球から来た人がやってる処か?」


『はい、そうでございます。先代が琉球から入らしたと仰っていました。小太郎様もご存じでしたか?』


「うん、此度の戦では活躍して貰ったよ」


泡盛から抽出したアルコールは、グリセリン製造に大活躍だったからね。


『まあ、あの方が戦働きを?そんなことができる方には見えませんでしたが』


「あ、いや、正確には彼が作った焼酎が重宝したのだ」


『そうでございましたか。あの方も色々と訳アリのご様子。戦も落ち着きましたし、また、買いだしに小田原に行ってみようと思います』


ん?彼訳アリなの?新領地が決まったら誘ってみようかと思っていたのだけど・・


殆ど、俺と吹さんで話してたので、雄二と鳶沢甚内にも話を振り4人で歓談しながら楽しい夕餉を過ごした。

私、ヴェトナムでコブラ料理のフルコースを食べた事があります。なかなかの高級料理で美味しかったです。目の前で生きたコブラを裁いてくれるし。流石に蒲焼はありませんでしたが、本作ではそこを和風にアレンジしました。皮のチップ。骨の揚げ煎はそのままです。他にコブラの生き血酒もありました。

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― 新着の感想 ―
[一言] コブラ食べたって、なんて勇者…。 高級食材なんですかねえ。 ストーリーよりそっちの話が衝撃でした(失礼
[一言] 昔の漫才?漫談?で蛇遣いに扮した芸人さんが蛇の着ぐるみ(腕だけ)と繰り広げるお笑い芸がありました。 コブラの文字を見てそれを思い出しました。
[一言] れっどすねーく かもん
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